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国外追放の歌姫聖女 ~生命の唄~  作者: かなで
第1章
4/4

1.懐かしい少年との思い出。

遅くなりましたが、ゆっくりと更新します。

ここから第1章です。




 歌を最初に褒めてくれたのは、一人の少年だったと思う。

 教会での修行に飽き飽きしていた私は、よく中庭で鼻歌を口遊んでいた。著名な誰かが記したもの、というわけではない。神官長様が聴いたら眉をひそめるような、街の子供が大人を小馬鹿にする内容の歌詞だった。生まれた瞬間から、何の因果か分からないけれど聖女に選ばれてしまったこと。もしかしたら、私の中には知らず知らずのうちに鬱憤があったのかもしれない。


 大人たちは分かってくれない。

 子供の気持ちなんか、これっぽっちも。

 恥を怖れて、体裁ばかりを気にして、それを子供に押し付ける。


「ふー……! ホントに、誰も分かってくれないのよね!」


 そんな一節を口にしてから、長椅子に腰かけた私は頬を膨らして天を仰いだ。

 青空に小さな雲がちらほらとする様は、まるでいまの自分の気持ちのようにも思える。特段に大きな不満があるわけではない。だけども大人の小言だったり、些細な嫌味だったりが、麗らかな日差しを遮る雲のように浮かんでいるのだった。

 いっそのこと自分の立場とか、地位なんかを投げ出して生きることができたら。

 そう思わず願って、小さくため息をついた。そんな時だ。


「いまの歌って、誰が考えたの……?」

「……えっ?」


 か細い少年の声が聞こえたのは。

 驚いて振り返るとそこには、いかにも病弱な男の子の姿があった。

 身なりを見る限り、育ちは悪くなさそう。だけど幸薄いといえば良いのか、痩せぎすった細い手足が彼をみすぼらしく思わせていた。若干だが頬もこけている。だけど顔立ちは案外に悪くないのかもしれない。肩ほどで揃えた色素の薄い髪に、金の瞳をしている少年には悪い印象を抱かない。


 むしろ儚げな美少年、とでも表現すべきなのかもしれなかった。

 とはいえ、当時の私は色恋に微塵も興味がなかったのだけれども……。


「いまの歌……? ごめんね、私も知らないや」

「そうなの? ずいぶんと風刺が効いていて、面白かったのだけど」

「もしかして、こういう歌が好きなの?」

「えっ、うーん……たしかに歌詞も悪くないよ。でも、その歌がというより――」


 私の問いかけに、しばらく名も知らない男の子は考え込む。

 そして、どこか恥ずかしそうに言うのだった。


「キミの歌声や、元気に歌う姿が心地よかったんだ」


 視線をほんの少しだけ逸らして、少年は頬を掻く。

 私はその機微を察することができなかったけど、ただそれ以上に嬉しかった。


「私の歌が、心地よかった……?」


 なにせ、今まで歌っていたら叱られた記憶しかなかったから。

 私はそんな彼の言葉に、胸の奥が暖かくなった。


「あ、もし気を害したなら謝罪するよ。でも、なんというか……」

「……ううん! ありがとう、本当に嬉しい!!」

「そう……? それなら、良かった」


 だから素直に感謝を返すと、男の子は優しくはにかんだ。

 そして、こちらに歩み寄りながらこう訊ねてくる。



「もしよかったら、もっと歌ってくれないかな?」



 これまでずっと、歌を催促されることなんてなかった。

 それだから自分の歌は誰にも望まれていない。そう、勘違いしていた。



 ――でも、違うんだ。

 歌は、私の歌は誰かに温もりをあげることができる。



「うん、もちろん!! こっちにきて、一緒に歌お!!」




 その瞬間からだった。

 私は自分の歌が大好きになって、さらに『自身』を持てるようになったのは。



 


面白かった

続きが気になる

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