表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/275

060話 【前の世界線】トモリン、アリシアと出会う

 三つの神器(実際は二つだけ)を見せたところで神官たちは焦燥しきってしまい、ビノラ王国で起こした奇行についての聞き取りはなされなかった。


「ミーサ、食べ過ぎ」


「むぐむぐ。今日を逃せば、一生、こんな料理、食べられないぞ。エマも、もっと食え!」


 ガツガツ料理を食べ続けるミーサと、エアになっているエマ。


「大陸を、世界を守るため、女神の使徒トモリン様には、誰か相応しい者をお付けせねばなりません……」


 神官たちがざわざわと話し合う。


「聖女様がよろしいのではないでしょうか? お歳も近いように感じますし」


「それがいい! アリシア様をお呼びするのだ!」


 末席の神官が、扉から出て行った。彼は出たり入ったりで、ほとんど料理を口にしていない。


 しばらくして、神官は一人で戻ってきた。


「どうした? アシリア様は?」


「それが……。今、治癒の最中なので後にしてくれとのことでして……」


 この国では一番偉いのが教皇で、聖女はそれと同等の地位にある。その下に司教、司祭と続く。

 そのため、下っ端の神官では聖女の言い分を曲げることはできない。できるとしたら、教皇だけだ。

 一般市民は平等だけど、指導者である神官たちには上下関係が存在する。


 ちなみに、歓談の席順からわかるように、女神の使徒トモリンは教皇のさらに上の存在になる。言い換えれば、聖ファサラン国で最大級の権力者ということになるのだが、本人はそれに気づいていない。


「しょうがありませんな。私が説得に行きましょう。女神の使徒トモリン様をお待たせするわけにはいきませんから」


「私? 私はまだたくさん食べれるから大丈夫だよ? 食べ終わったら、会いに行くから、あとで連れてってよ!」


 トモリンも、説明やら実演やらで、料理をそれほど食べていなかった。ここからが、トモリンのショータイムならぬ食タイムだ!

 ミーサに負けない食べっぷりで次々と料理を完食していくトモリン。とても貴族の所作には見えないが、皆、黙っている。


「ふー。食べた食べたっと。ごちそーさま!」


 しばらく食べ続け、すべての皿を空にすると、ニコっと食事完了の挨拶をした。


「それでは参りましょうか」


 教皇が椅子から立ち上がってトモリンの隣へと行き、手を引いて立ち上がらせる。


「うぷっ。ちょっと食べ過ぎたかも……」


「同じく……」


 ツッコミができないミーサだった。


 広い大聖堂の中を、教皇の後ろについて歩いて行く。

 大理石のような床は、コツ、コツ、コツと教皇の歩く靴音を響かせている。


「こちらです。アリシア様、入りますよ」


「いいですよー!」


 教皇が扉をノックすると、元気な返事が返ってきた。


 扉を開けて中に入ると、内部は白い布のパーテーションで仕切られていて、その陰からピンク色のボブカットの少女が現れた。


「フェルっち、何か用ですか? 新しい患者さんですか? 今日は予約でいっぱいなのです」


 トモリンたちの顔を一通り見てから病人と勘違いした聖女アリシア。

 苦しそうに見えるのは病気ではなく、食べ過ぎが顔に出ているだけだ。


「実は、女神の使徒様をお連れしたのです」


「どこですか? どこにもいないのです」


 きょろきょろ見回し、背伸びしたり屈んだりするアリシア。そもそも、先ほど呼びに行った神官から話を聞いていなかったのだろうか?


(こ、これはトモリンと同じ匂いがするぞ! トモリンに付けるとか言ってたけど、やばくないか?)


 天然臭全開のアリシアに、ミーサはちょっと心配になる。


「こちらが、女神の使徒、トモリン様です」


 教皇の紹介で、トモリンが前に出る。


「私は、トモリンだよ! よろしくね!」


「えー? コレが使徒様ですか? 羽が生えていないのです」


 アリシアはトモリンの背中をぽんぽん叩く。失礼極まりない。


「羽があると言うのは、聖典における記述ですから、何かの比喩とかなのでしょう。例えば、トモリン様が空を飛べるとか……」


「飛べないよ!」


 即答したトモリン。


「えー! トモっち、空を飛べないのですかぁ? 偽者ニセモノなのです」


『浮かせることぐらいなら、できるコン!』


 ココナがぴょんと跳ねると、トモリンの足が宙に浮く。


「「わああ!」」


 浮いた本人と、それを見たアリシアが同時に驚いている。


「おおおお! 奇跡の御業みわざ!」


 やや遅れて教皇も驚いた!

 床に手をついて平服している。


「これは間違いないです! トモっちは女神の使徒様なのです! 私はアリシアです! よろっちなのです!」


「トモリンだよ。よろしくね!」


「お互いの紹介が終わられたようで何よりです。実は、アリシア様には、トモリン様に付き従って、その救世の道を手助けして頂きたいのです」


 教皇は立ち上がって姿勢を正し、咳払いをしてからアリシアに説明をした。


「使徒様のお手伝いをするのは、もちろんなのです! でもですね、しばらくはできませんから。予約でいっぱいなのです」


「アリシア様。目先の病人のことよりも、大陸に降りかかる災厄を回避するほうが重要ですぞ」


 聖典には女神の使徒が現れるとき、災厄が起きると書いてある。


「病気で苦しんでいる人が、いっぱいいるの? アリシアちゃん、私、手伝うよ!」


 トモリンがアリシアの手を握ると、アリシアは薄く頬を染め、目を潤ませる。


「いっぱいいるのです。そして、間に合わない人、助からない人もいるのです……」


 アリシアは毎日精一杯頑張っている。それでも全員を救うということは不可能なこと。これまでに何人もの「間に合わなかった人」を見てきた。


「任せて! ばばーんとやっちゃうから!」


 どーんと平らな胸を叩いて自信を垣間見せるトモリン。


「それでは、女神の使徒トモリン様の御心のままに」


 そう言って、教皇は退室した。


「おいおい、丸投げしたぞ。大丈夫なのか? あ、私はミーサだ。よろしくな」


「ボクはエマ。よろしく」


「ミサっち、エマっち、よろっちなのです!」


 右手と左手でそれぞれミーサとエマの手を握り、ぴょんぴょん飛び跳ねるアリシア。一応ここは病室だ。良い子はマネをしてはいけない。


「どの人から、やっちゃう?」


 知らない人が聞いたら、墓場行きのように聞こえるセリフを堂々と声にし、ベッドの周りを歩く。


「この人が、一番天国に近いのです!」


 てててっとベッドに走り寄り、パーテーションをずらして中に入るアリシア。


「デ、デリカシーってものは、ここにはないのか!?」


 こめかみを押さえ、俯き気味に首を左右に振るミーサ。病人の前で天国が近いとか、普通であれば言ってはいけないことだ。


 トモリンもパーテーションの中に入る。


「うわー、ボコボコがたくさんあるね!」


「なかなか小さくできないのです……。一つ小さくしても、すぐに他のが大きくなるのです……」


 悲しそうにアリシアが言う。


「これ、借りるね!」


 花瓶を添えてある台ごとベッドの横にずらし、それからスティックを握る。


「全力でやっちゃうよ! そこのお花さん、苦しむ病人さんを葉っぱで包んで、キラーンと癒してあげて!」


 すると、歓談の席で発動したのと同じように、花瓶の花の葉が二枚、大きく伸びて病人を包み込む。

 完全に包むと、葉の周囲にキラキラと光り輝く粉が舞い、葉そのものが眩しく輝く。

 そして、歓談の席のときよりも長い時間、葉は輝き続ける。


「ななな! これがトモっちの奇跡!?」


 やがて光が収まると、ゆっくりと葉が垂れ下がり、病人を優しくベッドへと滑り降ろす。


「ぬぬぬ! な、治っちゃいましたよ!? 全部、ぺちゃんこになっちゃったのです!?」


 頭をあちこちに動かして観察し、それから大きな声をあげたアリシアに、それまで意識のなかった「天国に一番近い人」が意識を取り戻す。


「こ、これは奇跡なのです! トモっちは異常なのです! 私はこれでも第五階級の回復魔法使いなのですよ!? コブ一つ治すのに何回もかかるのに、トモっちは一回でたくさんのコブを全部治しちゃいましたよ!?」


「はぁはぁ……。天国の近くって、ここからは結構遠いんだね……。戻ってもらうのに、ちょっと、疲れちゃったよ」


 テンションマックスなアリシアとは対照的に、お疲れモードのトモリン。

 魔法を発動すると、その威力や規模に比例して疲労する。今回は全力状態を維持し続けたため、自称山ガールで体力のあるトモリンでも体力の限界にきたみたいだ。


「わ、私は今まで……?」


 ベッドの上で首を横に向ける病人。今まで意識がなく、デリカシーのない言葉を耳にしなくて、ある意味、運が良かったのかもしれない。


「チミの病気は、ぜーんぶきれーに治っちゃいました!」


「おお! 聖女様! 再び私に生きる時間をお与えくださったのですね! 感謝致します!」


 うるうると涙を流し、「ありがたやー、ありがたやー」と拝みだす。


「私じゃないのです。ここの、女神の使徒、トモっちが奇跡の力で癒したのです!」


 椅子に座ったトモリンの背中をバーンと叩くアリシア。全然敬っている感じがしない。


「女神の使徒様……? ええ!? 女神の使徒様!?」


「トモっちですよー」


 聖ファサラン国の住民は、皆、信仰に篤い。聖典もよく読んでいて、女神の使徒が何たるかを知っている。


「……トモッチ様、このご恩は、一生忘れません……。頂いたこの命で、女神様の慈愛の御心を世に広げるべく、全身全霊をもって献身致します……」


 滝のように涙を流す病人。「ああ、トモッチ様……」何回もそう呟いて。

 この後、市井において女神の使徒は「トモッチ」という名で広まることになる。


「うーん、よかったですねー。家族に迎えに来るよう連絡を入れますからねー。チミは解放なのです!」


 そう言ってパーテーションから顔を出し、控えている修道女のような姿の女性に病人の家族を呼ぶよう指示を出す。


 パーテーションの中に顔を戻し、


「あ! トモっち、お疲れなら少し休むのです! お部屋がなければ用意させるのです!」


「うんとね、お部屋はあるよ。でも少し休むだけだから、ここで休むよ」


「それなら、あっちの部屋に行くのです! ここの木の椅子に座ると、お尻が痛くなっちゃうのです」


 アリシアにツカツカと連れられて、二つ隣の部屋に行く。そこはとても広い部屋で、立派なソファとテーブルがあしらわれていた。


 ソファにどかっと腰を下ろすと、すぐに修道服の女性が数人現れてお茶とお菓子を用意してくれた。

 威厳はまったくないが、アリシアは教皇に並ぶ権力者、聖女。部屋に入るだけで、すぐさまVIP対応だ。


「ふーっ。この椅子だと休まるねー」


「トモリン、このソファは最高級品。国宝級と言っても過言ではない」


 エマの鑑定眼が即座に査定する。特別なスキルではなく、商人としての経験で。


「え? そうなの? あんてぃーくとかってやつなの?」


 中途半端に前世の知識を引き出したトモリンは、高い家具イコール、アンティーク品だと思い込んでいる。


「違う。この表皮は幻の魔物、ウシースの皮をなめしたもの。適度に伸び、それでいて硬くない絶妙のフィット感。吸湿性も抜群。それに、この弾力は、幻の植物ゴメーンから採取した貴重な柔らかい綿に、剛性のあるチェアバードの羽毛をミックスしたものと推測できる」


「へー。珍しいソファなんだな。国宝級って、一体いくらするんだ?」


「中に、珍しい綿が入っているのですか?」


 グサっとソファにナイフを突き立てて中の綿と羽毛を取り出すアリシア。綿を揉み揉みして「なかなかの手触りなのです!」とニッコリ微笑む。


「ああああ! こ、国宝級だぞ!?」


 その奇行を見てビビリまくる貧乏人のミーサ。


「さっきの患者さんが聖女にって寄付した物ですよ? またくれますから、すぐに入れ替えになるのです」


 聖女に病気を治してもらうには、多額の献金が必要なのだと理解したミーサとエマだった……。


「アリシアちゃんって、どうして聖女なの?」


 この言葉には、これまでの「聖女」の奇行や人格を追及するような深い意味はなく、純粋に聖女ってどうやって選ばれるのか聞いてみたかったのだが、果たして真意は伝わるか……。


「聖女ですか? 聖女は光属性、回復魔法が第五階級になった者が選ばれるのです」


「親が聖女だったからとか、そういうのじゃないのか!?」


「親は関係ありませんから! それでもですね、魔法が得意な家系というのがあって、まったく関係ないわけではありませんよ。でもですね、私の両親は普通のパン屋さんなのです!」


 よくよく聞くと、アリシアは生まれたときから魔法が使え、面白がって遊んでいたら、いつのまにか第五階級にまでなっていたそうだ。

 たまたまアリシアを見かけた神官に見いだされて現在に至る。


「そ・れ・よ・り・も! トモっちのことをたっくさん教えて欲しいのです! 黒い髪は珍しいから、この国の人ではないのです」


「私はねー、エイクス帝国から来たんだよ」


 そして、エイクス帝国の紹介から、人権問題へと話が発展する。


「この国では、神官が神官をいじめたりはしないですよ? 町の人も、どこまで行っても町の人なのです!」


 トモリンの話に共感するアリシア。貴族がランキング下位の貴族を支配的に扱うことなど、聖ファサラン国における支配者階級の神官ではあり得ないことだ。


「女神様は、村人の上に町人まちびとを造らず、だよ!」


「うん。女神様は、村人の上に町人を造らず、なのです! トモっちをいじめる帝国を、ぶっ壊しちゃうのです!」


 性格の似た者同士で意気投合し、その後も熱く語り合うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ