異世界の情緒
異世界というのは、本当に異世界なのだと実感したのは、この時は始めてかもしれない。
とにかく広い。
世界が現代より大分広く感じる。
まるで、商店街がリゾートかのように人が集まり、足を止めて、交流を行っている。
そんな、人口密度が爆上がりの場所ですら開けて感じる。
その様は、まさに異世界だった。
テレビで見た、世界のどの商店街やショップよりも人が溢れている。
「人が多いな」
肌が焼けるように感じる日の下、人々が行き交う大通りを進んでいた。
「昼終わりですので、買出しする方々が殆どです」
その活気は、やがて穏やかになったものの、人の数は減るどころか、増えていった。
「ここは、中心的な商業の街なのか?」
対面に座るケインは、窓を流し見して答える。
「この通りにある店は、全て大衆向けですな。この通りには、我等が商会も10数軒構えております。」
大通りと言えど、露店ではない通りは、大きな建物が連なっているため、十数軒と言えば、半数以上に感じる。
「そうなのか・・・」
少々の驚きを覚える。
実家の家を見る限り、金銭面では困っている様に見えなかった。
「中心的な商業の施設は、もう少し遠出をしたところにありますぞ。そこでは、加工品が多く、高価なものが手に入ります。武具から装飾類、石の類ですな。最も、石などは別の場所を使ったほうが品質も量も段違いですので、あまり見るものはありませんな」
「ふむふむ、なるほど?」
しばらく進むと、チラリと裏路地が見える。
2、3階建ての建物が連なる路地裏、光が十分に当たらず、少々暗い中、黒くくすんだ人影は、路地を黒く塗りつぶしている様に見えた。
「何か、路地裏が多い気がする」
ふと気になったことを口に漏らす。
「そうでございます。富集まるところでは、影は深くなるものです。この街の後ろには、黒い世界が広がっております。近づいてはなりません」
ケインはその光景を当然の如く肯定し、また、容認していた。
「歴代の領主は解決策を講じなかったのか?この様では、治安は悪化するばかりだろうに」
路地裏が多く見えるということは、それだけ人心が荒れているということではなかろうか。
今は、彼らを抑えられるだけの治世をできているが、もし爆発すれば、
「彼らは皆、富をなくした者たちです。経済と言う大きな流れがある以上、富による格差は必ず出ましょう」
「しかし、手を打たなければならないだろう」
富の格差は個々人の経済格差に繋がり、何かのきっかけで団結し、体制を崩しかねない。
彼らは、必要最低限、人としての生活を営んでもらわなければならない。
「・・・クリフ様は彼らをどうにかするべきと考えておられるのですか?」
ケインはクリフ驚き、こちらを見つめていた。
クリフの考えを読もうと様子を伺っているようだ。
「彼らに、経済活動の一部になってもらいたいと思っている。これだけの路地裏だ。人力があるなら、使わない手はない。それに、土地も勿体ない」
ケインは、暫くして、クリフに問う。
「クリフ様、今の貴方には記憶がありません。そして、これまで身につけた知識も。そんな状態のクリフ様を駆り立てるものとは、一体何なのでしょうか?」
転生して、見ず知らずの人間として生まれ変わり、ようやく仕事タスクに追われない日常にこれたという安堵の中で、自分の仕事は何か、何か無すべきことがあると思ってしまう。
そうした感情をなんと表現するべきか。
「・・・不安だろうか。街に出て改めて思ったが、胸中に溢れる不安が、何かをしろと、行動しろと訴えているように感じるのだ」
ケインは、クリフの胸中にある不安を、記憶喪失と家族を知らない事だと思い当たった。
「承知いたしました。このケイン、クリフ様の手となり足となり、いかようなことでもお手伝いいたしましょう。早速ですが、先程の路地裏に関して、いかがいたしますか?」
ケインは、まずは試しにと、クリフ応援することにした。
「補助をしよう。彼らに学と家を与え、経済活動を行ってもらおう。大量に買って、消費し、働いて財をためる。これが、後に経済力になるはずだ」
まずは、稼ぎ、経済力をつける力を与える。
この格差からして、貧富には、絶対の格差があるはずだ。
まずは、土台を作って、豊かになる基盤を作る。
「承知いたしました。公共事業として、実験的に都市での無料教育機関を作りましょう。路地裏では、食料の配給を行いましょう」
「ああ、やってみてくれ」
しかし、この一手は、少々の反感を買って、失敗に終わるのだった。




