第0話 壊れた旋律
初めまして、黒豆太郎と申します。(別サイトでも同じ名前で活動しています。)
どこに居てもどんな所にも連れて行ってくれるそんな小説が大好きです!
どうぞ、お楽しみ下さい。
「……レオンが死んだ?」
ドスの聞いた低い声が室内にこだました。
窓のガラスを揺らす程に重く、重圧感のある声だ。その声には抑えられない高揚感が潜んでいる。
背丈が高い魔鉱石のアラクストーンで作られた鎧を身に着けた男が口を開いた。
「はい、死体は確認されていませんが…証言を元にしても不明な点は無く、レオンは事故死だと考えられます。しかしまだ捜索は―」
死体の調査にあたっていた彼は、額から汗が吹き出すほどにその状況の悲惨さを物語っていた。
その目は酷く沈んでおり、絶望の陰りが見える。その様子を椅子に座っていた巨漢が、
タイミングを見計らったかのように机に手をついた。鼓膜が割れんばかりの轟音が響き渡った。
「…ふざけるな!」
―グワン。
その瞬間、部屋の空気の圧が物理的に身体に突き刺さった。足先から髪先まで真空されたような、息をすることも許されない圧に殺された。
「もういい、お前には期待していたのにな。よい、帰れ。捜索は中止だ」
目を白黒させ顔を青白く染める男とは対象的に、巨漢は絡まり合う脂ぎったヒゲで覆われた口を開き、顔を瞬間的に沸騰させ怒鳴りつけた。
「直ちに新聞を書かせろ。号外だ、号外!大々的にな…!この事実を、ヤツの叶わぬ無謀な挑戦を世に知らしめよ!」
「はッ、はい!」
男がドタバタと出ていくと、一人になったとたんニタニタと不敵な笑みを浮かべた。
腹の底から押し寄せる感情に共鳴し、血液が急速に高くなる、それを抑えるように窓を開けようと窓に近寄った。
窓に手をあてたまま巨漢の動きが静止する。窓ガラスに映る口を半開きにし、ヨダレが糸を引き合い、荒い息がガラスに跳ね返り異臭が鼻を抜ける。
あぁ、自分はこんな顔もできたのだと名のつけようもない感情にされるがまま再び顔を歪めた。
「―キッショ」
窓ガラスには自身の顔ではなく、茶色と白のテールカラーの髪を揺らした男が魔獣のように鋭く肌を痺れされて、打ち付けるような目付きでこちらを睨んでいた。
呆気に取られているとガラスが粉々砕け、男が床に足をつけた。
「殺される―」一瞬脳裏にそんな事がよぎり数歩後ずさるが、よくよく考えればそんな事はない。
と思い当たり、成長した少年の顔をマジマジと瞳が二つでは足りないと言わんばかりに、
大きく見開き見つめ続けた。
「何見てんだよ。ほんっとキッモいな、世間のゴミが平気で息してんのがいたたまれねぇのよな…」
男はそう吐くと、巨漢の目先に指を触れるか触れないかの所に突き立てた。
「久ぶりだなぁ、ゲス野郎。もう死んだと思ってたわ〜」
自身のオモチャだと思っていた男が帰ってきたと、そう巨漢は思い浮き足立ち声を荒げた。
「ラテ、ラテ!よく生きていたねぇッ!キミッキ…ミっ!ようの奴隷席は開けてあるから、あるカラッ!」
興奮のあまりに滑舌が低下し、上手く話せない。そんな自分に苛立ちを覚え、抱き着こうと近づくと男はステップを踏むように意とも容易く避けられてしまった。
虚空を抱きしめる腕を横目に男が巨漢の心の臓をもぎ取る程に嬉々とした言葉を発した。
「魔剣士レオンは俺が殺した…」
脳が理解するよりも早く、深く、巨漢は雄叫びを上げた。クツクツと笑い声を上げながら、はやる思いを抑えることをできずに身体中から溢れ出る汁を絶えずに流し続けた。
夢にまで見ていた日が、今始まったのだ。
「長かった、長ッたぁ!やっと、やぁッと…、」
行き場を失っていた両手を贅肉がちぎれんばかりに天たかだかに突き上げ、喜びを噛み締めた。
「―私の時代の幕開けだ!」
声も発する事も出来なくなってしまった巨漢は、その場に立ち尽くし泣く子も阿鼻叫喚する程に、道から外れた闇に染まった笑みを浮かべていた。
「無能なヒーラーとして、よく、ヨク、頑張った!魔力も並大抵のお前が、…生きているだけでもキセキだぁ!!私の、オモチャは世界一だ!!」
男の脳みそが粉砕しそうなほどに、血が脳天めがけてドクドクと登る。
巨漢をドス黒く冬場の水よりも冷たい、刺し殺す程の視線でみやった後、鳥のさえずりも何も聞こえない静寂で封をされた窓の外へと出ていった。
そんな事にも気が付かない程に興奮をしていた巨漢が声を上げた。
「―レオンギルドを裁判にかけろ!」
固唾を飲み、ドアの前から動けなくなっていた護衛たが一足遅くドタドタと部屋に入ってきた。
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