【03 - 01】
さてさて、ジョージさんがカノンちゃんの通う学園に襲来して、レジェンドと化した日から数えること五日後。週末の土曜日です。休日ということもあって、午前中からカップルや家族連れで賑わいを見せる、市内でも有数の巨大ショッピングモール『AE-ON』。そのロビーに、制服を脱ぎ捨てた休日モードのJKがいました。
(うふふ。楽しみですね~っ♪)
本日のカノンちゃんの装いは、淡い色合いのワンピース。カジュアルな少女らしさをアピールするローカットスニーカーと、チラリと胸元を覗かせる小悪魔キャミソールによる二律背反がポイントでしょうか。ちょっと派手な色合いのトートバッグと、花を模した髪飾りなどが、シンプルだけど単調にならないアクセントとなっております。
こうしたコーディネイトは、本日の待ち合わせが決まってからというもの、悩みに悩んで選び抜いたもの。言うまでもなく、本日のJKは攻めております。そのチョイスに忸怩たる思いで、ジョージさんが引っ越しの際に独断で用意していた春服やアクセサリに手を付けたという事実を鑑みれば、今日という日に対するカノンちゃんの意気込みが伺えるでしょう。
(……ふんだ。今週はジョージさんのせいで、散々な目に遭いましたからね)
だから少しぐらい役に立ってもらってもバチは当たらないだろうというのが、被害者であるJKの言い分です。
なにせ今週は、あれからひっきりなしに「あのイケメンが叔父さんってマジ?」「イケメンと同居なんて許されると思っているの?」「はっ倒すわよ」「紹介して」「犯らせて」「茉莉さん。近々、家庭訪問を考えているのだけれど……」などと、怒涛の質問&脅迫攻めにあって、疲労困憊していたカノンちゃんです。
イケメン成分を欲して目をギラつかせる飢えたJKたちをのらりくらりとかわし、青春を再燃させた学園主任(二十九歳・新品)のプレッシャーにも耐えきって、なんとか辿り着いた今日というオアシス。日頃のストレスを癒すべく、満喫せずにはいられません。
(……おや?)
そうして期待に胸(並盛り)を膨らませるJKですが、待ち合わせ場所に向かう最中、見覚えのある顔を見かけました。あちらも気付いたようですが、すぐに目を逸らされてしまいます。まあまだ新学期が始まって一ヵ月あまり。さほど打ち解けてもいないクラスメイトなので、こうした反応も寂しいですが仕方ないですね。
(でもちょっと、意外ですね。あの子って、『ああいうタイプ』と付き合いがありそうには見えなかったのですが……)
とはいえ人の本質なんて、外見から推し量ることなどできません。身近にいる変態が良い例です。それよりもクラスメイトの意外な一面が見れたことで、今後のスクールライフにおける彼女との関係に変化が起きるかなと、淡い期待などを抱いてしまいます。
基本的にカノンちゃんはどんな人とでもお友だちになりたい、守備範囲が広い系の女子なのです。性癖のストライクゾーンもかなり広いです。内角高めバッチ来いです。
「あ、カノンさん!」
そんなことを考えているうちに、待ち合わせ場所に到着しました。自分の姿を発見するなり、たゆんたゆんと胸(特盛り)を揺らして駆け寄ってくる幼馴染みの姿に、並盛りJKは嬉しさと敗北感を覚えます。もちろん彼女の胸元をチラ見していた通行人たちは、揃って前かがみです。ある意味歩くバイオハザードとも呼べる巨乳JKは、カノンちゃんの正面で立ち止まると満面の笑みを浮かべました。
「おはようございます、カノンさん! 今日もとっても可愛いですね! 制服のカノンさんはそれはそれで可愛らしいですが、休日のカノンさんはまた格別です!」
「いや~、それほどでもないですよ~。というか可愛さでいったら、マコちんだって相当なものですから!」
これはお世辞ではなく、本日のマコトさんは非常に可憐な装いでした。白を基調としたインナーに、上品なピンク色のカーデガン。スカートは上に合わせたホワイトで、よく見ると細かいレースが施されており、彼女の気品と清純さを見事に引き立てております。加えて手にするバッグには、某有名ブランドのモノグラム。さらにほのかに香る、爽やかなフレグランス。それらが高い次元で融合することで、可愛いというより美しい系の、休日セレブお嬢様が爆誕しておりました。
「もう可愛すぎて、私が男子ならそのままお持ち帰りしたいぐらいですよ!」
「きゃっ♡ カノンさんったら、ダイタンですっ♪」
もちろんマコトさんは、同性でもカノンちゃんが相手なら一向に構いません。むしろ望むところです。いつでも脱ぐ覚悟があります。本日勝負を賭けているのは、なにもひとりだけとは限らないのです。
「それにしても、マコちんは相変わらずマメな時間前行動ですね~。まだ待ち合わせの、十分前ですよ? さすがはクラス委員長!」
「え、えへへ。そんなことはありませんよ~。わたくしだって、つい先ほど到着したばかりですから」
そうした巨乳JKの発言に、一時間前から彼女がスタンバイしていたことを知っているショッピングモールの従業員がギョッと目を剥きましたが、幸か不幸か、カノンちゃんがそれに気づくことはありませんでした。
「それよりも、やっぱりあっくんは遅れて――」
「おいバカノン、失礼なこと言ってんじゃねえぞ」
「――あっくん!?」
振り返るとそこに、仏頂面のアキラくんが仁王立ちしておりました。
(はわわわわ! きゅ、休日の生アキラくん! 眼福! 眼福ですよぉ!)
内心で狂喜乱舞するカノンちゃんに、訝しげな視線を向けるアキラくんは、シンプルなジャージ&ジーンズ姿。しかし顔がどう見ても美少女で、体格も小柄かつ細身なために、本日の幼馴染みたちに混じるともう、ボーイッシュなオンナノコにしか見えません。むしろそんなアンバランスな魅力に、通行人の男性たちは興味を惹かれているようでした。
仮に視線の割合を数値化すれば、マコトさんが七割、アキラくん三割、カノンちゃんが努力賞といったところでしょうね。本人たちが知ったら、いろんな意味でトラウマになりかねない統計結果です。
「……ンだよ。オレが時間通りに来るのが、そんなに驚くようなことか?」
「少なくとも学校行事以外の待ち合わせだと、ほぼ記憶にありませんよ?」
本日のようなプライベートな待ち合わせですと、十分や二十分の遅刻は当たり前。酷いときなど待ち合わせを忘れていて、電話をかけたら就寝中だったことさえあります。
「そりゃ……まあな。オレにも色々と事情があるんだよ」
「あっくんあっくん。可愛い幼馴染みよりも優先される事情なんて、この銀河の何処にも存在しないんですよ?」
不満げにそう言って口先を尖らせるカノンちゃんですが、アキラくんとしては、その背後から放たれているプレッシャーに冷や汗を禁じ得ません。能面のような無表情を浮かべるマコトさんは、瞳で言外に『余計なことを言えば……おわかりですね?』と述べております。
じつのところ、アキラくんはたいていの場合、時間より少し前に到着していることをカノンちゃんは知りません。ですがその場合はすべて、さらに早く到着しているマコトさんに追い払われてしまうだけなのです。ときには巧妙な情報操作により、待ち合わせ事態をなかったことにされていたこともあります。
「……そのくせバカノンを待たせたら待たせたでキレるんだから、ムチャクチャだよな」
「ん? あっくん、何か言いましたか?」
難聴系主人公のようなセリフを吐く幼馴染みに、気苦労の絶えないアキラくんは「なんでもねーよ」と吐き捨てます。すかさず、マコトさんがカノンちゃんの腕に抱き着きました。
「それではカノンさん、さっそく参りましょう」
「あ、ちょっと待ってくれよ岩千奈。その前に、手土産を買っていきたいんだけど」
「……は?」
「あ、マコちんマコちん。せっかくこうして集まったんですから、私も少しブラブラしていきたいです!」
「もちろんわたくしも同じ気持ちですわ! さあさあカノンさん、どこから回ります? 夏物のチェックからですか? それとも軽く、食事にしますか?」
「……」
けっきょくその後、カノンちゃんたちはモール内で小一時間ほど時間を潰したあとで、本日のメインイベントである『ジョージさん家の訪問』へと向かうのでした。
お読みいただき、ありがとございました。
次回の更新は8/01の予定です。
m(__)m