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カノンちゃんはタイヘンです。  作者: 陽海
〈chapter:02〉カノンちゃんの登校です。
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11/28

【02 ‐ 04】


 本日は二話連続更新なので、読み飛ばしにご注意ください。

(……っ!? まさかジョージさん、学園の外じゃなくて校内にまでっ!?)


 たしかに生徒の保護者であれば、校門横の守衛所を通過することは可能でしょう。問題なのは瑞々しさ溢れる十代のテリトリーに、世間体を重んじる社会人が踏み込めるか否か。思春期と三十路。コドモとオトナ。青臭さと加齢臭。そんな両者を隔てるインビジブルバリアをものともしない強靭な精神力には、カノンちゃんとて脱帽です。


(くぅ、ジョージさんの行動力を舐めていました……っ!)


 今更ながらカノンちゃんは、自らの行動の迂闊さを恥じました。なにせ遺憾なことに、現在の科学技術ではいまだ人の外見から内面の異常性を察知する道具は開発されていないからです。ということは必然的に、下で待機しているであろう超絶美丈夫は、常日頃からイケメン成分を欲しているJKたちの格好の寄餌と成り得るということ。


「ん? なんかやけに騒がしいな」

「さ、さあいったいどうしたんでしょうね? ところで私はちょっと先に行って叔父さんと話をつけてくるので、おふたりはゆっくり来てください! ゆっくりですよ!」

「あ、カノンちゃん!」


 幼馴染みふたりを残して、カノンちゃんは階段を駆け降ります。下の階に行くごとに、確実に増えていく人口密度。砂糖を発見した働き蟻のごとく下駄箱に群がっていく女生徒たちの姿に、悪寒は増すばかりです。


「ちょ、どいてください! お願いします!」


 下駄箱に続く廊下は、人で溢れかえっていました。部活を中断してきた野次馬も多いらしく、あきらかに過剰な人口密集地帯を、カノンちゃんは必死に掻き分けて前進します。


 すると――


「――やあ、待たせたねマイエン……カノン」


 予想通りの人物が、下駄箱のある昇降口に佇んでいました。


 ジョージさんの本日の装いは、学校の訪問ということもあって、フォーマルなスーツスタイルです。しかし使われている生地の質感が、見事な八頭身を際立たせるシルエットデザインが、イケメンを際立たせるマットブラックのスーツが既存の量産品などではなく、特注のオーダーメイドであることを言外に主張しております。


 さらにさりげなく配置された高級感あふれるタイピンや時計、鼻孔をくすぐるフレグランスと混じったアダルトなフレーバーが、圧倒的なおす力を演出。経験値の低いJKたちはもうメロメロで、足腰をガクブルさせていました。潤んだ瞳にはハートマークが浮かんでおります。おそらく下着もぐっしょりでしょう。今夜のオカズは決まりですね。


「ちょ、ジョージさん! いったい何やっているんですか!? ダメですよ、いい歳した大人がそんな簡単に学校に入ってくるなんて!」

「ソーリー、エンジェ……カノン。なに、最初は僕も校門前で待っていようと思ったんだけど、たまたま僕のことを覚えていてくれていた守衛がいてね。気を利かせて、案内してくれたんだ」


 そういえばたしかに、以前ジョージさんはこの学園のOBだと語っていました。そして彼の在学は今から十五年前なので、古株の守衛ならば、当時の生徒の面影を覚えていた人がいてもおかしくはありません。


(たしかにジョージさん、昔から目立っていそうですしね……)


 仮に平凡なフツメンの場合なら、こうはいかなかったでしょう。残酷ですが、人間とは自分にとって興味のあるものしか覚えないもの。その点、現在はアダルトな魅力溢れる美丈夫は、学生時代はさぞフレッシュな美少年だったことは想像に難くありません。ジョージさんの言には説得力がありました。なおその守衛が当時からジョージさんのお尻を舐めまわすように見ていたことを、カノンちゃんは知りません。


「ちょっとキミたち、道を空けなさい!」

「学園の生徒らしく、慎みを持った行動をとるのです! さあ散って散って!」

「えっと、あなたが例の保護者ですか。守衛から話は聞いていますが……」


 そうこうしているあいだに、騒ぎを聞きつけた学園の教師たちが出張ってきました。語気を強めた男性教員たち二名が野次馬を追い払い、残る女性教員が、アポイトメントのない来訪者に確認をとります。


「……え?」

「……ん? どうしましたか、朝比奈先生」

「何か問題でも?」


 ところがその最中に、職務を遂行しようとした女教師が、突如硬直してしまいました。クールな美貌を驚きに染めて、ポカンと口を開く学年主任。常日頃の凛とした佇まいからは想像できない彼女の痴態に、同行した男性教員たちは同様を隠せません。同時にその唇に自らのイチモツを捻じ込んでやりたいと、股間の膨らみも止まりません。


「え、あ、ももも、もしかして、ジョージ先輩ですか!?」

「……? オゥ、ワッツリアリー? キミはもしかして、アサヒナかい?」

「え、ジョージさん、朝比奈先生のこと、ご存じなんですか?」

「ああ、彼女は僕の、学生時代の後輩なんだ。それがまさか、この学園のティーチャーになっていたなんてね」

「あぁ……ジョージ先輩……ジョージ先輩ぃ……」


 予想外の展開に驚きを隠せないカノンちゃんですが、朝比奈先生はそれどころではありません。色白の肌はこれでもかというほど鮮やかに紅潮し、瞳は潤んで、唇からはうわ言のように『ジョージ先輩』が漏れています。完全にメスの顔です。そうした学年主任の反応には、密かに彼女を狙っていた男性教員たちが狼狽しました。


「あ、朝比奈先生!? その、この男性とはどのような関係なのでしょうか!?」

「もしかして昔、お付き合いしていたとか!?」

「しかし今は、生徒の保護者ですよ!?」

「そうです! ですので事実確認のため、その辺のことを詳しく!」

「そ、その、ジョージ先輩は私……ではなく私たちみんなの憧れの先輩でして……その、とってもカッコよかったんです! いや、今はもっとカッコいいですが!」

「サンクス、アサヒナ。キミも、相変わらずとってもキュートだよ」


 にっこりと微笑んだジョージさんは、ごく自然に、その掌を朝比奈先生の頭に置きました。成人男性による許可を得ない接触は、通常であれば訴訟案件ですが、イケメンフィルターが発動した場合に限り、それはセクハラからヒーリングコミュニケーションへと変換されます。神に選ばれたリア充だけに許されし奥義『撫でポ』の発動です。


「ジョージせんぴゃいぃ~……」


 その効果は絶大で、御年二十九歳の学年主任は穢れを知らぬ少女のように、その美貌をデロデロに溶かしてしまいました。二十九年間守り続けてきた処女膜も、あっという間にドロドロです。朝比奈先生の今夜のオナペットが決まりました。


「ちょ、朝比奈先生!? しっかりしてください!」

「生徒たちの前ですよ! 目を覚ましてください!」


 一方、着々とフラグを積み重ねてきた男性教師たちは、気が気ではありません。なんと彼女の注意を逸らそうと声を張りますが、奥義によりヘブントリップした朝比奈先生には届きません。むしろ慌てふためくその姿に、外野のほうが色めき立ちます。


「え、修羅場!? これ修羅場なの!?」「いやあのふたりだと、勝負にならないでしょ」「イケメン力が違い過ぎるって」「でもあの人って、あの子の保護者なんでしょ?」「えっ、ってことはヒナ先生、不倫ルートに突入なの!?」「燃える展開ね!」


 いったん散会したはずの野次馬たちもいつのまにか戻ってきて、平穏だったはずの放課後の廊下は、ジョージさんの巻き起こしたイケメンハリケーンによって、喧々囂々の悲鳴が湧く被災地へと相成っておりました。これにはバタフライ効果の発生源である、カノンちゃんも焦ります。


「じょ、ジョージさん、とにかく外! 外に出ましょうか!」

「あ、茉莉さん。ちょっと待ちなさい」


 ひとまず混乱の現況を現場から隔離しようとしたJKのレスキューに、待ったの声がかかりました。振り返ると少し正気を取り戻したらしい学年主任の瞳に、真剣な色が宿っています。


「えーっと……なんですか、ヒナ先生? ワタシハワルクナイデスヨ?」

「べつにこの状況について、あなたを咎めるつもりはありません。むしろ個人的には褒めてあげたいくらいです。グッジョブですよ、茉莉さん」

「「 朝比奈先生っ!? 」」


 率先して学園の治安を維持すべき立場の学年主任にあるまじき発言に、男性教員たちが揃って非難の声を上げます。ですが今まさに青春を取り戻した二十九歳独身乙女は、何の痛痒も覚えません。気にすべき問題はもっと、他にあります。


「それよりも茉莉さん、あなたはジョージ先輩の……む、娘さんなのかしら? 苗字が違うようですし、顔つきなんかも……ちょっと、血の繋がりを感じられないのだけれど」


 何気に顔面偏差値をディスられたカノンちゃんですが、そこは確かに仰るとおりなので口答えなどいたしません。空気の読めるJKは精々、朝比奈先生の死角からジョージさんの背中を抓ることでウサを晴らします。そんな叔父さんは姪に構ってもらえて嬉しそうなので、これぞWinWinの関係ですね。


「いえ、違いますよ。私は叔父さんの、姪にあたります。今は両親が仕事で海外にいるため叔父さんの家に居候させてもらっているんですけど、そのへんの書類は提出していませんでしたっけ?」

「ああ、たしかにそういえば、そんな家庭事情の生徒がいたわね……でもそれがまさか、ジョージ先輩の家だったなんて……」

「あ、朝比奈先生? それがいったいどうしましたか?」

「どんな事情であれ、彼が我が学園の生徒の保護者であることに変わりはありませんよ?」


 同僚たちの動揺を無視して「……これならまだ」「……私にもチャンスが」「……がんばれ、薫子」などと呟く学年主任は、意を決して口を開きます。


「そ、それではジョージ先輩は、まだご結婚はされていないのでしょうか?」

「イグザクトリー。良縁に恵まれなくて、ね。恥ずかしながら、この歳になっても寂しいシングルさ」

「そんなことありませんよ! 私だってまだ独身ですし、しょ、処女ですから!」

「「 朝比奈先生ぇっ!? 」」


 学年主任(膜付き)の暴露に、男性教員たちが揃って声を荒げます。ついでに鼻息も荒いです。股間に血流が集まっております。伊達に日頃から朝比奈先生を性的な目で見てはいません。本日は彼女似のAV女優が大活躍間違いなしです。


 また野次馬たちも憧れの先生がまさかのビンテージバージンだったことに、悲喜こもごもの黄色い声を湧かせました。


「え、ヒナちゃんまさかの乙女宣言!?」「いや~、さすがにブラフでしょ? だよね?」「三十路の処女とか引くわー」「いやでも、もしこれがあの人のために操を立てていたんなら、萌えない? 燃える展開よね!」「私はヒナ先生を応援します!」「わ、私も!」


 使いどころを逃した醜女の膜なら侮蔑の対象ですが、美人なうえ才媛で生徒たちからの人気も高い学年主任の膜は、プレミア認定です。まさかの乙女展開に、朝比奈先生の株はストップ高状態。そんなの婚活希望女子に、状況についていけず呆然としていたカノンちゃんは肩をガッシリと掴まれました。


「茉莉さん。これからは、学園で困ったことがあればまず私に相談してくださいね。いいえ、学園だけではなくプライベートなことでも結構です。いち教師として、女性として、可能な限り「親身』になって、相談に乗らせていただきますので」


 告げられる言葉は人生の先達者としての頼もしいものでしたが、肩にめり込む指先が、ギラギラと滾る視線が、言外に『絶対この縁を逃さないわよ!』と物語っております。学年主任の鬼気迫るプレッシャーに、カノンちゃんは「は、はひぃ……」と頷くしかできませんでした。ほんのりと下着が湿ってしまったことは、本人だけの秘密です。


        ◆


「……っ! あの男が、わたくしのカノンさんにまとわりつく、悪い虫……っ!」

「まさか……そんなまさか……っ!」


 そしてそんなジョージさんの襲来が、野次馬の外からその光景を見ていた幼馴染みたちにも影響を与えていたことを、カノンちゃんはもう少しあとになってから知るのでした。



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