第88話:本当に大丈夫なのか?
俺達はその場に座る。前方はエルカン、後方はセドが座り、襲撃にも対処出来るようにしている。
アロンはゴーレムの装備を集めて調べているようだ。
携帯してきた食事を摂り、水筒に口を付ける。一口水を飲んだ所で、俺はルシュを見る。
「ルシュ、本当に何ともないのか?」
俺は隣に座っているルシュに話しかける。
「うん、何ともない」
そう言いながら後ろ髪をかき上げ、うなじを俺に見せる。
確かに傷跡一つ付いていない。
「本当だな……」
ボロボロの剣だったとは言え、あの勢いでぶつかって無傷は本来あり得ない。
当たりどころが良かった訳ではなく、ルシュ自身が非常に頑丈だという事だろう。
ルシュが俺よりも高い身体能力を持っている事は今更言うまでもない。
力に関しては顕著で、以前ラズボードの巨体を片腕で投げた事もある。
だが彼女がどのくらい頑丈なのかという事は、知る機会がなかった。
今回の件でそれが少し分かった気がする。
装備を調べていたアロンが立ち上がる。
「これだけでも報告する上では収穫にはなるんだけど、もう少し奥まで行ってみようか。
ゴーレムが居たと言う事は、何かがあるのは間違いないはずだからね」
俺達は立ち上がり、更に奥に足を進めた。
***
歩き出してからそこまで長い時間は経過していない、数十分といった所だろうか。
その間、所々に朽ち果てた調度品、洞穴の側面に付いた小さな部屋など、何者かが生活していたかのような跡がちらほら見られた。
部屋の内部の家具は風化していて損傷が激しく、詳しく見ていく時間もないという事で安全を確認だけして更に奥に進んでいった。
幸いゴーレムや魔獣は出現しなかった。
先ほど交戦したのが最後だったのだろうか。
そうして進んでいくと、洞穴の奥に巨大な何かが見えてきた。
「あれは……?」
俺の言葉にアロンが口を開く。
「壁……?いや、扉だね」
歩を更に進める。光に照らされはっきりと見えるようになった時、それがアロンの言う通り扉である事が分かった。
幅が10メートルはあろうかという両開きの扉、高さも5、6メートルはある。
アロンが地面や壁を警戒しながら扉に近付く。
「金属じゃなくて石だね」
「ばかでかい扉だな、開くのか?」
エルカンも扉に近付き、押してみる。
「ぐぬぬぬ……こりゃあ無理だな……」
セリーディが扉にくまなく光を当てて調べる。
扉には簡単な模様の彫りが入っているものの、デザインは非常にシンプルだ。
「魔力は感じないし、仕掛けも特に無さそうだね」
俺も扉に近付き、押してみる。
「うぬぬぬ……」
分かっていた事だが、どうにもならない。
扉の形をした壁と言われても違和感がないほどだ。
「ヨウヘイ」
ルシュが声を掛けてくる。俺はルシュの方向を見た。
ルシュは俺を見てから、考えるように少し視線を下に向けてから、俺に告げた。
「私も、押してみて、いい?」
ルシュの突然の確認の言葉に俺は一瞬戸惑う。
もしもこの扉を力で開ける事が出来てしまったら、それはルシュが普通の魔族ではない事をアロン達に知られてしまうという事だ。
これまでルシュと行動を共にしてきて、彼女が物事を考えなしに実行するような性格ではない事は理解している。
だからこそ、俺に確認してきた。
「試してみたいって事?」
俺の問いかけにルシュは頷く。
アロン達は依然扉の事を調べている。
ルシュが扉を開けてしまうと、アロンやセリーディは疑問に思うだろう。
その時に上手く誤魔化す事は……難しいだろう。リスクは大きい。
しかしルシュが確認してきたという事は、それを分かった上で試してみたいと思っているという事だ。
「うーん……」
ルシュの意思を尊重したいが、リスクも大きい。どうすれば良いか……。
ルシュは俺を見つめている。
俺が悩んでいると、セリーディの声がした。
「アロン、これ」
アロンがセリーディの元へ行く。
俺達も二人の元へ移動する。
「ここに光を当てると、色が変わるみたい。多分、魔力に反応しているんだと思う」
セリーディが説明する。
確かにセリーディの言葉通り、彼女の魔力の光に当てられた扉の一部が青白く光っている。
アロンが光っている部分を調べる。
「オイラが触っても何の反応も無い、特に仕掛けも無さそうに見えるけど……セリーディ、触れてみてくれるかい?」
アロンの言葉にセリーディが頷き、光っている箇所に手を触れる。
直後、扉が鈍い音を立てて揺れる。
「一旦下がろう!」
アロンの言葉に俺達は後ろに下がる。
その間、扉が奥に向かってゆっくり開いていく。
「魔力を持つ者に反応して開く仕掛けか……」
アロンが呟く。
「俺の力でもびくともしなかったのに、すげえもんだな」
エルカンは感心した様子だ。
俺はルシュの様子を見る。
「ちょっと気が抜けちゃった」
ルシュが俺に向かって呟く。
少し安堵しているように見える。
好奇心と自分の正体がバレるリスクの板挟みから解放されたからだろうか。
俺もほっとした気持ちは同じだった。
「奥にはまだ何があるか分からないし、頼りにしてるよ」
俺の言葉にルシュは頷いた。
扉の奥から冷たい空気が流れてくる。何があるかは分からない。
それでも、隣にルシュが、アロン達も居る。
心配することはない。




