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ダイカッパーは流れない  作者: 須方三城
第三部 リバーハイド・フルブレイカーズ
56/65

53,ツインタッグ・ダブルデュエット《後編》


 鵺は、力の強い種族だ。

 その豪力はあの河童に並ぶ、者によっては越えるとさえ言われる。


 豪力と言う一点だけを見れば、妖界最強クラスの種族と言えるだろう。


 しかして、鵺には、その他の豪力自慢な種族達とは比べ物にならない程に劣っている点がある。


 それは、【力加減】だ。


 ダビデとスーパー☆テイルは常々、父と父の尾に言われ続けてきた。


「良いか蛇尾淀だびで超尾ちょうび、我々鵺は、凄まじく不器用な種族だ」


 蚊を叩けば衝撃波が発生し、子供が木にかけてしまった風船を取ろうとジャンプすれば地を蹴った余波で子供も木も吹き飛び、小便中に少し力んだだけで便器が砕け散る。


「故に、やらかしてしまった時に言い訳を考える頭が二つあり、その言い訳を並べ立てるための口も二つある。そして、失敗した時に悔しさを覚える心も、二つある」


 父達は、それを言う時、必ずダビデとスーパー☆テイルの頭を【優しく】撫でてくれる。


「いくら失敗しても良い。醜く言い訳を垂れながら頭を下げても良い。だが、決して開き直るな。言い訳はしても言い逃れ様とはするな。絶対に、己の失敗を忘れるな。『鵺だから、不器用だから失敗してしまった』、その悔しさを忘れるな」


 この先の生涯、鵺と言う種族の特性上の失敗は付き纏うだろう。

 その時、その失敗に関して「自分、鵺ですから」と言い訳する事は、何も間違ってはいない。失敗の理由を明確化する事は決して間違ってはいない。

 だが、失敗の理由を盾にして失敗から目を背ける事は、間違いである。


 鵺であるから失敗したのなら、次は鵺であっても失敗しない様に努力せよ。


 そのために、考える頭と、議論するための口と、誰かを思いやるための心が、他の二倍、鵺には与えられている。


「失敗を恐れるな。この世で最も愚かしい事は、失敗を恐れて機を逸する事と知れ。失敗は後で必ず補填しろ。常にその覚悟を以て事に臨め。後で必ずどうにかするからと、迷わず、突き進むのだ。我ら鵺の迷い無き突進、邪魔できるモノなどこの世には存在しない」



   ◆



 鵺の一族が誇る特機【薙囲訪這暗飩ナイトバード】は、獰猛な【雷獣】として恐れられる鵺の一面を引き出す。

 思考を捨てて獣物に成り果てる事で、その全力全霊を全て破壊に傾けさせる。そう言う設計になっている。


 不器用なために社会生活に困る鵺が、唯一並以上に活躍できる場所、戦場。

 その戦場を蹂躙、支配する。その一点だけを突き詰めた。


 だが、実は、それだけではない。


 ナイトバードには、破壊性以外にも他の妖怪には決して真似できない機能が備わっている。


『GIIIIAAAAAAA!!』

『敵機表面に電磁シールドに類するエネルギー層を確認……小癪なッ』


 ナイトバードの理性無き咆哮の連呼からして、見てくれ通りの獣物に成り果てている様だとアムは推測。

 獣物の如き暴力一途で敵を倒すために優れたシールド機能を持っているのだろうと仮説を立てた。


『……ならば獣物らしく猪突猛進に突っ込んでくれば良い!!』


 アムは冷静にナイトバードを分析し、即座に対応措置を講じる。

 ブチコロシィを変態させ、全ての銃口を集約、巨大な黒砲を形成させた。


『こちらも、火力を以てそのシールドもろとも惨殺するまで!!』

『……GAAA!!』


 雄叫びを上げ、機械虎ナイトバードが空を蹴った。

 暴力の獣物らしく真っ直ぐ、ブチコロシィへと突進――はしない。


『!?』


 アムの正面臨戦態勢を嘲笑う様に、ナイトバードは空を縦横無尽に駆け回る。

 ナイトバードに飛行機構フライトユニットは装備されていない。ただ、足元一歩先に黒雷の小電磁シールドを展開し、それを踏み付けて天を駆けているのである。


 バチバチと雷電を滾らせながら、超速で空をかけずり回る……まさしく雷の獣と呼ばれるに相応しい。


『ッ……!? まさか、高速で動き回る事で、こちらの照準を攪乱している……!?』


 そんな馬鹿な。アムの推測は外れていて、ナイトバードはダビデによって知性的に制御されているとでも言うのか。


 ――否。

 アムの推測は、正しい。

 ナイトバードは獣物らしい暴力を以て戦場を蹂躙する事に特化し、主に(・・)敵と正面から殴り合う事を想定して電磁シールド機構を搭載している。

 実際、今、ナイトバードを操縦しているダビデには理性が無い。ただの獣物に成り果てている。


 そう、ダビデには、理性が無い。


『よぉし良い子だゼ! このまま攪乱しまくって、敵の背後を取ってがぶりと洒落込もうヤ!!』

『ッ!! ま、まさか……』


 ナイトバードの尻尾。機械の蛇頭が、喋った。


 つまり、そう言う事だ。


 ダビデはナイトバードの出力向上のために獣物に成り果てているが、その尻尾、スーパー☆テイルは違う。

 そして、スーパー☆テイルとダビデの思考は、少なからずお互いに影響し合っている。

 完全な他者からの声は今のダビデには届かないが、スーパー☆テイルの声はちょっぴり届く。


 スーパー☆テイルが冷静な思考で戦況を分析し、適宜、ダビデへと至極単純簡潔な指示を送る。

 そうする事で、ダビデは獣物らしい純粋な暴威を顕現したまま、最低限知性的な対応も可能としている。


 つまり、まるでサーカスの猛獣使いの様に、スーパー☆テイルはダビデを御しているのだッ!!


 これが、鵺の戦い方。

 ダビデとスーパー☆テイル、二生同体。生と死をも共有する最強コンビのタッグアーツである!!


『ッ……ならば!!』


 またしてもブチコロシィが歪み、変態。

 ブチコロシィの丸いボディに、ジェット機の様な翼とブースター、そして大型ネコ科動物の様な脚が四本、顕現する。

 ブチコロシィ高機動形態ライガァー


『こちらも高速機動で追随し、捕獲網ネット砲で動きを止めてから重火力を叩き込む!!』


 アムの言葉に合わせる様に、ブチコロシィの脚と脚の間、股間の辺りからニュッと立派な砲身が生えた。

 現状とは全く関係の無い凄まじい余談だが、ハイエナは牝でもペニス(に見える突起物)が生えているらしい。


 おそらく、この砲身からドピュッ……間違えた、ドバッと捕獲網が飛び出る算段なのだろう。


『さぁ、生意気な獣物には、捕獲網これをブチ込んでからひぃひぃ言わせてさしあげましょう……!!』


 淫猥に聞こえるのは気のせいである。


『……へぇ、面白ぇ事を考えるじゃあねぇカ。なら、利用してやらねぇ手はねぇよナァ!!』

『GUYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』


 スーパー☆テイルがダビデに指示を出し、ナイトバードが進行方向を変える。

 その獣物(アイ)が正面に捉えたのは、同じく獣を象った形態になっているブチコロシィ。


『成程』


 その意図を、アムは瞬時に読み切る。

 おそらく、スーパー☆テイルは、高速で距離を詰めさせて一気に決めるつもりだ。

 ブチコロシィがナイトバードを撃ち抜けるだけの巨砲をしまった今が好機、変態する間も与えずに、面目躍如の暴力で押し切る。そう言う算段に違いない。


 ああ、確かに、もう今から巨砲を再構築しても間に合わないだろう。


 だが、


『愚かな。こちらには、貴方々の出力を想定し、その上でも捕獲ができる様に調整した捕獲網ネット砲があるのですよ?』

『知るかヨんなもん、走レ!!』

『GAAATTEN!!』


 黒雷の足場すらも蹴り散らし、ナイトバードが跳び、駆ける。

 その様はさながら、ブチコロシィを目掛けて虚空をジグザグに穿つ黒い雷光。


(更に成程ッ、稲妻の様な軌道を描く事で、捕獲網ネット砲の照準を逸らそうと)


 甘い。その一言だけで、アムはその行動を断じた。


ナニは大きければ大きい程良い!! 昔の人も言っている事ですよ!!』


 ブチコロシィライガァーの股間砲から放たれたのは、この河川敷一面を覆い尽くせる程に巨大な黒鋼の捕獲網ネット!!

 当然、多少ジグザグ走行をしている程度では、躱す事も、真芯から逃れる事も不可能ッ!!


『甘いんですよ、甘い、想定がッ!! 貴方々妖怪が私達人間の想定を越える事など、想定済み。当然、想定を越えた時の想定をしておくに決まっているではないですか!!』


 妖怪相手、オーバーに構えて損する事は無い。

 だから、「そんなに頑丈である必要ある……? 大きさもそんな必要……?」と疑問に思える領域、更にその先のモノを用意する。

 それが、アムなりの妖怪対処術。


『甘い、ネぇ……テメェにゃ言われたくねぇナ』

『え?』

『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOON!!!!』


 それは一瞬の出来事。

 まるで、子供が無邪気な悪戯心から、指先で蜘蛛の巣を突き破る様に。


 ナイトバードが、捕獲網ネットを食い千切り、突破した。


『良い事を教えてやル。鵺のパワーはナ、妖怪の想定すら越えていくんだゼ』

『ッ』

『人間の想定を越えた想定の用意程度で、俺達が止められるかヨ』


 想定を越えると言う想定さえも、越えていく。

 それが、鵺のパワー。


『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』

『ッ、あ、そんな、こんな事がッ……』


 ――もしも、アムも、ダビデ達の様に二人で戦えていたのなら。

 もしも、理性的な彼女がその冷静な洞察力を率先して差し出していたのならば。

 もしかしたら、想定を越えると言う想定すら越える……と言う想定すらも、できたかも知れない。


 スペック的に考えれば、ブチコロシィは充分にナイトバードを破壊できる火力を秘めていた。

 勝目は、確かにあったはずだった。


 アムの最大の敗因(・・)は、ただただシンプル。


 二対一だったから。

 ただ、それだけだ。


『ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!』


 漆黒の牙が、漆黒の球を穿つ。

 漆黒の雷電が、漆黒の球を砕き尽くす。



 ――勝負ありであるッ!!


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