439 心の拠り所
ティアちゃんとカーミラさんがグリムヒルデさんに事の経緯を説明している内に、私はどうしても気になっていたことを調べようと思って、ティアちゃんのお膝を借りながらモンスター辞典を開いていた。この後千代ちゃん達を復活させたら、調べてる時間なんてないのは明白だからね。
モンスター辞典には途轍もない量の新規モンスター登録の文字が煌々と輝いていて、目当てのモンスターを調べる前にウッカリ別のモンスターを見て時間を浪費しそうになったけれど、そこはグッと堪えて目当ての奴の情報を開くことにした。
『【人類種の裏切り者・オルヴィス】の詳細情報を表示します』
「ん~……」
正直、弱かった。攻撃力だけは馬鹿みたいに高かったけれど、なんで聖属性攻撃をやめないのかさっぱりわからなかった。効いていないんだから別の攻撃にすればいい、もしかして聖属性以外ないのか? それらが全く理解出来なかったので、モンスター辞典で閲覧できる情報から何かわかることはないかと思い至ったのよね。HPとかはまあ、第一段階が多分つくねちゃんと私で殆ど削って大体50Tぐらいだなーとは思ってたんだけど、スキルの方がね……。あ、あったあった。
【人類種の裏切り者・オルヴィス】
【HP】50,000,000M + 50,000,000M
【MP】99,999,999M
【SP】120
【TP】10
…………
……
【特殊能力】
・時空渡航
・肉体改造
・不老
・耐性無視
・ヴァンパイアキラー
・デビルキラー
・ゴーストキラー
・スカルキラー
【アクティブスキル】
・熾天使化――HP50T、HP0になった時に熾天使化を解除
・ホーリースマイト――聖属性の打撃、超絶ダメージ
・ホーリーブレイド――聖属性の斬撃、超絶ダメージ
・ホーリースピアー――聖属性の突撃、超絶ダメージ
・セイクリッドフレイム――火・聖属性の複合魔術、弱点優先、中ダメージ
・セイクリッドフェザー――聖属性の広範囲魔術、大ダメージ
・セイクリッドバースト――聖属性の超強力な爆発攻撃、地形破壊
・破壊する右腕――無属性の物理近接攻撃、超絶ダメージ。反動でダメージを受ける
・粉砕する左腕――無属性の物理近接攻撃、超絶ダメージ。反動でダメージを受ける
・ソウルクラッシュ――念属性の破壊魔術、念属性にのみ超絶ダメージ
・聖域支配――領域を【聖域】化する
・神聖障壁盾――聖属性の強力な障壁盾を作成
・ペインミラー――受けたダメージを返す
・ロングテレポート――長距離の瞬間移動
・時空渡航――時空間を行き来するポータルを作成する
・ハイネスヒール――強力な治癒魔術
・ハイネスキュア――強力な浄化魔術
・ブレインピュリフィケーション――脳を浄化し、記憶を抹消する洗脳魔術
・グレーターリザレクション――全ての種族を完全復活
・セイントカーテン――聖者のみが赦される領域へと姿を隠す
【真覚醒スキル】
・ハイエンジェルブラスト――聖属性の破壊光線が降り注ぐ
・聖女の奇跡――HP完全回復、状態異常完全回復
【究極スキル】
・セイントジャッジメント――天の裁きを下す
・メシアモード――救世主化し、能力を極限まで引き上げる。効果時間終了後、反動により能力が半減する
【神技】
・セイクリッドフィアフルバースト――恐ろしき聖なる力が全てを飲み込む
・メシアブラスト――救世の力でこの世の悪を焼き尽くす。メシアモードを解除する
ああ~なるほど。絶対にこれだわ、耐性無視! それにヴァンパイアキラーにデビルキラー! これはカーミラさんに8倍特効、確かに相性が完全に終了してるわ。ハイアンチホーリーで聖属性無効がカーミラさんの耐性最高値だから、これを無視して聖属性2倍と特効2倍と更に2倍が乗って合計8倍! 今まであらゆる敵をこの耐性無視で蹴散らしてきたんだろうなあ……。
それにカーミラさんですら知らなかったシステムメッセージ、私に憑依して『初めて見た、神をも超える遥か上位の存在の力』って認識だったこのプレイヤーが圧倒的に有利な力。これがオルヴィスにはなかったのも原因かもしれないね。もしもシステムメッセージが見えてたなら『ダメージを与えたが吸収された』ってメッセージで『あ、こいつに聖属性は駄目なんだ』ってわかるはずだもん。恐らくだけど、オルヴィスには『効いてはいるけど、すごく頑丈な奴。気合で耐えてる、回復能力が非常に高い』って思われてたんだと思う。実際、不死とか悪魔って再生能力高い種族多いし。ヴァンパイアなんてその筆頭だもんね。
効いている、と思いこんでいたから聖属性攻撃をやめなかった。だからそれより弱い攻撃、リスクのある攻撃はしたくなかった。ペインミラーは有効だとわかったけれど、ふざけた低威力の攻撃で対策されてしまったから使えなくなった。なので、強力な範囲攻撃で応戦するしかなかった。ってところかな~? システムメッセージさえ見えていれば、もしくは私がオルヴィスになって逆に相手をしていたら……100回やっても100回とも勝てるかな。それぐらい圧倒的な差があるわ。よくもまあ勝てたね~これに……。
『なるほ、ど』
「なるほどね~」
『二人揃って納得して頂けたようで』
「あう~……。リンネ様独占タイム、おしまいです……」
『次の機会を楽しみに待つ時間も大事ですよ』
「はいっ! カーミラ様っ!」
『で、は。現代へ合流、させます』
お、グリムヒルデさんもこの状況が理解出来て、現代に戻すことに納得してくれたみたい。これで完全に黄金郷のイベントも終わりかあ~……。ん、いやいや、これからこの地を復興していかなきゃならないんだよね。そう考えると、これからが本当の黄金郷復活の始まり? ようやくスタートラインに立てただけなのでは?
『グリムヒルデが【カイロスシステム】を起動、ワールドスキル【大時空航行】を発動!』
『ワールドアナウンス:ワールドのどこかに黄金郷が出現しました』
『ちまちま、進める必要、ないです。飛ばせば、いいの、で』
『…………こう言っては失礼ですが、クロノスとの圧倒的な差を感じますね』
「ですね……」
「わあ~!! 一瞬でした! 一瞬です~!」
『長い時間は、使え、ません』
カーミラさんが言っているように、クロノスとカイロスの圧倒的な力の差を感じちゃう……。これ、クロノスが万が一にも現代に合流出来たとしても、カイロスシステムを起動したグリムヒルデさんにボコられるだけだったんじゃ……。ああ、そういうことか。オルヴィスは一応そこまで計画に組み込んでいたのか。
「そうか……。現代に戻ったらクロノスはグリムヒルデさんに負け、黄金の女王はいずれにせよどこかへ逃げ出すことになる……。支配者不在の黄金郷を次に支配するのはファーブニル、そのファーブニルを支配しているのはオルヴィス、放置していればいずれにせよ危険だったんですね」
『長い時間は使えないとなるならば、そうなるでしょう。魔界側が挙兵するまでに、この地の力を吸い上げ逃げ出せば計画は完了。残っているのは何も知らない、黄金を手にして満足しているファーブニルだけ。魔界側はファーブニルと衝突し、結局黒幕の正体を知ることはなくオルヴィスの計画は進む……と』
『リカバリープランの、ない計画は、破綻しやすい、です。非常に高い、対価になりました、ね』
オルヴィスのことを知れば知るほど、こんなところで倒されては駄目だったんじゃないのって感じる。でも倒したおかげでメギドの目的や配下の顔、どんなことが出来るのか、何を任されているのかまでわかった。これは大きな収穫だと思う……対価として、ペルちゃんとのお出かけの約束がなくなってしまったのだけどね。
『それにしても、最初は驚きました。私だったら攻撃方法を炙り出すのに凝視を使っていたでしょうね』
「移動スキルを割り出さないと、いざという時にどう逃げ出すのかがわからないですからね。最後は何を使って逃げるか、それが知りたかったので凝視は移動スキルの割り出しに使いました」
『それで時空渡航を使って最後は逃げると予想し、対抗策としてポータル内に仕掛けられる罠魔術【鋼鉄の処女】を使ってとどめを刺す……。その流れに持っていくのは、私では不可能だったと思いますよ?』
「最後の心の拠り所こそ、付け入る隙ですから。そこは徹底的に潰さないと」
『非常停止、効かない時のマグナも、とても慌てます。最後の心の拠り所、潰れる、と、大変です』
『最後の心の拠り所、確かにそれを潰すのは確実ですが……。それ以前の問題が……』
「でも、リンネ様は勝ちました! 凄いと思いますっ!」
「カーミラさんが憑依したなら、それ以外は全部対応出来ると信じていましたから」
『…………! そう、ですか。では、私はバビロン様に報告がありますので。こ、これで』
『満月の女王・カーミラが【グレーターテレポーテーション】を発動しました』
『グリムヒルデが【転移相乗り】を発動、カーミラが許可しました。転移しました』
あ、行っちゃった。しかも転移相乗りって……。そんなのまであるんだ……。それにしても、やっぱりカーミラさんの憑依状態は強かったなあ~……。HPが999Mで3ゲージ、対人戦扱いならダメージ1%まで減衰、MPは夜なら無尽蔵、職ポイントも私と合計で185……。私が35しかないから、職ポイント150もあるよあの人。魔術に関しては何が使えるとかじゃなくて、スキル名がジャンル名だった。【スキル:全現代火魔術】【スキル:全現代水魔術】こんな。ヤバいという次元を通り越してるでしょあの人。失伝魔術も13種あったし、見たかったけどそんな余裕がなかったなあ~……。
「帰ろっか。皆は今~……あ、近くの臨時キャンプに居るみたい」
「帰りましょう~……あ! また憑依したいです! リンネ様と一緒で、暖かくて大好きです!」
「ん~。いいよ、そのまま帰ろうっか」
「はいっ!!」
やっぱり仲間って良い。ティアちゃんみたいに、甘えてくれる純粋な妹のような子もいいし、マリちゃんみたいな不器用な姉のような存在も、千代ちゃんも、リアちゃんも、ゼオちゃんもデロナちゃんも、どん太もおにーちゃんも……仲間って素晴らしいと思う。
オルヴィスと私が似てるって言われてから色々考えてた。逆に何処が違うんだろうって……。決定的に違うのは恐らくこれなんじゃないかな。オルヴィスは、周りに誰もいなかった。私の周りにはたくさんの仲間が、信頼できる人達が沢山いる。オルヴィスにも頼れる仲間は居たはずなのに、何でもかんでも一人でやり過ぎたんだよ。独り善がりの狂信と狂愛の行き着く先は破滅、皆で仲良く推しを信じて推しを愛でるべき。
「今日も帰ってバビロン様に沢山愛を伝えないと……」
「はいっ!」
それとね、あいつはバビロン様の信者じゃない。バビロン様の良さがわからないやつは何やっても駄目。バビロン様サイコー、これはこの世の真理。さ、帰ってバビロン様の祭壇で愛を伝えないと……。





