まずは前触れをボナペティ
唐突に知らない人とか知らない場所が登場して困惑するかもしれませんが、後に説明があるので、気にしないでください。
ちなみに、次話からが本編になります!!
視界と聴覚を容赦なく奪い、体温を削り取る猛吹雪。ここ、ベレエスト山で、俺はいつものようにマホロ師匠と修行(という名の、ほぼ一方的な暴力)に耐えていた。
師匠は「魔力を一切使わない」というハンデを背負っている。だが、こちらも通常スキルと魔力感知系スキルの使用を禁じられている状況では、気休めにもならない。俺は吹雪の奥に師匠の姿を探り、いつどこから飛んでくるかもわからない攻撃に即応できるよう、神経をすり減らすような集中と緊張を維持し続けていた。
拳を握り締め、ゆっくりと呼吸を繰り返す。心拍を落とし、極限まで冷静を保つ。 そして、一歩、雪を踏み出す。
刹那。足が地に着くより早く、黒い影が左の視界を掠めた。 俺は即座に魔力を左側へと飽和放出させ、迎撃の右回し蹴りをミドルに放つ。―――が、蹴り足が空を切る。当たる感触はない。
(ブラフ! 真上か!)
直感に従い、俺は回し蹴りの遠心力を利用してその場から飛び退こうとした。同時に上空を仰ぐ。超高速で落下してくる影が見えた。
「落ちてくる軌道なら、迎撃できる!」
俺は落下地点を予測し、真上に向かって左の裏拳を放つ。
しかし、拳が捉えたのは硬い肉体ではなく、柔らかな手のひらだった。
「なっ―――」
空中にいるはずの師匠は、俺の裏拳の側面にそっと手を添えていた。そしてあろうことか、自身の落下の勢いと俺の攻撃の威力を利用し、俺の腕を滑り台にするようにふわりと身を翻したのだ。
完全に力点をずらされ、俺の体勢が前へとつんのめる。 すぐさま右肘を振り上げて追撃を試みるが、師匠の動きは俺の予測をはるかに超えていた。 彼女は雪面に降り立つよりも早く、空中で身を捻りながら俺の右腕に絡みつく。無駄な力など一切ない。ただ「人体の構造上、最も抵抗できない関節の死角」を縫うように動き、俺の右腕の動きを完全に封じ込めた。
「大振りすぎる。力が逃げているぞ?」
吹雪の音を切り裂き、耳元で凛とした声が響く。
そのまま腕を極められそうになり、俺は強引に身体を捻って距離を取ろうとした。飛ぼうと地を蹴るはずだった左足に、否応なく体重が乗る。
そこを狙いすましたかのように、鋭い呼気が漏れた。
「フンッ!」
拘束が解かれたと思った次の瞬間には、師匠の姿は俺の足元にあった。
体重が乗り切り、絶対に動かせない俺の左足を、師匠の低い刈り払いが正確に捉える。足首に激痛が走り、体勢が完全に後ろへ崩れかけたその時、視界の端で信じられない光景を捉えた。
地を這うように沈み込んだ師匠が、そのとんでもなく低い体勢のまま、今度は左足を俺の顔面横へと跳ね上げてきていたのだ。一度の予備動作も、重心のブレもない。ただ流れるような、美しすぎる連撃。
(まずい、避けられな――)
スローモーションのように鋭い蹴りが迫る中、俺の目はしっかりと捉えた。伸び切った師匠の足と、翻るスカートの奥。
(・・・今日の色は白か。)
ドンッ!
どうでもいい現実逃避も束の間、師匠の左踵が俺の側頭部を無慈悲に強打する。脳髄が揺れる衝撃。俺の体は数メートル先へと吹き飛ばされ、白い雪原に赤い血の軌跡を描きながら無様に転がっていく。
「視覚と魔力だけに頼っていては、魔王はおろか、ステノスにも勝てないぞ。」
意識が遠のく中、師匠の有難いアドバイスが鼓膜を打つ。
「相手の殺気を肌で感じろ。攻撃には即座に反射しろ。」
「うっ・・・、まだ・・・」
強がりを吐き出し、震える手で雪を掴んで立ち上がろうとする。
ドサッ。
だが、限界を迎えていた体力と底をついた生命力は、俺の意志をあっさりと裏切る。雪に顔から突っ伏した俺は、そのまま深い、深い眠りへと引きずり込まれていった・・・。




