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7 屈辱の無効化とカーペット魔王の絶望

 俺が無関心殺しの調教プログラムを受けてから三日。俺の日常は恥辱と奉仕と自己破壊の過剰な摂取で構成されていた。


 現在、王都の別邸の屋根の上。俺はアリシアの命令により裸で支配者アリシア様讃歌を朗読している。気温は氷点下に近い。


 その足元ではセシリアが顔を赤くしながら、俺の足の指と指の間を、奉仕の芳香と称する粘度の高い液体を舐め取り清めている。


「景様! わたくしが神官としての誇りを捨てて、あなたの足の間の不浄を清める! ああ、この背徳的な奉仕の瞬間こそ、わたくしの信仰の極致!」


「早くしろ、セシリア! 貴様の奉仕の音が小さい! 景の恥辱の感情を上回る奉仕をしろ!」


 アリシアが下から鞭を鳴らす。


 その少し離れた場所ではルシフェリアが景様への無関心を誘う悪霊退散と称して、自作の鉄球付きチェーンで自身の背中を叩き続けている。


「ヒャッハー! 無関心! 無関心なんて許さない! この魔王の肉体が痛めつけられる悦びを景様に聞かせる! これが最高の奉仕!」


 地獄だ。公衆の面前での恥辱、プライベートな背徳的奉仕、そして自傷行為。誰か一人でも欠けたら俺の力は制御不能になる。


 俺は周囲に注意を払いつつ、アリシアを賛美するポエムを叫んでいた。その時、俺の朗読の最中に異変が起きた。


 ルシフェリアが鉄球を振り上げ、自身に叩きつけた瞬間、彼女の動きがピタリと止まった。


「ルシフェリア? どうした。手抜きか!」


 アリシアが怒鳴る。

 ルシフェリアは鉄球を落とし、震える手で自身の身体を触った。その顔は悦びではなく恐怖に歪んでいる。


「わ……わたくし……感じません」

「なにをだ、ルシフェリア!」


「痛みを! わたくしがこの愛憎の鉄球で全身を叩きつけているのに……なんの快感もなんの痛みも感じません!」


 ルシフェリアの目から大粒の涙が流れ落ちた。


「わたくしを踏みつける景様の靴の重みも、セシリア様の熱烈な奉仕の音も、すべてがただの現象で、わたくしの被虐の魂に届きません! これは……これはエルの力!」


 混沌の因子エルは直接的な攻撃ではなく、ルシフェリアの被虐の感情を無効化するという、極めて陰湿な方法でシステムを攻撃してきたのだ。


 ルシフェリアにとって、痛みも屈辱も感じないことは、存在理由の否定に等しい。彼女は絶望を感じられない絶望という、究極のドMの絶望に陥っていた。


 ルシフェリアのマゾヒズムの鎖が崩壊したことで、俺のチートの安定性が急激に揺らぎ始める。俺の身体から微かに魔力が漏れ始めた。


「まずい! ルシフェリアの鎖が切れた! 景の力が不安定になる!」


 アリシアが焦燥する。セシリアは俺の足の指を舐めるのを止め、ルシフェリアに駆け寄った。


「ルシフェリア様! しっかり! わたくしの清らかなる侮蔑で、あなたの魂を揺さぶります! この役立たずの被虐魔王め!」


「うう、セシリア様。その侮蔑も……ただの音です」


 セシリアの最高の侮蔑ですら、ルシフェリアには届かない。木陰に潜んでいたエリスが現れ、冷たい目で状況を分析した。


「これがエルの力よ。愛憎の無効化。彼女はあなたたちの歪んだ愛情そのものを無関心という名の毒で殺そうとしている。景、あなたが彼女の絶望を共有すれば力は安定する」


 俺がルシフェリアの痛みを感じない絶望を共有しろだと?


 俺は自身の力の暴走を抑えるため、奴隷王として、この状況に意味を与えなければならなかった。俺はアリシアに向かって、顔を歪ませて叫んだ。


「アリシア様! 俺に命令を! ルシフェリアの絶望を最高の悦びへと反転させる命令を!」


 アリシアは一瞬戸惑ったが、すぐにそのドSな本能が閃いた。


「よろしい! 私の命令だ! ルシフェリアに向かって『お前の苦痛は無意味ではない。私の支配のための最も卑劣な道具である』と魂の底から絶叫しろ!」


「はい、我が支配者様!」


 俺はルシフェリアの顔を覗き込み、全力で、そして感情を込めて叫んだ。


「ルシフェリア! お前が今感じている無意味は無意味ではない! それは俺が『お前の苦痛にすら無関心であるフリをする』という、俺の支配者アリシアへの最高の奉仕のために、お前を道具として利用しているという証拠だ! お前の絶望は俺の隷属のためという、究極の卑劣な目的に使われている!」


 俺の言葉は無意味という毒に侵されていたルシフェリアの精神に、卑劣な目的のための道具という新たでより強烈な意味を突きつけた。


「あっ! そ……そうか! わたくしの痛みを感じない絶望でさえ、景様の隷属のために利用されている! わたくし景様とアリシア様の支配の道具という二重に卑劣な存在!」


 ルシフェリアの瞳に再び狂気の悦びの光が戻った。彼女は絶望が利用される悦びという、マゾヒズムの極致に到達したのだ。


 彼女のマゾヒズムの鎖は、以前よりも強く、太く俺の力に絡みついた。俺の暴走は収まり力は安定した。


 くそっ! 俺の言葉がルシフェリアの性癖をさらに進化させてしまった!


 エリスはその光景を見て静かに呟いた。


「私の無関心を卑劣な道具としての意味で打ち破る。あなたたちの愛憎は想像以上に混沌そのものね」


 俺の奴隷王としての生活は、変態たちの性癖の進化という、新たな次元の困難を極め始めたのだった。

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