三十八話 一月十一日
一月十一日
今までどうとも感じなかったことが、今神楽坂を苦悩させている。自分の能力が引き起こしたサークルメンバーの変化。彼らは神楽坂の言うこと、進む道の足跡を辿っているつもりでいる。以前の彼なら、それを愉快に思いながら見ていただろう。
しかし今は違う。彼の精神は細り、自分がやってきたことへの後悔が強くなっていった。
もしかして、自分はわだちを残してしまっているのではないか?サークルのメンバー達は、それを辿ってしまっているのではないか?
わだちは忌むべきものだ。神楽坂が少年の頃抱いた懸念、つまり誰かに操られているような不快な感覚は、わだちに対するものと言い換えることができる。人と人が交わることは避けられないし、避ける必要も無い。それは神楽坂が成長し、学んだことだ。だがその互いの影響は、足跡でなければならない。有機的な、自然的なものでなければならない。決して意図されて作られたわだちを辿ってはいけないのだ。
そのわだちを自分が作り出してしまっているかもしれない。
自分がこんなに弱い人間だとは思わなかった。
神楽坂はぬるくなったコーヒーを一気に飲み干した。これで七杯目だ。彼が思考の中で自分を非難する事柄を見つけるたび、コーヒーは減っていった。
こんなはずではなかった。自分がこのような状態になるなんて――
だが仕方がないことでもあった。神楽坂の対人関係における能力は、集団でやればこそその力を発揮するのだ。ロザリア・ロンバルドのことをサークルメンバー全員がいるところで話したのも、そのためだ。
そうだ。自分の能力を証明するためには仕方がないのだ。メンバーを良くない方向に導いてしまっていることに罪悪感を抱く必要はない。初めからそう強く決意していたではないか。
だが自分の体が自分のものでなくなっていくような、この燃え滾る殺意はどうすればいいのだろう。この衝動が以前より抑えにくくなってきている。しかしこれでは駄目なのだ。殺意は、神楽坂が掲げる信条のうちの一つ、「社会への適合」から大きく逸脱してしまうことになる。耐えなければならない。美を保つには、外界との関わりに傷を作ってはならないのだ。
神楽坂はコーヒーカップに八杯目のコーヒーを注ぐと、それを喉に流し込んだ。




