545 神木の迷宮・3
さて、落ち着いたところで報酬エリア。このエリアでは全員が一度合流して報酬を受け取り、パーティも再編成することが出来る。
今挑戦した難易度はプラス30、毎回3ずつ上げられるからこれで10周終わったってことだね。ここまでめーちゃんがメインで全ての戦闘に参加していたから一旦休憩で、ここからは今すぐ戦闘へ参加したいメンバーにしようってことで希望者を募集したんだけど……。
『工エエェェ(´д`)ェェエエ工』
『仕方ないだろうフリオニール殿、これが実力の差というものだ……』
「やぁだ~!! デロナはあんな初見殺し認めないもーん!」
『工エエェェ(´゜д゜`)ェェエエ工』
「私も認めませーん! 卑怯でーす!!」
『工エエェェ(´◎д◎`)ェェエエ工』
「姫千代さんかどん太君か、カーミラ嬢が居れば、善戦ぐらいしたかもしれないがね……」
「この私が一撃で吹き飛ばされるとは思いませんでした」
まあそうね、全員まさか一撃で負けるとは思わないよね。なんだかんだここに居る全員が戦闘民族というか、考えたと同時ぐらいには手が出てるようなタイプで、これまでなんとか強敵にも食らいついてきたというか、ギリギリの戦いを多く制してきた。そして私が居ればぶっちゃけなんとかなるんじゃないのっていう余裕もあった、天狗になってたとも言う。あ、どん太がもふもふで気持ちいいね。千代ちゃんも、尻尾を貸してくれてありがとうね。くすぐったそうにもじもじしてて可愛い。
さて、そろそろ現実逃避はやめようかな……。うん、負けたんだ。難易度33段階、マックス強化ボスに加えて『デスエンカウント』が発生してね、来ちゃったんだよ。この神木の迷宮に出てくる、殺神とか殺戮の神とか、殺意高そうな神々を超える化け物が。
『レギン殿、あれほどまでに強者であったとは……』
「さすがアールゲインの抑止力、シャルナーデ嬢に並ぶ脅威とされていたのは伊達ではなかったね」
「どうやって勝てば良いんですか、あれに!!」
「録画はしてあるから、何回でも見返そう。逆に考えよう皆! 負けて良い時に負けられた! ここで8対1でも勝てないような相手に出会えたのはラッキーだよ。天狗になってた鼻をへし折って貰えた、上には上がいると知ることが出来てラッキーって前向きに行こう!」
『(*´∀`*)』
『流石、リンネ殿は前向きであられるな……』
「あれだけボロ負けして、まだ勝てる気で居るんですか!?」
「うっふふ……。何度見てもボロ負け、凄まじい負けっぷりですねえ……」
『わん! わう!(凄い! 物凄く強い!)』
「一度月光街に戻り、実際のレギン殿に試合を挑むべきでは?」
「それもありだけど、まずは負けた原因と攻撃のメカニズムを解析しないと!」
「リンネ、お腹がぐうぐう鳴ります! お食事、ながら観戦がいいです!」
「うーん! わかった、月光の歓楽街に戻って、夜食をつまみながら反省会にしようか!!」
アールゲインの抑止力、黒き都市の名を冠する者……レギン。シャーリーちゃんを私に押し付けようとした時に殴ったけど、あれは甘んじて受け入れて殴られてくれたんだなーと。とりあえず月光の歓楽街の拠点に戻ろうか。それからじっくり、レギンさんの強さを研究しようじゃないの。
◆ ◆ ◆
『CAUTION!! フィールド【荒野エリア】、ワールドエンドボスエネミー【人類の到達点】が選ばれました!』
『8……。神々も居るのか、多いな』
「レギンさん!? いや、迷宮の記憶か! 皆構えて」
『レギンが【勝利のルーン】を発動、神々の権能を無効化します』
『オーレリアが【にゃっぴーせっと!】を発動、【アンチテレポート】【アンチダイブ】【カウンターミサイル】が設置されました』
人類の到達点、この異名の時点で神格者ではないことは容易に想像が出来た。だから神性特効は無効、ダメージを出すなら人間用の――……と、思っている内に事態が急変した。
『レギンが【絶無】を発動、デロナとの距離が消滅しました』
『ヒーラーだな』
「え」
『ヒュリエスが【ディボーション】を発動、デロナのダメージを肩代わりします』
『レギンが【無双三段掌】を発動、クリティカル! ディボーション! ヒュリエスが5,500Gダメージ、5,500Gダメージ、11,000Gダメージを受け、死亡しました』
『レギンが【奥義・千命砕破】を発動、奪命! デロナの命の鼓動が停止しました』
『フリオニールが【守護の誓い】を発動、パーティ全員を庇う状態になりました』
エスちゃんがデロナちゃんを庇って三連続ブレイクで即死、次いでデロナちゃんが奥義を受けて特殊な死亡状態に。ただの死亡なら反魂の儀式で起こせるけど、デロナちゃんの詳細情報を確認したところ、『最大HPが0になった』という特殊死亡。これでは復活させることは出来ない。
そしてここで大きな間違い、復活させようということに気が行って、レギンさんへの注意を怠ってしまった。いや、注意していなかったわけではないと言い訳したい……。していたはずだったのに、既に視界から消えていた。どこに行ったのかを発見した時には次の犠牲者が発生していた。
『レギンが【指弾】を発射、カウンターミサイル! 【指弾】を発射、相殺!』
「え、あっ、カウンターミサ」
『レギンが【絶無】を発動、オーレリアとの距離が消滅しました』
『庇いきれるかな』
『レギンが【斬鉄拳】を発動、ディボーション! 特効! フリオニールがオーレリアを庇い、7,755Gダメージを受けました。ダブルブレイク! 最終ゲージに突入!』
狙われたのはリアちゃん、さっきから発動されている絶無というスキルはテレポートスキルではなく、相手との距離をゼロにするというスキルらしい。恐らく千代ちゃんやユキノさんが使える縮地系の完全上位版、縮小するどころか消滅させるスキル。それを使われたと思った時には既に、レギンさんの拳が体の何処かに刺さっている。
完全フリーのはずのマリちゃん、ヴァルさん、ゼオちゃん、私が全く動けない。どうすれば良いのか指示も出せない。完全に格が違う相手、打つ手がない。ただ素早いだけではなく、どう動けば視界から消えることが出来るのかを熟知している。平面な動きではなく立体的、荒野にそびえ立つ大岩の死角を利用したり、地形の隆起を利用したりして姿をくらませる。
「にゃんにゃおー!!」
『ヴァルフリートが【ハイメガブレス】を発動』
『オーレリアが【大焼夷猫弾】を発動』
ここで2人が面での攻撃に出た。恐らくこれは回避するだろうから、攻撃しなかったエリアに集中して的を絞ろうという考えだったと後で2人とも語っている。実際私もそう思って、攻撃した方向には全く注意を向けていなかった。多分、誰も注意してなかったと思う。
『レギンが【究極奥義・無念無想の境地】を発動』
この究極奥義が発動した瞬間から恐らく、手加減をするのを止めたんだと思う。今まではまだ一言二言喋るぐらいはしていたけど、それが一切なくなったのはここからだった。
『火の中だ!!』
『マリアンヌが【重狙撃榴弾】を発射、パリイ! レギンが攻撃を受け流しました』
「手で弾いた見えました! わーお!?」
「ゼオちゃん驚いて喜んでる場合じゃ」
『レギンが【奥義・絶無千命砕波三段掌】を発動、距離無視! 奪命! フリオニールがオーレリアを庇い、生命力を失いました。奪命! オーレリアの命の鼓動が停止しました。奪命! マリアンヌの命の鼓動が停止しました』
こんな無法が赦されるのかと、開いた口が塞がらなかったのはこの攻撃。これまで距離を詰めるだけだった絶無と奥義スキルの組み合わせにより、距離が離れていても奥義スキルを当てることが出来るというインチキ。もはやどうすれば良いのかわからないと思考を放棄しそうになるのを必死に食い止め、存在するはずの攻略法を模索する。
『レギンが【絶無】を発動、ヴァルフリートとの距離が消滅しました』
『っくう!!』
『ヴァルフリートが【覇王斬】を発動、白刃取り! レギンが攻撃を受け止めました』
攻撃をするために近付いてきたと、今までのパターンから予測して焦って反撃に出たのがこの回。ヴァルさんの剣はレギンさんに届かず、両手でピタリと止められてしまった。白刃取りは防御ではないので防御無視は意味がなく、この後に連続蹴りで一気に全てのHPを吹き飛ばされて退場。
『レギンが【百裂脚】を発動、トリプルブレイク! ヴァルフリートが合計4,771Gダメージを受け、死亡しました』
「そこ! エバデオン!!」
『ゼオが【エバデオン・地を這う刃】を発動』
『【魔神斬滅驟雨】を発動』
ここで私とゼオちゃんが反撃、レギンさんの動きが大きく止まったのを見て、上方からの連続攻撃と、地面を伝って斬撃を与える連携攻撃を繰り出した。
『レギンが【強襲身弾】を発動、相殺! 【地を這う刃】を相殺しました』
「はあええ!?」
レギンさんが取った行動はまさかの特攻、地を這う刃を相殺して私の攻撃は受けることを選択した。点で攻撃してくるものよりも、面で攻撃してくるものを最小限受けて被害を減らそうと考えたんだと思う。
『カーミラが知の間の難題を攻略しました。武の間の挑戦者にバフが与えられます』
『ティアラが知の間の難題を攻略しました。武の間の挑戦者にバフが与えられます』
『クリティカル! レギンに670Gダメージを与えました』
『レギンが【指弾】【波動拳】【鉄山靠】を発動、3COMBO! トリプルブレイク! ゼオが合計4,400Gダメージを受け、死亡しました』
ここで知の間のバフが入り、レギンさんに初めてダメージが通った……通ったけど、あまりにもダメージが低かった。恐らくARCの差、これがかなり大きいんだと思う。こちらに対して異常なほどダメージの通りが良いのもこれが原因……いや、これだけじゃないんだろうけどね。
ついに私一人だけになってしまい、攻略はもはや絶望的。それでも未来に繋げるために攻略法の手がかりだけでも掴みたい私はとにかく必死だった。
うん……。必死過ぎて忘れてたんだよね。大きく距離を取るためにバックステップをしてしまったんですね。絶無と攻撃スキルは組み合わせられるって、さっき見たばっかりだったんだけど。どうしてそのことを覚えていないのかな~……。ただ、これが思わぬ収穫になったのよね。
「あっ」
『レギンが【絶無・無双三段掌】を発動』
これで確殺、もうどうしようもないなとは思ったんだけど、ダメ元攻勢に出ることに。
『【魔狼斬滅双波】を発動、相殺! 【無双三段掌】の一部を相殺しました』
「へっ!?」
『クリティカル! レギンから1,150Gダメージを受けました』
「うおっぐ……!」
これが、本当に偶然なんだけど! 超偶然の一手、自分でも驚いてその後何も出来なかったんだけど、あの距離を詰めて攻撃してくる無法スキル【絶無】を相殺出来ることが判明したのよ! 距離を詰めてくるだけであって、別に攻撃をワープさせて当ててきてるわけじゃない。だから中間地点に何か障害物があれば、それこそ相殺可能な威力の何かが有った場合は衝突して相殺される!
『今のは甘えだな、確実に殺ろう』
『レギンが【迅雷連脚】を発動、クリティカル! トリプルブレイク! 合計4,955Gダメージを受け、死亡しました』
『パーティが全滅しました。挑戦者パーティの敗北です。待機エリアへと転送されます』
結果としては最後の攻撃を全く捌けずにボロ負けしたわけだけど、得るものはあった。何も得るものがない無惨な敗北ではなく、一歩前進出来る敗北。
人類の到達点、この大きな壁を突破しなければ計画達成は夢のまた夢……。よし、そろそろお肉が焼ける頃合いだから戻って皆ともう一回観戦しよう! さてさて、私の分は…………あ、ない? ない、なんで? なんで今から焼き始めてるの? まさか、食べたの!? 私が来るの遅いからって、待たずに!? こ、この腹ペコ達は~!! はあ、今に始まったことじゃないか……。