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073話 第一皇子派の解体

 ドリスが拘束されたこともあり、祝宴は通常の晩餐会になり替わって慎ましく行われ、静かに解散となった。


 ユリィは城で一夜を過ごし、朝を迎えた。

 トモリンたちは学園担当の皇女近衛騎士ではあるけれど、学園卒業後には城勤務となることもあって、城には部屋を用意してある。ユリィの部屋の近くだ。


「城に泊まったのは初めてだぞ!」


 これこそサクセスストーリーの一歩目だと、感慨深そうに語るミーサ。


「皇族の階層。見晴らしもいい」


 城の最上階には皇帝と皇妃の部屋があり、その下の階層に皇子、皇女の部屋がある。それぞれの近衛騎士や専属のメイドなどは、主と同じ階層に住まうことになる。


 朝ということもあってテンションが低いエマだったが、見晴らしの良さがそれを帳消しにしていた。


「少し手狭にはなりましたが、それでも十分です」


 これまでマルティナはこの部屋に一人だけで割り当てられていた。今はトモリン、ミーサ、エマを含めた四人部屋になっている。


「お城って、団子とか饅頭まんじゅうとかを売っている所だと思っていたよ。でも、全然ないね!」


 庭園を眺めても、屋台は見つからない。

 前世の記憶の、どこぞの日本の城をイメージしていたトモリン。それは観光地であって、現役の城ではない。


「城で商売するなんて、どこの国の王様だよ!」


 ビシッとツッコミが入る。


 コンコン。

 扉がノックされた。


「どうぞ」


 マルティナが答えると、扉が開いた。


「みんな、おはよう」


「あ、ユリィちゃんだ! おはっち~」

「姫様、おはようございます!」

「ユリィ、おはよう!」

「おはよう」


 淑女のたしなみは、朝の挨拶から。全然淑女らしくないが。


「今日は学園に戻らずに、少しやってもらいたいことがあるの。いいかしら?」


 噴火で急遽中止になった野外演習の期間中ということもあり、今日は授業はない。

 ちなみに、テイン皇帝は野外演習中だとは知らずに、急ぎでの招集をかけていたのだ。


「もちろんですよ! 姫様のお役に立てることでしたら、なんなりと!」


「何をするんだ?」


 いつもなら早朝から剣の素振りをしているのだが、今日はそのような場所を教えてもらってないこともあって、暇を持て余しているミーサ。


「そうね。ついてきてもらえるかしら?」


 全員で城内を階下へと下りて行く。

 一階まで下りた所で、内政を担当している者たちが集う区画へと向かう。

 そこにある、業務のために用意された応接室の前まで行き、扉を開ける。


「救世主様、皇女殿下、お待ちしておりました」


 極めて質素な応接室の中にいたのは、オイゲン宰相だった。

 テーブルの上には鉢植えの花が四つある。少し異様な光景だ。


「オイゲン、始めましょうか」


 そう言うと、ユリィは奥の方の席に座った。トモリンたちもその近くの席に座る。


「ははっ。一人ずつ連れて参ります」


 オイゲン宰相は一度応接室から出ると、すぐに男を一人連れて戻ってきた。男の手は縛られている。


 男はユリィの顔を見ると怯えるように後ずさる。

 昨夜、捕縛されて廊下で待たされている間、食堂の扉が開いていたこともあって、ユリィの「恐ろしい体罰」についての話が聞こえていて、いろいろ想像していたのだ。


「トモリン、いいかしら? 今日は、昨日拘束した犯罪者たちを、更生させて欲しいの」


「え~! ウザ男が増えちゃうよ~」


 嫌そうに顔が引きつらせるトモリン。


「トモリン。ユリィは改心じゃなく、更生と言った。何かが違うかもしれない」


「そんなことより! 姫様、拘束した犯罪者とは、一体どういうことなのでしょう?」


「そうだったわ。みんなには昨日のことを話してなかったわね」


 ユリィは手短に昨夜の経緯を話した。


「そうだったのですか。あのカスパル卿が、ドリス陛下を嵌めて自滅に追い込み、さらに第一皇子派の貴族たちの犯行をつまびらかに自供したのですか……」


 大きく頷くマルティナ。


「悪魔を使って私たちを襲う計画を立てた者たち。それを今から一人ずつ更生させるのよ。それで、せっかく四人もいるのだから、トモリンの魔法の調整に使おうかと思ったの」


「魔法の調整ってなんだ?」


 魔法を使えないミーサが小さく首を傾げて尋ねる。


「今までは、戦いの最中ということもあって、浄化の魔法を全力で発動していたと思うの。それでちょっと行き過ぎ、ごほんっ、新しい世界に目覚めたのだと思うから、今日は威力を弱めて浄化の魔法を発動してもらうわ」


「これは実験。興味深い。四人を違う威力で浄化する。それで適切な魔法の威力を見極める」


「そうね。最初はいつもの半分の威力で試してもらいましょう。そうすることでそれよりもっと上の威力がいいのか、下の威力がいいのかわかるから」


 徐々に威力を下げるより、一気に半分まで下げる方が解に近づきやすい。ユリィはなかなかに賢い。


「うん、わかったよ……。いつもの半分の威力でキラキラにすればいいんだね?」


 まだ嫌そうではあるが、手に木の杖の形状のスティックを出現させ、鉢植えの一つを見るトモリン。

 そして、体罰が始まると思い、目を強く閉じて顔を逸らし、身構える男。


「そこの葉っぱさん、キラリと輝いて、そこの男の人をキラキラにして!」


 すると、鉢植えの花の葉が二枚大きくなり男に向かう。

 何かが体に触れた感触で閉じていた目を開く。

 その目に映ったのは巨大な葉。

 目を丸くして驚いてつまずき、床に転がったまま男は葉に包み込まれた。


 葉が光り輝く。

 そのキラキラ具合は、確かに従来の半分ぐらいに見える。


 やがて、光が収まり葉がペラリンとめくれ上がると、うるうるした瞳の男が、芋虫のように這ってトモリンの足元に縋りついた。


「救世主様!」


「ダメだ、こりゃ」

「ウザ男……」

「威力を半分に落としても、こうなるのですか……」


 呆れる面々。


「オイゲン、入れ替えて」


「ははっ!」


 オイゲン宰相はトモリンの足元の男を掴み上げて部屋を出ると、すぐに新しい男を連れて戻ってきた。


 今度の男は、さっきの男よりも、さらに怯えている。最初に入った男の豹変ぶりを目の当たりにしたからだ。

 きっと、服の下にはひどい傷を負わされているのだろう、そしてそれは心変わりするぐらいの強烈な体罰なのだろう、と思っている。

 どんな恐ろしい出来事が待っているのか。男は天井を見上げて自身の無事を女神に祈る。


「トモリン。今度はさらに半分。全力の四分の一で行きましょう」


「うん。もっと弱めるんだね!」


 トモリンがスティックを手にすると、それだけで男は恐れおののき、M字開脚で床にへたり込む。トモリンのことを、体罰の執行係だと思ったからだ。

 そんなことはおかまいなしに、トモリンは魔法を唱える。


「う、うわっ!? 魔物!?」


 想像していた状況とは別の、大きな葉が迫ってくる光景に、パニック状態になる。尻を後ろにひきずろうにも、腰が抜けていてこの場から逃げ出すことはできない。

 観念した男は葉にくるまれた。

 葉はほのかな光を放ち、キラキラ感も、今までよりもだいぶ減っている。


 やがて光が収まり、ペラッとめくれた葉から出てきた男は。


「ああ、私はなんという悪事を働いていたのでしょうか! 世の中は多くの悪事で溢れ、悪人がたくさんいます。今後は命に代えても皇女殿下をそのような悪意からお守りし、帝国の発展に尽くします!」


 ユリィに向かって土下座した。腰の方も治っているようだ。


「ええ。あなたの誓いは確かに聞き取ったわ。顔を上げてくれるかしら?」


「そのお美しいお顔に、私の罪深い瞳を向けるなど、恐れ多きこと! しかし! 皇女殿下の命は絶対です。どうか、私の汚れた瞳が向くことをお許しください」


 長い前置きの後、男は顔を上げた。


「それじゃあ、この子の顔を見て。誰だかわかるかしら?」


 ユリィはトモリンに右手を差し向ける。


「はい。学園担当の近衛騎士、でしょうか?」


 頬を指でポリポリ掻いて、なぜそのようなことを尋ねるのかと考える男。


「それ以外には? 見てもなんとも思わないの?」


「うーん……。以前に登城された際に、遠くで顔を見たことがある程度で、詳しくは……」


 大きく首を傾げて思い出そうとする。


「わかったわ。それでは、あなたが思う救世主様って誰の事?」


「それはもちろん! ユリィ皇女殿下をおいて他にありません!」


 その返しに、左手で額を押さえたくなる、複雑な気分のユリィ。


「おお! 更生に成功したぞ!?」

「うん。成功。これで平和になる」

「やった! ウザ男が増えなかったよ!」


 ぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶトモリン。肩の上のココナもそのまま一緒に上下している。


「実験は成功ね。オイゲン、入れ替えて」


 この後に連れられてきた男は、全力の四分の一の威力のままで魔法を発動し、再現性を確かめた。

 その結果、更生に成功し、トモリンを救世主と崇めることはなかった。


「うまくいったわ」


「大丈夫みたいだね」


 オイゲン宰相によって、男はすぐに入れ替えられる。

 最後の男も、全力の四分の一の威力の魔法で更生に成功した。


「全力の四分の一。もう覚えたよ!」


『その覚え方は危ないコン。魔力の上限が増えたら、行き過ぎるコン』


 算数が苦手なミーサに代わって、ココナが警鐘を鳴らした。


「そうなの? じゃあ、これぐらいの威力だって覚えるよ!」


 多少の不安がよぎるが、失敗したら「ウザ男」が増えて自業自得なだけだ。


 男はオイゲン宰相によって外に連れ出され、今度はカスパルを連れて入ってきた。とくに拘束はされていない。


「救世主様! オイゲン宰相から伺いました。救世主様はその存在を、この悪意に満ちた世の中から隠されているのですね。そして、ユリィ皇女殿下が救世主様のお考えを世に広める役割を担われているのですね。わたくしは女神様に誓って、救世主様のことを口外することはありませんのでご安心ください」


「ゴホン。城内では、ユリィ皇女殿下が救世主様だということになっておりますれば、先の四人には、そのように振る舞ってもらうことに致しますので、真の救世主様のことが漏れることはありますまい」


 城内において、皇族を差し置いて崇める存在がいるなど、認められないことだ。


「わたくしどもは、この身が果てるまで、救世主様の目指される理想の世界を実現するべく、邁進する所存です」


「女神様は、村人の上に町人を造らず、だよね!」


「その件につきましては、もちろん、粛々と進めさせております。大きな改革ゆえ、既得権益に縋りつく者、悪意を持つ者も多く、すぐに実現、ということにはなりませぬが、同志の増えた今、加速して進めて参りましょうぞ」


 カスパルを含めると五人。オイゲン宰相の配下に「それなりに発言力のある」貴族が加わった。これで人権に関する改革は進みやすくなることだろう。


 それとは別に、オイゲン宰相には噴火対策に尽力してもらい、また、その先のことについてもユリィから「救世主様の意向」として指示が出ている。彼は、大変忙しいのだ。


「オイゲン、感謝するわ。トモリンも、そう思うでしょ?」


「う、うん。かんしゃしてるよー」


 ユリィのパスには慣れたはずだが、棒読みになる演技力のないトモリンだった。


 オイゲン宰相とカスパルは、うやうやしく一礼すると、応接室から出ていった。


「次の場所へ向かいましょう」


 綺麗な花が咲き誇る裏庭を通り、別棟の後宮へと向かう。

 途中、西の方から、兵士たちが訓練する声が聞こえてくる。


「おお! 軍に入隊すると、あそこで訓練するんだな!」


「みなさん、頑張ってますね」


「ミーサは、近衛騎士になったから、入隊はできない」


「そうなのか!?」


「ええ。ミーサは近衛騎士だから、軍に入隊することはできないわ。でも、近衛騎士は一般兵士よりも階級が上の扱いになるから、もう入隊しているようなものだけど」


 そんな、練兵場とは反対の東側に後宮がある。

 そのたたずまいは、豪華な貴族の屋敷のようだ。


 後宮の中に入り、廊下を奥へと進んで行く。

 何度か角を曲がると、そこには地下へと下りる階段があった。


 カツ、カツ、カツ……。

 石造りの階段を地下へと下りて行くと、視界がどんどん暗くなっていく。

 所々、壁に掛けられている明かりの魔道具の光だけが、周囲を弱々しく照らしている。


 暗い通路の先に、衛兵が立っていた。オイゲン宰相が事前に手配しておいた者だ。


「皇女殿下、お待ちしておりました。これをどうぞ」


 衛兵は、手に持っている鉢植えと鍵のような物を差し出す。それをマルティナが受け取った。


「ありがとう。あなたは下がっていてくれるかしら?」


「はっ!」


 ユリィがその場を離れるように促すと、衛兵は敬礼して去って行った。


 衛兵がいた後ろには牢屋があり、鉄格子越しに、怨み言が聞こえてくる。


「誰かと思えば、ユリィじゃない。このような所に閉じ込めて、私をあざ笑いにでも来たのかしら? オホホホ。少し人気があるからって、調子に乗らならないことね!」


 ドリスは睨むような目でユリィを見、まったく悪びれた様子はない。


「ドリス義母様。あなたは義理とは言え、私のお母様。それを笑うようなことはしないわ。あなたには、正しい道を歩いてもらいたいの」


「何を今さら! いい子ぶってるんじゃないわよ!」


 ドリスの悪態が止まらない。


「あなたは、帝国の重鎮。だから、目を覚ましてもらうわ」


「そ、そんな大勢で取り囲んで、ぼ、暴力を振るうつもりね!? はしたない子だわ!」


 ユリィはそれに答えることなかった。

 マルティナが牢の鍵を開けて中に入ると、その後ろにトモリンが入る。


「ドリス陛下。痛くはしませんから、静かにしていてください」


「無礼者! な、なにをするつもり!?」


 激しい剣幕でマルティナに言い募るドリス。


「トモリン、始めてちょうだい」


「うん。四分の一だね! いっくよー!」


 スティックを手に、魔法を唱えると。


「な、な、な!?」


 ドリスは大きくなった葉に包まれ、懸命にもがく。

 しばらくの間、葉が輝き続け、その光が消えゆく頃にはドリスのもがきも収まっていた。

 ヒラリと葉が開いてドリスが滑り落ちる。


「あ、あら? 私は今まで、なんて愚かなことを考えていたの?」


 そして、床に手をついたまま顔を見上げると、ユリィの姿を目にして涙を流す。


「ユ、ユリィ。私が悪かったわ。許して……。私が犯した罪は、決して許されるようなことではないのですが……」


「ドリス義母様。あなたが犯した罪は大きいわ。だから、あなたの人生をかけてそれを償ってもらいます」


 少し物悲しそうな声でユリィが話す。

 罪人とはいえ身内であり、それを裁くのは気の進まないことだった。


「あなたには帝国貴族の結束に尽力してもらうわ。第一皇子派、第二皇子派に分かれている派閥を解消し、一つの帝国になるよう貴族たちをまとめて欲しいの」


 半分だけ開いた瞳で、悲し気に話すユリィ。


「ユリィ。そのようなことでいいのですか? そんなことで私の罪は消えるのでしょうか?」


 ドリスは溢れる涙を止めることなく目を見開き、じっとユリィを見つめる。


「多くの貴族の利権争いの矢面やおもてに立つことになるわ。決して楽なことじゃない。だから、命懸けのことになるでしょう。それでも、帝国の未来のため、あなたには頑張ってもらわなければならない」


 半眼のまま、目線をドリスに向けて話した。


「わかりました。私が、この命をかけて成し遂げてみせましょう」


 その言葉を聞いて、マルティナがドリスの手を引く。


「ドリス陛下。さあ、お立ちください。牢から出ましょう」


 晴れて、ドリスは自由の身となった。

なっしんぐ☆です。

軽い気持ちでWin11にアップグレードしてしまい、

ベリー・クルシミマスな週末を送っていました。

Win10で出来たことの多くができなくなっています……。

タスクバーに、メモ帳を複数並べて表示できないのが痛恨の極みです。

本文、設定、プロット等、複数同時に開いて執筆していますので。


皆様におかれましては、慎重にアップグレードされることをお勧めします。

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