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ダイカッパーは流れない  作者: 須方三城
第三部 リバーハイド・フルブレイカーズ
34/65

31,DAIカッパー・ビギニング《後編》


DAI(ダイ)…カッパー……だと……?」


 思わぬ名の登場に、皿助は少し目を丸くした。


「? どうしたガミ!?」

「い、いや。少し懐かしみを覚えただけだ!!」


 偶然の一致と言う奴か。


 半年と少し前のあの日……まぁ、あの日は夕方だったが……

 あの時と同様、友となった他種族の女子を守るべく、皿助は今この河川敷で……【ダイカッパー】と言う名のすごい兵器を起動しようとしている。


「早く急ぐガミ!! あの個性死んでる系が駆るギンギラギンが『あれ? 何か空気読んで見守ってたけど、冷静に考えたら律儀に付き合う必要ないよね?』って気付いた感じになってるガミ!! そろそろ襲ってくるガミ!!」

「頑張れクマー」

「わかった、急ぐ!! そして頑張る!!」


 と言う訳で、皿助は急いで銅メダルの首掛用布紐ネックストラップに頭を通して装着。

 そして、ガミジンが言っていた手順に従う。


「行くぞ……俺の声に応えろ、【DAIカッパー】!!」


 魔機鞍マギアの名を呼び、そして、ニッコリ爽やかスマイルで銅メダルを齧るッ!!

 ガリッ、と言うカキ氷アイスを齧った様な良い音の直後、皿助が齧ったメダルが粉々に砕け散ったッ!! 粉☆砕ッ!!

 皿助がすごく強く噛み過ぎて壊れた……訳ではない!!


 赤銅の粉塵は皿助の額にこびり付き、【ある模様】を形成した!!

 それは、【円の中に収まった五芒星】!! なんてわかりやすい【魔法陣】ッ!! めっちゃ魔術っぽい!!


「おお……ぉおおおおおおおおおおッ!!」


 皿助は感じた、額にこびりついた【魔法陣】を起点として、全身に力が滾るのを!!

 言葉では表し難い素敵なエネルギーの濁流が、血管を……いや、全身の細胞を貫いていく!!


「これが……【魔術】…【魔術兵器】、魔機鞍マギアか!!」


 そう、それが魔機鞍マギアだ!!

 額の魔法陣をコネクターとして、今、皿助の全身を駆け巡るエネルギーの濁流、それこそが魔機鞍マギアなのである!!

 皿助は自身の体内に入り根を広げていく魔機鞍マギアの存在を、素敵なエネルギーとして不快感一切無しに感じているのだ!!


 つまり今、魔機鞍マギアは…DAIカッパーはッ、額の魔法陣を通して【皿助と一つ】になろうとしている!!

 DAIカッパーは皿助と融合する事により、皿助の【魔力】を借り、【兵器としての形】を成すつもりなのだ!!


 皿助がそれを確信した瞬間。

 皿助の額の五芒星から、赤銅色の【小さな何か】が無数に吹き出した!!


「!! これは……く…くわがた…いや、…カブトムシだッ!!」


 五芒星から吹き出したのは、皿助ご明察の通り、赤銅色のカブトムシの群れ。


「何故!? 何故カブトムシなんだ!? え? いや、別にカブトムシは嫌いじゃあないって言うかむしろカッコ良くて好きな部類だが……本当に関連性が見えないんだが!?」


 割とガチめな皿助の疑問が解消される間もなく、無数のカブトムシ達は統率された動きで渦を描き、その渦中に皿助を飲み込んだ!!

 そして数秒後。赤銅カブトムシの群れによる渦が、内側から弾け飛ぶ!!


 中から現れたのは、赤銅に輝く分厚い装甲を全身に纏った巨人。

 全高は推定で大雑把二三メートルはあるだろうか。ただし、その内の三メートル程は…【角】だ。

 頭部より、雄々しく太い一本角が天を穿たんとする勢いでいきり立っているのだ!! そして角の先端をよく見ると、逆ハの字を二重に重ねた様な独特な形状になっている。この形は……日本産カブトムシの角のそれに非常に酷似!!

 特筆点はそれだけでない。

 胸部装甲の中心におお振りな紅い宝玉が一つ…そして両腕の前腕部には小ぶりな紅い宝玉が一つずつ、合計で三つの紅い宝玉が埋め込まれている!!


 要約。

 カブトムシの様な雄々しい角を持ち、胸と両前腕に紅い宝玉が埋め込まれた赤銅色の重装甲人型兵器。

 これが、これこそが……DAIカッパーだァーーーッ!!


『おお……これが魔機鞍……なんだか機装纏鎧にとても似た感覚だ』


 機装纏鎧同様、【機体に乗る】のではなく、皿助自体が【機体に同化・変身している】状態である。

 DAIカッパーがアイカメラに映す光景がそのまま皿助の瞳にも映り、DAIカッパーの丸太の様に太い足が踏みしめる大地の感触を皿助の足も感じている。


『ん? なんだか【腹部】と【背面】に【違和感】が……これは……』

『あの悪魔…いや、悪馬の持ってた魔機鞍を起動したのか……!!』

『!』


 皿助がDAIカッパーへと変身したのを受け、白銀のメタリック巨人…ボックサッツが臼朽の意思に応じて身構える。


『……まぁ、でも……都合が良いよ……生身の人間を撲殺するより、いくらかはマシな気分でいられそうだ』

『後味についての心配をしているのか。ならばその心配、杞憂に終わらせてみせる!!』


 と言う訳で、皿助は早速DAIカッパーにファイティングポーズを取らせる。

 ダイカッパー同様、自身が変身しているので挙動はスムーズそのもの。


「皿助! 戦闘再開の前に、少しかい摘んでDAIカッパーについて説明するガミ!! そのDAIカッパーは魔界にて研究開発が進んでいる【多目的戦闘対応型魔機鞍】、その【最新試験機プロットテスター】ガミ!! コンセプトは『戦闘中に速やかな【変態】、もとい【換装】を行う事で様々な戦場に単機で瞬時に対応させたい』と言う欲張りワガママ娘チックなものガミ!!」

『【変態】……成程、だから昆虫がモチーフなのか。……って、ん? つまりこのDAIカッパーは……』

「ガミ、今貴様が成っている基本形態【DAIカッパー(ワン)】を起点に、いくつかの【変態機構】が組み込まれているガミ!!』


 つまり、状況に合わせて姿形を変え、優位を模索できると言う事か!!

 変態の力を知らしめる機体!! 変態最高!!


「DAIカッパー1はその重装甲とパワフルさに任せた近接戦闘に特化しているガミ!! そのシンプルな正面戦闘型っぽいギンギラギンの相手にはピッタリガミ!!」

『わかった!! では今回はこのまま変態無しで戦う感じだな!!』


 残念ながら今回はノー変態。DAIカッパー1の力を示す時!! まぁ初回戦闘ですし。


『ふん……じゃあ行くよ、美川皿助くん。せいぜい、呪ってくれないでよ!!』


 再開の幕を切って落としたのは、臼朽ボックサッツ

 右腕を変化させたバールの様なものを振りかぶり、DAIカッパー1に吶喊!!


『その心配も杞憂に終わらせる!!』


 皿助が交戦意思を示した途端、DAIカッパー1にある変化が起きた。

 その胸部と両前腕に埋め込まれていた合計三つの紅い宝玉の中に淡い【五芒星】が浮かび上がり、ほんのりやんわり光り始めたのである。


『ぬ……これは……』


 宝玉の変化と同時、皿助を包む感覚も変化した。

 さっきよりも、全身に力が滾る。


『これは……成程。そう言う【特性】…いや、【魔術】か!!』


 DAIカッパー1。通称テストコード:【レヴィルアタン】。

 この形態で使用可能な【魔術装備(イビルアームズ)】の名は、機体の通称と同じ【強者証輝レヴィルアタン】。

 その昔、神話の時代。深き海の底を支配していたとさせる巨大な【魔獣】をモチーフとした【魔術】の恩恵を、機体に与える。


 伝承の魔獣は圧倒的な巨体を誇り、どんな攻撃にも揺るがぬ【圧倒的防御力】と、一挙手一投足で地形を変える【圧倒的攻撃力】を持っていたとされている。


 DAIカッパー1の【強者証輝レヴィルアタン】が齎す魔術的恩恵は、まさしくそれと同様。


『サァァーーーッ!!』


 卓球少女がスマッシュを放つ様な高音シャウトと共に、臼朽ボックサッツ変化させた右腕(バールのようなモノ)をDAIカッパー1の頭部へ向け、振り下ろす。

 この一撃で頭をかち割って撲殺完了とする腹積もりだろう。全力っぽい。


 だが、その目論見は失敗に終わる。


 何故か。

 簡単だ。


『ッ…!? な、何ィィ~ッ!? ぼ、僕の全力の一撃が……【まるでキャッチボールのボールを捕球する様な気軽さで受け止められた】だとぉぉぉッ!?』


 そう、今臼朽が自己申告した通り。


 ボックサッツ全力渾身の撲殺的一撃は、DAIカッパー1の左掌によってあっさりと受け止められてしまったのだ!!

 攻撃を掴み止めたDAIカッパー1の掌には、傷一つ付いていない。


 まぁDAIカッパー1くらいゴツければそう言う事もあるんじゃない? と思う方も多いかもだが……これは、どれだけの重装甲機だろうと、本来ならあんまり有り得ない話だ!!


 人型機の【マニュピレーター先端部】…即ち人体に置ける【手首から先】に該当する部分は、繊細な作業がこなせる様に柔軟な可動域を確保すべく、細かな関節部ジョイントを複数設ける必要がある。そのためどうしても【装甲が薄めになり、他に比べて耐久力が落ちる部分】なのだ!!

 DAIカッパー1も見る限りその通例には漏れていない。人間らしい腕の挙動を再現するため、その掌や指にはいくつもの関節部がある。


 装甲が薄めであるはずの掌部で、DAIカッパー1は【自分とほぼ同等スケールの敵機】の【全力攻撃】を、受け止めてみせた!!

 これは当然ビックリして然るべき現象である!!


 だが、今この河川敷に置いて、驚いているのは臼朽だけ!! ぼっち的ビックリを味わっている!!


 だって、クマリエスやガミジンはモチロン、皿助も知っているから!!

 これが、DAIカッパー1に施された【魔術】!!


「ガミ! ワシが睨んだ通り……皿助は魔術のリソースである【生命の力】、【魔力】が強いガミ!! ワシの数倍上の次元で【強者証輝レヴィルアタン】が発動しているガミ!!」

『れ、れびるあたん……!? なんだそれは……!?』

『説明しよう。この機体は、どうやら俺の【気合】…いや…この場合は【魔力】と言った方がいいか? とにかく、俺の持つエネルギーに応じて【機体の耐久力とパワーに強烈な補正をかける】事ができるらしい!!』

『!!』


 DAIカッパー1の宝玉型魔術装備(Eアームズ)強者証輝レヴィルアタン】は、起動者の魔力量に応じて機体の装甲と出力を跳ね上げる。


 ちなみに、この【魔力】とは「人体のへその少し下、【丹田】と呼ばれる器官で精製される素敵なエネルギー」……そう、この説明、一部・二部に置ける【気合】の概念と一緒。

 即ち、【魔力】と【気合】は同じエネルギーを指す言葉なのだ。

 これは、全国的には【苦瓜にがうり】と呼ばれる野菜が、沖縄地方では【緑の悪魔(ゴーヤー)】と呼ばれる現象と同様!!

 人間界・妖界郷と魔界穴に置ける【地域差】で生じた呼称の違いでしかない!!


 つまり、【気合】に優れる皿助は、【魔力】にも優れていると言う事!!


 臼朽はガミジンが起動したDAIカッパー1と対峙した事がある様だが……今、目の前にいる皿助DAIカッパー1はそれとは別次元に在る!!


 だから臼朽的には「この機体はこれで撲殺できる!!」と思って放った一撃も、あっさりと受け止められてしまったのだ!!


『くッ……こ、このォ!!』


 右腕はガッチリDAIカッパー1に掴まれ不動。臼朽は焦りに焼かれながら、左腕を変化させた釘バットを横薙ぎに振るい、DAIカッパー1を狙う。

 しかし、DAIカッパー1はそれを右掌であっさり捕獲。デジャヴッ!!


『げぇっ!?』

『悪さをする両手は封じたぞ!!』

『う、うぉあ、ああぁ!? ま、まさかこのまま僕の両手をそのすごいパワー任せに握り潰すつもりか!?』

『そんな乱暴な事はしない!! 俺は乱暴な事が嫌いだ!!』


 しかし、このままではDAIカッパー1も両腕が塞がったままである。

 どうやって戦うつもりか……気になっているだろう?

 ヒントを出そう。このDAIカッパー1、いや、DAIカッパーのモチーフはカブトムシ……ひいては【変態昆虫】だ。

 変態昆虫と言うか、【昆虫】の特徴…小学校くらいで確実に習っているはずだ。


 昆虫の身体は頭・胸・腹の三部構成。羽は四枚。

 そして……


『開け、腹ッ!!』


 皿助の声に応じて、DAIカッパー1の両脇腹の装甲が一部開いた!!

 そこに収納されていたのは……


『ッ、【隠し腕】…【複腕】だとォッ!?』


 昆虫の身体は頭・胸・腹の三部で構成され、羽は四枚あり、そして【足は六本】。

 それが昆虫が昆虫たる所以。変態昆虫をモチーフとするDAIカッパー1も当然、その特徴に習っている。


 DAIカッパー1は脚部二本、そして腕部が四本と言う配分で足を六本持っているのだ!!


 今、皿助は腹部に格納されていた第二右腕と第二左腕を開放したのである。

 第二腕は宝玉が埋め込まれていない事とやや長めである事以外、太さやデザインは第一腕とほとんど変わらない。


『腕が二本以上ある……不思議な感覚だ……上級波動である【人体変異系の波動】を使うと、こんな感覚なのかもな』


 まぁ、未熟な皿助がその波動を習得するのはあと数カ月は先になるだろうが。

 さて、それはさておき。


『それでは!!』


 皿助はDAIカッパー1の第二腕を使い、ボックサッツの足も掴んで拘束した。


『ッ、び、ビクともしない……!? なんてパワーッ!?』


 DAIカッパー1のパワーは強者証輝レヴィルアタンによって皿助補正が入っている。

 そりゃあ、生っちょろい出力であるはずがない。


 ボックサッツは両手両足の動きを完全に封じられ、見事なまでに拘束されてしまった。


 これはDAIカッパー1が【必殺の一撃】を放つ態勢へ移行するための準備態勢。言うなれば【処刑準備カッパーホールド】である。


『くそッ!! は、放せ!! 僕に一体何をするつもりだ!?』

『簡単だ!! これから俺は可能な限り穏便に、そして最悪の場合でも【必要最低限の暴力】でお前を制圧する!! まずは共に行こう!! 開け、カッパァァァウィィィングッ!!』


 皿助の意思に応え、DAIカッパー1の背面装甲が真ん中から二等分される形でパカッと開いた。

 顕になった背面部から、両サイドに広がる様に黒い光エネルギー体が噴射された。

 噴射された黒光エネルギーは瞬時に【形】を形成。それは【羽】だ。昆虫モチーフだからか、わざわざ翅脈しみゃくの模様まで再現している。芸が細かい。


 これぞ【カッパーウィング】。もちろん、空を飛ぶための機構。飛行速度はパないの一言に尽きる。


 強者証輝レヴィルアタンによる半端無い防御力と攻撃力、そしてこのカッパーウィングによる空中機動力。

 実はDAIカッパー1は近接戦闘だけでなく、空中戦にも対応しているのだ!! 贅沢!!


『無限の彼方へ、さぁ、行くぞ!!』

『ちょ、待っ……』


 翼で空を駆けるのは実は初体験な皿助はちょっとしたワクワク状態。

 臼朽の制止など聞く耳持たず、カッパーウィングを炸裂させて大空高くへと舞い上がったッ!!

 まるで大砲で打ち上げられるかの様に、上昇速度は猛速。

 上昇軌道上、オーロラにも似たエネルギー質な円錐形航跡雲ベイパーコーンを幾重にも刻んでいく。


『この辺りで良いだろう!!』


 皿助はクマリエス達が豆粒以下の大きさにしか見えなくなるまで上昇して停止。

 快晴の空に、白銀の巨人と、それをガッチリホールドする赤銅色の巨人が浮かぶ。


『下を見ろ、すごく高いぞ!! 参ったか!?』

『ぐっ……高所へ引き上げて恐怖心を煽り、降参させるつもりか!? 悪くない発想だけど…舐めるな!! 僕はジェットコースターとかフリーフォールとか「恐い! もう一回!」する男だァァァ!!』


 臼朽は何やらそれが特技か何か美点の様な言い様だが、あの手のに乗る輩は大体そんな精神構造である。即ちありきたりな事。ようやくキャラが戻ってきた様だこの地味男。


『そうか。この脅しで済めば最善だったが……仕方無い。では、宣言通り【必要最低限の暴力】を行使させてもらう!! さァァ!! 歯を食いしばってもらおうッ!!』

『え?』


 DAIカッパー1は、空中にて全力でその機体を捻った。

 同時にその腕と、捕獲中のボックサッツを、かの有名メジャーリーガー野茂のも英雄ひでおめいたトルネード投法の様な形で振りかぶる。


『カブトムシと言えば【昆虫相撲の王者】…そしてその【十八番】と言えば、やはり【これ】だろう!! 誰だってそう思う。俺もそう思う!!』

『ちょ……まさか、君……え、嘘、この高さでそんな……』

『大丈夫だ!! 【これ】は相撲や柔道など、【スポーツ】において【技】として認められている……つまり喧嘩殺法めいたパンチやキックに比べれば【そんなに乱暴】ではない部類の技種だ!! スポーツマンシップの名の下にッ!!』

『いや、技の種別自体はそうかもだけど、この高さだとヤバ…』

『全然ヤバくないッ!! 大丈夫!! むしろ逆にヤバいくらい大丈夫だ!!』

『本当!? ねぇ本当!? それ本当!?』

『俺は嘘は吐かないし、加減が得意な方だ!! だから安心して、さぁ、歯を食いしばれ!!』

『ひ、ひぃ!?』


 DAIカッパー1が充分に全身のバネを限界まで捻り切り、そして放つ。

 DAIカッパー1、必殺の……【投げ技】ッ!!


力士百人力嵐転投撃ドッセイ・デモリッシャァァァァーーーッ!! どっ…せい、らぁぁぁぁぁぁああああああああああああああーーーッ!!』


 ギャルンッ!! と言う冗談みたいな回転音が唸る速度で、空高くにて、DAIカッパー1が回った。

 その激しい遠心力を一身に受け、ボックサッツが真っ直ぐ一閃、さながら流星の如く、眼下の河川敷へと投げ落とされる。


 その落下速度は、瞬間的に音速を越えた。


 投擲から一瞬後。

 河川敷に、稲妻が直撃したかの様な炸裂音が響き渡る。ちなみに皿助達は知る由も無いが、この時、奥武守おうもり町各所で平均震度一弱の揺れが観測されたらしい。


『―――ッ、かぁ、はッ……!?』


 河川敷に音速前後の速度で投げ付けられたボックサッツの白銀装甲はバラバラに砕け散り、河川敷の土や草葉と共に宙を舞った。


 あまりの衝撃に、臼朽はまともな悲鳴を上げる余裕もなく。

 まるで隕石の落下痕の様な巨大クレーターの中心。装甲が砕け飛び無様に各所の骨組みを晒すボックサッツは、だらんと転がる。


 操縦者…臼朽が意識を失っているのだろう。ボックサッツは指先一つ動かす気配がない。

 完全ノックアウト。


 つまり、軍配が上がったのは皿助。


 ザ・キルブリンガーズ戦、一戦目。

 撲殺の臼朽とその殺尽機(ジ・キル)ボックサッツ…撃破。


 DAIカッパー1の勝利である。

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