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ダイカッパーは流れない  作者: 須方三城
第三部 リバーハイド・フルブレイカーズ
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44,マッド・マッスル《後編》


『レディース&ジェントルメッ、…メ、メメメメメメメ』

「……!? な、何だ……!?」


 今まで二回ほど、皿助は妖怪バッジを使用している。

 その二回とも、『レディース&ジェントルメンッ!!』と高らかな注目を促す声(ギャグ・ボイス)を響かせてくれた。


 それが何故だどうしてか。

 まるで裏面が傷だらけのCDを再生したかの様に、妖怪バッジは『メメメメメメメ』と『メ』を繰り返すばかり……


 明らかに異常事態ッ!!


「どうした!? 一体どうしたんだァーッ!? 妖怪バッジが、妖怪バッジがおかしいぞッ!!」

『メメメ…………ピンポンパンポーン。緊急時のヘルプガイドシステムを起動します』

「!」


 今までのDJ調の男性の声とは全く調子が違う、事務的な女性の声がバッジから発せられる。


『至極ファッキンなお報せです。バッジに不具合が起きています。考えられる可能性は、①強烈な衝撃による物理的破損。②水濡れによる回路のショート。③運命。現実は非情である』

「……!!」


 提示された三つの可能性。

 そのひとつに、皿助は覚えがあった。


「……①ッ!!」


 強烈な衝撃による物理的破損……もしや、先程のマッスル臼朽パンチを腕でガードした時の衝撃が伝播してッ……!?


 思い出せば、蛇尾淀ダビデ達はこの妖怪バッジは試作品……プロトタイプだと言っていた。

 普通の製品に比べて、故障のリスクは高い。

 もっと繊細丁重に扱うべき代物だったのだ。


「つまり……友達妖怪は召喚できないのか!?」

『早とちりカッコ悪い。それはできます。ただ、召喚ラップの記録回路がどう頑張っても、すごく懸命で直向ひたむきな努力をしても……復旧不可能な状態です。ラップデータを参照できないため、ラップ演出無しでの召喚になります』

「くッ……致し方ないか……!! 申し訳無い事をした……!! 蛇尾淀さん達に後に謝罪せねば……!!」


 例えば「良い感じの召喚ラップが思いつかなかったから」なんて理由でラップ演出カットの召喚になったらば、非難轟々当然至極の未熟怠慢だろう。

 だが、そんなメタ的理由は一切介在しない【プロトタイプ故の悲劇的な故障】ならば、これはもう致し方ない事この上無い。


『どうしますか? ラップ演出はありませんが、召喚を行いますか?』

「構わない、ラップ演出はカットで!! 召喚を頼む!!」

『了解しました。では、いでよ、【餓者髑髏ガシャドクロ】』


 極めて事務的な音声の直後、響き始めた和太鼓の音色。ラップはカットだがBGMは生きているらしい。


 ドコドンドコドンと景気の良い和太鼓の演奏に煽られる様に、髑髏柄の妖怪バッジから乳白色の何かが飛び出した。


「これは……」


 その乳白色の何かは……【骨】だ。

 漫画的【骨付き肉】の骨の様な、実に絵に描いた様な骨!! 原始人のアニメに出てきそう!!


 バッジから飛び出した直後は小学生の小指の第一関節程度の大きさしかなかった骨だが、射出後まばたきする間も無く一気に巨大化。大きめの力士を丸々ひとりは中に押し込めそうな大きさになる。


「骨が大きく……まさか……!!」


 皿助が直感予想した直後。

 巨大な骨が、内側から拳で破られた。


 骨を砕き散らし、激しく登場したのは……


「呼ばれて飛び出てがァーッしゃっしゃしゃしゃァァーーーッ!!」


 髑髏を模したヘルメットで唇から上を覆い、白い長ラン……即ち一昔前の特攻服姿(ぶっこみフォーマル)で決めた長身のお姉さん。

 特攻服は前が全開で、サラシでぐるぐる巻きされた豊満なお胸とセクスィーなおへそが丸出しである。


 だが、そのお姉さんのロングでナイスなボディに、性的な眼福を覚える事は難しい。

 何故なら、髑髏ヘルメットのくり抜かれた眼窩部分……その奥から覗くギラギラとした獣の様な…いや、ケダモノめいた瞳が、目があった相手の性欲を畏怖で塗りつぶすからだ。


 彼女こそが、かつては天狗族の刺客として相対した事もある、皿助の友達的餓者髑髏(ガシャドクロ)


「アタシをォ~……この穂寧兜ほねぶと芽志亜ガシアを呼び出したのはァァ……どこのどいつだァァいィ……?」

「俺です!!」

「お、あんたは……去年の秋頃にアタシをブッ飛ばしてくれた坊や人間じゃあないのさ……【チュラカワベースケ】ってのが誰の事かピンとキてなかったけど、あんたの事だった訳だ」

「え……俺の事を、大して覚えていないのに、このバッジを託してくれたんですか……?」


 確かに、思い返してみれば皿助は芽志亜に対して名乗ってすらいない気がする。

 冠黒武カンクロウ雪吏乃ユリノと違って、戦闘後に好友を交わした記憶も無い。


 だが、今回バッジをくれた時のダビデの言い方から、皿助はてっきり、あの一戦を経て自分の実力を認めてくれた的なアレだとばかり……


「別にィ。アタシは総隊長に『彼にバッジを渡して置けば、コンスタントに暴れられると思う』って勧められたからノっただけさね」

「雪吏乃さんの勧め方……!」

「ま、アタシだってあんたの事は評価してるしィ、順序が逆になった感はあるけど、友達マブダチって事で良いじゃあないのさ。細かい事は気にしない。ワカチコって奴さね」


 かんらかんらと豪快に笑い、芽志亜が皿助の頭をベシベシと叩く。

 ……友達と言うか、親戚のお姉さん的なノリである。


「んで、さァ……【この状況】で、アタシを呼び出したって事はァァ……?」


 芽志亜がゆっくりと皿助から視線を外し、振り向いた先。

 そこには、まるで格闘ゲームのキャラクターの待機状態みたいに細かなステップを踏みながら、死合開始の合図ゴングを待つ巨大な銀色マッチョな人型機動兵器、ボックサッツ・キンニクマッスルモード。


「どォォ見てもあんたに敵意むき出しのォ、ア・レ……潰して良いって事さねェェ……?」


 芽志亜の瞳のギラつきが、増す。

 泣く子も思わず敬語で話す恐ろしい目だ。


「はい。生命に別状を及ぼさない程度にお願いします。……にしても、相変わらずの狂気的圧迫欲求……だが今は頼もしい限り……!!」


 芽志亜は、握り潰す・または叩き潰す……つまりは【相手を圧迫する】のが大好きなのだ。

 特に、潰す対象が堅いモノや強い奴なら、大興奮万々歳愉悦の極み至りけり状態になる。


 かつては皿助も圧迫祭りを強要され、思わず「死ぬゥ……!!」とつぶやく羽目になった事がある。


「がっしゃァ!! サイズも気迫プレッシャーも申し分無いじゃあぁぁああ無いのさねェェッ!! 潰したいッ!! 是非!! ダメと言われても振り切って潰したいィ!!」


 どうやら、スイッチが入った様だ。

 激しく身体を揺さぶり唾液を散らしながら、芽志亜がポケットに手を突っ込む。


 芽志亜がポケットから取り出したのは、乳白色の……まるで骨で造られた様な外観の拳鍔ナックルダスター……いわゆるメリケンサック。


「ッ、不味い!! クーたん! ガッさん! 距離を取るぞ!!」

「クマ? 普通に充分離れてると思うクマけど」

「そうガミ」

「この人の機装纏鎧きそうてんがいの規模は規格外なんだ!!」


 芽志亜の持つ機装纏鎧【弩吼髏握凶ドクロアーク】は、全高アバウト六〇メートル超で、その腕はアンバランスに巨大。

 掌だけで自身の三分の一ほど(つまり二〇メートル級)の大きさの機動兵器を握り込めるほどだ。

 総合的な体積はとんでもなくデカい。


 優に全高五〇メートルはあるボックサッツ・キンニクマッスルモードと、彼女のドクロアークが激突すれば、その戦闘規模は先程の比ではない。


 皿助達の後退が済むのを待つ事もなく、芽志亜は骨ナックルダスターを拳に嵌め込み、叫ぶ。


「機装纏鎧ィィァ!! 【弩吼髏握凶ドクロアァァァク】……【羅昂至上ラージャ】ァァーーーッ!!」

「何ッ……!?」


 ラージャ、とは一体。


 聞き覚えの無い単語に皿助は思わず立ち止まり、芽志亜の方へ視線を向ける。


 既に芽志亜が立っていた場所には乳白色の巨大なドームが。

 デカい。かつて皿助と戦い、機装纏鎧を起動した時に形成されていたドームよりも、遥かに。

 サイズに目算あてを付けるのもバカバカしくなる大きさだ。かなりの距離を取ったはずだのに、ドームの天辺を視界に収めるには首を少し上げなければならないほど。


『がァァァァっしゃっしゃっしゃっしゃしゃぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああ!!』


 まるで雛鳥が卵を破る様に、超巨大ドームをぶち破り、産声代わりの狂笑の声を上げたのは……雛鳥とは似ても似つかない、禍々しい化物。

 端的に言えば、【人骨】である。四つん這いの人骨模型。


 ただ、その形状には異形が何点か。


 まず、眼窩がんか

 眼球が収まるくぼみが五つある。


 次に、腕部。

 他の部位に比べて余りにも太ましい。下手したら脚部より長い。


 そして、掌。

 片手だけで指が一〇本ある挙句、冗談かと思える程にデカい。

 通常の人間ならば掌は指の長さを含めて顔面をどうにか覆える程度の大きさであるはずだのに、その掌は持ち主の半身に匹敵しかねないサイズだ。


 餓者髑髏ガシャドクロ一族の機装纏鎧……【弩吼髏握凶ドクロアーク】。

 その姿には、皿助も見覚えがある。少し懐かしいレベル。


 だが、皿助が記憶しているドクロアークと今目の前にいるドクロアークには、とんでもない【相違点】があった。


「わぁー……本当にクソデカいクマ」


 ドクロアークは四つん這いであるにも関わらず、目の前にいるボックサッツ……つまり五〇メートル級の機体が二機縦に重なっても届かないだろう位置に顔がある。

 アレが直立したら一体全高何百メートルになるのか……今まで見てきたどの機体とも規格が桁違い過ぎて、軽く引くレベルだ。


「マジヤバいガミね、あのサイズ……」

「……ああ、俺が知っているのより、倍から三倍近い大きさになっているしな……!!」


 ……そう、皿助が過去に見たドクロアークと、今ここに存在しているドクロアークの相違点。

 それは、サイズ。


 阿呆みたいに巨大化している。何だアレは、馬鹿げている。

 あれからまだ半年と少ししか経っていないのに、成長期とか言うレベルでは無いぞ。


 ほら見てごらん。

 あまりにも想定外なサイズに、さっきまであんなに闘気ムンムンでステップ踏んでたボックサッツ・キンニクマッスルモードがドクロアークの顔を呆然と見上げて立ち尽くしている。


「……ドクロアーク……【ラージャ】と言っていたな……」


 確か、サンスクリット語で【強大な力を持つ支配階級の者】を指す言葉だったはずだ。


「雪吏乃さんの鬼羅愛雪歩舞姫キラメキフブキよろしく……カスタマイズされていたのか……!!」


 皿助のご明察通りである。

 芽志亜も雪吏乃と同様、皿助との敗戦の後、天狗族のイカれ妖術学者によって機体のカスタムアップを受けていたのだ。


 更に堅く。更に激しく。

 そして、更に更に更に更に大きく。


 そのサイズは全てを圧倒、荘厳さだけで敵を怯ませる。

 もちろん、その巨体が秘める物理的パワーだって圧倒的。半端では無い事この上無い。


 それが【弩吼髏握凶ドクロアーク羅昂至上ラージャ】である。


『なァにを熱烈に見蕩れてるのさァ白銀チャンン……!! さァァ始めようかァァ!! 大きなお姉さんがァァ……優しくニギニギしてあげりゅぅぅうううううううううッ!!』


 ドクロアーク・ラージャが、巨大な一〇本指の掌を振り上げる。

 その巨大過ぎる掌を振り下ろして、ボックサッツ・キンニクマッスルモードを押し潰すつもりなのだろう。

 充分にペシャンコにできそうなサイズ差だ。


『ぐ、ま、マッソォォォォ!!』


 ヤバ過ぎる、だが退かん。

 そう臼朽は戦意高揚のための咆哮を上げ、ボックサッツ・キンニクマッスルモードを前へと跳ばせた。


 それはヤケクソ的突進ではない。

 脳みそまで筋肉と化している臼朽だが、その脳筋肉は考える筋肉だ。


 ドクロアーク・ラージャの腕はとてもとても大きい。

 その分、有効射程には【下限】が存在する。

 大きく振りかぶったその腕では、胸元に潜り込んだ敵を攻撃できない。


 つまり、ドクロアーク・ラージャの懐は、安全地帯ッ!!


『キンニクゥ……ハム、ストリングスゥッ!!』


 喰らえ、僕の考えた最強の一撃、ダブルハンマー!!


 筋肉言語で地味な技名を叫び、臼朽はボックサッツ・キンニクマッスルモードの両腕は巨大なハンマーに変形させた。

 ボックサッツの特性【両腕を様々な鈍器に変形させられる】。当然、ボックサッツの強化形であるボックサッツ・キンニクマッスルモードだってその特性を利用できる。


 特性によって生み出した両ハンマーを同時に振りかぶり、ボックサッツ・キンニクマッスルモードが、無防備なドクロアーク・ラージャの胸骨を狙う。


『マッソォォォォォ……オ?』


 突如、ボックサッツ・キンニクマッスルモードに影を落とした巨大な何か。


 それは……今頃、遥か上空に振り上げられているはずの、一〇本指の掌。


 ズドォオオオオン……ッ!!


 大質量な何かが大地を穿つ轟音が、市民グラウンドに響き渡る。


「……あの骨の化物、肘から下が次元の裂け目みたいなのに吸い込まれているガミが……」

「ドクロアークの【特性】だ」


 アレには俺も至極苦しめられたな……皿助は苦虫をたっぷり口に含んだ様なげんなりとした表情を見せる。


「ドクロアークは……【その掌を、狙った獲物に向けてワープさせる事ができる】……有効射程は【視界に収まってる範囲全て】だそうだ」


 その名も【安心確実丁寧捕獲アブソレード・ハンズ】。

 伝承として語り継がれる【餓者髑髏ガシャドクロ】が「必死に逃げ惑う農民や牛・馬をあっさり簡単に捕まえて、握り潰してしまう」様に、ドクロアークは狙った獲物を絶対に逃がさない。


 結局、皿助でも回避方法は見い出せず、最終的には力技で押し切るしかなかったインチキ能力だ。

 できれば二度と相手にしたくない。


『がしゃしゃしゃしゃぁぁ……捕まえたァ……掌にスッポリ挿入はいっちゃって可ァァ愛いィのぉおおおおおおおお!!』

『ぎ、ま、まっそ……』


 芽志亜の大興奮ボイスと共に、ドクロアーク・ラージャが次元の裂け目的な謎の穴から引き抜いた巨大掌。

 そこには、一〇指に見事に絡め取られてしまったボックサッツ・キンニクマッスルモードの姿が。


 捕獲時の掌撃の衝撃によるダメージが大きかったのだろう。

 既にボックサッツ・キンニクマッスルモードはグロッキーだ。


『なぁに腰砕けみたいにへばってんのさァ……お楽しみはここからにも程があるさねェェ~~~ッ!!』

『き、きんにきゅっ……!?』

『がぁぁっしゃっしゃしゃしゃしゃしゃぁぁぁ!! ほぉらニギニギ!! ニギニギィ!!』

『ぎ、きゅ、きゅあうあああああああああ……ッ!?」

『ニィギニギ!! ニギニギニギッ!! ニギニギぎゅっぎゅっぎゅぎゅぅぅううううう!! あぁあああすごぉいこの感覚ゥ!! まだ壊れない!! 全然壊れない!! ぜんっぜん!! ぜんぜんぜんぜんんんんん!! まだまだニギニギできりゅぅぅうううううううううううううう!! まだニギニギする度にバキバキ言うのこの子ぉぉおおおお!! しゅごいお得オトクおとくぅぅうううう!! まだ!? まだ砕ける所が残ってるのぉ!? 良い子ぉおおおすっごく良い子ぉぉおおおお!! があああしゃしゃしゃしゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!』


「………………さっきの雪の女と言い、何か……相手が不憫になるくらい一方的ガミね」

「ああ……何と言うか、また申し訳なくなってきた」


 もはやドクロアーク・ラージャの玩具と化しているボックサッツ・キンニクマッスルモードの成れの果てを眺めながら、ガミジンと皿助は遠い目。クマリエスは少し眠くなってきたのか、目をこすっている。


 ……まぁ、何だ。

 雪吏乃も芽志亜も戦いを職とする傭兵。ついこの間まで一般的一般人だったろうザ・キルブリンガーズの面々では到底勝目が無いのは道理と言えば道理。


 もう、勝敗を検めるまでもあるまい。アレはもはや勝負になっていない。

 ……臼朽には地味に対戦運が無かった様だ。


「……とりあえず」


 皿助は手を合わせて黙祷し、臼朽に何らかのトラウマが残らない事を祈るしかなかった。


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