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影闘士 改稿版  作者: たまごがわ
第1章
3/14

第3話 誕生

 新たな影闘士が誕生した。

 そのことに少なからず動揺しているロベリアの隙を、拓士は見逃さなかった。

 拓士はロベリアとの間合いを一気に詰めて、それに気づいて避けようとしたロベリアの右腕を、一息に斬り落とした。

 ロベリアの絶叫が影世界に轟き、結羽は思わず耳を塞ぐ。切断面からは人間と同じ真っ赤な血が噴き出している。

「影闘士……っ!」

 ロベリアは怒りの形相で拓士を睨み、姿を消した。

「ちっ……逃げたか」

 拓士が舌打ちした後、二人はいつの間にか元の場所にいた。ロベリアがいなくなったことにより、影世界が解除されたのだ。それと共に二人の左目は元の色に戻り、大剣と双剣も消える。

 そして拓士は結羽をちらと見る。結羽もその視線に気づき、拓士を見た。拓士の表情から、感情を読み取ることは出来ない。

「……」

 拓士はすぐに目を逸らして、その場から去って行った。影世界で知った情報があまりにも多すぎて、未だに頭の整理が出来ていない結羽は、彼を見送ることしかできなかった。



 同時刻。とある住宅の一室で、眼鏡をかけた少女がふと顔を上げた。

 大きな魔力の爆発を感じた。炎のようだ。しかも、かなりの力を持っている。

 少女は口元に笑みを浮かべた。

「新たな影闘士の誕生、か」



 翌日、結羽が登校すると、校門を過ぎたところで、眼鏡をかけた女子生徒に声をかけられた。長めの黒髪を後ろで結んでいる子で、結羽のことをじっと見ている。

 誰だろう。同じクラスの子ではなかったと思う。違うクラスか、先輩かも分からない。

 どう対応しようか考えあぐねている結羽に、その女子生徒は微笑んで言った。

「初めまして、あたしは下野(しもつけ)未來(みらい)。よろしくね!」

 彼女の苗字に結羽ははっとした。

「もしかして、影闘士の?」

 結羽の言葉に心来は笑顔で頷いた。

「うん。私は地の影闘士よ。新たな影闘士さん」

 未來の言葉に結羽は瞠目した。

「なんで知っているの?」

 驚く結羽に未來は微笑む。

「感じるのよ、新たな影闘士が覚醒した瞬間にその魔力を。影闘士だったら皆そうよ」

「そうなんだ……」

 結羽が感心していると、未來が結羽に手を差し伸べる。

「ねぇ、あたしと組まない?」

「え……?」

 未來からの突然の申し出に、結羽は戸惑う。

 どうして自分を誘ったのだろう。影闘士になったばかりで、足手まといにしかならないと思うのだが。

「あなたから感じた魔力は相当のものだった。影鬼との闘いを重ねていけば、もっと強くなれると思うの。まあ、ただのお節介なんだけどね」

 未來はそう言って、照れくさそうに笑う。結羽は一瞬戸惑ったが、断る理由は一つも無い。

 前から影闘士をしている彼女なら、影闘士のことについても、影操者についても詳しく知っているだろう。それに、影操者の主について分かれば、父と母の仇を討てるかもしれない。

「是非、お願いします!」

 結羽は二つ返事で頷き、頭を下げた。



 影操者は二百年ほど前から突然現れた存在で、彼らのことは影闘士と神しか知らない。影鬼を使役し、人間を捕食していると思われるが、彼らの目的もその数も未だに分かっていない。彼らの特徴は、誰もが血のように真っ赤な瞳を持ち、一人一人が異なる能力を持っていることだという。






 結羽と未來が共闘するようになって一週間が経過した。最初は影鬼との戦いに慣れていなかった結羽だったが、徐々に戦い方が分かるようになってきて、コツを掴んできた。

 授業が終わり、結羽と未來は一緒に学校を出た。二人の家の方向が同じで、影鬼を倒した後は途中まで一緒に帰っているのだ。

 そんないつも通りの帰り道、未來は結羽に尋ねた。

「そういえば結羽ちゃんって、一人暮らしなんだよね」

「うん、そうだよ」

 頷く結羽に、未來は少し考えて。

「明日、結羽ちゃんの家に遊びに行ってもいい?」

 突然の未來の言葉に、結羽は少し驚いた。

「いいけど……急にどうしたの?」

「なんか、結羽ちゃんが家に入っていく時、いつもちょっと寂しそうなんだよね」

 結羽ははっとした。自分はそんな顔をしていたのか。両親が亡くなってからずっと、周りの人に心配をかけないように明るく振る舞っていたつもりだったが、一人になった瞬間に油断して顔に出ていたようだ。

「だから心配になっちゃって。まあ、これもただのお節介なんだけどね」

 それを聞いて結羽は、未來に心配をかけていたことに申し訳なさを感じつつ、一緒にいられる時間が長くなることを嬉しく思った。

「……ありがとう。じゃあ、明日待ってるから!」

「うん!」

 その時、結羽と未來の足元の影が形を変え、真っ黒な穴のようになる。

「これって―――」

 影世界、と言う前に結羽と未來の姿は影に飲み込まれて消えた。



 同時刻、拓士も別の場所で影世界に引き込まれていた。

「―――お久しぶりですね、水の影闘士」

「またお前か」

 拓士の視線の先には、右腕を失ったロベリアがいた。彼は張り付いた笑みを浮かべながら、短剣を召喚する。

「あの時は少し油断してしまいました。なので、今回はあなたを本気で殺します」

「しつこい奴だな。さっさと終わらせてやるよ」

 拓士は心底うんざりした様子で、大剣を召喚した。

 


 結羽と未來は、拓士とは別の影世界で大量の影鬼と戦っていた。

「本当にしつこい奴らね! 刺しても、刺してもキリが無い!」

 左目が明るい紫色になっている未來は、辟易しながら青紫色の槍を影鬼に突き刺す。

『ギャアアアアア!!』

 影鬼は、耳障りな奇声をあげながら消滅していく。

 なかなか減らない影鬼。だが、そこまで強いというわけでもない。そう、それはまるで。

「まるで、足止めされているみたい……」

 どこかに味方が来るのを邪魔するように。

 結羽の呟きを聞いた未來は瞬きをする。

「足止め? 何の為に?」

 未來の言葉に、結羽ははっとする。

「だ、だよね? 何言っているんだろう、私……」

 結羽は慌てて自分の言ったことを否定した。

 先程呟いた時、頭に浮かんだのは拓士だった。何故かは分からない。だが、拓士のことが心配だと未來には言えない。

 未來は数か月前まで拓士と組んでいたそうだ。だが、そりが合わなくなって未來の方から拓士と手を切ったのだという。ここで拓士のことを言ったら、未來を怒らせてしまうかもしれない。

 そんなことを考えつつ、結羽と未來は、何とかここにいる影鬼を全て倒すことが出来た。影世界が消滅し始める中、未來は軽く息を整えながら、結羽に声をかける。

「やっと全部倒せたね。……結羽ちゃん?」

 未來の横にいる結羽は、遥か遠くの方を真っ直ぐに見ていた。結羽の耳は未來の声を素通りして、額には冷や汗が浮かぶ。

 拓士が危ない。結羽の頭の中に警鐘が鳴り響く。

 影世界から元の場所に戻ってきた結羽は、未來を置いて駆け出した。




 結羽と未來が影鬼と戦っている間、拓士はロベリアとの一騎打ちをしていた。

 拓士の大剣を、ロベリアはひらりひらりと躱していく。

「遅いですよ。疲れてきましたか?」

 ロベリアの煽るような声に、拓士は舌打ちをする。

「くそっ……ちょこまかと……」

 拓士は飛び退き、着地した瞬間に親指をがりっと噛んだ。

 そこから滲んだ血を大剣に付けて、垂直に振り上げた。影闘士の血を武器に付けることによって、魔力が増強されるのだ。

 炎は更に火力が増し、風は竜巻になり、地は大地を震わせ、雷は敵を音速で貫く。

 水の場合は、魔力の増強で氷に変化する。

 拓士の頭上に、大剣と同じくらいの大きさの氷柱が、無数に出現する。

「死ね」

 拓士が大剣を振り下ろすと、その氷柱が一斉にロベリアの体に突き刺さって、彼の姿が見えなくなる。

「終わりだな」

 拓士がロベリアに背を向けた瞬間、音も無く氷柱が消滅した。その中心には、無傷のロベリアが嗤って立っている。

 ロベリアは残った左腕を上に突き出し、拓士と同じように無数の氷柱を出現させる。

 そしてそれを拓士に向かって放つ。

 

 肉を貫く音が、影世界に響いた。



次話は7月13日に投稿予定です。

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