1.懐かしい少年との思い出。
遅くなりましたが、ゆっくりと更新します。
ここから第1章です。
歌を最初に褒めてくれたのは、一人の少年だったと思う。
教会での修行に飽き飽きしていた私は、よく中庭で鼻歌を口遊んでいた。著名な誰かが記したもの、というわけではない。神官長様が聴いたら眉をひそめるような、街の子供が大人を小馬鹿にする内容の歌詞だった。生まれた瞬間から、何の因果か分からないけれど聖女に選ばれてしまったこと。もしかしたら、私の中には知らず知らずのうちに鬱憤があったのかもしれない。
大人たちは分かってくれない。
子供の気持ちなんか、これっぽっちも。
恥を怖れて、体裁ばかりを気にして、それを子供に押し付ける。
「ふー……! ホントに、誰も分かってくれないのよね!」
そんな一節を口にしてから、長椅子に腰かけた私は頬を膨らして天を仰いだ。
青空に小さな雲がちらほらとする様は、まるでいまの自分の気持ちのようにも思える。特段に大きな不満があるわけではない。だけども大人の小言だったり、些細な嫌味だったりが、麗らかな日差しを遮る雲のように浮かんでいるのだった。
いっそのこと自分の立場とか、地位なんかを投げ出して生きることができたら。
そう思わず願って、小さくため息をついた。そんな時だ。
「いまの歌って、誰が考えたの……?」
「……えっ?」
か細い少年の声が聞こえたのは。
驚いて振り返るとそこには、いかにも病弱な男の子の姿があった。
身なりを見る限り、育ちは悪くなさそう。だけど幸薄いといえば良いのか、痩せぎすった細い手足が彼をみすぼらしく思わせていた。若干だが頬もこけている。だけど顔立ちは案外に悪くないのかもしれない。肩ほどで揃えた色素の薄い髪に、金の瞳をしている少年には悪い印象を抱かない。
むしろ儚げな美少年、とでも表現すべきなのかもしれなかった。
とはいえ、当時の私は色恋に微塵も興味がなかったのだけれども……。
「いまの歌……? ごめんね、私も知らないや」
「そうなの? ずいぶんと風刺が効いていて、面白かったのだけど」
「もしかして、こういう歌が好きなの?」
「えっ、うーん……たしかに歌詞も悪くないよ。でも、その歌がというより――」
私の問いかけに、しばらく名も知らない男の子は考え込む。
そして、どこか恥ずかしそうに言うのだった。
「キミの歌声や、元気に歌う姿が心地よかったんだ」
視線をほんの少しだけ逸らして、少年は頬を掻く。
私はその機微を察することができなかったけど、ただそれ以上に嬉しかった。
「私の歌が、心地よかった……?」
なにせ、今まで歌っていたら叱られた記憶しかなかったから。
私はそんな彼の言葉に、胸の奥が暖かくなった。
「あ、もし気を害したなら謝罪するよ。でも、なんというか……」
「……ううん! ありがとう、本当に嬉しい!!」
「そう……? それなら、良かった」
だから素直に感謝を返すと、男の子は優しくはにかんだ。
そして、こちらに歩み寄りながらこう訊ねてくる。
「もしよかったら、もっと歌ってくれないかな?」
これまでずっと、歌を催促されることなんてなかった。
それだから自分の歌は誰にも望まれていない。そう、勘違いしていた。
――でも、違うんだ。
歌は、私の歌は誰かに温もりをあげることができる。
「うん、もちろん!! こっちにきて、一緒に歌お!!」
その瞬間からだった。
私は自分の歌が大好きになって、さらに『自身』を持てるようになったのは。
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