547 これが、最強
シャーリーちゃんが従者として加入して皆で大騒ぎをしていたところで、ふとバーベキューの参加者の誰かからこんな質問が投げかけられた。
『従者のなかで、一番強いのは誰なのか』
この瞬間、網の下で煌々と燃え盛っていた炭すらも凍りついたのではないかという程の大寒波が発生した。確かに何度か考えたことはあったが、それを確かめようと実行に移したことはなかった。
『それは秘密です』と返答したものの、実際にはわからないという答えが正しい。それに一番強いのは誰かと言われても、どういった局面でどう強いのか、それによっては誰が一番かという回答も変わってくる。
まずどん太、オールマイティに強い。打撃と斬撃が共に秀でていて、【幻狼】という分身スキルの上位のものも会得した。これにより体の一部を変化させて剣のようにしたり、尻尾を盾のようにしたり斧に変えたり、近接戦闘面において短所がほぼ存在しないのではないかというほど完璧な立ち回りが出来る。
逆に短所は長所でもある体の大きさで、単純に的がデカいので攻撃に当たることも多くなりがち。スピードでカバーしているけれども、防御一辺倒になってしまうと途端に弱い。特にマリちゃんのような行動を制限する射撃と罠軸の立ち回りをされると辛いところがある。
オーレリアちゃんはやれることが非常に多い。【コレクション】と【神速技巧】によって武器であるほうきをコレクションの中から瞬時に、かつ自在に変更出来るのが強みで、各属性ごとに作った特化ほうきに変更すれば威力や範囲が超強化される。更に流れ星やおまえをそうじするものを使えば奇策も取ることが可能。
短所は『超一流に対しての手札がない』こと、虚無の黒猫は超が何十個も付くほどの威力を誇るけれども、これを当てられるのはほとんどが格下、格上には通じた試しがない。シャーリーちゃんに一度だけ通用したぐらい。最近だと紫わかめに初見で対応されてちょっとガッカリした。
「ここに始まるは聖典に塗り潰されし古き神々の詩。偉大なる古き神々と麗しき我らが大地の詩」
「ん……?」
お、なんか始まったなと思ったら、ローラちゃんが唄い始めたのね。竪琴の音色と唄い口だけで、一気に注目を集めることが出来るの凄いなあ……。いつもふざけたジョークを飛ばしてくるピンクバードとはえらい違いだわ……。
ええと、それで……。千代ちゃんか。最強と言ったらまず名前が上がる、だけども最強まで一歩及ばないのがなんとも歯痒いのよね。間違いなく強いし、単体でも多数相手でも破壊力抜群の純粋な火力ではある。ただ、思い切りが足りないところがややあるのは明確な短所ね。
おにーちゃんもオールラウンダー、タンカーかつアタッカーもこなせる万能さがあるけど、如何せん鈍重なのと、超一級タンカーであるエスちゃんと比べるとHP面にやや不安があるのがね。乗り移りは便利だけど、防具は瞬時の換装が難しいのも短所。居ると安心感が凄いけど、頼りすぎには注意が必要……。後ね、どん太と模擬戦をやると悲しいかなオモチャにされる相性の悪さがある。
「今は昔、この大地には大いなる力が満ち満ちていた。天には光があり、地には生命があり、淵には闇があった。大いなる力を制する者はおらず、力は無限に膨れ上がり、やがて魔と混じり、大地に魔物が生まれた」
マリちゃんは遠距離物理、近距離物理もいけるね。戦闘方面より開発、調査、研究に向いているタイプ。そういった意味ではマリちゃんはその方面で最強よね。何か嫌なことがあったり、上手くいかないことがあっても、アルテナの助力があってすぐ復活してくれる。私のおかげだってお世辞を言ってくれるけど、そんなに役に立つような助言をしたことはないと思うんだけどなあ……。
ティアラちゃんも最強と言ったら名前が上がるね。もうね、何をさせても強いし幅広く活躍する。特に最強格のスキルは黄金領域、これはバビロン様ですら突破できないほどの領域制圧能力。テレポートはもちろん、空間破壊や設置スキルに対しても『NO』と突き返せる。特別な恩恵を得る効果がない代わりに、領域制圧能力は最強。
短所はそう、そうよ。そうなのよ。その、シルバーの消費量がね……。凄いんだわさ。シルバーをエルドリード金貨に変換して消費するんだけど、この消費量がね……。大規模な戦闘を1回するたびに、どん太と千代ちゃんとゼオちゃんの豪華な食事の時の食費を合わせた金額が、ティアちゃんの黄金領域展開の1割に届かないぐらいの消費量。10食分でようやく1回分、かな……!
「大地は焼け、人々は逃げ惑い、世は戦乱に陥り、争いが絶えなかった。そんな中、人々を導く存在が現れた。天にメルティス、地にエクリティス、淵にヘルミナティス。偉大なる三女神は魔を退ける剣となり、旗となり。人々を導き、日々戦いに明け暮れた」
ゼオちゃんは強いんだけど、かなーりマイペースなところがね。デロナちゃんを呪いから解放してからは、メルティス関連以外には、相手が強ければ喜び、相手が弱ければ露骨にテンションが下がるって感じ。メルティス関連が相手なら私ぐらい本気で殺しにかかるんだけどね……。
そもそも、古き死神の継承者だからって戦いを好むわけではなく、どちらかというと平和を愛する女の子なのよね。今だってローラちゃんの詩に聞き入って『ほわああ……』って顔でうっとりしてるし、美味しい食べ物があれば好きな子とシェアしたがる。クールビューティな容姿に反してキュートでプリティな子なのよ。
デロナちゃんは逆に戦闘は本気。負傷者が発生したらすぐに動くし、最後衛だから戦場を広く見て第二の司令塔になってくれる。攻撃スキルがカウンター、我慢系の爆発しかないから、攻撃面がほぼ壊滅しているのが欠点かな……。とっても優しい子だから、暴力は……あの時みたいに、心が壊れたりしなければ振るったりすることはないだろうね。
ヴァルフリートさんは本当にバランスが良いんだけど、超一流に通じないというか……。総合的にみればポテンシャルが非常に高いんだけど、活かしきれる場面が少ないのよね。
「三女神は遂に大いなる力の封印に成功した。しかして三女神は深く傷つき、エクリティスは月となり、ヘルミナティスは無へと帰った……。辛うじて命を繋いだものの、唯一生き残ってしまったメルティスは嘆き悲しみ、魔の存在を強く憎んだ。憎み、呪い、怒り……。悲しみの感情の果てに辿り着いた選択は自死だった。メルティスの最期の叫びに大地が震え、世界を割るまでに至った」
エスちゃんはHP面で見たら最強。なんせHPが二桁テラに達してるからね。15テラあるのよ、まあそれを一瞬でふっ飛ばしたレギンさんみたいな規格外もいるんだけど……。なんで21テラも対人で、それも一瞬で出せるのよ。ぶっ壊れてるわ。
短所はね、ちょっとHPの多さを過信し過ぎることがあるところかな。無茶なゴリ押しをしようとするから、そこはもうちょっと直して欲しい……。なかなか、難しいだろうけど。
めーちゃんは一気に最強格に躍り出たね。ただ、どん太を倒せるかっていうと……まだ無理かなー。もうちょっとでレベル1000に到達するから、完成してから仙術とか霊術を履修で学んでもいいのかなって気もする。短所は、真面目過ぎて奇策を出されるとフリーズするところ。それだけ。
「天は天界に。地は人間界に。そして淵は魔界と分かれた。そして遥か時を経て、三女神は転生を果たし、再び三女神は巡り合う。美しく穏やかな時を過ごし、この時間は永遠に続くと思われたのも束の間。メルティスの魂に刻まれた魔の存在を呪う記憶が呼び起こされる。なんという運命の悪戯か、エクリティスとヘルミナは、メルティスの忌み嫌う魔の力を帯びていた…………」
え、そんなストーリーだったの……? え? マジで? それはなんとも……いや、まだこの詩には続きがあるよね? あ、いやそれよりまだ2人……と、1匹残ってるわ。
カーミラさんとジャンボ、このペアはぶっちゃけ反則。だってペアなんだもん、そりゃあ他の子より明らかに強いよ。カーミラさんの詠唱破棄をジャンボが触媒になってサポートして、カーミラさんは戦闘だけに集中出来る。しかもジャンボの能力値をある程度得ているから、そもそもステータスが他の子より数段高い。というか、私の倍以上ある。本当に反則だからねそれ。
短所はペアってところ。つまりね、アンデッド憑依の対象としてこのペアを選択出来ない。仮に私へカーミラさんだけを憑依させても微妙だし、残されたジャンボが全く役に立たないし……。逆にジャンボだけを憑依させても、私のサポートは出来ないし……。アンデッド憑依の対象に出来ないってところだけが、本当にそれだけが短所よ。
「メルティスは呪いを断ち切る選択よりも、滅ぼすことを選んでしまった。今まで愛していた存在が、最も忌み嫌う魔の存在であったが故に、裏切られたと叫んで烈火の如く怒り狂い、魔の存在の全てを滅ぼさんと生命を奪い始めた……」
あ、やっぱり自己中心的過ぎるクズだった。良かった、なんかちょっと安心した。
えーっと、最後にシャーリーちゃんね。2秒のラグ持ち、更に射撃も近接格闘も目玉が飛び出るほどに強い。正直、未だに勝てたのが奇跡だと思ってる。装備も専用化が済んでいて、ほとんどがプラス値10を超えている。独自の自己兵器改造スキルで強化してるみたいで、強化機を使ってるわけではないみたい。
短所は、今現状だと戦闘狂が過ぎるってところかな。後はちょっと考えるのが苦手なところ? それは追々解決出来るし、全く問題にならないだろうね。うちの子達は皆賢く育ってるから、シャーリーちゃんも自ずと賢くなる、はず!!
「今や光の女神は邪智暴虐の化身と成った。かつて、三女神が魔を退けたように、我らは立ち上がらねばならない。この怨嗟を断ち切る日は訪れるのか、はたまた怨嗟に飲み込まれてしまうのか……。この詩を聞き届けし君よ、そなたが英雄と成らんことを願う…………」
それにしても、ローラちゃんはどこでこの話を知ったんだろう。ちょっと聞いてみようかな……あっ! 飛んでいっちゃった、まあいいや! 今度会った時にでも聞けばいいか!
「…………え? というか、メルティスも転生体なの?」
「ええ、そうです。転生の術を編み出したのは三女神ですから」
「あっ! 自分に使ったんだ!!」
「ええ、そういうことです」
なるほど、だからメルティスも転生を…………お? あれ、じゃあもしかして、吸血鬼時代のスキル一覧にはなかった月の女神の権能が使える今なら、カーミラさんも……?
「ふふふ……」
「えっと、聞きたいことがあるんだけど……」
こ、この表情……! この不敵な笑み、まさかぁ……!!
「あのね、カーミラさんも」
「乙女の秘密です」
ぐわああ~!! ひ、久々にやられた!! 乙女の秘密バリア!! くっ、私の従者の中での最強が今決まったわ。乙女の秘密、このスキルが最強過ぎる!! 今すぐ下方修正すべき~!!