58,ライトアップ・フォース
『うおぉぉおおおおおお!!』
黒いカッパーウィングを広げて夜空を切り裂く赤銅の流星一条。
雄々しきカブトムシめいた一本角を額から生やした赤銅色の機械巨人、DAIカッパー1である。
『やぁぁあああああああ!!』
巨大な皿――覇皿に乗って星空を統べる翡翠の彗星一閃。
ゴリラめいた体格たらしめる極厚の装甲に包まれた翡翠色の機械巨人、ダイカッパーである。
奇しくも同じ発音の名を持つ二機が、同じ空を駆ける。
ちなみにDAIカッパー1は皿助、ダイカッパーは晴華が変身している!!
ついに叶った共演だが、感慨を噛み締めている場合ではない……そう、そんな場合ではないのである!!
『輝け、【強者証輝】!』
皿助の叫びに応え、DAIカッパー1の両肩と胸部の紅い宝玉に五芒星が浮かび、輝く。
DAIカッパー1の膂力をありえないくらい強化する魔術装備が起動した証である!
『行きますよダイカッパー! 覇皿、接続!!』
晴華の快活な叫びに応え、ダイカッパーの両肩にセットされていた小さな覇皿が射出。それぞれダイカッパーの拳にがっちりと接続。
ダイカッパーの放つ攻撃の衝撃をありえないくらい増幅してくれる妖術兵装、それが肩の覇皿!!
皿助は戦闘スタイル的に掌に接続していたが、晴華は普通に殴るので拳に接続している。
戦闘準備をしっかり整え、二機が向かった先に在るのは……
『きゅっきゅま~?』
あれ~? なんかきらきらしたのがとんできてるきゅま~……とあざとく小首を傾げた、山の様な熊の様な高次元的存在!!
突如川から現れた、謎の何か!!
『俺らは低めから攻めるゾ、ダビデ!』
『GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』
熊の様な何かの足元、川の水面からほんの少し低空を走る黒い虎ッ、それは鵺のダビデとスーパー☆テイルが機装纏鎧を起動した姿、名は薙囲訪這暗飩!!
自身が発した黒い雷電を踏み固めて空を走り、DAIカッパー1とダイカッパーの後を追う形で熊の様な何かへと突進していく。
ちなみに完全な余談だが、黒い虎だからと言ってブラックタイガーと呼ぶのはNGだ!!
理由は画像検索したらわかる!!
『どうやら悪意無き生物の様だが……すまない、俺はお前を、斃さなければならない!!』
皿助はふんぎりを付ける様に叫んだ。
現状、この熊の様な生き物――先程ハイド博士が「呼称が無いと呼び辛いのでひとまず『熊の様ではあるが絶対に違うよね』的な外見から【亜熊】と仮称しよう」と名付けた――この存在がこのまま生き続けるのは、不味い。
亜熊はハイド博士の解析によれば、代謝の如く恒常的に超エネルギーを大量に放射している。
その放出される超エネルギー量は、低次元世界と呼ばれる部類に入るこの人間界に在っては完全にキャパオーバーな領域のもの。
亜熊はこの世界にいるだけで、空間を歪め、破滅させてしまうのだ!!
このまま放置すれば、ここにいる皿助達だけではない……奥武守町と恵朱市にいる全ての生命が空間の崩壊によって生じる大爆発に巻き込まれてしまう。
ハイド博士の計算によれば、崩壊までのタイムリミットはおよそ一〇分弱――ほんの僅か!!
その僅かな時間で亜熊の活動を停止させるには――殺す他に無い!!
『許せとは言わない、言えるはずもない……! 俺はただ生きるために、皆を救うためだけに、お前の生命をここで頂戴するッ!! 両手を合わせて誠心誠意唱えよう……「いただきます」、と!!』
両手を合わせ、これからの冥福を祈る様に、皿助は叫ぶ。
そして、亜熊に死を押し付ける以外の選択肢を持ち得ない己の未熟さに歯噛みしながら、DAIカッパー1の全身にエネルギーを滾らせる。
『さぁ、いくぞ……覇皿は無くとも放とう、今、必殺の力士百人力鋼掌破ァァーーッ!!』
『行きますよぉ!! ダイカッパァァ……パァァァンチ!!』
『膝に雷電を受けさせてやりナ!!』
『GIAAAAAAAAAAAA!!』
DAIカッパー1全力の張り手が!!
ダイカッパー全霊のパンチが!!
ナイトバード渾身の雷電混じりの噛み付きが!!
それぞれ、亜熊にクリーンヒットする!!
……だが……
『……ッ……!?』
『きゅまぃ?』
涼しい……実に涼し気な、亜熊の態度ッ!!
『ど、どう言う事だ……!? 俺は今、確かにこいつに張り手を叩き込んだ……!! だのに……毛の一本すら、押し曲げる事ができていない……だと……!?』
バリアや厚皮で防御された訳では無い。
何の変哲も無い、ただの毛に見えるモノが、有り得ないくらい堅いッ!!
いや、ただ堅いと言うのも何かが違う。ただ堅いだけならば、執拗に攻撃し続けていればいつかは破壊できる。
しかし皿助は直感した、「これは絶対に破壊できない」と。
「……ッ……そうか、高次元生命体……そう言う事もあるのか……!?」
その様子を、河川敷から見上げていたハイド博士が、表情を歪めて舌打ちする。
「どう言う事クマ? 何で皿助達の攻撃が効いていないか、わかるクマ?」
「高次元分野はまったくの門外漢であるためあくまで推論に過ぎないが……高次元生命体は我々とはまさしく生きている次元が違う。あそこに見えているのは……あそこに在って触れられるのは……我々低次元生命体が認識できる範囲の、あの亜熊の表層部分でしかないと考えられる。もしそうであるならば、我々ではあの亜熊の実体を捉える事はできない……!!」
「……つまりガミ。あそこにあるのは亜熊の影みたいなもので、本体は我々では認識できない、って事ガミ?」
「そうだな……その例えは近いかも知れない。普通の影とは二次元的なものだが、言うなればあの亜熊は三次元に投影された影だと推察できる。三次元に生きる我々は立体的に視認、触れる事は可能だが……結局は影――外縁をなぞって投射された贋物だ。三次元よりも上に存在している本体が形を変えない限り、影は一切歪まない、欠損しない。逆も同様」
影をどうこうした所で、本体には影響しない。
そして、本体がどうこうしない限り、影の形が変わる事もない。
『くッ……ダメだ、ハイド博士!』
ハイド博士達があれこれ話している間に持てる技を全て叩き込み、げんなりしたDAIカッパー・ダイカッパー・ナイトバード達が河川敷へと降り立つ。
『私達の攻撃、通じないどころか……攻撃とすら認識されていない感じです!!』
『GURUUUUUU……!』
現に、自身に攻撃してきた三機に対して、亜熊は興味無し。
遠き宇宙の彼方で煌く星々を見て「きれいきれいたーのしー!!」と言わんばかりに『きゅーまっまっまっま!!』と笑顔を爆発させている。
「……美川皿助、君は高次元的波動を練れるか?」
『いや……まだ未熟なこの身、微塵も不可能だ』
堕撫尤の五体を全員相手にしていれば高次元的波動に覚醒していた運命もあったらしいのだが、それはご存知の通りバレネッタによって阻止されてしまった。
そのおかげで、皿助はまだまだ普通の男子高校生として今ここに在る。
「そうか……ならば結論だけ言おう。現状、君達ではあの亜熊を倒せないと言う仮説に辿り着いた」
『ッ……しかし、ならばどうすると言うんだ……?』
増援を呼ぶ暇は無い。
亜熊の代謝によって空間が歪んでいるせいか、妖怪バッジも携帯電話もあらゆる通信機器が使用不可能。残り数分の時間で直接増援を呼びにいけるはずも無し。
「……高次元的アプローチでしか、あの亜熊には干渉できない……」
ハイド博士は額に汗を浮かべて黙り込む。
諦めムード……ではない。声は出ていないが、唇が若干動いている。必死に打開策を考えているのだ。
「ん? 高次元的アプローチ……はて、どこかで【見た】覚えが……ガミッ! そうガミ!!」
「? ガミジン、どうしたクマ?」
何を思ったか、突然ガミジンがその黒翼をバサバサと激しく振るい始めた。
すると、どこにどう収納されていたのか、赤銅メダルを取り出した時と同様、翼の中からポロリンチョと分厚い本が一冊、こぼれ落ちた。
「あったガミ! DAIカッパーのトリセツ!」
『DAIカッパーのトリ……取り扱い説明書、と言う事か?』
「ガミ! 開発局から『未完成の機能だから絶対に使うな』と言われていたため適当に流し読みにした部分に確か……!」
ガミジンが蹄を器用に使い、トリセツをパラパラと捲っていく。
「……あったガミ!! DAIカッパー4の機能説明の記述!」
『なッ……DAIカッパー……4だと!?』
DAIカッパーに第四形態がッ!? と皿助は吃驚。
しかし、冷静に思い返してみると誰も「DAIカッパーは1・2・3まで」とは言っていない!!
勝手な思い込みは良くない!!
「DAIカッパー4は【高次元戦闘特化】ッ!! 機体を一時的に高次元物質へと変換し、高次元領域からの干渉で低次元生命体では絶対に防御不可能な一撃を叩き込むと言う【最終兵器的一撃必殺】をコンセプトにした形態!! ガミ」
DAIカッパー……以前にもなんと便利かと感心したものだが、高次元戦闘まで完備とは!!
『だが待てガッさん、さっき確かに言ったな、「絶対に使うなと言われた」と』
「当然だな……一時的な高次元物質変換……つまり極短時間だろうが機体を高次元昇華させると言う事だ。いくら魔界穴の誇る魔法的科学技術……魔術が優れていても結局は低次元世界の法則。そんな大業、リスクが伴わない訳が無い」
「ガミ。故に研究者達は『未完成の機能』と称しているガミ。DAIカッパー4を使えば……まず間違いなく、DAIカッパーは一〇秒以内に自壊消滅を起こす……と書いてあるガミ」
『……それはつまり……』
「ガミ。一〇秒以内に勝負を決めてしまえば、実質ノーリスクと言う事ガミ」
「楽観視は好ましくないな。相手が低次元生命体なら、一〇秒あれば十二分だったろうが、亜熊は高次元生命体だぞ。DAIカッパー4とやらがどれだけのものかは知らないが、一〇秒以内に倒せる保証は無い」
『だが、倒せないと言う確証も無いだろう』
暗闇の中に差し込んだ一筋の光明。
ならばそれを辿って光の差し込む隙間を探し出し、無理矢理にでも押し広げて黎明を呼ぶのが皿助流である。
「随分と迷いや躊躇いが無いな……わかっているのか? 生命を賭けるのは、君だぞ?」
『賭けとは勝つ事を前提に臨むものだ』
負けるためにルーレットを回す者はいない。
皿助は勝つためにルーレットを回すのだ。
むしろ、回せるルーレットが見つかっただけでも現状は有り難いとさえ思う。
そしてルーレットを回すからには、絶対に目的のマスに止めるッ!! 即ち勝つッ!!
「……筋金入りのポジティブだな。これだから美川の化物は……君は自身が庇護されるべき未成年だと言う事を失念している。まぁ、冷静さを欠いていたとは言え殺そうとした私が言えた手前では無いが」
呆れ果てた様につぶやいて、何を思ったか、ハイド博士は――笑った。
『……?』
不可解な笑顔だ。
直感に優れた皿助でも、何を想っているのか、上手く読み切れない。
何かを決意した様子だが……同時に、何かをとても恐れている風にも見える。アンビバレンツなサムシングだけは感じる。
「ひとつだけ、先に伝えておく。もし無理だと思ったら一〇秒のリミットを待たずに即座に中止、他の連中を全員連れて、君達は退避しろ」
『無理だと思ったらな』
諦めるつもりは毛頭ない。
『そうと決まれば、いくぞ!! チェェェンジ、DAIカッパー4、スイッチォ……』
「待つガミ皿助!! DAIカッパー4は今までとは勝手が違うガミ!」
『何!? それは一体どう言う違いなんだ!?』
「DAIカッパー4は【他機連携式】、即ち、他の人型機の補助が必要になる変態ガミ!!」
『他の人型機……』
この場に在る機体の中で、人型のシルエットを持つのは……晴華が変身中のダイカッパーただ一機!!
『おりょ……私の出番な予感がします!! ついに汚名躍如の時なんですね、そうですね!?』
『…………………………』
『えぇ!? べーちゃん!? DAIカッパーのアイカメラがなんだか不安気な光り方をしている様に見えるのは気のせいですか!? 信じて友よ、あいびりーぶ、です!!』
晴華が良い子で頑張り屋さんなのは知っている。
それと同様に、どうしようもなくこう……アレな子である事も、皿助は当然ご存知である。
『……ッ……だが、今は迷っている場合ではない! いくぞ晴華ちゃん! 大丈夫、俺の気合で全てを補ってみせる!!』
『はい!! 全力で応えてみせま……えぇ!? べーちゃん!? 今何気に全く期待してない宣言しませんでした!?』
『うぉおお!! チェェェンジッ! DAIッカッパァァァ……4ッ!! スイッチ・オン!!』
高らかなシャウトが河川敷に轟響する。
直後、DAIカッパー1の全身を神々しい赤銅色の光輝が包み込んだ。
通例通り、その一瞬の閃光の間にDAIカッパーは変態を完了する!!
その形状は……
「あれは……【巨大な腕】か!?」
ハイド博士が驚愕にあげた言葉の通り。
DAIカッパーが変態した姿は、巨大な機械の右腕……いや、右手首から上ッ!!
赤銅色の装甲に包まれた全長二〇メートル越えの巨大な右拳である!!
「今ガミ、河童の娘!! 右拳をDAIカッパー4……通称【DAIクラッシャー】に接続するガミ!! 接続口があるはずガミ!!」
『あだぷた……?』
「えぇいこの盆暗乳河童!! 右手を突っ込めそうな穴があるはずガミ!! 探すガミ!!」
『酷い言われ様!! ……えぇと……あッ、ありました!!』
確かに、DAIカッパー4の手首部分には、一般的なサイズの機動兵器の拳をねじ込めそうな穴がある。
『……でもあの、これ、ダイカッパーの大きめの拳は入らないのでは……?』
「魔機鞍との連携を前提としているガミからね。そこはもう仕方ないガミ」
『……つまり……』
「無理矢理にねじ込め、って事クマね」
「人はそれを荒ぶる接続と言うガミ」
『りょ、了解です! いきます……けど、大丈夫ですか!? べーちゃん?』
『恐怖しか無いが、大丈夫だ!!』
今更、躊躇っても仕方無い。皿助は腹をくくり、ケツに力を入れる。
『では……クラッシャァァァ、コネクトォォォオーーッ!!』
『アッ――』
その気合充分に突き出された拳の勢いは、最早必殺のパンチを放つが如く。
皿助の悲鳴は、ダイカッパーの拳がDAIカッパー4の接続口を殴り砕き広げる破壊音にかき消された。
ずっぷりとたっぷり、ダイカッパーの肘の辺りまで、DAIカッパー4のナカに勢い良くねじ込まれる。
『ご、ぁ、はッ、デカ……キツ、ぃいッ……!!』
『べ、べーちゃん!? めちゃんこ苦しそうな声が出てますけど大丈夫ですか!?』
『あ、あぁ……少しずつだが、むしろ心地良くなってきた所ですらあるッ……!』
『それは別の意味で大丈夫なんですか!?』
などと皿助と晴華がコントをやっている内に、変化が。
DAIカッパー4の装甲カラーリングが、一瞬で塗り変わったのだ。
赤銅に輝いていた装甲は、白銀へと変わり、そして、まばゆい太陽が如き金色の右拳にッ!!
おお、さながら輝くZの名の下に全てを原子に打ち砕いてしまいそうなビッグバン迸る拳だッ!!
『わはッ!? べーちゃんがキンキラキンに!?』
『! そう言う晴華ちゃん、ダイカッパーも!!』
『はへ? ほぁぁぁ!? 本当です!!』
まるでDAIカッパー4に侵食される様に、ダイカッパーの装甲色も翡翠から白銀、そして黄金の輝きへと変貌!!
「よし、接続同調成功の証……らしいガミ!!」
「ほへー、目にやかましいクマ」
そう、これがDAIカッパー4の正式な姿!!
別の機体と合体する事で完成される武装形態!!
あらゆる挙動を他の機体へ委託して、性能の全てを攻撃一点に絞り込み、単純洗練された武装となる事で、極短時間ながら高次元領域からのアプローチなどと言うとんでもない事を可能とした最強兵器!!
DAIカッパー4。別称:DAIクラッシャー。通称:【ルシファル】。
この形態で使用可能な【魔術装備】の名は、機体の通称と同じ【輝帯ノ覇腕】。
明けの明星――即ち金星の輝きと同一視される程の光を帯びた【魔王】の一柱、その名を冠する存在。
機体色が黄金へと変化したのは、高次元物質へと昇華した証。
即ち、今、ダイカッパーとDAIクラッシャーは高次元的攻撃をいつでも放てる状態!!
それは同時に、DAIカッパー4の活動限界である一〇秒間のカウントダウンが始まっていると言う事でもある!!
『ょ、よし、まだ臀部に若干の違和感はあるが……いくぞ、晴華ちゃん!!』
『で、臀部……!? 私は今、一体べーちゃんの何処に手を突っ込んでいるんですか!? もしやあれですか!? 人間界の伝承に置ける河童ライクなマジカルホールなんですか!? 実際の河童にはあんなクレイジーヒップフェチな文化はありませんよ!?』
『後生だ、察しているのなら言わせないでくれ!!』
『うぅ……意識すると何だか生温かい感触がある様な気が……』
『晴華ちゃァん!! 感じるな考えるんだ!! 理性を以て気のせいだと言う事にするんだァァァ!!』
ちなみに「河童が人の尻に手を突っ込んで尻子玉を抜く」と考えられていたのは、水死体(=河童に殺されたと思われる死体)の筋肉が緩んで肛門がゆるゆるがばがばいやんな事になっている様から創作された人間の勝手な偏見、いわゆる風評被害である。
閑話休題。
『とにかく、時間が無い!! DAIカッパー4の起動時間もそうだし、俺の中でなんだか【この歳で開けたらダメな気がする扉】が開きつつあるサムシングを感じる!! 急ごう、いや急いで!! 頼む、晴華ちゃん!!』
『は、はぃ!! ガッテンです!! とぅッ!!』
DAIクラッシャーを装備し、ゴールデン化したダイカッパー(以降、便宜上Gダイカッパーと呼ぶ)が、その黄金の足で跳んだ。
『ほわ……!? す、すごい、ダイカッパー自体のパワーも上がってますよこれ!!』
晴華としては、軽く跳び上がってから空中移動様の背覇皿に乗って飛ぶつもりだった。
しかしGダイカッパーはなんと、たった一蹴りで、山の如くそびえる亜熊の頭を遥かに越える高度へと跳躍していた!!
『高次元物質化とやらの影響だろう……さぁ、全力で!!』
『はいッ!! ぶちかまします!!』
『きゅまぁ?』
何か眩しいな~……と煙たそうなリアクションを見せる亜熊。
反応はただそれだけだ。頭上を取ったGダイカッパーに対して、全く警戒していない。
今なら、その無防備な脳天に、叩き込めるッ!!
『やぁぁぁぁああああああ!!』
晴華が吠え、Gダイカッパーの右手、黄金に輝くDAIクラッシャーを振りかぶらせる!!
それに合わせて、皿助はDAIクラッシャーの指を展開……その手形は見慣れたもの、ずばり張り手!!
『『凄絶な黄金の一撃ァァァ……【光次元絶壊裂断掌】ッ!!』』
皿助と晴華、奇しくも同発音の名を持つ機体を駆る二人が、全力で技名を叫びあげるッ!!
技名を叫ぶのは大事な事だ!
叫ぶのと叫ばないのとでは勢いが全く異なってくる!
勢いが増せば必然、威力が増すと言うもの!!
ちなみに技名の発想が打ち合わせ無しで合致したのは二人の堅く深く熱い友情が引き起こしたただのシンパシーである!!
深く考えてはいけない!!
『『ドォォォスコォオオオオオオオオイッ!!』』
『きゅま? ぎゅべあッ!?』
黄金の巨大な張り手が、亜熊の頭頂部にメリッとめり込んだ!!
そう、めり込む……物理的圧迫による干渉の痕跡……即ち、その実体に、干渉できた証!!
DAIクラッシャーは、効いているッ!!
『やぁぁあああああああああああーーッ!!』
『うぉぉおおおおおおおおおおおーーッ!!』
『ぎゅ、ま、が、ぽら、べ、あぁッ……!?』
皿助と晴華の咆哮に後押しされる様に、黄金巨大張り手がずくずくと亜熊の頭頂部へとめり込み、押されて亜熊の首がさながら亀の如く胴体の中へと押し込まれていく。
不意に、異変が発生!!
なんと、DAIクラッシャーと亜熊の接触箇所が、だんだんと光の粒子に分解され、霧散し始めたのである!!
『これは……DAIクラッシャーが、亜熊を光の粒子へと分解……いや、打ち砕いているのか!!』
そう、それこそがDAIクラッシャーの、魔術装備・【輝帯ノ覇腕】の真価ッ!!
DAIクラッシャーは、その名の通り【打ち砕く者】。
物理的には当然、概念的にも打ち砕きにいく徹底ぶり!!
DAIクラッシャーによって破壊される存在は、問答無用で光の粒子へと――粉よりも細かく粉々に打ち砕かれるッ!!
伊達や酔狂で【最終兵器的一撃必殺】をコンセプトに掲げてはいないッ!!
本来の相手は低次元生命体や物質を想定していたものだが、高次元生命体にも通用する事が、今まさにここで証明された!!
『べーちゃん!!』
『ああ……これは、勝てるッ!!』
『ぎ、ぁ、まッ』
ここで悪足掻きか!! 亜熊が、動いた!!
その体躯に見合った極太の両腕を振り上げ、さながら頭上を飛ぶ羽虫を叩き潰さんとでもするかの如く、Gダイカッパーを狙う!!
亜熊の高次元的叩き潰し……当然、喰らえば洒落にならないのは必定!!
しかし、DAIクラッシャーの活動限界時間がもうあと三秒も残されていない今、回避する時間が惜しい!!
ならばどうするか、簡単な話だ。
焦らず、急ぐッ!!
『『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!』』
二人で叫ぶ、二人で押し込む。
ダイカッパーとDAIカッパー……妖界と魔界、異なる世界で鋳造された二機が無理矢理合体した黄金のカッパーが、その全力全霊渾身の極致を、一撃に注ぐ。
『『光の粒子にィ……なれェェェェェェェェェェェェェッ!!!!』』
『ぎゅ、まま、ま、ま、ままッ、まッまッま、クゥアァァアアマッマッマッマッマッマッマァァァーーーーーーーッッッ』
――その時、皿助は、一瞬の悪寒を覚えた。
『……!?』
一体、何だ、何がどうした。
何かが起きようとしているのはわかる、何かとても不味い事が進行していると言う事実だけは直感している。
だが、わからない。その正体が、皆目見当が付かない。
皿助が悪寒の正体を突き止める間も無く。
巨大な亜熊は肉片ひとつ残す事なく、光の粒子へと打ち砕かれた。
◆
「九秒九九九九九……全く、ひやひやさせてくれる」
未だに亜熊だった光の粒子が霧散滞空している河川敷にて。
ストップウォッチを片手に、ハイド博士は深く溜息。
「本当に、ギリギリの勝負だったんですね……」
「お疲れクマ」
「うむ!! 大義であったガミ! よくやったガミ!!」
「……………………」
「ベーキチ? 何をぼーっとしてるクマ? 別にクー達、DAIカッパーの事は怒ってないクマよ?」
皿助が無言で握り締めているのは、DAIカッパーの起動トリガーとなる赤銅メダル……だった金属粉末。
DAIクラッシャーを限界ギリギリまで使用した代償か。DAIカッパーを解除した瞬間に、メダルが砕け散ってしまったのである。
「……だけじゃあ、ないんだ」
「クマ?」
「メダルを壊してしまった申し訳無さ……だけじゃあ、無いんだ」
「……? どうした。何か、気になる事でもあるのか?」
「ああ」
皿助はざわつく胸を押さえて、ハイドの言葉を静かに肯定。
皿助が気にしているのは、亜熊が光の粒子に霧散する直前に覚えた唐突で、極めて大きな悪寒。
何かが、確実に不味いと言う直感がある。しかし、その根源が微塵もわからない。その不可解さも不安を煽る。
「何だ……俺は、何を見落とした……!?」
皿助はゆっくりと記憶を整理する。
あの悪寒を感じた時、自分が見たもの。
光の粒子へと打ち砕かれていく亜熊の様。
そして、聞いたもの。
亜熊の断末魔――……断末魔?
「待て……あの、叫ぶ様な声……」
普通に考えて、あれは断末魔。
だがしかし、あの叫び方は、本当にそれに相応しい雰囲気だったか?
だって、あの叫び方は、まるで……
そう、さっき、さっきだ。亜熊が星を眺めている時にあげていた【あの声】に、酷似していなかったか?
「――まさか――」
「ん? ……ッ……!? どう言う事だ……!?」
皿助が気付いたのと同時、ハイド博士も、ある異変が起きている事に気付いた。
それは「異変が無くならない」と言う、異変。
「観測数値が、下がっていない……どころか、各数値の上昇速度が亜熊がいた時よりも、増している、だと……!?」
「……違う……」
「何?」
「亜熊は、いなくなってなど、いない……!」
河川敷を漂っていた光の粒子達が、風に流されるでもなく、ある一箇所を目指して、流れていく。
伏熊川の水面へ、先程まで亜熊がいたポイントへ、流れ、流れ、流れ、そして収束されていく。
「奴は最期……断末魔をあげたんじゃあ、ない……!!」
収束した光の粒子は、ある形を象っていく。
それは全体的に丸っこい、まるで子熊の様なシルエット。
しかし、その縮尺は狂い、山の如き膨大な巨影。
「奴は……笑っていたんだ……!!」
――何処の誰かは知らないが、僕に喧嘩を売るなんて、良い度胸だ。
きっと、そんなニュアンスで、嘲笑したんだ。
『きゅーまっまっまっまっまっまっまっまっま……くぅぅぅまっまっまっまっま!!』
世界中に届くのではないか。
そんな豪快な笑い声が、響き渡る。
笑っている。光の粒子の集合体が、徐々に元の形質を取り戻しつつある亜熊が、笑っている。
「……ひ、光の粒子にまで砕かれた状態から再生……は、ははは……悪い冗談にも程がある。どこまで、デタラメを具現するんだ……高次元の存在と言う奴は……!?」
「……ッ、不味い……!!」
遥かな高みから見下ろすつぶらな瞳。
その瞳は、確かに皿助達を見据えている。
先程までの「どうでもいい羽虫の如き存在」としてではなく、「身の程知らずにも喧嘩を売ってきた、看過できぬ害虫の如き存在」として――




