13「養鯉」
生贄に選ばれた妹に代わって、華やかな錦を纏った私は滝の上流の瀬へと歩み出した。冷たい水に着物の裾を浸しつつ、振り返れば、妹が欄干に縋りついて泣き崩れている。
彼女は幸せな結婚を控えており、水底へ沈めるには忍びない。橋の上には、妹の他にも親類や村人たちが集まってきていた。身代わりを申し出たのは私からだったけど、異論が出ることもなかった。私は微笑みを浮かべて頷く。……簡単な話である。
さて、ここで気になるのが、『誰が妹の家に白羽の矢を立てたのか』ということだ。少なくとも夜明け前にはあったそれは、妹が発見するまで誰の目に止まることもなく、いつの間にか屋根に突き刺さっていたのだという。そんな芸当ができるのは誰だろう。
神が生贄を選ぶなんて嘘っぱちだ。そこには絶対に、誰かしらの意図がある。
例えばもし、私の妹を滝へ落としたい人間がこの村にいるとしたら? これから先、私はあなたを守ってやれないのに――そんな馬鹿げた、必要ない一抹の不安を振り払う。
私が足を進める間にも、白波はとめどなく崖縁を越え、眼下、千尋の滝壺へと飲み込まれてゆく。
最後の一歩を踏み出す寸前だけ、腹の底がふるりと臆した。
ところで私は病に蝕まれており、生贄の件がなければ周囲から隔離されたまま惨たらしく死ぬ予定であった。せめて尊厳をもって息絶えたい。誰の役にも立たない、迷惑ばかりかけた生涯だった。家族や知己に見守られ、後顧の憂いなく消えてしまいたいと、一度だけ妹に語ったことがあった。
簡単な話だ。