第90話:冒険者アロン
野営時の見張りはアロン、俺、エルカン、セドの順になり、アロン以外のメンバーは先に就寝した。
……どれくらい経ったろうか。
俺は不意に目が覚めた。
視界には既に眠っている仲間達と、座っているアロンの背中が見える。
何となく二度寝できそうにないと思ったので、俺は上半身を起こす。
俺が起き上がった事に気付き、アロンがこちらを向く。
「あれ、交代にはまだ時間があるけど?」
「いや、何となく眠れなくて」
「そっか」
アロンはそう返事し、また背中を向ける。
下を俯き、何かをしている。
「何をしてるんだ?」
俺はアロンの隣に移動する。
「道具の手入れさ。ま、暇つぶしみたいなものだよ」
アロンはナイフを研いでいるようだった。
「丹念にしてるんだな」
俺は素直に感心していた。
「癖だね、道具の状態は常に最良にしておきたいのもあるけれどね」
アロンはそう答えながらナイフを研ぎ続ける。
当たり前だが手馴れた様子だ。
「ヨウヘイ達は、冒険者になって大体一月位になるのかな?」
アロンが俺に質問する。質問というより確認に近いか。
「ああ、まだまだ駆け出しで、ルシュには良く助けられてるよ」
俺はルシュを見る。
ルシュは外套を掛けた状態で横向きになり、顔に手を添えて眠っている。
今日の長時間の探索で疲れ切っていたようで、就寝した時も横になってすぐに寝息が聞こえてきていた。
「彼女にはオイラ達も助けられたね、見事なものだよ」
アロンが言っているのはゴーレムとの戦いの事だろう。
「身体能力がとても高い、ただの魔人でもなさそうだけど……」
アロンの言葉に俺は少し焦る。
彼女が竜族である事にすぐに結びつきはしないだろうが、知られるのはまずい。
「と、ところで、アロンは冒険者をどれくらい続けてるんだ?」
少々強引だが、俺は話題を切り出す。
「んー…、15年くらいかな」
「15年……!?」
思っていた以上にベテランだった。
見た目の年齢と実際の経験が噛み合わないのはこの世界でも不思議な感覚だ。
「長命な種族だともっと冒険者続けてるのも居るけどね。エルカンはオイラと大体同じ、セリーディは3年くらいか」
アロンは思い出すように話す。
「ずっと同じ街で冒険者をしていたのか?」
「いや、元々はレインウィリスの隣のコトアって国で冒険者をしていてね。
レインウィリスに行ってからエルカンと組んで、あっちこっちで活動していたよ」
そこでアロンは一息つく。
「その間にも色んな連中とパーティ組んだり、暫く行動を共にしたりとか、色々あったね。
セリーディが加わったのも3年前だし、セドなんてつい先日って感じだからね」
「冒険者続けてると色々あるものさ、命を落とした奴だっている。
君達も無理はしないようにね」
俺は頷く。
アロンの言葉は説教でも脅しでもなく、ただ事実として話しているように聞こえた。
15年の間に積み重ねてきたものの重さが、その一言に滲んでいる気がした。
こうして夜が更けていった。




