463 ぶっちぎりでイカれ過ぎた女・3
「火、火を消しなさい! セリョーガ、早く敵の迎撃を!』
「今やっとるわい!!」
「私が出ます、メギド様! よろしいですね!?」
「どうする、敵はこちらの防御策を瞬く間に全て破壊して来た、相手は明らかに強いぞ。全力で撤退して仕切り直すのも手だ」
撤退……? そうだ、撤退……。誰が乗り込んできたのか、乗り込んできた相手の強さ、自軍の損害度合い、全てが不明な現状、撤退という手段も…………。
「何を言ってるんですか、オルちゃんを消された時に私達を見つけたと、相手が残したメッセージを忘れたんですか!」
「そうですわ! もはや私達に逃げ場などないのです! この戦に勝たない限り、私達に未来はないのです!!」
「全員が散り散りに逃げれば追手も分散する。生き残れば、再起の機会は自ずと訪れる」
「よぉしよしよし! 起動準備は完了ですぞ、メギド様! 逃げるにせよ立ち向かうにせよ、時間を稼ぐぐらいは出来そうですじゃ!」
そうだ、オルヴィスをこの世から消し去った憎き相手の正体も掴めていない……。逃げ切れる保証は何一つなく、散り散りになれば一人ずつ順番に消される可能性すらもある……。ここで逃げ出しても我々には帰る場所がない。撤退という選択肢はそもそも存在していないのだ!
「撤退はありえない。応戦せよ、敵の兵は精鋭揃い……逆に考えれば、これらを撃退すれば、ナンナイアは我らのものとなったも同然……! 迎え撃て、グランディス! 精鋭騎士を連れて敵を蹂躙せよ! セリョーガ、メルメイヤ、軍勢を率いて続く雑魚どもを蹴散らせ! アグニ、最大の実力者であるお前が弱腰でどうする! それとも、敵の火の術を見て……臆したか?」
「臆した? この俺が、あの程度の火花を見た程度で臆したかだと? 笑止、ありえない」
「では命令だ! 我が軍勢に飛び込んできた鼠共を生かして帰すな!」
「世に静寂があらんことを!」
「世に静寂があらんことを!!」
「世に静寂が、あらんことをぉお!!」
「世に静寂があらんことを」
これは試練だ。この試練を乗り越えずして我が求める世界の実現はありえない。敵が誰であろうとも、立ち向かわねばならない……! オルヴィスのためにも、ここで負けるわけにはいかんのだ!!
◆ ◆ ◆
「――――弱いッ!!」
『姫千代が【無双絶剣乱舞】を発動、周囲のモンスターが即死します』
『ゼオが【死の消滅波】を発動、死亡している存在が抹消されます』
「これが、この程度が、此方の国を、民を!! 傀儡に変えた外道の主が率いる軍勢とは、嘆かわしい!!」
『姫千代が【無双絶剣乱舞】を発動、周囲のモンスターが即死します』
「恨みをぶつける相手がこうも脆弱では、怒りを通り越して呆れまする!!」
私の従者はオルヴィスによって国や国民、家族や最愛の人を、直接的にも間接的にも奪われている子が多い。恐らくどん太とヒュリエス以外は全員と言って過言でないだろう。マリちゃんも自爆とは言え、オルヴィスによって腐敗させられたメルティス教会によって追い詰められたのだから間接的にはそうなる。
そんなオルヴィスの主であるメギドに対する憎悪は計り知れないものがあった。こいつさえ居なければ、こいつだけは絶対に赦せない、ほぼ全員がそんな思いでここに来た……。ああ、でも、そうだね……ちょっと、強くなりすぎたかも。
『そこまでですわ!! このグランディスが来たからには、これ以上の狼藉は……ッ!?』
『【魔界死霊帝王の重圧】が発動、虐殺令嬢グランディスは逃げられない!』
「ちょうど良さそうなのが来たじゃない。フリオニール、千代、ゼオ、デロナ、ヴァルフリート! これの相手をしておいて。抹消はしないように」
「ええ、ええ。そのように」
『щ(゜д゜щ)』
「抹消しないは面倒です。復活するかも」
「何回もやっつければいいんだよ~!」
『丁度暇をしていたところだ』
暗黒騎士、あいつ複数体居たんだ。暗黒騎士10体とグランディスだけなら、この5人でなんとでもなるでしょ。万が一にも何回でも復活するタイプだったとしても、千代ちゃん達には丁度いいサンドバッグみたいなもんよ。それに、剣術タイプ揃いだからこのメンバーは相手から得るものがあるかもしれないしね。グランディスからレアな剣術が学習出来たら最高ね。
『ま、待ちなさ……!?』
『姫千代が【神雷絶脚】を発動』
「此方を、前にッ!!」
『速い、避け……無理……!?』
あらら、これは差があり過ぎて何も得られそうにないかな。
「よそ見とはッ!!」
『グランディスが防御態勢、ガード! 35Gダメージを与えました』
『ぐ、ぁ……!?』
『( ´ー`)』
『フリオニールが【強者の余裕】を見せつけます。周囲の敵対者が【激怒】状態になります』
「じゃあ、ここは任せて? 総大将のところ、行ってらっしゃ~い!」
「うん、お願いね~デロナちゃん」
『デロナが【隔絶結界】を発動、周囲で脱出不可能な結界が展開されました』
数は倍の差があるけど、実力はこっちが倍以上も上かな……。ここは任せて先に進もうか。私の狙いはこんな下っ端じゃなくて、総大将のメギドだからね。
『グランディスが、消えた……!?』
『なんじゃと!? まさか、もう……いや! あの結界の中に閉じ込められておるのだ!』
『じゃあ、助けに…………いっ…………!?』
『【魔界死霊帝王の重圧】が発動、死の軍団長メルメイヤは逃げられない!』
『【魔界死霊帝王の重圧】が発動、破戒技師セリョーガは逃げられない!』
『ガウウウウ……!!』
「いいよ、アレはお昼寝さん達が処理してくれるから。ほらどん太、先に行くよ」
『ま、待ちなさ』
「何?」
私を止めるつもりなら容赦はしないけど、大人しくしてるなら後30分ぐらいは長生き出来るよ? 少し考えればわかるでしょ? 圧倒的に力の差があって、そっちには対抗手段が何もない。メルメイヤの後ろにいる、他とは異なる強者のオーラを放ってる暗黒騎士が少しだけ気になるけど、どん太がその気になれば簡単に蹂躙できる程度だとは思う。だって、カーミラさんと比べたら足元にも及ばないレベルだなって……そう感じるもん。
『メルメイヤが【恐怖】【精神衝撃】状態になりました』
『あ……あっ……』
『ガウッ!!』
『ひいっ!?』
「ほら、行くよ。お昼寝さん達が来なくても、暴れてるリアちゃんとエスちゃんがなんとかしてくれるよ。マリちゃんが撃ち殺す方が先かもしれないけど」
『わうっ!』
「この先に居そうです!」
「ん、ありがとティアちゃん。じゃあね、メルメイヤちゃん」
『わた、私の、名前、なん、で……』
まあ前にオルヴィスの目を通して見たからね。きっと以前の私だったら、ログに名前が表示されすらしなかっただろうなあ~……。レベル差というか、格が違いすぎると名前が正しく表示されなくなるんだよね。リアちゃんは『素晴らしきもの』、デロナちゃんは『我らを救い給え』、どん太は『空腹の獣』か『大人しいわんこ』。他の子も差がありすぎると表示がおかしくなるのよ。多分前の私だったらメルメイヤちゃんは~……『死を率いる者』とか表示されてたかもね?
『(お姉ちゃん~! なんか、こっちにアグニが来ました! 凄く怒ってます!)』
『(どう、戦えそう?)』
『(エスちゃんが一緒なのでへっちゃらです!)』
『(頑張ってね)』
アグニが居ないと思ったら、リアちゃんとエスちゃんのところに行ってたのか。もしかしてアイツ……ロリコン……? 私を無視してリアちゃんのところに吹っ飛んでいくんだから、絶対そうだよ。ヤバい、注意しておかないと!
『(リアちゃん、アグニはちっちゃい子が好きな変態だよ! 絶対! 気をつけてね!)』
『(え、ちょっと戦闘中に変なこと言わないでくださいっ!!)』
怒られちゃった、でも返事はしっかりしてくれるし、余裕がありそうだね。うおわ、空で凄い爆音が!! リアちゃんとアグニが本格的に戦闘を開始したってことかな? リアちゃん、初手で水禁止の縛りをしたからアグニに対して水が使えないけど、大丈夫かな? まあアグニも自分の弱点の水ぐらい対策してるだろうし、逆に一切使って来なくて対策が無駄になって困惑してるかもね。
『わうっ! (居た、きっとアレだよ!)』
「お、どれどれ。まずは挨拶しておこうか」
「挨拶は大事です!」
『古代神術【呪詛の大嵐】を発動します』
メギド発見発見~。それじゃ、まずは挨拶代わりに呪詛の大嵐でも……。無属性、火属性、闇属性、不死属性の混合魔術で、見た目こそ赤黒い炎の壁ってしょぼい魔術だけど、単純な攻撃な分対策が取りにくいんだよね。ブラックホールは意外と発動から攻撃発生まで時間が掛かって避けやすい部類だし、こっちのほうが当てやすくて良いのよ。ちなみにこれは本気のカーミラさんが使ってた古代魔術の一つで、盗みやすい魔術だから盗んだのに、その後報酬の宝箱から呪詛の大嵐の書って出てきて非常にガッカリしたエピソードを持ってたりする。
『墓の王・メギドが【時空障壁】を発動、呪詛の大嵐が時空に飲まれ消滅しました』
『初めまして、だな。なかなかに素晴らしい術だ。これほどまでに大掛かりで強力な術を初手に放ったその判断は大変結構。しかし、どれだけ強大な術であったとしても、通用せねば意味がないがな』
『メギドが【終焉を齎す破局】を発動』
お、防いだ上に攻撃を返してきた。アルマゲドンはその名の通り当たれば死ぬって感じの超強い魔術で、全てを飲み込む死の極太ビームみたいな見た目のヤバい魔術なんだけど、宇宙大魔導オリビエさんが使ってきた奴と同じ奴だから……。
『Resist……。闇・不死属性の攻撃を無効化しました』
『終わりだ、哀れな小娘と』
「三つ、勘違いしてる」
『……何ッ!?』
闇と不死属性の複合攻撃だから、そもそも効かないのよね。残念でした。
「まず哀れな小娘、私は哀れじゃない。哀れなのはお前のほう」
『純粋なる闇の奔流よ、我に力を……!!』
『メギドが【ヘルミナスフォース】を発動、強化状態になりました』
「さっきの術は別に大掛かりじゃない。お前の程度を確かめるのに使っただけ」
『なんだと……?』
「それと最後に、別に初めましてじゃない。私はお前に二回は会ってる、まあ一方的にかもしれないけどね」
『何が言いたい? 戦うつもりがないのであれば去れ。貴様には我と似た力を感じる、その好みでお前の先程の無礼を見逃してやっても良い。先程の攻撃でもう魔力が残っていないのであろう? ん? 図星だろう。我の目は誤魔化せぬ、我にはお前の魔力が見えるのだからな』
こいつが教育に失敗したオルヴィスのせいで、オルヴィスを放し飼いにしたせいで、私の大切な従者達は散々苦しめられて、尊厳を破壊されて、悲惨な最期を迎えることになったんだ。こんなに冷静で高圧的で、私達に対して興味がない素振りをされると――――イライラしちゃうなぁ。
『【死体安置所】から――――』
皆の願いだから、お前には苦しんで死んで欲しいのよ。
『なん、だ、それ、は……?』
「オルヴィスだけど?」
『貴様…………ああああああああああああああああ!!』
『【ネクロチャージ】を発動、MPを完全に回復し、全ステータスが強化状態になりました』
『貴様が!! 貴様がぁああああああああああああああ!!』
『メギドが【サモンコープス】を発動、【黄昏の乙女・グナ】を呼び出しました。非常に強力な死者の召喚の為、メギドが高い代償を支払いました』
ああ、なるほど……。なるほどね。そういう、繋がりだったんだ。じゃあ、オルヴィスはグナの……。
「リンネ様、誰か出てきましたよ!?」
「黄昏の乙女グナ、メギドなんかよりずっと強敵だよ」
『グゥゥゥウウ……!!』
『グナ、私の敵を、葬り去っておくれ……!!』
『…………』
この世界って、なんでこんな屑野郎ばっかりなんだろう。メルティスかな、メルティスが何もかも悪いのかな。そうだね、そういうことにしておこ……。あいつが居なければ、メギドやオルヴィスなんてモンスターがこの世に生まれたりしなかったはずなんだ。本当に、本当に…………最低の気分だわ。





