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014話 野外演習 その1

 野外演習当日。

 下級貴族クラスに所属する全生徒がグランドに集合する。

 皆、制服姿で、あらかじめ実技棟に寄って武器を装備してきている。

 今日の武器は練習用ではない、刃先の尖った「切れる」ものだ。

 なお、制服には洗浄の他、防御アップも付与されていて実戦にも十分耐えうる。


 ちなみに、上級貴族クラスとは日程が異なっているので、ここには上級貴族はいないし、現地で上級貴族の生徒に会うこともない。


「小隊の構成はそこのボードに掲示してある! 各班のリーダーが確認し、小隊ごとに整列!」


 ボードには、一年生から三年生の各班がどの小隊に振り分けられたかが書いてある。


「私たちは小隊Bよ」


 ボードを見て戻ってきたユリィが皆に伝える。


「小隊Bなら、あの辺りかな」


 そこには、既に生徒が並んでいる。

 三年生は慣れたもので、行動が早い。その後ろに二年生が続き、一年生がぼちぼちと集まりだす。

 ユリィたちも、小隊Bの列に並ぶ。


「ほら! ヒヨッコども! 早く整列しろ!」


 先生にせかされて、一年生の全員がようやく整列した。


「本日は良い天気に恵まれて、まことに良い演習日和となりました……」


「うわっ。偉い人の話が始まったよー」


「トモリン。偉い人はそれだけ多くのことを経験してきたってことよ。伝えたいことがたくさんあるから、長くなることもあるのよ」


「そう言うけどなー。私だったら、ガツンとまとめて手短に話すけどな」


「ミーサはきっと、壇上に上がると話せなくなるタイプ」


 全然偉い人の話を聞いていない四人。そして、偉い人の話は長々と続く。


「……野外演習で多くの経験を積み、立派な帝国貴族として戦場で活躍できるようになることを望みます」


「はあー。終わったー」


「運営長は戦場に行ったことなんてないだろうに。まるで戦場を駆けていたかのような話だったぞ」


 話を聞いていないかと思えば、ツッコミどころだけは聞き逃さないミーサ。


「そうね。あの大きなお腹だと、戦場では出遅れるでしょうね……」


 きっと若い頃は、スマートだったのだろう。


「は~い、小隊Bのみなさん。おはようございま~す。私キャサリンがみなさんの見守り役を務めま~す」


 運営長の話が終わると、小隊Bの前に先生が現れた。各小隊には一人、先生が引率する。


「おい、あれって、魔道具の先生だよな?」


「うん。魔道具の先生」


 野外では頼りなさそうな先生に、不安がよぎるミーサ。


「みなさんラッキーでしたね~。先生がいるから、大船に乗ったつもりで気楽に行きましょうね~」


「どうして大船なんだ?」


 ヒソヒソと話すミーサ。


「自作の魔道具を、たくさん持ち込んでいるからじゃないかしら?」


 ユリィの目線の先には荷車があって、そこの木箱からは、いろいろ魔道具らしき物が見え隠れしている。また、先生の腰には銃のような魔道具が下げてある。


 魔道具の持ち込みには制限はないが、高価な物だから、学園からの支給は伝令の魔道具「ささやき鳥」など、ごく少数だけだ。

 他の先生とは違い、魔道具を自作できるキャサリンは、ここぞとばかりにたくさんの魔道具を持ち込んでいた。


「小隊B、出発!」


「みなさ~ん。行きますよ~」


 隊長となった三年生が声を上げて、小隊Bが動き出す。小隊Bは全員が女性だ。


「最初は町中まちなかの石畳の道を行くわ。野外よりはずいぶん楽なはずよ。だから、北門まではトモリンとエマが荷車を引くことにしましょう」


「北門って、遠い……」


 野外演習の行き先は、帝都の北にある森。

 しかし、広大な帝都。その中央にある学園から北門まではそれなりの距離がある。


「それなら、入れちゃえば軽くなるよ!」


 そう言って、トモリンは荷車に載っている荷物をあらかたポーチの中にしまいこんだ。全部入れなかったのは、休憩時に使いそうな物を残したからだ。野外演習とはいえ、お菓子の類が載っていたりする。


「トモリンのポーチ、結構入る」


 目を丸くするエマ。エマにはその価値がわかるだけに、驚きも一入ひとしおだ。


 収納の魔道具の価値はその容量によって決まる。テントや水、食料、先生の予備の魔道具など、とんでもなくたくさんの荷物が入った。まだ入りそうであり、その価値は計り知れない。


 なお、貧乏貴族のミーサにしてみれば、収納の魔道具は一律に高価なものであり、ユリィにしてみれば、城にいれば与えられる物だったから普通の物で、山育ちのトモリンには魔道具の常識がないので、価値など知る由もない。


「綺麗になったな!」


「うん。エマちゃん、これなら軽いよ! 行こう!」


「これなら、行ける」


「あらあら……」


 荷物のほとんどを収納の魔道具にしまっては訓練にならないので、本来であればキャサリンが止めないといけないところだった……。

 しかし、魔道具の価値を知る人間として、トモリンのポーチのことばかりが気になって、注意することにまで気が回らなかった。


 小一時間ほど歩いて北門の外に出た。


「ここからは~、少し道を北に進んで、あの辺りから森に入りましょうね~」


 ここから先、各小隊は別々のルートで森を進み、小高い山を登る予定だ。ルートが分かれているのは、魔物との遭遇の機会をなるべく均等にするためだ。


 しばらく道を進み、各小隊は割り当てられたルートとなる位置に達すると、森へと進入して行く。小隊Bも、森へと進路を変えた。


 今、荷車を引いているのはミーサ。

 森の中に入ると、荷車は木の根に乗り上げてガタンゴトンと揺れる。


「森の中かあ。魔物とかいそうだよな。見つけたら荷車ごと突っ走って、蹴り飛ばすか?」


「ミーサ。荷車は置いて剣を使うほうがいいわ」


 見つけたら戦ってみたいミーサが、足で空を蹴りながら話したが、ユリィは腰の剣に手を添えてそれを諭す。


「もっともだ!」


「ミーサ。まずは先輩たちが戦う。ボクたちはそのあと」


「あ! 薬草みっけ!」


 そんな戦いの話なんて上の空で聞いていたトモリン。

 木の根元に生えている薬草を摘む。


「みなさんも、錬金術の素材をみつけたら、採取してくださいね~。放課後とかに、自主練習しないと、錬金術の腕は上達しませんよ~」


 錬金術の練習は、授業時間以外では、自分で揃えた素材を使うことになる。


「あの花とこの草を煮詰めた汁を乾燥させると、白い粉になる」


「へー。エマは物知りだな」


 ミーサは荷車を左手で引きながら、右手を広げて感嘆の表情を見せる。


「見ただけで、わかった。でもボクは、知っていたわけじゃない」


「錬金術の素質が上がれば、自然とわかるようになるらしいわ」


 ときどき、石のような物や、木の葉、木の枝などを採取するエマ。


「私にはわからないし、エマ、私の分も採取しといてくれよー」


「うん。ミーサは荷車。ボクが採取する」


 エマとしては、ずっとミーサに荷車を任せようという思惑がある。それには気づかずに、「助かるよ」と返すミーサ。

 ミーサを除く三人は、時折屈んだり背伸びして素材を採取しながら歩いた。


「あそこに、ウサちゃんいるよ!」


「みなさ~ん。食料の現地調達も演習の一環ですよ~。干し肉だけで過ごしたくない人は、捕獲してくださいね~」


 その言葉を皮切りに、上級生たちがウサギを追いかけ始める。


「あまり遠くまで追って行ったらいけませんよ~。はぐれない程度の距離感覚を身につけてくださいね~」


 追っていった上級生たちは手ぶらで戻ってきた。


「ウサちゃんは、追いかけると逃げちゃうから、隠れて弓で射れば簡単だよ!」


「トモリン……。弓は扱いが難しいから、この小隊には矢をウサギに当てられる人は、おそらく、いないわ」


 誰も弓なんて装備していない。弓を持参したのはトモリンだけだ。


「ウサちゃんはじっと構えて近づかなければ逃げないから、仕留めやすいんだけどなー」


 小さい頃から当たり前のように狩りをしていたトモリンにとって、ウサギを仕留めることはそれほど難しいことではなかった。


「次みつけたら、トモリンにお願いするわ」


 ウサギを取り逃してからしばらく後。今度はシカに遭遇した。


「あれなら、任せて!」


 弓を引き絞るトモリン。


 ビュンっと放たれた矢は、シカの喉元を貫き、シカは首を反らせて倒れ伏す。


「大物だな! これだけで、小隊全員が満腹になれるぞ!」


「今年の一年生は頼もしいナリ!」


「去年は毎日干し肉ばかりでしたわ~。今年はシカ肉で焼肉パーティですわよ!」


 ミーサに続き、上級生からも喝采が上がる。


「シカの皮は、素材になる。調理するときは、ボクに分けて欲しい」


 エマはあくまでもマイペースだった。


 シカをポーチに入れ、進軍を再開した小隊B。

 森もだいぶ深くなっていて、いつ魔物が現れてもおかしくない状況となっている。そのとき。


「二年生と三年生の前衛は前に! 一年生は後衛の後ろで身を守れ!」


 隊長の三年生クロダが指示を出す。

 二足歩行の犬の容姿の魔物、コボルトの群れが現れたからだ。五体いる。


「あらあら五体もいるなんて、大漁ね~」


 キャサリンは驚いたそぶりもなく、観戦を決め込んでいる。


「おい、魔物だぞ! 本当に私たちは見ていればいいのか!?」


 はやる気持ちを抑えきれないミーサ。


「大丈夫よ。上級生はコボルト程度ではおくれをとらないわ」


 自身、二回目の学園生活であり、武装した生徒の実力もおおむね把握しているユリィは、静かに戦闘を見守る。


 前衛三人、後衛五人の隊形。その内訳は剣士二人、槍士一人。攻撃魔法士三人、回復魔法士二人。

 魔物の数に対して、やや前衛が少ない感じがするが、コボルトなら、接近される前に魔法で倒すことができる。


「情熱、怒りを糧に燃え盛る炎よ、鋭く飛翔し彼の者を突き刺したまえ。ファイアアロー!」


「我求めるは氷晶。冷尖なる槍となりて彼の者を貫きたまえ。アイシクルランス!」


 後衛から魔法が撃ち出される。火の矢と氷の槍。それを追いかけるように、槍士が飛び出し、これだけの攻撃で、コボルト三体を仕留めることに成功した。


 あと二体。


「我求めるは氷晶。冷尖なる矢となりて彼の者に……」


「新しい魔物!」


「オークだ! それも二体!」


 もう一人、攻撃魔法士が詠唱を開始したところで、斧を持つブタ顔のオークが現れ、形勢が変わる。

 正面にコボルト二体、右前方にオーク二体。


 オークがそのまま突進してきて斧を振るう。

 剣士の二人がこれを剣で受け止め、しかし、膂力で押し負けた。通常であれば、オーク一体に対し前衛を二人当てることは妥当なのだが、力負けした。


 突出していた槍士が前衛に戻り、オークの側面から攻撃を仕掛ける。これで、一体にはバランスのとれた攻防ができるようになった。

 それでも、オークの斧の衝撃は大きく、剣を弾かれた剣士は、腕を怪我していた。


「ブゴオォ!」


 オークが斧を斜めに振るい、それを剣士が盾で受けてから右に体を寄せ、反撃として切りつける。さらに槍士が左から突き刺す。

 そこに、もう一体のオークが割り込むように水平に斧を薙ぎ、なんとか盾を合わせた槍士が後方に突き飛ばされる。


「あまねく人々を癒す女神の慈悲よ、その御心で彼の者の傷を癒したまえ。ヒール」


 二人いる回復魔法士が、先に負傷した剣士と、突き飛ばされた槍士の傷を癒す。しかし完治はしなかった。それだけ深い傷だったのだろう。


「おい、私たちが出なくていいのか?」


 ミーサが荷車を横にやり、剣の柄に手をかける。


「行きましょう」


 ミーサとユリィが剣と盾を手に、戦列に加わった。


 剣捌きは三年生にも勝るミーサ。あっという間にオーク一体を押し込む。

 それを邪魔するかのように、コボルトがこん棒を振ってまとわりついてくるが、半歩下がって避けて、その伸び切った手をユリィが切り落とす。


「少し凶暴なオークさんですね~。先生もやっちゃいますよ~」


 キャサリンは、腰に下げている銃のような形状の魔道具を両手で構えると、フリーになっているオークに狙いを定める。


「とっておきのお仕置きですからね~。フレイムボンバー!」


 ボフッ。

 銃口から大きな火の球が射出され、オークの上半身を吹き飛ばした。


「あ、あ、あ、お肉が~」


 トモリンが、飛び散ったオークの肉に未練を見せている横で、エマも魔道具を射出した。


「デグショット!」


 ユリィの背後をとろうとしていたコボルトの足元に穴をあけ、コボルトを転ばせた。

 すかさず、そこに止めを刺すユリィ。そのまま続けてもう一体のコボルトもあっさりと討ち取った。


「オークなんて、斧を振り回しているだけじゃないか」


 余裕でオークとの対峙を続けているミーサ。

 斧を盾で逸らして足元を切りつけ、すぐに下がって振り戻しからの斧の反撃をかわす。


「止めだ! やあっ!」


 力強く踏み込んで勢いをつけ、剣を突き出し、オークの胸に突き立てる。


「ブフォォ」


 剣が刺さった場所は急所だったようで、オークは力尽き、倒れた。

 これですべての魔物を退治した。


「オークはこの程度のものか。これなら剣の稽古の方が、よっぽど厳しいぞ」


「ミーサ。よくやったわ」


「一年生、見事だ! これからは一年生も戦列に加わってもらおう」


 隊長の剣士クロダが、地面に座り込んで回復魔法を受けながら叫んだ。


「みなさ~ん。よく戦いました。ここで休憩しましょう。先生、その間に本部と連絡を取りま~す」


 キャサリンは伝令の魔道具「ささやき鳥」に声を吹き込んで飛ばした。

 その内容は、例年に比べて魔物の力が強く感じられる。このまま野外演習を続行して良いか、というものだった。


 生徒とはいえ、訓練して武装もしている三年生がオーク二体に翻弄された。

 オークといえば、村人の食材になることもある魔物で、連携して巧みに武器を操る者など、普通はいない。まともな武器を持たない村人三、四人でオーク一体を狩ることができる。

 だから、今回のオークの強さは異常だった。


 トモリンは荷車のお菓子を取りに行き、皆に配り始めた。自身の分は、既に口にくわえている。


「もぐもぐ……。帝都のクッキーは最高だよねー」


「このクッキーは、帝都でも有名な菓子店の物。トモリン、違いの分かる娘」


 トモリンとしては、「都会」で売っているお菓子であれば、なんでもおいしいのだが、エマは他店との違いに気づいたのだと勘違いした。


「この味は……、そうね、ヘブンスイーツのものかしら?」


「また、エマの直営店の物か?」


「うん。ボクもよく食べている」


 エマの実家の直営店は衣食住なんでも揃うオールラウンダーだ。しかも、有名店を多く抱えている。その多くは、エマの両親が無名な店を買い取り、有名店に育て上げたとも言われている。


 ボリボリ……。

 お菓子をすべて食べつくしても、本部からの返信が来ない。


「さっきの三年生の、えっと、マリアン先輩だったか。あの魔法は槍が飛んで行ったな! 凄かったぞ」


「飛翔する槍は、第三階級の魔法よ。マリアンはもう、立派な魔法使いだわ」


「私も、撃っていい? 私も!」


 トモリンは見えない尻尾を振るかのように、ニマニマと話に加わる。


「一年生にも攻撃参加の要請があったことだし、次の魔物はトモリンの魔法で仕留めような!」


「期待してるわ、トモリン」


「私、がんばっちゃうよ!」


 ここで、ようやく本部からの返信が届いた。


「みなさ~ん。本部からの連絡がありましたよ~。細心の注意を払って演習続行とのことで~す。このまま進みましょうね~」


「休憩終了! 小隊B、出発!」


 小隊Bは、森の中を再び進み始めた。

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