546 歓楽街で一休み
「あ! やっほー! お姉さん♡」
「およ、シャーリーちゃんだ。やっほー」
結局夜食では済まなくなり、本格的なバーベキューを開始したところ、通りすがりのプレイヤーや現地のNPCから猛烈な熱視線を浴びることとなったので、月光の歓楽街の浜辺で誰でも参加可能な大規模バーベキュー会場を設置してしまったわけです。そしたら集まるわ集まるわ、いろんなプレイヤーが消費しきれない食材の使い所はここだとばかりに食材持参で訪れて、ドワーフもダークエルフも幻龍会の人達も黒兎兵団も、とにかく全員が集まって大宴会になってしまったんですね。今何時だと思ってるんですか? 夜中の1時ですよ、近所迷惑……いや、元々この街は夜行性の方々が集まってるから問題ないね!
そんなわけでシャーリーちゃんもやってきました。今は黒兎兵団と一緒に歓楽街地下の巨大迷宮の探索に参加しているけど、なんとなく元気がないように見えるのは……恐らく、迷宮探索がつまんないんだろうね。元からアールゲインの迷宮探索もあんまり参加してなかったみたいだし。
「え~! それ、水着? みんな水着なの~?」
「そうよ~。今ね、アトランティスっていう海の底の都市を調査したり~……してるところなのよ」
おっと、神木の迷宮で訓練と武装強化をしてるのは言わないほうが良いかな。もにょっとした誤魔化しになってしまったけど、シャーリーちゃんは従者ではないからね……。ごめんね、詳しくは話せないのよね。
「そうなんだ~! 楽しそう~! あ~あ、シャーリーも行きた~い!」
「約束を破ったら、レギンさんが怒るかもよ?」
「調査は俺が交代しよう。シャーリーを連れて行ってくれないか」
「あ、ビッグボス! いいの!?」
「いや、いいかどうかはリンネさん次第なんだがな……」
「レ、レギンさん……!」
うおわ……。さっきボロクソに負けた上、何回も負ける映像を確認してたから本人が出てくるとゾワッとするなあ……。いや、あれは迷宮の記憶のレギンさんであって本人ではないから敵対はされないってわかっているんだけど、やっぱりどうしてもね。
それより、交代しようだとかなんだとか言って、シャーリーちゃんを私に押し付けようとしてません? 前も言ったけど、シャーリーちゃんと一緒に表社会を……。
『(ここ暫く、リンネさんのこれまでの活躍を知ってからずーっと君の話ばかりしている。それ以外の時間はぼーっとしているか眠っているか、だ。これまで何をしていてもすぐに退屈だといい始めるシャーリーが一切飽きることなく、ずーっとだ。正直、俺の隣に置いておくのがつらい)』
え、シャーリーちゃんはいつも楽しそうに見えるよ……? まあ、今はちょっと疲れてるっていうか元気がなさそうな感じではあるけどね?
『(あらあら、リンネさん? シャーリーちゃんが恋する乙女の瞳になっていましてよ!)』
『(え? あ? あっ!? ペルちゃん!?)』
うわ急に現れたからびっくりしたわ、ぺるぺる星人! 恋する乙女の瞳って、いやいやそんなわけ……。あー……るー……かも……? 疲れている、元気がないって状態じゃなくてもしかして、精一杯お淑やかに振る舞ってる感じ……!? え、やだぁ可愛い……!
『(ん~。実際の私を知ったら幻滅するかもしれないですよ。いろんな相手に負けてばっかりで、勝つまでやるだけの泥臭い戦いを繰り返してるだけですから)』
『(それがまた良いんじゃないか? まあその、なんだ……。どうか連れて行ってくれないか)』
「シャーリーちゃん、何個か約束して欲しいことがあるの」
「うんっ! シャーリーね、約束はちゃんと守るー……守ります!」
「まず、私の従者……家族、ファミリーだね。皆のことを大切にして欲しいの」
「シャーリーの新しい家族だもん、絶対に大切にしますっ!」
「嫌なことがあったり、赦せないことが目の前で起きても、天使やメルティスの関係者以外に問答無用で襲いかかっちゃダメ。私が決断を下してから、それから……ね?」
「わかった! あ、わ、わかりました!」
「私達のことを誰彼構わず話してはダメ。情報は武器なの。シャーリーちゃんも、自分の秘密や知られたくないことを、誰かが知らない人にベラベラと話してたら嫌でしょ?」
「うん……。本当はお姉さんの活躍、皆に知ってほしいけど……我慢する!!」
「よし、大きい約束はこれだけ。後は一緒に暮らしているうちに小さい約束をして貰うことになるかもしれないけど、大丈夫かな?」
「小さい約束も、しっかり守る……ま、守りますっ!」
「それと、頑張って敬語を使わなくてもいいよ」
「えっへへへ……♡ はぁ~い!」
嬉しくなっちゃうと体を動かさずにはいられないの、可愛いね~。シャーリーちゃんは考えるのが少し苦手な子だけど、決して悪い子ではないし……。それに、あの途轍もない強さは本物だし……。逆に私達がシャーリーちゃんから学ぶことはとても多いと思う。
それに正直、マリちゃんの戦闘スタイルに近い同じタイプの子は欲しかった。実はマリちゃんがあらゆる場面にて活躍するおかげで、マリちゃんがもう一人欲しいぐらいだったのよね。生産、斥候、工作、破壊、強襲、狙撃、機械操縦……ありとあらゆる場面で必要になるんだもん。
最近じゃ、宝箱の隠し要素の割り出しなんかもあるのよね。メロウちゃんに弟子入りして盗賊系のファントムを修得したんだけど、これが百発百中の精度を誇ってて完璧すぎて……。マリちゃんなしの報酬部屋でのぱんぱかタイムは考えたくないレベル。
「じゃあ、これからよろしくね。シャーリーちゃん」
「はい……はいっ!! よろしくおねがいしますっ!!」
『シャルナーデが貴方の従者となることを受け入れ、貴方に忠誠を誓いました』
おーう、シャーリーちゃんが遂に、正式に従者になっちゃったよお……。他の子となんとなくテキストが違うのは、不死者の従者とは違うからかな。恐らく一度死亡したら、普通の不死者系従者と同じように扱えるよね。まだ死体安置所への割り振りも出来ないし、多分そうだね。
「みなさ~ん! リンネさんがまた新しい女の子を誑かしましてよ~!!」
「んうぅう!? ひんひぇおねえひゃん、まひゃへふは!?」
「オーレリアさん、食べながら喋るのはお行儀が悪くってよ~!!」
『わおーん!(うさぎのシャーリーちゃんだ!)』
『あおーん!(うさぎのお姉ちゃん!)』
「うっふふふ、素敵な家族が、また増えましたねえ……」
そして音速で広まってしまうシャーリーちゃん加入報告。ええい、もうどうにでもな…………れ…………? あれ、レギンさんが居ない…………?
「あれ、レギンさん……」
「元ボスなら、さっき居なくなっちゃったよ?」
「せめて挨拶ぐらい、待っててくれたら良いのに」
『(リンネさん、娘を嫁に出した父親の心境に似ていると思いますよ)』
『(あっ……)』
レギンさん……。そうですよね、小さい頃からずっと面倒を見ていたわけですし、シャーリーちゃんを送り出すって、そういうことですものね……。わかりました、私が原因でシャーリーちゃんに悲しい思いをさせないように、精一杯頑張ります!
「――おっと、俺を探してたか? すまない、ハッゲさんがストロベリームースケーキを作ったと聞いてね、居ても立っても居られなかったもので」
「は?」
「いや、ケーキをだな……い゛っ゛!?」
「謝ってください。謝って」
「カーミラ嬢、臑は良くない……! 臑は……!」
「謝りなさい」
「なんだかわからないが、ほ、本当にすまない! 悪かった! 多分悪いことをした!!」
は…………? ケーキ、ケーキ……?
「い゛っ゛!?」
「謝って、私にも。あとシャーリーちゃんにも」
「元ボス、ケーキを取りに行ってて、シャーリーがお姉さんのところの子になるところ、見てなかったの!? ひどーい!! 酷い酷い酷い!!」
『わう~?(何で蹴られてるの~?)』
『わうっ!(カーミラちゃんが蹴ってるから、僕もキック!)』
――この後、レギンさんは全員から一通り蹴られた。シャーリーちゃんはとても楽しそうだった。
◆ ◆ ◆
【死霊神・リンネ】
髪が長く、後ろ姿では水着と気が付かない人が大多数。すれ違った時に大胆なゴスロリ水着を着用しているので、通行人が驚きのあまり平均3.5度見している。
【猫神・オーレリア・ステラヴェルチェ】
大変キュートなブラックワンピースタイプの水着。ネコチャンダイスキファンクラブの会員は一目見ただけで即死した。そうでなくても即死した。
【神狐・姫千代】
女性らしからぬ部位がコンプレックスだったが、リンネがそれを大変気に入ってくれているからとコンプレックスではなくなった。
嘘である。コンプレックスなのはそのままだが、必死に顔や態度に出さないようにしている。するとどうだろう、普段より非常に大人しいフォックスの出来上がりである。
【超機戦姫・マリアンヌ】
アルテナが夏の装いを学習したスタイル。リンネがどれを着せようかと迷っていたところ、アルテナが『マリアンヌが一番緊張するであろう服』をコピーして再現してしまった。マリアンヌは『すーすーして怖い』と言っている。嫌ではないらしい。
【黄金神・ティアラ・エルドリード】
何を着ていても美しさが誤魔化せなかったので、開き直って一番派手で綺麗なアバターを着ることになった。本人は『リンネ様に貰ったものならなんでも嬉しい』と喜んでいる。
【旧死神・ゼオ】
お腹が開いていれば何でも良かったらしい。なぜかと言うと、食べすぎた時にお腹が圧迫されると苦しい服は嫌だったからだそうだ。食べ過ぎてお腹が膨れることを前提に服を選んで欲しくないものである。
【龍神・デロナ】
ゼオのデザインに近いもので、カラーリングが反対のものを選んだ。ちょっとしたおそろい感にるんるんしているが、当のゼオが水着を選んだ理由を知ったら、少しがっかりするかもしれない。
【裏切りの悪神・ヒュリエス】
ビキニアーマーは果たして水着に入るのだろうか。これは未来永劫答えが出ない難問かもしれない。もとより水属性、氷を操る能力に長けているため、涼しさは従者の中ではナンバーワンだ。
【ニンジャマスター・メルメイヤ】
え、忍者が真っ赤なビキニを……ですか!? リンネ様、これは忍べているのでしょうか。え、元からピンク髪なんだし忍べてるわけないじゃん、ですか!? いえ、この姿でも忍んでみせます! メルメイヤ、頑張ります!!
【月の女神・カーミラ】
転生したのでカーミラ以外の名はもう使わないそうだ。そして素晴らしい成長率を隠そうとしないこのスタイル、間違いなく純粋無垢な少女の装いではないことは確かだ。ジャンボはよく『ふかふか』の上で休んでいるが、この光景に対して羨望の眼差しを向ける男子は多い。
【兎詐欺・シャルナーデ】
遂にリンネの従者として加入し、その勢いで水着にされてしまったラビットガール。豊満さを隠さないスタイルだけでなく、戦闘力もとにかく凶暴。リンネに敗れ、月光の歓楽街等でリンネのこれまでの活躍を知ってからは、もう頭の中がリンネでいっぱいになってしまっている。こんなことは生まれて初めて、らしい。
【魔剣姫・ペルセウス】
リアルのリンネの正妻、それがバビオン内での彼女の心の余裕。そしてこの純白の水着は、そんな心の余裕から来るものかもしれない。多分そう、きっとそう……。
実は、少し恥ずかしがっている。





