第1話 桃園の誓いと、暴君董卓の登場
三国志演義、始まります。
まずは黄巾の乱、桃園の誓い、そして董卓の登場までです。
ゴザ売り、肉屋、指名手配犯が義兄弟になる時点で、だいぶ治安が終わっています。
プロローグ ~ 天下大乱の始まり方が雑 ~
西暦184年。後漢王朝。
かつては栄華を誇った大帝国も、この頃にはもうボロボロだった。
皇帝はバカ。宦官(かんがん=去勢された宮廷官僚)が権力を握り、賄賂が横行し、民は飢え、疫病が蔓延していた。
要するに詰んでいた。
「もうやってらんねーわ」
そう思ったのが張角という男。
彼は太平道という新興宗教の教祖で、信者数は数十万人。布教の方法は「病気を治す(と言い張る)」「お札を配る」「国は腐ってると叫ぶ」の三本柱。現代で言えば怪しいインフルエンサーである。
張角は弟の張宝と張梁を引き連れ、黄色い布を頭に巻いた信者たちとともに反乱を起こした。
黄巾の乱。
「蒼天すでに死す! 黄天まさに立つべし!」
スローガンはカッコいい。だが中身は「もう漢王朝終わりだから俺たちの時代にしようぜ」である。
全国で一斉蜂起。朝廷は大パニック。
「やべーぞ、兵が足りん! 各地の有力者に義勇兵を募れ!」
この「誰でもいいから兵を集めて戦え」という雑すぎる対応が、後の群雄割拠――そして三国時代の扉を開けることになる。
歴史というのは、だいたい偉い人のミスから始まる。
第一章 ~ 桃園の誓い ~ 出会い方がだいたい居酒屋 ~
義勇兵募集の張り紙の前で、一人の男がため息をついていた。
劉備、字は玄徳。
年齢二十八歳。自称・漢王朝の皇族の末裔。ただし証拠はない。現在の職業はゴザ売り。
そう、ゴザ売りである。
漢王朝の血を引くと自称しながらゴザを編んで売る日々。履歴書に書いたら面接官が困る経歴だ。
劉備はため息をついた。
「国が乱れている……俺も何かしたい……でも金がない、兵もない、コネもない……」
ないない尽くしのこの男に声をかけたのが、背後から響いた雷のような声だった。
「おい、そこのデカ耳! そんなとこで突っ立ってんじゃねえ! やる気あんのかねーのか!」
振り返ると、身長八尺(約190cm)、豹の頭に環のような目、虎のようなヒゲ。
張飛、字は翼徳。
職業は豚肉屋兼酒屋。つまり肉屋の店長である。
「お、おう……やる気はあるんだが……」
「あるならいいじゃねーか! ちょうど俺も義勇兵に参加しようと思ってたんだ! まずは飲もうぜ!」
初対面でいきなり飲みに誘うコミュ力。これが三国志最強の突撃隊長の器である。
二人が酒場に入ると、そこにもう一人、異様な存在感の男がいた。
身長九尺(約2m超え)。顔は赤く、髭は胸まで伸び、目は切れ長。手に持っている酒杯がショットグラスに見えるほどデカい。
関羽、字は雲長。
職業は――なし。 人を殺して故郷から逃亡中の指名手配犯である。
「あんた、見るからにただ者じゃないな」と劉備。
「人を見かけで判断するな。……まあ人は殺したが」
「えっ」
「正義のためだ。地元の悪党を成敗しただけだ」
「お、おう……」
こうしてゴザ売り、肉屋、殺人逃亡犯という最強にヤバい三人が意気投合した。
場所は張飛の家の裏にある桃園。
三人は天に誓った。
「我ら三人、生まれた日は違えども、死ぬ時は同じ日同じ時を願う!」
これが有名な「桃園の誓い」である。
感動的なシーンだ。だが冷静に考えてほしい。
出会ってその日にここまで誓う人間が、現代にいたらちょっと心配される。
張飛が資金を出し(肉屋は儲かるらしい)、村の若者を集めて義勇軍を結成。三人は黄巾賊討伐に出発した。
なお、劉備はこの時すでに二つの武器を持っていた。一つは「雌雄一対の剣」。もう一つは涙腺。
この男、後に何度も何度も泣いて人の心を掴むことになる。泣きの劉備。涙の営業。感動のウェットティッシュ。
三国志演義における劉備の最大の武器は、剣でも軍略でもなく「すぐ泣く」ことなのである。
第二章 ~ 黄巾の乱 ~ ボスが弱すぎる問題 ~
義勇軍となった劉備たちは各地で黄巾賊と戦った。
張飛は蛇矛を振り回して暴れ、関羽は青龍偃月刀で敵をなぎ倒し、劉備は……まあ、いた。
そして官軍の将軍たちも次々と黄巾賊を討伐していった。
中でも目立ったのが以下の面々。
曹操、字は孟徳。宦官の孫。だが本人は超エリート。知略に優れ、詩も書け、兵法書にも注釈をつけるインテリヤクザ。
孫堅、字は文台。江東の虎と呼ばれた武闘派。後の呉の礎を築く男。戦場では常に先頭を走る脳筋スタイル。
董卓。西涼の軍閥。デブ。後に天下を荒らす大ボス候補だがまだ脇役。
黄巾の乱自体は、わりとあっさり鎮圧された。
張角は病死。張宝と張梁は戦死。
「え、ボス戦これだけ?」
そう、三国志演義の黄巾の乱はチュートリアルステージである。本番はここからだ。
問題は、乱を鎮圧した後の論功行賞で起きた。
劉備は命がけで戦ったのに、もらえたポストは県の副署長みたいなショボい役職。
しかも赴任先に監察官がやってきて、賄賂を要求してきた。
劉備が困っていると、張飛がキレた。
「この野郎ッ!!」
監察官を柱に縛りつけて、杖で200回ぶん殴った。
200回。
「おい張飛、殺す気か」
「殺す気だが?」
三人は役所を捨てて逃亡した。
こうして劉備の公務員生活は秒で終わった。
第三章 ~ 董卓 ~ 暴君のスペックが高すぎて困る ~
黄巾の乱が終わると、朝廷内の権力闘争が激化した。
宦官 vs 外戚(皇后の一族)の殴り合いが起き、結果的に両方とも壊滅。漁夫の利を得たのが董卓だった。
董卓は西涼から大軍を率いて洛陽(首都)に入り、幼い皇帝を廃位させ、新しい皇帝を立て、自分は相国(首相)に就任した。
やりたい放題である。
董卓のスペック:
・武力:めちゃくちゃ強い(若い頃は馬上で左右両方の手で弓が引けた)
・知力:意外と悪くない(最初は人材登用もまともだった)
・政治:最悪(暴力と恐怖で統治)
・体格:超デブ(後に重要な伏線)
・配下に呂布がいる
この呂布というのが問題だった。
呂布、字は奉先。
三国志最強の武将。個人武勇だけなら歴史上トップクラス。愛馬は赤兎馬、武器は方天画戟。
ステータス画面があったら武力がカンストしている男。
だが、この男には致命的な欠陥があった。
裏切り癖。
呂布はもともと丁原という将軍の養子だった。だが董卓に赤兎馬と金をもらって、養父を殺して寝返った。
つまり馬一頭で親を売った男。
董卓は喜んで呂布を養子にした。
……いや、「養父を殺して来た男」を養子にする度胸がすごい。




