405 秘密の代償
ヴァルフリートさんを従者に迎えてからログアウトして、4時に間に合うようにアラームをセットしたのが4時間前、ぐらい。たぶんそのぐらい。自信がない。
結果としては起床に成功した。なんだか驚くほど眠くないし体調がいいし、ここから何も用事がないなら真弓とお出かけの時間までトレーニングルームで過ごしてもいいぐらい調子がいい。とりあえず身だしなみだけ整えてログインしたんだけど、ログインボーナスが貰えなかったんだよね。あれ~おかしいな~と思って困惑してたら、バビロンオンラインの一日の切り替わりは6時だからログインボーナスが貰えるのは2時間先だったよ。そういえば何かと5時59分にリセット~って書かれてたね……。
「ロビーには誰か居るかな~……」
『わう~?』
「お……。第一暇犬を発見……。犬だけに、発犬ってね……。っふふ」
『あう~~ (犬じゃないも~ん)』
第一暇犬発見発犬、夜明け前からもふもふしてるね~君。可愛いね、ちょっと撫でさせてよ。いいね、もふもふつやっつやだ。他にこの時間に起きてる暇な子居ないかな~。
「わっ! リンネ様~! 今日は朝から早いです~!」
「お、ティアちゃんだ。おっはよ~。今日も可愛いね」
「本当ですか~! 嬉しいです~~!!」
「ひんひぇふぁん! ほはひょう!」
「パン食べながら挨拶しないのゼオちゃん。おはよう~咥えてる反対側貰いっ」
「ひゃうっ!?」
「りんねーさま、おはよう~! 今日は早~い!!」
「仲良三人組が揃って起きておる、おはようおはよう~」
おお、仲良三人組の朝は早い。あ、ゼオちゃんの咥えてたパン美味しい。いやいや、食パン一斤レベルの大きいパンの切れっ端取っただけでそんなに涙目にならないでよ。あ、ほら、いつぞや買ったパリパリ暴れメリーネソーセージあげるから。
「はいパンのお礼」
「んうっ!? ほひひい!!」
「ゼオお姉ちゃんは姫千代ねーねと違って太らないね~」
「姫千代さん、ちょっとふっくらしましたよねっ!」
「やっぱり全員気がついてるじゃん」
「むっ……。むっ……。んっ! 姫千代さん、食べ過ぎです! 私の三倍、多分食べます!」
「ゼオちゃんの三倍、だと……!?」
「昨日、夜は我慢でした。ちょっと食べる遅い、かな? 気にしてる思います!」
「前は暑い砂漠で走ってました! スッキリしてた時は、そうだったと思います!」
「砂漠で走ると、足腰が強くなりそう~!」
「砂漠で走る姫千代さん、げちょげちょになるが嫌い言ってました」
「げちょげちょ……?」
「べちょべちょ~?」
「汗びっしょりですっ!」
「げちょべちょ!」
なるほど、前は千代ちゃん砂漠で走り込みをしてたから汗だくになってシュッとしてたのね。今は加賀利に帰郷したり、ローレイの快適な気候で精神修行メインにしてるせいで太ったと。これは、いけませんねえ~。
「いっぱい食べる、いっぱい動く! 大事です! このままだとふと千代さんです!」
「ふとっちょ!」
「ティアもふっくらしないように、気をつけます……!」
「ティアはちょっと食べるが少ない思います、気をつけるものないです」
「あ、ティアちゃん血とか飲まなくて大丈夫? 我慢してない?」
「あっ!」
「それは大丈夫思います。カーミラさん、新鮮な血を瓶で沢山持ってきます。いっぱい持っている!」
「カーミラ様から貰ったポーチにいっぱい入ってるもんね~!」
「はいっ! カーミラ様から貰いました!」
いつの間にかティアちゃんがちっちゃいポーチ持ってる……! これ、マジックバッグ扱いのかばん系アイテムかあ……。この中に新鮮な血が入った瓶がいっぱいあるのね、ちょっと参考までに一本見せてもらいたいかも。
「ちょっと、血の瓶どんなのか見せてくれる?」
「え~っと、はいっ! これです!」
『ティアから【◆勇者と聖女の混合血液瓶】を受け取りました』
は、はは……。うわ、受け取った時点でこれの出処がわかったわ……。ルナリエットでカーミラさんが拉致って持ってった奴だこれ……。ひぇえ……!! 見なかったことにしたい、知らなかったことにしよう。乙女の秘密の一つを知っちゃったよ……。
「あ、うん、ありがとう……。大事にして、誰にも渡さないでね」
「はいっ! カーミラ様からも誰にも渡さないようにって言われました! 特にリンネ様には……あっ!!」
「あっ……」
あっ、ティアちゃん……。大丈夫、バレなきゃ犯罪じゃないんだよ……。
「な、内緒ね。バレたら一緒に焼きピーマンだよ……」
「焼きピーマンです……! 内緒にします……!」
「デロナ、ピカピカの石が欲しい~! 赤くて大きいの!」
「霜降りドラゴンソテー沢山食べます!」
「君たちもティアちゃんの秘密がバレるのを止められなかった責任で、カーミラさんにカプッとされる刑だからね?」
「あっ! セクレテ、します! 絶対です!」
「デ、デロナ何も聞いてないし、見てないよ、う、うん!」
よしよし、物分りの良い子達だね……。バレなきゃ犯罪じゃないんだよ……。
「いいどん太? 今聞いたことは忘れるのよ?」
『ぴぃ~ぴぃ~……』
「なぁに? なにか文句あるの? どん太だってバレたら砂漠マラソンの刑だからね?」
『ぴぃ~……』
「あっ」
「あ~。あ~~」
「デ、デロナ、お部屋帰りたい……」
「大丈夫、秘密はバレなきゃ問題ないんだから……!」
カーミラさんの秘密がバレたからってビビっちゃダメよ、こういうのは堂々と構えてバレないように胸を張っておけばいいのよ。どん太め、ぴぃぴぃ鳴きおってからに、起きもしないことをビビってちゃあ秘密は守り通せないのよ!!
『そうですね。バレなければ問題ないですね』
「そうそう、バレなきゃ問題ないの!」
『バレるとどうなるでしょうね』
「バレたらそりゃあ~……」
バレたら? う~ん、起きないことを考えても仕方ないんだけど、そうだなぁ~バレたら~……。
「バレたら、カーミラさんに献血ぐらいしなきゃだめかも」
『そうですか。カプッとはさせて頂けないのですね?』
「カプッとしたらバビロン様が怒って飛んでくるかもしれないですからね。献血がいいところね!」
『そうですね、カプッとしたら怒られてしまいますから。では、一食分で手を打ちましょう』
「まあバレてないから」
待って、声が一つ多いな? 穏やかながら少し冷たい透き通る声、独特の悪寒、首筋に感じる視線、ティアちゃん達の怯え方……。こ、これは、まさか……!!
「りんねーさま……」
「リンネ様~……!」
「あ~っ! ああ~~……!!」
『わう~~……』
居る、背後に……! 振り返ったら負け、背中越しに交渉を成立させる……! 必殺の刃を抜き放つ時、今ッ!!
「こもりう」
『あああ~~。いけません、いけない子ですねリンネさん。どうしましょう、なるほど。悪い子、悪い子ですね……。怒られることを覚悟でカプッとすべきでしょうか? そうすればその悪い口が二度と自由に開かないように出来ますね。そうです、そうしましょう』
「…………これで、チャラにしましょう。ねっ! ねっ!」
『…………乙女の秘密を、秘密ですよ?』
「交渉は成立です」
『ええ、成立ですね』
勝った……。事実上の勝利……! なんでいるのよ、いやそうだ、常時監視レベルですっ飛んでくる人だ、会話は筒抜けと思った方がいいんだ……。プライバシー、プライバシーをください!!
『それはそうと血は頂きたい』
「少しだけ、あの瓶一本分ぐらいなら……!」
『おかしいですね、どの瓶の話でしょうか。リンネさんは知らないはずですが』
「錬金術の商店規格のポーション瓶サイズで一本なら!!」
『結構。素晴らしい、ティアの分も一本ほど』
「400ミリぐらいかな……。本当に献血一回分ぐらいだ……。そ、それで……」
『素晴らしい。では対価として』
「ティアちゃんのポーチ代!!」
『なるほど、しかしそれでは二本の計算に合いませんねえ……』
「インスタントハウスのインストラクター代!!」
『素晴らしい。できるだけ迅速にわかりやすく丁寧にお教えしますので、三本になりませんか?』
「私の血がなくなっちゃうから……! さ、三本……。合計三本?」
『ええ、合計三本』
合計三本も血を抜かれるのぉ!? うぐごごご……。これもバビロニクス発展のため、最終的にはバビロン様に繋がる道……! 致し方ない犠牲……!! よし、覚悟を決めて振り返って血を抜いてもらおう……。
「ど、どうやって、血を抜くんで……ひっ……!?」
『ああ、この服ですか? 血を抜く時は相手に怖がられないようにするのは、果たしてどうすればいいかとレーナさんに尋ねましたところ、ナース服というものが良いそうでして。レーナさんに頂いたんですよ。他にも沢山の服を頂いたのです、どうですか? 緊張しなくて済むでしょう?』
「ひっ……! ひっ……! ひっ……!?」
ナース服、カーミラさん……!? これで、これで緊張、しなくなるわけ、ない!! じゃん!! いいいいいい~~!? なにそのでっかい注射器~~!? 500ミリリットルのペットボトル容器ぐらいあるって!!
『大丈夫、動かないでくださいね』
「うひゃほほほへへへ……!? む、むり、しんじゃう!!」
『緊張しないんですよ。ナース服なんですから』
「嘘でしょ、なにか間違ってるよその理論! おかしいもん、ねえ!! カヨコさん!! そこ動脈だと思う、私そこ、動脈だと思うなあ~~!! ああ~~!!」
『鼓動が早いと貯まるスピードも早くなりますから、ゆっくり抜きたいのでお静かに』
「む、むり、無理、痛いって、ほげっ!!」
あ、入った……。痛、くない、嘘でしょ……。あ、なんかすーーっとして、気持ちいいかも……。ひゃあ~~……。
『私に吸血されている時と同じぐらい気分がよくなりますからね。ほら、緊張しないでしょう?』
これ、目を閉じたら死ぬんじゃないかな。ゆっくり死に向かってスキップしてる気分、ああやばーい、暫くナース服を見るだけでトラウマが蘇ってきそう、うわ~~血が、びゅお~~って出てる~~……。うわ~~。うわ~~……。ああ~~……。
「あぁぁぁ…………」
『頑張れ~。頑張れ~。いっぱい出せて偉いですね~』
「うわぁ……あああ……なにそれぇ……」
『これもレーナさんから習いました』
レーナちゃん、もうカーミラさんに危険なことを教えないでえ……。あああ~……。死んじゃうぅ~……。





