30,DAIカッパー・ビギニング《前編》
勉強の息抜き、かつ丹小又の【面白い話】とやらに関わるために河川敷へと足を運んだ皿助。
そんな彼の前にまず現れたのは、熊耳と学生アスリートっぽい服装が特徴的な【悪魔ッ娘】、クマリエス・タタンタンと、その愛馬…黒い小柄ペガサス、【悪馬】のガミジン。
そして、クマリエスとガミジンを追ってきたのは、何の特徴もない…良く言えば平和な顔付きの大学生、臼朽翔由。
話によると、何やら臼朽は【悪魔を人間界から追い出したい】と言う目的を掲げる【組織】にアルバイトとして所属しており、クマリエスとガミジンに「魔界に帰るか死ね」と言うすごい二択を迫ったらしい。
当然クマリエスとガミジンは不服。しかし、臼朽には【ガミジンが所有していた悪魔的武装を退けられるだけの何か】があるそうだ。
「ッ……まさか、陰陽師か祓魔師……要するに【示祈歪己使い】か……!?」
「シキガミ? なんだい、それは」
皿助の発言に、シルバーの指輪を右手中指に嵌めた臼朽が疑問符付きの反応を示した。
どうやら、示祈歪己については本当にご存知無い様子。
「皿助くん、だっけ。いいからもう君は帰りなよ。僕は【こいつ】を貰ってから日が浅いから……努力はするけど、巻き込まない自信は無いよ」
そう言って、地味な顔した臼朽は右手を空へと伸ばし……その中指以外を曲げた。
「!!」
要するに、臼朽は今ッ!!
右手を中指だけおっ立てて天へと掲げている!!
特筆点の無いおとなしい顔でなんて事をする男だろう!!
テレビに映したら苦情がくる奴だぞそれは!!
「打ち叩き殺せ……【暴突殺通】」
臼朽の声に呼応し、彼のモザイク不可避な右手中指に嵌められたシルバーの指輪が輝き始める。
輝きは爆発的に勢いを増し、すぐに天を穿つ光柱を形成した。
「ヤバい……また【アレ】が来るガミ……!!」
「うーん、困ったクマねー……」
緊迫感あるガミジンとは対照的に、クマリエスの声は平坦そのものだが……一応、頬に若干の冷や汗はかいているので、それなりに焦ってはいる様子。
「ッ……あの光は……一体何の……!!」
『【殺尽機】』
「!!」
皿助の疑問の声に応えたのは、機械的加工が施された様な感じに仕上がった臼朽の声。
発生源は、あの目に優しくない光の柱の中から。
次の瞬間。
光の柱が、まるで硝子細工の様に粉々に砕け散った。
光柱の内から現れたのは、ギンギラギンな白銀の輝きを全身に纏った…アバウト目算で大体二〇メートル級の【人型機動兵器】。
スリムでもガチムチでもない程良い八頭身で、五体の形状には機械らしいゴツゴツ感以外に特別違和感は覚えない。まさしく【正統派】…ある意味では【没個性】的な誰もが安易にイメージし受容できる【人型】の形状。
二〇メートル級の巨人がメタリックな白銀プレートアーマーを装備してみました、と言う感じだ。
『悪魔が使う【魔法的科学技術】…【魔術】を用いた兵器に対抗できる様に、【殺尽実現者達】の創設者である【ハイド博士】が開発した【裏科学兵器】さ』
臼朽の声は、白銀の凡庸な人型機……略して凡人型機の中から響いている。
「……【裏科学】だと……!?」
皿助はその言葉に聞き覚えがあった。
裏科学、それは【裏世界の科学技術】、つまりはお天道様に顔向けできない科学……と言う訳ではない。
裏科学とは、すごくかい摘んで要約すると【最先端過ぎてちょっと今の世に公表するのは時期尚早感とかオーバースペック感あって不安くない? ってなる科学技術】だ。
裏世界のフリーダムなパラダイムの中でその技術をカジュアルに運用してみて、表社会のパラダイムが崩れない様に様子を見ながら…時には劣化して還元する。
そのために設けられた区分が【裏科学】である。
皿助は深く関わりを持っていないので詳細には知らないが……美川家の傘下に【燥軋家】と言う家系がある。
燥軋家は奥武守町の隣町【恵朱市】を活動拠点にしている【発明家】の一族であり、【裏科学の研究開発運用を主目的とする機関】を運営している。
美川家長女・皿楼が衣類や体内に仕込んでいる無数の【特殊武器】も大体は燥軋製。【逸品】だ。
そんな裏科学を用いた兵器を大学生アルバイトに支給する組織……【裏組織】である事は間違いないッ!!
「にしても……まさか裏科学が、【科学的に人型機動兵器を運用可能な領域】にまで進んでいるとは……!!」
つい半年と少し前に機装纏鎧のオーバーテクノロジーっぷりに驚き、妖怪科学の力ってスゲーとなった皿助だが……中々どうして、あの【殺尽機】なる裏科学兵器も機装纏鎧にそれほど負けている様には見えない。
やるじゃあないか、人類。
……いや、しかし……今のボックサッツの現れ方は裏科学と言うより完全に魔法とか妖術のそれだった気がしないでもないが……
かのSF巨匠アーサー・チャールズ・クラークが記した様に「充分に発展した科学技術は魔法と区別不可能過ぎてヤバい」と言う事なのかも知れない。
『さぁ、悪魔共……今度こそ、僕のこの【撲殺特化型殺尽機】、【暴突殺通】で取り返しが付かないくらいの涙目にさせてやるよ……!!』
「ぬぅ……クマ。クーはコンタクトレンズだからあんまりハード目に泣かされるのは勘弁して欲しいクマ。ゴロゴロしちゃうクマ」
「実はワシ、先日、中耳炎の手術で鼓膜を切開したばかりで激しい運動は控える様に魔獣医に言われてるガミ。と言う訳でここは一つ、クマリエス様とワシを見逃すと言う選択肢はいかがガミ?」
『そんなの応じる訳ないよね? 交渉の下手さが想像を絶するんだけど君達。って言うか、嫌ならさっさと魔界帰ってもう人間界来んなって初めて会った時から何回も言ってるよね? そうしてくれれば無駄な殺生せずに済んで僕もすごく嬉しいんだよ。この話もう何回目だよ。その特徴的な耳は飾りなの? ねぇ?』
「地味な奴に地味にディスられたクマ」
「クマリエス様になんと無礼な!! 顔は何の捻りもないくせに、言い回しがいちいち弄れてるガミ!!」
『……………………』
流石に堪忍袋の緒が切れたのか、顔に何の捻りもない臼朽…もとい、デッサン人形ばりにシンプルデザインの銀色人型兵器ボックサッツが両拳を胸の辺りで構えてファイティングポーズ。
臨戦態勢ひとつ取っても何の捻りも無い素人ありきたり感。わかりやすい。最早ここまで地味と言うかテンプレと言うか独特な要素を殺しきっている存在も中々希少だろう。特徴が無さ過ぎる事が最早特徴的だ。
「ぬぅ……やるしかないガミか……!!」
ケチんぼめ、と臼朽を暗に罵倒する様に舌打ちし、ガミジンが軽く黒翼を振るう。
すると、羽根に絡める形で収納していたらしい【とある物品】が、ぶらーんと飛び出した。
それは……
「【銅のメダル】……か?」
ガミジンの翼からポロリンチョしたのは、黒い首掛用布紐で吊るされた赤銅色の円盤。サイズは丁度掌サイズ程。
かの国際的なスポーツの祭典で三位に入賞するともらえるメダルに似ている。
まぁ、向こうは青銅メダル。ガミジンのは色合いから見て赤銅メダルだ。
メダルの表面には、どう言う意味だろうか……【D.A.I.C】と彫刻されている。……だいく?
「ガミ……これは魔法科学技術…魔術の兵器、【魔機鞍】の【起動装置】ガミ」
「! つまり機装纏鎧で言う【媒介】か」
ダイカッパーで言えば、あの緑色の平皿だ。
即ち、あの赤銅メダルに何かしらのスイッチがあり、それを起動すると魔機鞍なる魔術兵器が起動すると言う事だろう。
「しかしそんな物騒なモノを取り出すとは……ガッさん、戦う気か……? しかし……」
「うむ……さっきも言った通り、ワシはこの魔機鞍を用いても奴のアレには勝てなかったガミ……!!」
そもそもクマリエスと皿助の邂逅は、ガミジンが臼朽に負け、敗走していた事から始まっている。
ガミジンの「マジやべぇ」的なテンションからして、先の敗戦は運勢や偶然の問題ではなく、実力差的に負けるべくして負けた感じなのだろう。
「……仕方無い。クーたん、ガッさん、下がっていろ」
『! ちょいちょい……君、何しているのかな?』
クマリエスとガミジンにジェスチャーで下がる様に指示しながら前に出た皿助に対し、臼朽は怪訝極まった疑問の声。
「決まっている。現状、クーたんとガッさんには【虐げられるに足る正当な理由】が無いはずだ。しかし【理不尽な暴虐に対し自衛に足る力と手段】も無い。そして、俺には【目の前でいともたやすく行われるえげつない理不尽な暴虐を看過するに足る理由】が一切無い」
即ち、皿助は一肌脱ぐしかない。……いや、少々語弊。皿助は決して義務感で動いている訳ではない。
あくまで自意の赴くまま。【自分が正しいと信じる行い】を……【自分の正義】を執行したいだけ。
つまり【脱ぐしかない】ではなく、【脱ぎたい】。
この状況、皿助は脱ぎたいのだッ!!
「クマ……べーキチ、気持ちは嬉しいクマけど、無理くないクマ?」
「そうだぞ皿助!! 貴様はただの人間ガミ!! 魔機鞍を用いたワシでも勝てなかった敵に勝てる訳が……」
「大丈夫だ、俺はただの人間だが、人間の範疇の中に置いて中の中程度…それなりの強さを獲得していると言う自負はある。一旦で良いからやらせてくれ」
「そうなのクマ?」
「そうなのだ」
「うむ……ならば、お手並み拝見させてもらうガミ」
「ああ、拝見してくれ」
皿助は自信満々だ。
今、示祈歪己はマカからドクターストップ的な禁止令が出ている。皿助が用いる事ができるのは自慢の肉体とそれを支える確かな波動疾走のみ。
それでもギリギリいけそうだ、と皿助は判断したのである。
判断の根拠は、皿助の目にある。
皿助は今、眼筋を特殊なペースで動かす事で【波動】を起こし、眼球に纏わせている。
その波動の名は【万理鑑定の波動疾走】。波動の中でも中・上級の部類に入る【知覚超化系】の波動。堕撫尤戦後、自主勉強の合間にも怠けず弛まずチマチマと続けていた波動修行により実戦段階に仕上がった。
この波動を纏った瞳は、波動熟練度に応じて【凝視した存在の持つ情報】を大雑把なオーラや数値、極めると文章で詳細に読み取る事ができる。
要するに、よくある【鑑定スキル】的なあれと同等の事ができる訳だ。
皿助はまだまだ未熟故、穴を穿つ程に凝視しても対象の情報を大雑把なオーラでしか読み取れない。
臼朽のオーラは、一言で言えば地味だ。これと言った特徴は無く、大した脅威も感じない。
一般人に棒人間が描かれた紙を一枚渡し、「この棒人間にオーラを纏わせてください」と言ったら八か九割くらいがこう言うオーラを描くだろうな、って感じだ。なんか上の方に向かってワサワサしてるアレだ。
脅威度を別のモノで例えるならば、殺意を持って突っ込んでくるジャンボジェット機の大体三倍くらいと言うのが妥当だろうか。
それくらいなら、一介の高校生の域を出れていない未熟な俺でも流石に止められる。
半年前、第一部の頃だったら怪しかったが、今なら大丈夫。皿助は男子高校生、成長期だ。日々めきめきと景気良く軋みながら成長している。
それに、今日はすこぶる身体の調子が良い感じがする。朝の占いに置いて乙女座も一位だったので、運勢も良好だと信じて疑う必要は無いだろう。
とにかく要約すると、だ。色々な要素を踏まえた上で「何だか今日はイケそうな気がする」と言うのが、皿助の結論である。
『あー……勘弁してよ。僕は人間を殺す覚悟なんてしてないよ』
「安心してください…いや、安心しろ。俺も殺されるつもりはない」
皿助が完全に敬語をやめた。
臼朽を【人生の先達】ではなく【敵対者】として認識を改めた表れだ。
『ったく……他者…それも様子を見る感じ、さっき会ったばかりの別種族のために、生身でこの巨大ロボットに挑む? ……どうかしてるよ君。【普通】じゃあない』
「異常結構。俺は今まで【普通】である事に特別思う事は無かったが……【目の前の納得いかぬ理不尽すら打ち砕けない】のが【普通】だと言うならば、俺は【普通】である事を忌避するッ!! 今この時を持って、俺は【普通である事】をやめるぞ!! …と宣言さしてもらうッ!!」
『……本格的な異常者か……』
「異常結構と言ったッ!!」
舌戦で片が付かない雰囲気なのは百も承知。ならば、行く。
と言う訳で、皿助は自身の体躯の一〇倍近い白銀の巨人・ボックサッツへと突進開始ッ!!
普段は温厚な皿助だが、メリハリはしっかりしている!!
戦うしかないとスイッチが入れば、その足取り…軽快でありながら力強いステップに迷いは無い!!
『ちッ……やり辛いなぁ……!! 殺尽機は【対象を殺し尽くす事】を目的にデザインされてるんだぞ』
臼朽としては、あまり無意味な殺生は好みではない。まぁ、知的生命体として当然の事だろう。やり辛いと愚痴を零しつつも、可能な限り皿助を【殺し尽くす】のではなく【制圧】する様に努めようと決め、動こうとした。
……その発想。実に愚かしい。
まぁ、臼朽は我々と違って皿助の事を知らないのだ。「少し逞しいだけの凡庸な高校生だろう」と見当違いをしてしまうのも無理はない。
「一気に加速させてもらうッ!!」
皿助はふくらはぎの筋肉をある特殊なリズムで躍動させ、波動を練った。
それは【疾風搭乗の波動疾走】。
足全体から体外に波動を【物理エネルギーとして放出】し、スラスターを点火したロケットの如く加速するための波動疾走だ。皿楼お姉様がやっていた様に、極めると、これを利用して空を飛ぶ事もできる。
『ッ!?』
プロテニスプレーヤー、サミュエル・グロスの放つ最速のサーブ(約263km/h)にも負けぬ速力で、加速皿助がボックサッツの足元へと飛び込んだ。
最新のリニアモーターカー業界や波動を知る者の業界では欠伸が出る程度の移動スピードだが、臼朽的には充分地味普通にビックリする移動スピードである。
『は、速いッ!?』
凡庸で特徴の無いありきたりなリアクション。
臼朽は反射的にボックサッツを操り、その白銀の足で足元に飛び込んで来た皿助を潰そうとした。
急にゴキブリが向かってきたら……「その後に残る感触に死ぬほど後悔するだろう」事にまで思考がいかずにビックリ反射で踏み潰してしまおうとするのと一緒ッ!! ひぇっ、潰したろ。と言う感じだッ!!
しかし、ボックサッツの踏撃…ビックリ反射的ストンピングは、ただの地団駄に終わった。
『……い、いない……!? どこに……ッ!!』
既に、皿助は【跳んで】いたのだッ!!
『!! 僕の頭の横にいるぞ! す…すごく速いッ!』
「ああそうだ、そして喰らえッ!!」
皿助が腕に纏わせた波動は、第二部でも乱用された【物理的な破壊力をすごく跳ね上げる波動】、【豪鋼破断の波動疾走】ッ!!
実にシンプルで強烈な波動を纏わせたその右の平手で、ボックサッツの側頭部に一発の張り手を叩き込むッ!!
その一撃で、ボックサッツの側頭を守る装甲が砕け散ったッ!!
『がぅあッ!? い、痛いッ!! ば、馬鹿な…生身で殺尽機の装甲を抜いただとぉーーーッ!?』
「よし、やはりイケる!!」
波動張り手で充分なダメージが通る。殺尽機、すごい技術のすごい兵器だが、生身で対応できなくはない。皿助は確信した。
ならば追撃あるのみだ。
皿助はほぼ間髪入れない形で左の張り手も発射。
しかし、そちらの一撃は反射的に腕で顔を守ったボックサッツの左前腕装甲に阻まれ顔面には届かなかった。
元々ガード目的のために頭部装甲よりも厚く丈夫に作られていたのか、ボックサッツの左前腕装甲は砕けず、少し亀裂が入る程度のダメージで終わった。
『ぐぅあッ……!! なんてパワァァァッ……!! ッんの……本当に人間か君は!?』
「当然だ!! 俺は嘘は吐かない!! 誠実な人間でありたいからな!!」
皿助の言う通り、ゲノムの形状で言えば、美川の人間も一応多分おそらく人間の範疇である。
『くッ……殺さない様に加減するため、【使うまい】と思ってたけど……これは無理だ……!! 【使わせて】もらう!!』
「何……、ッ!!」
不意に、皿助の目に映るボックサッツのオーラに変化があった。
増長、隆盛。要するに、強く、そして濃くなったのである!!
不味い。
皿助は咄嗟に危機を察知し、疾風搭乗の波動疾走を発動。
空中で足から波動エネルギーを猛噴射し、虚空を滑る形で移動。緊急回避行動。
その直後、皿助がさっきまで滞空していた空間を、白銀の一閃が通過した。
ズドォンッ!! と、砲弾でも落ちたかの様な轟音。
「なッ……!!」
着地しつつバックステップで距離を取りながら、皿助はちょっとビックリした。
今、皿助を狙った白銀の一閃……それはボックサッツが左腕を勢いよく振り下ろした地味にシンプルな【ただの】アームハンマー……ではなかった。
川原を抉ったボックサッツの左腕は、【変形】していたのだ。
指や手首の関節はのっぺりと消え失せ、まるで一本の棒……その様相はまるで、野球で使うシルバーの金属バット。
『……最後通告だよ、美川皿助くん。君はもう本当マジに帰れ……じゃないと……』
ボックサッツの両腕が、歪む。
液体金属、または流体金属と呼ばれるそれの流動する様によく似ている。
ボックサッツの右腕はまるでバールの様なモノに変化し、左腕の金属バットっぽいものには小さな釘みたいなのがブワッと無数に生えた。
右はバールの様なモノ。左は釘バット。
そしてあの巨大さ……叩かれれば、いくら皿助でも無事では済むまい。
『僕は、君を【撲殺】してしまうかもだよ……!!』
「……成程、先ほど言っていた【撲殺特化型】とは、そう言う事か……!!」
撲殺特化型殺尽機、暴突殺通。
その両腕をあらゆる【鈍器】へと変貌させ、対象を【撲殺】する事を目的とした【特性】を持つ殺尽機。
地味な臼朽が駆る機体としては不相応な事に、ちゃんと特性があったのである。
「にしてもやはり、俺の波動はまだ未熟……」
万理鑑定の波動疾走を常時発動していながら、ボックサッツの隠し玉にギリギリまで気付けなかった。悔しみ。
いや、それよりも……不味い。
隠し玉を解放したボックサッツのオーラの具合は……皿助のそれを少しばかり凌駕している。
つまり、流石に生身で倒すのは難しい。
『【人殺し】は超絶不本意だけどさ……ここからは、最悪、それも辞さないつもりで行くよ。本当に本当に【そうなる】のは嫌だけど……お金をもらっている以上、アルバイトとは言え僕は【プロ】なんでね……仕事には、責任を持つ。障害は排除して、必ず達成する。一度引き受けた仕事に責任を持てない様じゃあ、例え良い大学を出たって【立派な大人】にはなれないと思うからね』
「バイト生でもちゃんとしたプロ意識……流石は大学生、か……!!」
意外に意識高い系。
ここに来て、臼朽は【地味に普通極まる存在】と言う自身のキャラを一気に崩しにきた。
急にキャラ変更とか混乱するのでやめて欲しい。お前は一生地味であれ。
『……とは言っても、やっぱり僕も普通の大学生。本気マジに無駄な殺生は嫌だ。さっきは頭に血が登って本気で殺しかけたけど……僕は本意、君も、後ろの悪魔達も、【殺さずに済めば最善】だと思ってる……本当、もう退いておくれよ』
臼朽の話通りなら、ザ・キルブリンガーズの目的は【人間界から悪魔を排除する事】。
そのための手段の筆頭として【殺害】を謳い、殺尽機を運用してはいるが……臼朽の口ぶりからして【人間界から悪魔が出て行ってくれるなら別に殺す事に拘る必要は無い】のだろう。
だから、臼朽はここまで来てもなお、通告する。選択を迫る。
奪わなくて良い生命は奪わないのが【最善】。
そんなありふれた普遍的な価値観を以て、その【最善】の結果で済ませられる事を極力祈っている。
「ッ……」
だが、皿助はそれをすんなり受け入れる訳にはいかない。
理不尽な仕打ちを看過するのが趣味ではないと言うのが理由の第一。
そして、もう一つ理由がある。
皿助は知っているのだ。
人間と妖怪と悪魔が仲良く手を取り合って暮らしていける様に、尽力してくれた【天使】達の存在を。
あの天使達のためにも、ザ・キルブリンガーズの振りかざす理不尽を見過ごすとか絶対不可能。
『さっきも言った通り、これが正真正銘の最後通告だよ』
……さて、この状況、どうしたものか。
示祈歪己は使えない。使ったら死ぬ。
ダイカッパーの平皿は当然堕撫尤戦の後に晴華へ返却済み。
守護霊だった幽子は「三途の川へ戻る方法を探す」と言う名目で世界を巡る旅に出ている。
「……状況は、本気シビアか……!!」
だが、諦めると言う選択肢は存在しない。何故なら皿助だから。
「皿助!! 【これ】を使うガミ!!」
「!」
と、ここで不意に響いたガミジンの声。
同時に背後から飛んできた【モノ】を、皿助はノールックで背面キャッチ。
掴み取ったそれを見て確認して、皿助はちょっとビックリ。
「これは……」
先程、ガミジンが翼からポロリしていた、首掛用布紐付きの赤銅製のメダルだ。【D.A.I.C】の彫刻からして間違い無い。
「確か、魔機鞍とか言う魔術兵器の起動トリガー……」
「そうガミ!! ワシではそれを使ってもそのギンギラギンには勝てなかったガミ!! しかし皿助、見てる感じ貴様は確実にワシより数百倍強いガミ!! きっとその魔機鞍を使えば……」
「! あのボックサッツにも勝てるかもと言う寸法か!!」
これは有り難い。渡りに船とはこの事か。
今まで魔機鞍とやらを使用した事は無い皿助だが……機装纏鎧だってぶっつけ本番で上手く使えたのだ。きっとイケる。
「……ところで、どうやって起動すれば良い!?」
「簡単ガミ。そのメダルを首から下げて、その魔機鞍の名を叫んだ後、メダルを少し齧れば良いガミ!! 魔法的科学技術…魔術は基本【術具】と【詠唱】と【儀式】で成り立ってるガミ!!」
魔術の【起点となる装置】である【術具】に、【特定の言霊】を【詠唱】して浴びせる事でスタンバイ状態にし、【儀式的動作】でスイッチを入れる。
そうする事で、魔術兵器はその真価を発揮するのだ。
「そのメダルが【術具】、名を呼ぶ事が【詠唱】、齧る事が【儀式】になるガミ!! あ、あと銅メダルだけど齧る時は金メダリストがそうする様にニッコリ笑顔で齧るガミよ!!」
「笑顔了解ッ!! 元気爽やかに笑うのは昔から得意だ、任せろ!! で、この魔機鞍とやらの名前は!?」
「よく聞くガミよ……その魔機鞍の名は【DEMONS・ASSAULT・INVENTION・COPPER】!! 意は【悪魔的力を以て敵を討つために生み出された赤銅色の機兵】ッ!!」
「思っていたよりすごく長いッ!!」
「うむ、なのでちゃあんと略式用の呼称があるガミ!!」
「ユーザーフレンドリーッ!! で、その略称は!?」
DEMONS・ASSAULT・INVENTION・COPPER……略して……
「魔動紅銅機兵【DAIカッパー】ガミ!!」




