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8 絶望の神官と無関心を欺く背徳

 ルシフェリアの利用される悦びへの進化により、俺の力は一時的に安定を取り戻した。しかし混沌の因子エルが持つ感情の無効化という能力は、残りの変態たち、特に反応を必要とするセシリアとリーファに深い動揺を与えていた。


 現在、王都の別邸の庭にある噴水の前。アリシアの命令により俺は噴水の水に頭を突っ込み、勇者様の剣の錆を洗い流すための清掃奴隷となっている。セシリアはその俺の横で半狂乱になっていた。


「どうしましょう、景様! もしエルがわたくしの奉仕の行為を景様にとって無関心なものにしてしまったら! わたくしの神官としての誇り、そして奴隷としての屈辱、すべてが意味を失う!」


 セシリアは自身の奉仕が「景様になんの影響も与えない」という事態を、最高の屈辱としてではなく、存在意義の消滅として恐れている。


 アリシアは剣の切っ先で、セシリアの頭を軽く叩いた。


「落ち着け、神官。貴様が絶望してどうする。ルシフェリアは卑劣な道具として進化して乗り越えた。貴様は無意味を究極の清らかさとして受け入れろ!」


「しかし! 無意味な奉仕は奉仕ではありません! それは……ただの作業です!」


 ただの作業になることを一番恐れる変態ってどういうことだよ!


 俺が水中でブクブクと唸っていると、ルミナが横で溜め息を吐き、セシリアにアドバイスをした。


「セシリア。あなたは景が反応しなくても神に誓った奉仕の義務を遂行しなさい。景の無関心は神の試練と考えるのよ。それがあなたの狂気を保つ唯一の方法よ」


 ルミナの助言を受けたセシリアの顔が、閃きと同時に狂気に満ちた悦びに歪んだ。


「そうか! わたくしが景様に奉仕する喜びが無効化されたとしても、わたくしは神の試練として、永遠に続く無意味な奉仕を義務として強いられる! これほど清らかで過酷な屈辱があるでしょうか!」


 セシリアのドM神官の狂気は無意味な奉仕の義務という形で進化を遂げた。


 その瞬間、再び王都のどこかでエルの無関心の力が発動した。


 俺の身体はセシリアの奉仕がただの冷たい水となり、なんの屈辱も、なんの快感も感じられない状態になった。俺は無感情なロボットのように噴水の掃除を続ける。


 セシリアは俺のその無反応な目を見て恍惚の表情を浮かべた。


「ああ……景様……わたくしの清らかな水があなたにとってただのH2O! わたくしの神聖な手があなたにとってただの道具! この無関心な奉仕こそ、わたくしの存在意義を否定する究極のドSの罰です! ありがとうございます、景様!」


 もう駄目だ。こいつらはどんな状況でも自身の性癖を満たす方法を見つける天才だ!


 セシリアが無関心な奉仕という新たな境地に達したのを確認したアリシアはリーファを呼んだ。


「リーファ。貴様は裏切りの悦びをエルの無関心から守れ。貴様の背徳の鎖が切れることは最も危険だ」


 木陰に潜んでいたリーファが、音もなく現れた。その手には、アリシアの最も大事な剣が握られている。


「承知致しました、アリシア様。エルは景様の感情の無効化を狙っています。ならば私は景様が感情を持っていようがいまいが、誰にも気づかれない秘密を共有するという究極の背徳を行います」


 リーファは俺に近づくと耳元でアリシアの剣の秘密を囁き始めた。


「景様。実はあの剣の柄にはアリシア様の若かりし頃の恥ずかしい写真が極小の魔法で封印されています。誰にも気づかれていません。今、この秘密を無関心なあなたと私が共有しました。アリシア様と私、そしてルミナとエリスの誰もが知ることのない、あなたと私の永遠の秘密です」


 アリシアの剣に恥ずかしい写真? しかも俺が無関心なフリをしているのを利用して秘密を共有?


 リーファは俺が無反応であることを確認すると満足げに微笑んだ。


「無関心な景様と背徳の秘密の組み合わせ。誰もが知らない裏切りを、誰も知らない景様と分かち合う! これこそが無関心をも欺く究極の裏切りの悦びです!」


 俺のリーファの背徳の鎖は、無関心な相手との秘密の共有という、さらに厄介な形で強化された。


 刹那、エリスが俺の横に来て静かに言った。


「あなたたちの愛憎は本当に混沌ね。でもリーファの言った秘密は本当よ。あの写真、実は私も見たわ」


「は?」


 俺は思わず噴水の水を吐き出した。

 エリスも知ってるのかよ!


 リーファはエリスの言葉を聞くと、驚きとともに、新たな背徳の悦びに打ち震えた。


「な、なんと! エリス様! あなたが知っているということはアリシア様と景様と私の三人だけの秘密ではなく、アリシア様と景様と私とエリス様の四人だけの秘密となった! 秘密の裏切りに新たな裏切りが加わる! 背徳の無限ループです!」


 俺の変態地獄は性癖のインフレーションを起こしながら、混沌の因子エルとの戦いに突入しようとしていた。


 誰も俺の気持ちなんて考えてない!


 俺は噴水の清掃奴隷として、永遠の隷属を続けるのだった。

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