36,レディ・ライジング《前編》
伊那爪鳴子、二六歳。諸事情あって独身。
「ねぇ、鳴子……私じゃあ、無理なのかな……?」
可愛い可愛い、恋愛的な意味でも愛せるって言うか愛してるくらいに可愛い。
そう思っていた幼馴染の同級生、有裏存アムが【変わった】のは……昨年…夏の終わり頃の事だった。
無表情クール可愛い、【氷の眼鏡】とさえ呼ばれていたアムが……その日はボロボロと泣いていた。
「私じゃあ……【あの人】の代わりには足りないのかな……私じゃあ……何もできないのかなぁ……?」
まるで割れてしまった水槽から水が漏れ出す様に、アムの涙は止まらなかった。
「……私なんかじゃあ……【あの人】の代わりには……なれない……わかってる……わかってるわよ……!! ……それでも私は、ヒデお兄ちゃんに……昔みたいに笑って欲しい……!!」
「……ッ……大丈夫、大丈夫だから。アっちゃん一人でできない事があるなら、アタシが何だって手を貸すから……だから……」
それ以外に、何と言えただろう。
何と言って、彼女を抱き寄せる事ができただろう。
「だから、お願い。そんなに…泣かないで……泣かないでよ……」
今にも砕け散ってしまいそうな愛しい人の心を、どうすれば救えただろう。
◆
旧奥武守神社跡地、巨大な機動兵器がドンパチやっても平気な程に馬鹿っ広い元境内。
最早ただの砂利広場と化しているその場所にて。
皿助は既にDAIカッパーのメダルを首から下げた状態で、鳴子と対峙していた。
皿助は真剣そのものな表情。対して鳴子は良い笑顔をデフォルト設定している。
「うん!! ここなら、アタシの殺尽機を使って戦っても平気そうだね!! 良い場所知ってるぅ~。流石は地元人!!」
「……【また】だ」
「ほい?」
「貴女は、【戦う】事を匂わせるニュアンスの言葉を吐く時に、どうしても【歪な雰囲気】になる……『本当はそんな事をしたくない、でもしなくちゃあいけない』そんな気配ばかり感じる……!!」
「!」
皿助の言葉に、一瞬…ほんの一瞬だけ、鳴子の笑みが消えた。しかし、すぐに取り繕う。素早い。元気に振舞うプロだ。
「………………んに~? 何が言いたいのかなぁ~?」
「……貴女の事情は推し量れない。詮索するのもしのびない。だから今はこれ以上は何も言わない、言うべきではないと思う……だが、本当に疑問だ……本当に、貴女の様な人間がそんな悲しい雰囲気を纏ってまで…ハイド博士とやらの目的は達成されなければならないものなのか……!?」
「…………………………」
優しい人が、優しさを殺してまで悪魔を殺そうとする。
そんな悲しい事をしてまで、人間界から全ての悪魔を追い出さなければならない【納得のいく理由】が本当にあると言うのか。
皿助には、想像も付かない。
そんな皿助の疑問に対し、鳴子の回答は、とても意外な物だった。
「…………別に、燥軋教授の目的なんて、アタシも【知らない】よ。【詳しく聞いてない】し」
「何……、ッ……!」
鳴子は笑っていた。嘘の笑いではない。
だがしかし、その笑顔はとても…とても悲し気だった。
もう笑うしかないじゃん。そんな笑顔。
「教授に何があって、何をどうしたいかなんて、アタシは知らない。興味も無い。だって、アタシに取って教授はただの教授だし、講義も受けた事無いもの」
「…………!? な、ならば、何故……!?」
「アタシは、アっちゃんが大好きだから」
「アっちゃん……?」
「そう。アっちゃん」
鳴子はツナギのポケットから【指輪】を取り出した。黄色い指輪だ。
それを、右手中指に嵌める。
「アっちゃんは、ずっと泣いてる。もう物理的な涙は枯れ果てたけど、心はヒビだらけで、そのヒビからずっと涙がこぼれてる。……燥軋教授の目的が達成されたらアっちゃんが泣き止んでくれるって言うのなら、アタシは迷わない。ただそれだけ」
鳴子はゆっくりと右手を天へと掲げ、中指を立てた。
「君はきっと良い子。優しい子。向こうで君を見守っている悪魔さんと悪馬も、きっと悪い子じゃあない……でも、そんなの関係無い。アっちゃんの邪魔はさせない。だから……」
「ッ……」
来る。
「轟き殺せ」
鳴子の声に応え、黄色い指輪がキラリと光った。
瞬間、晴天の空から、雷が一筋。
迸った稲妻は真っ直ぐ、鳴子へと直撃ッ!!
「ぬぅおッ……」
凄まじい閃光とけたたましい轟音が、旧奥武守神社跡地を埋め尽くす。
「くッ……アっちゃんとやらが誰かはわからないが……やはり、【大切な人のため】か……!!」
だとすれば、やはり、言葉で止めるのは不可能だろう。
想い人のためなら、生来のベビーフェイスだって一夜でダークサイドに豹変できる。できてしまう。人間とはそう言う生き物だ。良くも悪くも、それが人間の強さ。
皿助は覚悟を決め、敵意を灯した瞳で落雷の跡地…鳴子の方を見る。
雷撃の余韻が迸るその場所に立っていた…いや、【浮いていた】のは、金色の巨人。デザインのモチーフは鬼…いや、【雷神】か。
雄牛の様な二本の剛角を頭部から生やし、両肩には稲妻マークが入ったとても大きな太鼓を装備。両手にはその太鼓を叩く用と思われる極太の丸太の様なバチ棒。下半身は丸々、【黒い雷雲】に埋もれていた。
あの雷雲が【搭乗タイプのフライトユニット】…河童の方のダイカッパーで言う背覇皿の様な物なのだろう。
『雷殺特化型殺尽機…【波散刃千至殺掻黎】』
「それが貴女の…いや、お前の殺尽機か!」
こちらも行くぞ、と皿助は自らの首から下げた赤銅メダルを掴む。
「行くぞ…DAIカッパァーッ!!」
皿助は魔機鞍の名を呼び、笑顔でメダルを齧った。
今まで通りに滞りなくメダルが砕け散り、欠片粒子が皿助の額に最早見慣れたレベルの五芒星魔法陣を刻む。
『おぉぉおおおおおおお!! DAIカッパァァァ……ゥワンッ!!』
魔法陣から吹き出した無数の不思議カブト虫のサイクロンに包まれた後、皿助は問題無くカブト虫モチーフの赤銅無骨巨人DAIカッパー1への変身を完了する。
『それが君の使う魔機鞍…ゴツゴツしてて強そうだね!!』
『お褒めに与り光栄至極だ……が、それで良い気分になって手を抜いたりはしないぞ!! 貴女に譲れない事情がある様に、俺にも譲れない事情がある!!』
『うん。別に良いよ!! 君の事は軽く聞いてる……きっと、アタシが君の立場なら同じ事をしてる。でもまぁ、アタシ、負けないよ。絶対に』
陽気さを取り戻した鳴子の口調の裏に潜む、歪であれど確固たる強い意思。
『負ける気が無いのはこちらも同様だ!!』
『じゃあ、せいぜい頑張ってね!! 勝たせてあげないけど!!』
『応援感謝する!! 勝たせてもらえずとも結構!! 自力で勝つ!!』
雄々しい一本角を持つ赤銅の巨人と、黒雲に乗った二本角の黄金雷神が睨み合う。
『……行くぞッ!!』
鳴子がとても大事な人のために事を成そうとしている事は重々承知。
鳴子の雰囲気から、きっと、アっちゃんとやらは皿助に取って月匈音に相当する人物だろうと想像も容易い。
それでも、皿助にだって退けない理由がある。
クマリエスもガミジンも、つい数時間前にできた友。付き合いはそう長くない。だが、付き合いの長短以前に友は友。友のために尽力するのは人道だ正義だを謳う以前の当然。
お互いにお互い、譲り難い事情がある事は理解した。ならば後に言葉は不要。
『うぉぉぉぉおお!!』
と言う訳で、皿助は雄叫びを上げ、DAIカッパー1を走らせる。
突進だ。バチバチシヤガレーへ、突進。組み付いて投げてやる、と言う突進。
ここは昔神社があった…しかし今では砂利ばっかのただの更地。
本気の【力士百人力嵐転投撃】を放っても問題無いからそれをやるつもりで突進!!
だがしかし、DAIカッパー1の手は虚空を空振りッ!!
『ぬッ』
『ざーんねん!! アタシは高い所が好きって言ったよねーッ!!』
鳴子の声は上空。
そう、バチバチシヤガレーは下半身を埋めていた黒雲型フライトユニットで高度を取り、上空へと舞い上がる事で、DAIカッパー1の突進を華麗に回避したのだ。
『もっともっともっともぉぉぉーーーっとアゲてくよ!!』
バチバチシヤガレーはそのまま一気に凄まじい速度で上昇。
元々、制空権を握って戦う事を想定されたデザインなのだろう。飛翔速度がとても速い。宇宙を目指すロケットばりだ。
バチバチシヤガレーはあっと言う間に、ゆったりと流れる晴天の白雲達と肩を並べる高度まで登ってしまった。
晴れの日の雲の高さは地上から大体五~一五キロらしい。最早バチバチシヤガレーは地上から見ると青空に浮かんだ黒い点だ。
『さぁ……ここはアタシの高さだ!!』
『空中戦か……望む所ッ!!』
どうせカッパーホールドした後は飛ぶつもりだったのだ。手間が一段階省けると言うもの。
『カッパァァ…ウィィングッ!!』
DAIカッパー1の背面装甲がパカッと開き、内より両サイドへ向かって広がる様に黒いエネルギー体が噴射された。
エネルギー体は虫の羽っぽい支脈がデザインされたエネルギー翼を形成。DAIカッパー1を空戦対応状態へと移行させる。
『無限の彼方へ……さぁ、行くぞッ!!』
バヒュンッ!! と言う音と共にカッパーウィングを弾けさせ、DAIカッパー1が飛ぶ!!
目指すは目算で高度一〇キロ前後、雲と同じ世界に佇む雷神モチーフの大型ロボット、バチバチシヤガレー。
『わぁ、登って来る気だ!! でもまたまた残念!! 「ここはアタシの高さだ」って言ったよ鳴子さんは!! アタシは電線整備士として特別な訓練を受けてるもんね!! 君みたいな素人さんは高い所に登っちゃあ危ないからぁぁ~…』
鳴子がバチバチシヤガレーに両手を広げさせると、ガシュッと言う音が二度、響いた。
それは、バチバチシヤガレーの両肩に装備されていた稲妻マークが入った大太鼓のジョイントホールドがアンロックされた音。
大太鼓は当然肩を離れ、バチバチシヤガレーの前方に落下。黒雲ユニットの上に落ちる。
『危ない高さに来る前に、落っこちちゃえ!!』
バチバチシヤガレーが、その手に握っていたバチ棒を握り直し、そして、力強く振るったッ!!
バチ棒が振り下ろされた先にあったのは…先程分離させた大太鼓ッ!!
そう、バチ棒を振るったのだから、叩くのは太鼓ッ!! そりゃあ当然自然、当たり前ッ!!
ドゴォンッ!! と言う重い鼓の音が青空に響き渡るッ!!
瞬間、異変。
まるで、太鼓の音が伝播するのに合わせる様に……
なんと、バチバチシヤガレーの周囲を流れていた白雲が、一瞬にして真っ黒に染まってしまったのだ!!
『ッな!?』
余りの出来事に、皿助、すごくビックリ。
そりゃあ驚くだろう。いきなり、バチバチシヤガレーを中心に、青空の白雲が半径数百メートル単位で一気に黒雲へと変貌してしまったのだから。
それもあれは……ただの黒雲ではない……!!
『まさか…【雷雲】か……!?』
『じゃあ、バチバチしてね!!』
怒涛。
怒涛の勢いで、バチバチシヤガレーが両手のバチ棒を振るい回し、二面の大太鼓を乱打。
ドゴドンドゴドンドンドコドコドンドコドドドドンッ!! と言う重く荘厳な音色に呼応して、バチバチシヤガレーの周囲を滞空している黒雲の中で青白い光が迸り、ゴロゴロゴロゴロッ!! と大型獣の唸りにも似た音を立て始めた!!
あの雲からあの音がする……皿助が知る限り、非常にヤバいサイン!!
『ま、不味…』
『【雷刃颶・散矛】!! バチバチどぉぉぉんッ!!』
そして、その時が来た。
音を置き去りにする青白い閃光。
かつて、神の怒りを体現するものだと考えられていた大いなる存在。
時に災害として、人類に牙を剥く事もある自然現象。
―――【落雷】。
しかもそれは、ただの落雷では無い。
その青白い光は、両刃の【剣】の様な形状で、そして砲弾の様な真っ直ぐな軌道で、DAIカッパー1へと襲いかかったッ!!
雷撃は、光速。
当然、躱せるはずが無い。
迸る雷刃が、DAIカッパー1の胸をあっさりと刺し貫くッ!!
『―――ッ、ぐ、ぁああああッ!?』
皿助、悲鳴。痛みの余り絶叫…ッ!!
皿助はギリギリでDAIカッパー1のEアームズ【強者証輝】を起動して装甲強度を上げてはいたが……関係無い。関係無かった。
バチバチシヤガレーの放つ雷刃は、当然ただの雷ではないのだ。
その正体は、対魔機鞍を想定した、特殊なプラズマ攻撃。
特殊プラズマで形成された特殊な刃は、物理的に相手の装甲を穿つ事は無い。
ただ、貫いた対象に【雷に撃たれた様な神経的ダメージ】を与えるのである。
だから皿助は今……すごく痛い思いをしているッ!!
それも、洒落になっていない事実が一つ。
雷刃は、一本では無い。
例えるならばそれはさながら、散弾の荒波。
バチバチシヤガレーの周囲に固定された真っ黒な雷雲から、【無数】の雷刃が……落ちた。
全て…DAIカッパー1に向かって。
『……なッ……』
◆
『ッ、は、が……!?』
一瞬、意識が飛んだ。
暗転から舞い戻った皿助はすぐに自分が落下中だと気付いた。
砂利の更地はもう目前ッ!!
『ぐっ……円皿状の…波動疾走ッ!!』
全力でDAIカッパー1の腕をブン回し、皿助は懐かしの防御用波動を発動。
円皿状の波動疾走は腕筋を全力で躍動させる事で強い衝撃波を生み、それを盾とする波動疾走である。
皿助はそれを利用してDAIカッパー1と地面の間に擬似的竜巻を巻き起こし、落下の衝撃を竜巻に吸収させて拡散させた!!
しかし完全には拡散させ切れず、DAIカッパー1の巨体はドゴスッ!! と大地に衝突。
まぁ、今DAIカッパー1の装甲は超強化されているので、この程度のダメージは歯牙にかける程でもない。
問題は……
『づぅ……余韻だけでもすごく痛い……洒落になって……ない……!!』
普通、落雷一発で人間が束で死ぬ。バーターでバッタバッタ死ぬ。
そして皿助はその落雷一発分のダメージ感覚を与えるプラズマ刃を数百…下手したら数千発ブチ込まれたのだ。ギャグ漫画でも入院者が出るレベル……と言うか、主人公とは言えシリアスバトル小説の世界観でよく生きてたな。
皿助は過去に一度ショック死を体験しているので、もしかしたら耐性的な物ができているのかも知れない。
「べ、皿助!? 大丈夫ガミか!?」
「流石のクーでも引くくらい雷の剣を喰らってたクマよ……?」
『あ、あぁ……ギリギリ、大丈夫な感じ…だ……!!』
皿助はクマリエスとガミジンに発言の裏付けを示す様に、渾身の力を振り絞ってDAIカッパー1を立ち上がらせた。
ヨロヨロのフラフラで世界一上手な千鳥足ダンスが踊れそうな勢いだが、まだ戦えなくはない。
そんなDAIカッパー1が立ち上がる様子を見て、遥か上空、バチバチシヤガレーは一回小首を傾げた後、何やらパチパチと拍手し始めた。
高度差があり過ぎて皿助の耳に鳴子の声は届かないのだが、推測するに『おりょ? へぇぇー……まだ意識があるとかすごーーーい!! 君は落雷に耐性があるボーイズなんだね!!』とでも感嘆の言葉を漏らしているのだろう。
『くっ……立ち上がったは良いが……どう、する……!?』
また上空へ向かっても、プラズマ刃の餌食だ。
避雷針になる物も障壁になる物も無い空中では、格好の的以外の何物でもない。
DAIカッパー2のマッパスペシャルならプラズマ刃を避けながら……いや、無理だ。
何故ならDAIカッパー2のEアームズ、【瞬神顕現】は、【DAIカッパー2の脚による移動速度】にしか影響しない。
地上戦に置ける高機動攪乱に特化しているからこそのあの速度なのだ。
カッパーウィングや疾風搭乗の波動疾走で飛んだ所で、あの移動速度は地上でしか発揮できない。
『ッ……まさか……高度を取られた時点で……逆転不可能な優位を築かれてしまって、いたのか……!!』
相手の上空に構え、装甲無視の光速攻撃(しかもダメージ超大で有効射程は軽く高低差一〇キロ超え)を雨あられの如く降らせる……なんて恐ろしい機体だろう、バチバチシヤガレー!!
って言うかもう汚いレベルだ。ほぼハメ技じゃあないか。パン・ドーラーかお前は。
『だが……!!』
チートふざけんなと叫びたくなるレベルのパン・ドーラーにだって、なんだかんだ付け入る隙はあった。
この世に絶対の無敵など有り得はしない。攻略法は、必ずある。
問題は、それを思い付くまで、鳴子が大人しくしているかと言う事だ。
『……ぬ……?』
そう言えば、妙だ。
拍手を終えてから、バチバチシヤガレーはバチ棒を振るう素振りを見せない。
何故だ……?
何か、理由があるのか? あのプラズマ刃を放てない理由が。
可能性が一番高いのは……【エネルギー問題】だろうか。
あれだけの雷撃、まぁそう簡単には撃てないんじゃあないか……なんて思いたい所だが……
皿助が万理鑑定の波動疾走で大雑把解析してみた感じ、バチバチシヤガレーはまだまだエネルギーに満ち満ちている。あのプラズマ刃の雨はそんなにエネルギーを使わないっぽい。チートめ。
エネルギー面の問題でないとすれば…次点で……【有効射程】か?
しかし、だ。さっきはDAIカッパー1が数百メートル飛翔した時点で撃ってきた。
つまり、さっきと今でDAIカッパー1とバチバチシヤガレーの距離は数百メートルしか変わっていない。
その程度の射程オーバーなら、少し高度を下げて撃てば良いだけの話では?
高度一〇キロ近く上空を飛んでいるのだ。数百メートル降下した所で致命的な差異があるとは思えない。
……いや、もしかして……【ある】のか?
数百メートル降下するのが難しい、今の高度にしか無い何かが。
『!』
と、ここで皿助はある事に気付いた。
少しずつ……地上から見れば、本当に少しずつだが、バチバチシヤガレーが高度を下げてきている!! 周囲の黒雲も一緒にだ!!
……しかし、これまた妙だ。
上昇する時はあんなにも速かったのに、何故降下はあんなにも低速なんだ?
『……そうか……【雲】か……!!』
上昇する時には無くて、今あるもの。
それはバチバチシヤガレーの周囲に滞空している【雲】だ。
バチバチシヤガレーは周囲の【雲】を黒く染め、己の周囲に滞空させて【プラズマ刃の発射口】にしている。
おそらく、あの周囲の黒雲……流れ去らない様に自分の周囲に留める程度の操作はできても、それ以上の【細かい操作は難しい】のだろう。
機体の周囲に固定したまま霧散させずに高度を下げるには、慎重な作業を要するのだ、きっと。
だから、急速に高度を変える事ができない。
①周囲に雲がある高度まで上がらなければ特性が使えない(快晴だったり屋内では使えない)。
②雲の操作には結構な制限がある(めっちゃムズい。自由自在には取り回せない)。
この二点が、状況から推測できるバチバチシヤガレーの弱点か!!
『ならば……』
勝機、見えた。
皿助はDAIカッパー1に周囲をキョロキョロさせて、何か大きな物体を探す。
「? どーしたクマ、べーキチ? やっぱり雷にたくさん打たれて頭がクルクルパーになったクマか?」
『明確に否定する!! 俺は今、探しているんだ!! 【投げるのに丁度良い大きな物】……【砲弾】にできそうな物を!!』
「【砲弾】ガミか?」
『ああ、【砲弾】だ!!』
皿助のアイデアはこうだ。
『何か色々と【力士百人力嵐転投撃】でブン投げて、【あの機体の周囲の雲を全て吹き飛ばす】!!』
そう、物をブン投げて雲を散らし、バチバチシヤガレーから武器を奪うのだ!!
あのプラズマ刃さえ飛んでこないならば、カッパーウィングで接近できる!!
「……それ、直接あの機体にブツけた方が早くないクマ?」
『物を投げぶつけて攻撃するなんて、武器で攻撃するのと一緒だ。武器文明を否定する気は無いが、【必要以上に暴力的】な感があって俺個人の主義に反する。俺は理性ある限り、必要以上に暴力的な戦い方をするつもりはない。面倒な奴だと思うかも知れないが、これは譲れない矜持だ』
皿助は武器を誰かに向ける事にめちゃんこ消極的だ。
何故なら、武器とは相手を傷付ける事を重視した物だから。
皿助は可能な限り、相手を【最低限のダメージで制圧し、戦いを終わらせたい(狂静怒発動により理性が死んでる時はその限りでは無いが)】。
鳴子の様なタイプが相手なら、尚更。
「必要以上って強調するって事は、必要だったらやるクマ?」
『まぁ、それはな。そう言う状況に陥らない努力は常日頃から尽くしてはいるが……まだ未熟な俺の人生…どうしようもない時は度々来てしまう』
実際、皿助は過去に一度、ガシャドクロお姉さんの顔面に向けて皿を射出、ブツけて攻撃した事がある。
あれは四肢が塞がっている状態で、至急そうする必要に迫られた【勝つために必要な攻撃】だった。
『だが、今はそう言う状況ではない』
もし仮にDAIカッパーに空を飛ぶ装備が無く、【投擲攻撃でしかバチバチシヤガレーに攻撃できない】状況ならば【必要な手段】だと納得もできるが……DAIカッパー1は飛べるのだ。
あの黒雲さえどうにかしてしまえば、後は接近して投げ技で対処できる。
投擲攻撃で鳴子本体…バチバチシヤガレーを狙う【必要性は無い】。ならやらん。舐めプとでも何とでも言って罵れば良い。誰が何と言おうと、皿助は必要の無い暴力を断固嫌悪する。
……こんな自己制限を課してるもんだから、攻撃手段が張り手やチョップ、投げ技に限定されて戦い辛いのだ。
浅はか。でもその浅はかさこそが皿助なのである。
「まぁ、とりあえず事情はわかったガミ。……でも、わざわざ砲弾を探す必要ないガミよ? DAIカッパーには【魔力を砲弾に加工して飛ばす魔術装備】が装備されてるガミ」
『な、何!? そんなの聞いてない…と言うか、何処にだ!? DAIカッパー1にも2にも、それらしい装備は……はッ……まさか……』
「気付いたガミね。そう……」
DAIカッパー1にも2にも無い装備……つまり……
『DAIカッパー…【3】か!!』




