第10話 親友
そして現在、ずっと行方知れずだった一希が、自分の目の前にいる。
「心配させたよな……ごめん」
謝る一希に結羽は無言で近づき、そのまま彼を抱きしめた。
「……今まで、どこにいたの……! 心配したんだから……!」
涙声の結羽の頭を、一希は優しく撫でる。
今まで、結羽が涙を見せることは一度も無く、それを初めて見た拓士と未來、佳奈は、とても驚いていた。その中でも、一番驚いていたのは拓士だった。
自分の知らない男と、結羽が抱き合っている。それを見て、何故か胸が少し痛んだ。
「……結羽ちゃん、その人、誰?」
驚きからいち早く立ち直った未來が結羽に尋ねる。
結羽は、はっとして一希から離れる。
そうだ。みんなが目の前にいたことを、すっかり忘れていた。
結羽は軽く咳払いをしてから答えた。
「彼は紫苑一希。中学の時の同級生で……私の一番の親友!」
一希と再会してから結羽は、一希と二人でたまに登下校するようになっていた。それは当然のことだろう。久しぶりに再会した親友なのだから、積もる話もあるはずだ。
それでも結羽は影闘士としての戦いを怠ることはない。むしろ、以前よりも戦い方に磨きがかかっていた。
一希は結羽たちとは別の高校だったが、下校時は校門で一希が結羽を待っている。
影鬼を一通り倒した後、結羽は一希が待っているところまで走っていくと、彼に声をかける。
「ごめん、待たせちゃった?」
「いや、今来たばかりだよ。じゃあ、帰るか!」
「うん!」
二人が歩いている後ろで、未來と佳奈、拓士が二人の後を付けていた。
「……なんでこんなことしなきゃいけないんだ」
拓士の呆れたような呟きが未來と佳奈の耳に届き、一瞬だけ二人は彼の方を見る。
「だって、気になるでしょ?」
「結羽さんについて、知りたくないんですか?」
二人の目が、好奇心でいつになく輝いている。こうなったら彼女達が満足するまで、とことん付き合うしかないだろう。
拓士はため息をついて、結羽と一希の後ろ姿を見つめる。
結羽の楽しそうに笑っている姿を見て、拓士は人知れず拳を握りしめていた。
とある休日、一希は結羽の家を訪ねていた。
「どうしたの?」
「ちょっと買い物に付き合ってくれないか?」
久しぶりの一希の誘いに、結羽は嬉しくなった。
「もちろんいいよ」
「ありがと! 助かるよ」
そんな会話の数分後、二人は並んで出かけていく。
二人の様子を、拓士は少し離れた場所からそっと見ていた。
一希に対してなぜか腹が立つ。イライラして仕方が無いのだ。一希と話せたら、それが何なのか分かりそうな気がするのだが、なかなか話かけられない。
だが、そんな拓士の目の前に、影世界に引き込まれそうになっている少女がいた。
「……っ、こんな時に!」
苛立ちながら、拓士は大剣を召喚した。
結羽と一希が一緒にスーパーに向かっている時、突然一希の影が真っ黒な穴に変わる。
影世界だ。
「うわっ!」
一希が一瞬で影世界に引き込まれた。
「一希!」
結羽は一希を追って、影世界へと入っていく。先に来たはずの一希を探すと、影鬼が一希に今にも襲いかかろうとしていた。
「―――っ!」
一希に触れるぎりぎりのところで、結羽が影鬼を双剣で斬った。
「大丈夫?」
尻餅をついている一希に、結羽は手を差し伸べる。
「サンキュ、助かった」
結羽の手を借りて、一希は立ち上がる。
この影世界を創ったと思われる影鬼は倒したはずなのに、影世界が消滅する気配は無いまだ他にも影鬼がいるのかもしれない。
「一希、後ろに下がっていて。すぐに倒すから」
一希がやっと戻ってきてくれたのだ。こんな奴らに邪魔をされてたまるものか。
「ああ。―――ありがとな、結羽」
その瞬間、結羽は背後から寒気を感じて、思わず右の方に飛び退く。
直後に左腕に痛みが走った。そこに目を向けると、切り傷ができていて血が流れている。
結羽が先程までいた場所には、一希がいた。
手にはいつの間にか包丁が握られていて、その刃には血が付いていた。
結羽の背中に氷塊が滑り落ちる。得体の知れない恐怖が間近にあるはずなのに、それを信じられない自分がいる。
「かず……き……?」
結羽の震えた声に振り向いた一希の口には、嘲笑が浮かんでいる。
そして右目の白目が、真っ黒に染まっていた。
次話は10月19日に投稿予定です。




