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022話 伝説の始まり 後編

 町の西側へ行くと、教会はすぐに見つかった。


「あまり人通りがないわね。もう少し大きな通りで情報を集めましょうか」


 大通りに出て、屋台のおじさんに尋ねてみる。


「マルガって女性を探しているんだけど。そう、年齢は三十歳ぐらいね。どこにいるか知らないかしら?」


 実際はフランツとマルガはもっと若いのだが、十代の若者からしてみれば二十歳を超えれば凄く年上に見えるものだ。


「いやあ、あっしは知らないっすね」


 串焼き肉屋だったので、トモリンとミーサが一本ずつ購入し、頬張っている。ミーサは、串焼き肉ならケチらずに購入するようだ。

 残念ながら、ここでは有益な情報は得られなかった。


「ユリィ。屋台よりも、道沿いの古くからあるような店に聞く方がいい」


「そうね。昔からやっていそうなお店を探しましょうか」


 しばらく通りを歩き、目星を付ける。


「おい、あの店が古そうだぞ」


 ミーサの指差す先には石造りの建物があり、石と石との境目付近が黒ずんでいて、所々に草が生えている。いかにも年季の入った佇まいだ。


「ええ。行ってみましょうか」


 中に入ってみると、そこは酒を醸造し、販売もしている店だった。


「いらっしゃい」


 老婆が店番をしていて、にこやかに声をかけてきた。

 愛想笑いをしてから、先ほど同じように、マルガについてユリィが尋ねた。


「うーん。マルガねえ……。それぐらいの年頃だと、何人か聞いたことがあるさねえ」


 頬に手を当て、やや首を傾げながら答える老婆。


「髪の色が紫なの。知っていないかしら?」


「そうさねえ。紫色ねえ……」


 老婆はそのまま天井を見上げて思い出そうとする。

 そして、視線を戻して手をポンっと打つ。


「ワガダイさんところの娘さんやね!」


「今、その人はどこに住んでいるのかしら?」


「どこもなにも、西の教会の傍や……。ああ、そうかいそうかい。あんたら、お見舞いに来たのかい! あそこの娘さんもまだ若いのに大変なことでねえ……」


 そう言って、老婆は後ろにある棚から、白い小さな壺を取り出した。


「これを持ってお行き。特別な酒さ。ああ、お代はいらんさね。ワガダイさんとこも、毎日神官さんのお世話になっていて、ミサ御礼も大変だろうからねえ」


 まるで押し付けられるかのようにその壺を手渡され、断れる雰囲気でもなかったので、マルガの家の場所の詳細を聞いて酒屋を出た。


「なんか渡されたけど、どうするんだ?」


「フランツに届けましょうか?」


「ユリィ、それはダメ。フランツが直接マルガに届けに行ったら、この依頼の意味がなくなる」


 フランツの名前を出さないで探して欲しいという依頼だったから、フランツが出向いたら依頼が成り立たなくなる。


 うーん、と困り果てる四人。


「私たちで持って行けばいいよ!」


 口ひげをつけたままのトモリン。


「それはそうなんだけど、相手は知らない人だぞ」


 ミーサが泡を食ったように忠告を入れる。


「ミーサ君。行くべき場所に行かないから、重要なことに気づかないのだよ」


 くわえたパイプを手で揺らしながら、トモリンが答えた。


「だから、その格好は何なんだよ!!」


「そうね……。家を見ることは重要なことかもしれないわ。酒屋さんに頼まれたことにして、行ってみましょうか」


「うん。行くしかない」


 四人は酒屋で聞いた道順で歩いて行った。


「この家かな?」


 ミーサの目線の先には、小さめの石造りの家。

 そして、ずかずかと入り口の扉の前まで進んで行く。行くと決まったら知らない人だろうが、もう、遠慮はしていなかった。


「すみませーん。マルガいる?」


 まるで知人が尋ねて来たかのようなフランクな挨拶に、家人も勘違いし、「教え子のみなさん、ようこそおいでなさった。どうぞ、中へ」と案内した。


 教え子と勘違いされたということは、教員なのか、あるいは道場などの師範でもしているのだろうか?


「ど、どうする?」


 小声で話すミーサ。


「壺を渡せばコンプリート。でも、酒屋さんの言ってたことも気になる」


「様子を見てから、渡しましょうか」


「うんうん」


 一名、口ひげをつけた怪しい者がいるのだが、家の中に入ることができた。


「こちらじゃ」


 案内された小部屋には、ベッドの上に横たわる、紫色の髪の女性。

 一目でわかった。病気にせっていると。

 マルガの首元にはコブのような腫瘍があり、息をするのがやっとな状態だった。マルガの意識はなく、苦しそうな吐息だけが聞こえてくる。


「神官さんが毎日魔法をかけてくれるんじゃが……、なかなか良うはならんでのお」


 光属性の回復魔法は、傷を癒すことができても、病気にはほとんど効果はない。とくに、今回のように、腫瘍には効果は期待できない。


 光属性魔法が、人族で最高位とされる第五階級に到達した魔法使いであれば、複数回の施術で腫瘍を治せるとも言われているのだが、そもそも、そこに到達している魔法使いが帝国にはいない。


 四人で顔を見合わせる。


「これは、酒屋さんから預かった物よ。ミサ御礼にとのことらしいわ」


 ユリィが白い小さな壺を家人に渡す。


「おお、ありがとう」


 家人は大事そうにそれを受け取る。


「マルガちゃん、良くなるといいね」


 場の空気を読まないトモリンだった。


「え、ええ、良くなるといいわね」


「……」


 エマとミーサは黙ってうつむく。


「マルガには、ゆっくりと休んで欲しいから、今日はこれで帰りましょうか」


「来てくださってありがとう。マルガもきっと、喜んでおるじゃろうて」


 四人はマルガの家を後にする。


「困ったなー。あれじゃあ、依頼の報告、しにくいなあ」


「世の中には、知らないほうが幸せなこともあるわ……」


「うん……。マルガを見つけられなかった。それが今回の依頼の結果」


 三人の話を聞いて、トモリンの頭にハテナマークが浮かび上がる。


「見つけたのに、どうして報告しないの?」


 トモリンの問いに、三人は顔を見合わせて沈黙し、それからユリィがトモリンを見据えて口を開いた。


「フランツはマルガに会うつもりがないの。だから、真実を知らなければ、心の中では時間は止まったままよ……。いつでも元気なマルガに会えるの……」


 この言葉を聞いて、右へ左へと大きく首を傾げるトモリン。


「治しちゃえばいいよ!」


「はい? それができるなら、とっくにしてるさ!」


「そうよ。あの腫瘍は、もう……」


 ユリィは俯いて言葉を詰まらせる。


「ミーサ君。君は眺めるだけで分析をしないのかね?」


「だから……」


 トモリンにツッコミを入れる気力も萎えたミーサだった。


「私が、治せるかもしれないよ?」


 マルガの姿を見て、夢の中、前世の記憶が甦ったトモリン。

 前世の父親は、キコウ術で腫瘍などを治療するキコウ院を営んでいた。

 前世のトモリンは、父からキコウ術の手ほどきを受けていて、デビューこそしていないものの、実はキコウ術を操れるようになっていた。


 思い出したばかりで、この世界では試したことはないけれど、おそらく、できる。そんな気がしていた。


「「「えええー!?」」」


 三人から驚愕の声が上がる。


「だから、フランツさんを、連れてこよう!」


 病人と施術者との波長が合わないと、キコウ術は効果が出ないことがあると言われている。それでも、トモリンはフランツを連れて行くことでなんとかなると考えていた。


「いやいやいや、フランツを連れて行ったら、依頼の意味がなくなるじゃないか」


 早口で話すミーサ。


「そう。それはナシ」


 エマも否定する。


「大丈夫だよ。フランツさんが行けば、きっと治るよ!」


 根拠はないが自信に満ちたトモリンの言葉に、結局、ありのままの報告をすることにした四人。


 町の南の外れにある古戦場跡地で、フランツに会う。

 相変らず、ベンチに座っていた。


「やあ、君たち。どうだった?」


「マルガの居場所はわかったわ。西の教会の傍よ」


 ユリィは暗い顔にならないよう、努めて普通の顔で話した。感情を顔に出さない訓練は小さい頃から受けていたので、違和感はない。

 ただ、ミーサとエマは涙をこらえており、後ろを向いている。


「昔と変わらないんだなあ。遠くに嫁いでいないのは、良かった。遠くだと一目見るのも一苦労だからね」


 大きく頷いて感慨深く自論を述べるフランツ。


「そんなことより、フランツさん、一緒にマルガちゃんに会いに行こう!」


 トモリンはフランツの手を引く。


「僕は行かないよ。言ったじゃないか。僕は彼女の幸せを壊したくない、と」


「あなたのマルガへの想いは、それだけの物だったの? そんな小さなプライドで消えてしまうくらいのはかない物だったの?」


 トモリンの手を振り払おうとしたところで、ユリィが少し感情的になってフランツを問いただす。

 涙を流すまいと取り繕うことにばかり気が回っていたため、口から出た言葉は、重みのある感情のこもったものになっていた。


 ユリィには、フランツの「会わない」という行為が、ただの自己満足であり、現実逃避にしか思えなかった。


「一体どうしたと言うんだい?」


「行かないと、ダメ」


 エマがフランツのほうに向き直って、手を引く。


「フランツさんが行かないとダメなの!」


 トモリンとエマの二人に手を引かれ、しぶしぶ重い腰を上げたフランツ。


「困ったな……」


 連行されるかのように、マルガの家へと向かった。


「ここはマルガの家じゃないか! どこかに嫁いだんじゃなかったのか?」


 フランツとしては、マルガの家そのものではなく、その近所に行くものだと思っていた。嫁ぎ先が近所だということはよくあることだから。


「すみませーん。また来たんだけど、入れてくれないかな?」


 ここまで歩いて来る間に落ち着きを取り戻し、再びフランクに話すミーサ。


「ああ、先ほどの。忘れ物でもされましたかな?」


 家人が出てきて応対する。


「うん。忘れ物を届けに来たよ!」


「そうですか。では、中へ」


 再び案内されてマルガの部屋へと入る。


「おお! マルガ! なんということだ!」


 ベッドの脇に膝を落とし、取り乱すフランツ。


「こんなことなら……、こんなことなら、もっと早くに……」


 フランツの頬を涙が伝う。


「マルガ……」


 マルガの意識はなく、フランツに応えることはなかった。


 しばらく黙って見守っていた四人。フランツが冷静さを取り戻したところでトモリンが口を開いた。


「フランツさん。マルガちゃんの病気を治したい?」


「もちろんだよ。それができるというのなら、何だってするよ……。でも、治せる薬なんて、僕は知らない」


 フランツは諦めの境地に立っていた。マルガはもう、助からない、と。


「大丈夫だよ。フランツさんが治してあげたいと強く思っていれば、きっと治るから!」


「僕は、マルガを治してあげたい。あの微笑みをもう一度見たい。それが、僕の願いなんだ……」


 苦しそうなマルガの顔を見つめ、フランツが想いを語った。


「それじゃあ、治しちゃおう!」


 そう言って、トモリンが最前列に出てきてベッドの横に立ち、その後ろにフランツを立たせる。


「フランツさんは、私の背中に手を当てて、マルガちゃんが元気になった姿を強く思い浮かべて」


「こ、こうすればいいのかな?」


 トモリンの背中に両手を当てて目を閉じるフランツ。


「うん。ずっと、強くだよ! いい? いくよ!」


 トモリンはマルガの首の腫瘍に手をかざし、目を閉じて強く念じる。

 頭の中のイメージは、マルガの腫瘍が小さくなり、消えて行く姿だ。


 遠い宇宙そらから頭頂部へとエネルギーが降りてきて、腕を通り、手の平からそれを照射する。その際、背中から来るフランツの想いを混ぜ合わせて増幅する。


「うむむむー」


 トモリンが唸ると、手の平がポワっと光を放つ。

 やがてその光は腫瘍を輝きで満たし、それからマルガの全身へと伝播して行き、体全体を包み込む。


「マルガが、輝いているわ……」


「この光は、何?」


「トモリンの新しい魔法か? もう、驚かないぞ!」


 目に見えて腫瘍は小さくなっていく。それに伴い、マルガの息遣いも正常に戻る。


 しばらくして、マルガを包んでいた光は、薄らいで消えて行った。


「疲れちゃった。これで精いっぱいだよ。フランツさん、頑張ったね」


 ふーっと手の平に息を吹きかけ、それからパンパンと手を払うと、本当に疲れたようで、だらりと椅子に腰を下ろすトモリン。


 フランツも疲れ果てていて、どっさりと床に腰を落とす。


「ああ。こんなことで治るのなら、僕は、どれだけでも手伝うよ」


 そして、額の汗を拭う。ずっと目を閉じていたので、マルガがどうなったのかは見ていない。


「マ、マ、マルガ!」


 家人が取り乱すようにベッドの隣へと駆け寄る。


「ん? 父さん? それと……」


 マルガの意識が戻った。


 呼吸が普通にできる……。

 首元に手を当てて、そこに重さを感じていた物体がなくなっていることに気がつく。


「これは?」


 周囲の状況を把握しきれない。


「マルガ! 意識が戻ったんだね! 良かった……」


 床から立ち上がり、マルガの手を握りしめるフランツ。「遠くで見守る」から一転しての積極的なアプローチ。


 マルガは、しばらくの間意識がなかったこともあり、少し記憶を整理してから、思い出してはっとする。


「フランツ! フランツね! 会いたかったわ!」


 上半身を起こそうとし、体力が足りずに、また枕に頭を沈ませる。


「僕もだよ……」


 輝く瞳でしばらく見つめ合う二人。


「そうそう、マルガ。ここにいる冒険者の方々が、君の病気を癒してくれたんだ」


「あなたが、連れてきてくれたのね? フランツ、素敵だわ」


 可愛らしい顔で微笑むマルガ。


「ごめん。最初、僕は君に会うことを拒んでいたんだ。でも、この方々に強く勧められて、こうして会いに来ることになったんだ」


 頭を下げて正直に謝るフランツ。


「フランツさんが、マルガちゃんの病気を治したいって願ったから、連れてきたんだよ。それで、フランツさんの熱い想いが、マルガちゃんの病気を治したんだから」


 トモリンが、珍しく気の利いたことを言った。


「フランツ……、あなた……」


「こんな僕を許してもらえるだろうか?」


 再び二人だけの世界に入って行ったので、トモリンたちは気配を消すようにその場を去った。


 後ろから家人が慌てて追いかけてきたけど、


「ミサ御礼はいらないよ。私、魔法学園の生徒だから。神官じゃないよ」


 と、やんわりと断った。家人が手にしていたのが、先ほどの白い小さな壺だったから。


 こんな出来事があって宿に戻ると、皆から質問攻めにあった。


「あれは、魔法ではなかったわ。それに、病気が治せるって何を使ったの?」


「腫瘍が短い時間でなくなった。体全体にも効果がありそうだった」


 そもそも、高位の魔法使いでも何回にも分けて行う施術が、一回のしかも短時間で完治することが前代未聞だった。


 それに、全身が光り輝いていたから、おそらく転移した腫瘍も消えたと予想される。でも、それを確認しに戻ることはしない。二人だけの世界のお邪魔はしたくないから。


「トモリンの魔法は、いつ見ても、凄いよな。まさに感服だな!」


 今回使用したのは魔法ではなかったのだけれども、ミーサにとっては言葉の使い分けなんてどうでもいいことだった。


「てへへ……」


 笑って誤魔化すトモリンだった。実は、トモリン自身も、キコウ術の効果が絶大だったことに驚いている。

 前世では、やはり何回も施術しないと、あれぐらい大きな腫瘍には対処できないとされていたから……。


「きっと、フランツさんの想いが、マルガちゃんに届いたんだよ」


 そう説明するしか、思い浮かばなかった。


 木属性が生命に関わる魔法であり、その適性が高いトモリンがキコウ術を発動した結果、思いもよらぬ効果を発揮したのだが、この場にいる誰も、そんなカラクリに気がつく者はいなかった。


 もちろん、フランツの強い想いがキコウに乗ったのも事実のことだ。

トモリンだよ!

この物語はふぃくしょんなんだって。

実在する団体とかと一切関係ないからねー。

あれ? ふぃくしょんって何だっけ?

それと、よい子は絶対にマネしたらダメだからね!

ウザ男みたいになっても、知らないよー。

もっとひどい目に遭うかも?


ミーサだ。

ウザ男は嫌だなあ。

トモリンのマネをすると危険だぞ。

ひどい目に遭っても、責任は取らないからな!


ボクはエマ。

トモリンは特別。

魔法を混ぜている。

普通の人はやっちゃダメ。


そうね。

私、ユリィから見てもトモリンは特別よ。

危険だからマネはしないでくれるかしら?


えへへ。私、特別なんだあ。


いろいろな意味でな!

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