クラディウス家という家
お昼過ぎ、執務室では、3人の男と1人の女性が中央ソファーでひざを突き合わせていた。
一方には男女が座り、対面にコルトとケインが座る。
昼の陽光が窓から入り込み、部屋の半分に影を落としていた。
「クリフの件で話があるようだな」
金髪の男、クリフの父がケインに目を向ける。その顔は、美男という風貌で、中世的な面を持つ顔だった。
「あの子に何かあったの?」
黒髪短髪のパンツスーツの女性、クリフの母がケインとコルトの顔を交互に見る。
ケインは、重い口を開け、話し始める。
「・・大変申し上げにくいのですが、クリフ様はどうやら記憶喪失という物になってしまったようでして」
「記憶喪失?どういうことだ?」
クリフの父、グラートは屋敷の医者であるコルトに目を向ける。
「先ほど、クリフ様のご様子を見たところ、一部の常識以外をすべて忘れておられました。ご両親のことも、ご兄弟のことも」
コルトは視線を下に向けるケインに目を向ける。
「そして、我々のことも、忘れておりました」
「そんなっ!どうして、どうしてクリフはこんな目に合わうの!」
クリフの母、メアリーは勢いよく立ち上がり、悲痛の声を上げた。
その量の手には拳が握りしめられていた。
「・・・治らないのか」
グラートは、眉を上げ、すがるようにコルトを見る。
「・・・・残念ながら、記憶喪失は病ではありません。おそらく、後遺症の一種かと考えます」
コルトは、事実を平坦に語ることが出来ず、二人の姿を直視できずにいた。
グラートは肩を落とし、一言告げ、それきり黙ってしまう。
「・・・そうか」
メアリーは、目尻に浮かぶ涙をぬぐうこともせず、ただ声を上げる。
「どうすればいいというのっ!」
部屋が静まり返った後、ケインが顔を上げる。
「クリフ様は、病と闘い、打ち勝たれた。クリフ様が生きている限り、それは、変わらる事実となりましょう。どうかお二人は、クリフ様が生きてらっしゃることこそ、クリフ様の頑張り抜いた姿だとお考え下さい。そして、一から、クリフ様との思い出を作っていただきたく思います」
ケインの眼には、光りが灯り、二人の親を視線が射貫いていた。
二人は、先ほどの激情が急激に覚める思いがした。
「ケイン・・・だが私は、まだ心の整理が」
「今、最も困っているのはクリフ様です。どうか、寄り添っていただきたい」
ケインの力強く震える声が、妙に大きく響いた。
ケインは、生まれてからこの方、クリフの世話をし続けた執事だ。
屋敷の誰よりもクリフに深入りし、おそらく両親よりもクリフと絆が深い人物だ。
そんなケインは、クリフを思い、両親に、よき両親であり、よき理解者であることを求めた。
「・・・分かった、最善を尽くそう。メアリーもそれでいいかい?」
グラートはメアリーに目配せをする。
「・・・ええ」
メアリーは、顔こそそむけたままだが、返事をした。
今、この段階では、ケインこそが、クリフの最大の味方だった。
既にお昼の時間帯となるが、クリフは部屋で休息をとっていた。
ケインとコルトは、クリフの両親に事情や今の状態を話しているようだ。
「思ったよりも深刻だな・・・」
ケインとコルトの反応から見ても、現状はよろしくない方向に進んでいる。




