461 ぶっちぎりでイカれ過ぎた女・1
いつ何時、オルヴィスをこの世から葬り去った者が襲撃してくるかわからない中でのナンナイア侵攻は困難を極めた。船は謎の襲撃で破損、補填として兵を燃料代わりに焚べたのも痛手だった。
ナンナイアに侵攻可能な戦力が揃わない、メルメイヤやグランディスの士気は非常に低い、オルヴィスを葬った仇敵の襲撃を恐れてアグニが情報を収集出来ない、出来る限り相手に被害を出して死の兵士を作り出してを繰り返すしか方法がなかった。万が一にも戦力が不足した状態で仇敵に出会った場合、もはや再起不能なほどの致命傷となってしまう。慎重にならざるを得なかった。
しかし、その為の赤い満月の今宵。今宵を無事迎えられさえすれば、我が死の軍勢を再び再起させることが可能。邪神ヘルミナの力を借りて、この地で散った死者達をかき集めればこの通り……。我が死の軍勢は再び、むしろカナンに置き去りにした軍勢よりも遥かに強力で、数も倍以上となった。何百年と積もった恨みや無念が我らの力となってくれたのだ。
「見よ、我の無念の声に応えし死の軍勢を。今宵の赤い満月、勝利の兆しは我らにあり。さあ、時は満ちた!!」
今宵、我は失ったものを一気に取り戻した。ナンナイアの侵攻に必要な戦力は揃った、メルメイヤ達の士気も向上し、その眼差しは勇気と希望で満ち溢れている。ナンナイアさえ手に入れれば、ここさえ落とせば……ああ、時代の風が我らの背中を押しているかのようだ。この光景をオルヴィスにも、見せてやりたかった……。
「メギド様! ナンナイア側から、大規模な範囲攻撃魔術と思われる術が発動されました!」
「無駄だ。俺の反射術式を破ることは出来ない」
動いたか、ナンナイア……。先制攻撃が大規模魔術とは、愚かなり……。
「敵の大規模魔術、アグニの反射術式によって弾かれた模様です! 被害報告、術式外に出ていた軍勢が…………こ、転んでいます」
「何?」
「攻撃魔術ではないのか?」
「こ、攻撃のはずです。確かに攻撃と感知しました!」
「闇の眼を使う。使い魔越しに目視で確認したほうが早いだろう」
転んだ? たったそれだけの威力とは、メルメイヤの報告では全くの意味不明だ。我が直々に使い魔の目で…………。
「…………確かに、範囲に入った兵が転んでいる。次々と起き上がり、全く損傷はない。地面が少し沈んでいるだけだ」
「重力魔術か。反射した感触が妙だとは思ったが、何のつもりだ?」
重力魔術、確かにこれなら反射されても向こうは痛手を負わない。なるほど術式の範囲を探るつもりだな? よくこれを考えたな、だが無意味だ。
「術式の範囲を探られたのではありませんこと?」
「その可能性はあります~! こちらに探りを入れてきたように感じます~!」
「ふぅむ、いくら赤い満月の夜とは言えど、ナンナイア側の状況はよく見えませぬなぁ……」
「数日前から視認阻害の術式が張られている。無理に突破しようとすれば感知されるようにも組まれている。物理的にも魔術的にも、ナンナイア側で何が起きているのかを正しく観測するのは不可能だ」
「この探りなど無意味だと言うことを教えてやろう。今宵の戦いはオルヴィスの無念を晴らす第一歩である!! メルメイア、突撃の号令を――――」
「な、何か、来ます!!」
何? 何かが来るとは、一体…………こ、これは!?
「アグニ! すぐに重力術式で沈んだ地面を隆起させよ!!」
「敵、大規模な保護魔術を展開!! 対象は、地面です~!!」
「厳しいな、これを突破するには膨大な魔力が必要だ。相手は地面の保護如きに本気を出しているぞ」
「応戦だ! すぐに応戦せよ!! 敵が、敵がこちらに向かってきている!!」
「お、おお、何の揺れですじゃ、これは?!」
なんという、なんということをしてくれたのだ!! ナンナイアは正気なのか!? ええい、これがどれだけの被害を齎すか全く想像出来ぬ!! 全力で応戦せざるを得ない、おのれ……! おのれ!!
「全軍、戦闘態勢!! 緊急防衛策を展開し、敵を迎え撃て!!」
◆ ◆ ◆
『――――ゴリアテさん、これ作れますか?』
リンネさんが渡してきた設計図は途轍もなく――――簡単な設計図だった。簡単すぎて頭の中がクエスチョンマークで埋め尽くされたほどだった。なんでこんな物を? そしてよく設計図を確認して、驚愕。単位というか、サイズが桁違いだった。
「九割は完成しました。突貫工事ですが、お望みの物は完璧に出来上がりそうですよ」
「ありがとうございます、ゴリアテさん! 皆さんも、無理なお願いを聞いてくださってありがとうございます!」
「…………」
「…………」
リンネさんの言葉に誰も振り向かない。なぜなら今彼らは『人生で最も急いで仕事をしろ』と言われているから。それでも何か反応したい者は右手を軽く上げて最低限の返事を返している、そのぐらい今彼らは本気でこいつを作っている。
「動かせるかという問題ですが、残念ながら前進のみしか不可能です。コントロールを失ったら終わりですよ」
「大丈夫、コントロールは問題ないです」
普通なら『本当ですか?』と返すところだが、リンネさんが『大丈夫』と言った時の安心感は桁外れだ。とっておきの秘策があるのだろう、そう期待してしまう。それにしてもリンネさんはこれに爆薬でも満載にするつもりなのだろうか? これを突撃させて一撃必殺! 敵は突撃前に大打撃! 的な?
「完成、今!」
「点検!」
「各々チェックリストを出せ!」
「誰かが点検したからヨシはなしだ!」
「点検開始! 点検開始!!」
おっと、完成したらしい。それじゃあ、パペットマスターとしての本領発揮と行きましょうか。点検が完了して、合図を出されたらこいつにひたすら前進と命令すれば良い。不可能だと言ったが、出来る限りコントロールをする努力はしよう。
「モロー班、問題なし!」
「ゲンゲン班、問題なし!」
「レーナ、もんだいなーし」
「ウニ班異常なし!」
「足場解体完了!」
「報告! 強度テストはしていませんが、問題なく製品が完成致しました!!」
「ありがとう、凄まじいスピードだった。参加者はもれなく俺にメールを送るように。報酬分配は戦の後で」
さあて、足場も解体されたし、強度テストは……まあ使い捨てだから問題ないはずだ。問題はこいつをどうやって使うかなんだが……。
「お昼寝さん、作戦開始です! 全員乗り込んでください!」
「よぉ~し。こうなったらもうどうにでもなれ~! 乗れ乗れ~!」
「は? え? 乗る!? これに!?」
の、乗る!? 爆薬を乗せるとかじゃなく、これに乗る!? 正気ですかリンネさん!?
「リアちゃん、デロナちゃん、作戦開始! ペタドンとランプロ!」
「は~いっ!!」
「いってきま~す!」
『素晴らしき存在が【にゃるら・にゃーご・ぺたどん】を発動、超強力な重力空間が広域に発生します』
『我らを救い給えが【ランドプロテクション・ドラゴニカ】を発動、指定範囲の地面の状態が保護されます』
重力空間……? これは、沈む……!? 地面が!! まさ……か……!!
「おいおい、本当に道が出来ちまったよ」
「こっからは息合わせて行くで!! 転けたら大惨事やぞ!! 気合い入れとき!!」
「自信がないやつは飛べ! どん太君にだけは気をつけろ!」
「全員乗りましたね、行きますよ! ゴリアテさん、出してください!!」
「え、ああ!! 動け、パンジャンどん太君1号!!」
『巨大ゴーレム【パンジャンどん太君1号】を前進させます……。警告、前進以外の操作が不可能です』
このパンジャンドラムに主戦力が乗って、敵陣に突っ込むつもりなのか!? いや、それしか考えられない! このパンジャンどん太君1号は横幅20メートル、高さ10メートルの巨大な円柱型の金属の塊、こいつが持つ質量は絶大……だが巨大で円柱型のこのパンジャンドラムは、どこに行くかわからないという最大のデメリットを持っている。当然コントロールなんて出来ない!
それが今、強力な重力によって地面が沈没、しかも綺麗に整地されて真っ平らな状態……つまりこれは、パンジャンドラムが真っ直ぐにしか進まないということを意味している! そしてランドプロテクション、これで相手から地面をどうにか変形されて妨害されるという心配もなくなった……。ああ、ああ……。こんなネタ兵器、迷走兵器、本気で実用的に使える人がこの世に居たんだ……。
「転がった……」
「おーっし、行くぞー!! どんどんスピードが上がる、遅れんなよ!!」
「エリスちゃんちょっと怖くなってきたなぁ~~!!」
「今頃逃げても無駄だよエリス!」
「私は自信ないから後ろ飛んでく。怖い」
『(;´∀`)』
「パンジャンどん太君1号、発進~!! どん太、大きくルートを外れたらコントロールするのよ!」
『わうわうわうわうっ!!』
「文句言わないの!! 後でファブ肉食べ放題!」
『きゃう~~ん♡』
「行ってきま~す!」
ああ、行ってしまった……。本当にこれが、こんなのが開戦の一撃目で良いのか……。
「巨大なパンジャンドラムで敵を踏み潰して敵のど真ん中に突撃……。真似したくないな……」
「パンジャンに続けー!!」
「パンジャンに続けってなんだよ」
「良いから行くぞ、混乱した敵を一気に捻り潰してやれ!」
「おっしゃーー突撃だ突撃!!」
「これもうボーナスステージみたいなもんだろ! やべえ最高かよ!」
「ゴリアテー! ボーっとしてないでバビロンガートリプルエックスの組み立て手伝え!!」
俺は俺の仕事をしよう……。まさかパンジャンドラムを実戦投入、それも実用する人が現れるとはね……。でも爆発しないから厳密にパンジャンドラムではないのでは? ああ、だからパンジャンどん太君なのか。ドラムどん太君だとパンジャン味がないから、敢えて――。
「ゴリアテーー!!」
「あ、ああ!? 今行く!!」
ヤバい、うちの奴らに怒られる前に行かないと!! リンネさん達ならきっと上手くやる、あんなネタ兵器での突撃だろうと絶対上手くやってくれる。きっと、恐らく、多分大丈夫…………。
『――――パンジャンどん太君1号、加速! 加速! 超高速で敵本陣に突っ込みます! 接触…………今ッ!! パンジャンどん太君1号、直撃! 命中、命中! 敵は大打撃、繰り返す! 敵は大打撃!! 敵の要塞に風穴が空いた!! パンジャン破損、パンジャン破損!!』
「うわ~……パンジャンすげえ……」
「ゴリアテーーッ!!」
うわヤバい、絶対怒られる奴だこれ! だって気になるじゃん? パンジャンドラムだよパンジャンドラム! 爆発しないけどさ! いや、うちの工場長が爆発してるから実質パンジャンだな! ヨシッ!
――――これ絶対、相手さん白目剥いて泡吹いてるだろうなあ……。
Q,パンジャンドラムって?
A,ネットで調べろ
Q,なにこれ?
A,ぱんころ〜





