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ダイカッパーは流れない  作者: 須方三城
第三部 リバーハイド・フルブレイカーズ
51/65

48,ダーティマウス・キラーメン


「夏はまだ先だのに、酷い目に遭ったクマ……」


 世界最高峰のシェアを誇る爽やかなラベルカラーの清涼飲料水を呷り、ぐったりとした調子で熊耳悪魔っ子・クマリエスがつぶやく。


「後半はナレーションも置いてかれて真顔になってそうなレベルの熱戦だったガミね……」


 同じく、真っ黒ミニペガサス・ガミジンもぐったり。


「ああ……俺でもあの次元の熱さはついていけたかどうか……! いや……きっと無理だった……あれがプロテニスプレーヤーとプロ軍人の戦い……!! 俺はアマチュアァ……!!」

「それは何よりクマ。もしアレについていけると確信できる様なら、今後べーキチとの付き合い方を考える必要があったクマ」

「未熟ですまない……!!」

「……貴様は何処を目指しているガミか?」


 あのテンションにはついていけないのが正常の範疇であると、クマリエスとガミジンは思う。


「……さて、未熟への悔み言はこの程度にして……二名共、そろそろ動けそうか?」


 もう日が傾き始め、空に茜色の兆しが見え始めている。

 一応まだ時間はあるが、「余りゆっくりとし過ぎているとエジプト展が本日の営業を終了してしまいかねない」と言う危惧を覚え始める時間帯になってしまった。


「クーは何があろうとガミジンに乗って移動するから、ガミジン次第クマ」

「……うむ、イケるガミ。先を目指すガミ」

「よし……では、行こう!! 次の目的地は……奥武守おうもり町と恵朱えす市に跨って流れる大河川のひとつ、无異琉ないる川の河川敷だ!!」


 そこを真っ直ぐストレートに進めば、恵朱市はもうすぐそこ。

 つまり【奥武守町と恵朱市の堺にある県立美術館で開催されているエジプト展】は、すごくもうすぐそこである。


「………………」

「? どうしたガミ? 皿助」

「……いや、少しだけ、不安要素があってな」


 これから目指す无異琉川は燃乃望塊川もののけがわから分岐した河川の一本なのだが……

 実はその河川敷は、とても広い。


 具体的に言うと、【二〇メートル級の機動兵器が一騎打ちをしても差し支えない】くらい。


 皿助が今まで数多くの死闘を繰り広げ、今朝、臼朽うすくち翔由しょうゆ暴突殺通ボックサッツを撃退した【燃乃望塊川の河川敷】。


 今朝、皿助が義田ぎた曳緒ひくお逐殺躯叉栓添チッソクサセンゾーを撃退した【奥武守公園の噴水広場】


 昼頃、皿助が伊那爪いなづま鳴子なるこ波散刃千至殺掻黎バチバチシヤガレーを撃退した【旧奥武守神社跡地】。


 昼過、雪吏乃ユリノ雪結苺きむすめ織留おとめ殺超露冷呑コゴエロッテを、芽志亜ガシアが変わり果てた臼朽&やべぇ暴突殺通ボックサッツを撃退してくれた【奥武守町市民体育館敷地内にあるクレイグラウンドスペース】。


 先程、冠黒武かんくろう百永坂もえさか苑丞えんじょう焚灰殺炫炉燠ヤケコゲロウを撃退してくれた【不思議隕石広場】。


 ……以上、【皿助一行がザ・キルブリンガーズのメンバーに襲撃を受けた場所】は全て、概ね【二〇メートル級の機動兵器が一騎打ちをしても差し支えない】くらいの規模だった。


「……いや、まぁ、二度ある事は三~六度はあると言っても、流石に七度目はあるまい。一日に七度も同じ様な条件の場所で襲撃を受ける? 流石にそこまで行くと【偶然】を超越している。【奇跡】だそれは最早」


 奇跡など、そうそう起きるモノではない。



   ◆



 无異琉川の河川敷。

 二〇メートル級の機動兵器が一騎打ちをしても差し支えない程に広い草原のど真ん中。

 まるで皿助一行を待ち受ける様に、ひとりの男性が佇んでいた。


 優形の体格に、目を隠すフィルターと化す程に長く伸びた黒髪から受ける印象は、ズバリ【インドア派】。

 着用者は医者か科学者の二択に絞られそうな裾の長い白衣を風になびかせ、その内には黒いカッターシャツに紫色のネクタイ、下は藍色のスラックスと無難なチョイス。


「やぁ、君達が例のゴミ悪魔とカス悪馬とゲロクソ高校生? まぁ見てくれが聞いてる通りだから、だろうね。ちなみに僕はザ・キルブリンガーズ七殺衆セブンスキルだ。はじめましてさん」


 ハリの無い、気だるさマックスな男性の声が、非常にあっさりと、【奇跡】が起きた…起きてしまった事を告げる。


「俺達はもしかして、すごく呪われているのか……!?」

「かも知れないクマね」

「最早『だよね』感が強くて驚く気にもなれんガミ」


 何故、こうもザ・キルブリンガーズは皿助達の行動を先読みして刺客を派遣できるのか。


 グラウンドでの筋肉臼朽とのやり取りからして、刺客の派遣は有裏存うりあアムがチーフらしく取り仕切っている様子だったが……彼女の有能さは最早ホラーレベルだ。

 そのエゲつない対象行動予測能力を全てストーカー方面へ活かせば、犯罪史に深く刻まれそうな強烈な変態エピソードを生み出せそうである。


「では、一応きっちり名乗っておこうか……あ、君達如きに何度も同じ手間を裂くなんて面倒は死んでも御免だから一回しか名乗らないよ。その耳垢みみうんこだらけのドブ汚ねぇ耳で頑張って聞いてくれ。僕は七殺衆セブンスキル兼、恵朱大学薬学系研究科の助教・酉歌舞とりかぶ東眞とうま。与えられている異名は【毒殺】だよ」

「恵朱大学の助教……! ハイド博士への近さで言えば、今まで戦ってきたメンバーの中でダントツトップの最も一番モスト……! チーフである有裏存アムと同格か……!!」

「油断しない方が良さそうガミね……!」

「うん? ああ。まぁ、君達みたいな下等生…失礼。見るからに品質の低い生命体に舐められるのは耐え難いストレスだから、緊張感を持ってくれると精神衛生上、助かるよ。卑しい生を貪っている分、せいぜい上には気を使って生きてくれ」

「……にしても、さっきからいちいち癪に触る言い回しをする奴ガミね……性格悪そうガミ」

「いやいや、確かに僕は言動の毒々しさからよく『口が汚い』『会話の砲撃戦』『舌根ぜっこんトリカブト』だのと批難されるが……著しい誤解だよ。この件は、大概と言うかほぼほぼ全て一〇〇%、僕に暴言を吐かせる側に非がある。僕は素直な気持ち(ハート)を率直な言葉フレーズに乗せて述べているだけ、例えるなら……そう、快晴の空を見上げて『良い天気だね』とつぶやく感覚で下等生物をゲロムシと呼んでいるんだ。だのに批難を受ける。頭おかしいこの世の中。良い迷惑だよ全く。名誉棄損ですらある。何が言いたいかわかるかい? 妙な難癖を付けるな肺呼吸のゲロ溜まりが」


 ……おそらく、この男は筋金入りだ。

 見るからに弄れ気味のインテリ系だし、学歴至上主義をこじらせた変な奴みたいな精神状態である可能性が高い。

 素で自分以外の生命体を全て見下している感じの態度だ。


「ところで……改めて確認なんだがね。世界への貢献度で言えば【人間様の残飯で肥えた卑しい畜生】にも劣る君達みたいな非生産性の権化が、この僕ですら息を飲んで見上げる燥軋かわぎし教授…その大いなる計画を邪魔している……と言う、頭クレイジーな奴のセンスの無い悪い冗談の様な話は、本当なのかい? だとしたら、君達は数多ある宗教の最高神が雁首揃えてやってきても救えないよ?」

「魔界に神はいないクマ」

「酉歌舞さん……いや、酉歌舞と言ったな。どうやら誰彼構わず見下している訳では無い様だが……」


 少なくとも燥軋教授、つまりハイド博士には敬意を持っている様だが……ここまでの言動から考えて、皿助達の事は確実に遥か下に見ている。

 この手の輩に、話合いが成果を出すとは到底思えない。


「その戦意ある目……おいおい、本当ガチなのか……まるで開拓期のアメリカ西部で流行したと言うイカれたホラ話(トール・テイル)を実際に目の当たりにしている気分だよ……現実味の欠如が著しい。頭が痛すぎて混乱の余り『頭痛が痛い』なんてクレイジーの代名詞とされている重言表現を使いそうになるよ……いや、僕の動揺と驚愕を端的に表すには良いかも知れないね。僕は今、とても頭痛が痛いよ」

「一応助言はしておく。頭痛に見舞われた際には『掌に【頭】と言う字を書いて飲み込むと良い』とウチの祖父が言っていた」

「ふん、当然、知っているさ。……にしても、君みたいなゲロ豚野郎でも、それくらいの一般常識を教えてくれる育て主はいるんだね。ビックリだ。てっきりクソ肥溜めから自然発生した意思のあるゴミウンコ野郎だとばかり思っていた。この誤解については素直に謝罪するよ」


 少しだけ評価を上げておく、とつぶやき、酉歌舞は左指で右掌に【頭】と書いてそれを呷る様なアクションを見せた。

 どうやら左利きの様だ。


「……何て言うか、あいつ、毒舌家と言うよりただの【品性お下劣さん】って印象クマ。ちなみにこの【さん】は敬称じゃあないクマ。ただ呼び捨てにするほど親しみを感じないと言う意思表示クマ」

「ほぉ……極めて耳障りでしかない感想をどうも。ほとほと不愉快だ。損害賠償は君の生命……では不充分だから、君達全員の生命で手を打とう」


 そう言って、酉歌舞は静かに左手を胸ポケットへ。

 取り出したのはやはりと言うか何と言うか、紫色の指輪リング――殺尽機ジ・キルの起動トリガーッ!!


「さて、では効率的に行こうか。冥土の土産だよ……人間様がどれほどクレバーであるかを教育してあげよう。来世では人として立派に生きれる様に努めるための指針となる記憶メモリーをプレゼントする」

「ッ……ヤバいガミよ、皿助……あの男の様子……これまでのザ・キルブリンガーズとは明らかに異質ガミ……!!」

「ああ……!! わかっている……!! 酉歌舞東眞……あの男は……!!」


 皿助もガミジンも、直感した。

 酉歌舞は、今までのザ・キルブリンガーズの刺客達とは、決定的に違う部分がある。


 それは、皿助達の生命を、本当に軽視している事……いや、本人は軽視しているつもりもないだろう。

 彼は本気で、心の深奥から、皿助達の生命の価値をとてもとても見下している。そこらを這う蟻んこや、急かしく飛び回る蝿と同程度の生命価値しかない……下手すればそれ以下だ、と、断定している。それが正しいと、自身の中で完璧な花丸大正解の印を付けている。


 ――酉歌舞には、悪意や邪心など一切微塵も無い。

 彼は誰かの不幸を楽しむ様な柄では無い。むしろ、【人】の幸せを願う心を当然持ち合わせている。

 道徳チェックを行えば、優良な成績を取れる性根の持ち主だ。


 ……ただ圧倒されるほど致命的に……彼が【人を人だと判定する基準】は、厳し過ぎるのである。


 そしてその鋭いお眼鏡に、皿助達は適わなかった。

 皿助達は【彼が尊敬しているハイド博士の願望を阻害するクソゲロ害性生物(要約:お前ら人間じゃねぇ!!)】と判断されたッ!!


 つまり……


「奴は、躊躇いなど無く、本気でッ! まるで【害虫を踏み潰す】様にッ! 俺達を殺しに来る(・・・・・)ッ!!」


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