第36話:再び現れる魔獣
村を出て舗装された道を進むと、森の色が青みがかっていき、そこから開けた場所に出た。
「わぁ、凄い……」
大樹の水場に入ったルシュが感嘆の声を上げる。青みがかった空間に巨木がそびえ、上から差し込む陽光が巨木と水場を淡く照らし輝いている。数日前に降った雨のせいか、水場は以前よりも広がっていたが、水は変わらず透き通っていた。
俺自身、何度見てもこの光景には圧倒される。
大樹の水場の光景に見惚れる俺とルシュに対して、テオックが提案する。
「ちょっと休憩するか」
***
木の根が盛り上がっていて濡れていない場所に腰掛け、話をしていた。
テオックはもちろん、俺もここに来てから体力が付いたのかこれくらいの距離を歩いただけではさほど疲れなくなっていた。慣れないルシュは少し疲労していたが、この光景を目にしてからは疲労を忘れているように見える。
ここに来たのは二度目の俺は、ルシュと一緒に周囲を見渡したりはるか高く見える空を見つめていた。前来た時は追い回されて余裕がなかった分、今日はゆっくり眺める事が出来る。
「二人とももう少し休んでていいぜ」
そう言いながらテオックが水場に足を踏み入れ、少し深いところに手を入れて何かを取り出す。
「おお、良い感じにあるじゃん」
こちらに戻ってきたテオックが水の中から取り出したものを見せてくる。半透明でエメラルドグリーン色の、指で摘める程の大きさの石だった。
「これが結晶なのか、まるで宝石だな……」
「凄く綺麗……」
感心する俺とルシュを見た後、テオックがほら、と言ってルシュに結晶を手渡す。
「袋に入れておいてくれ」
ルシュは少し結晶を眺めた後、袋の中に入れた。言葉は直には通じていないが、意図するところはルシュも理解できているようだ。
「結晶は水の底か、木の根の窪んだ場所、たまに根の上にもあるぞ。大きさは大体これと同じくらいだ。後数日後だったら多分取れなかったな」
「テオック、結晶はどうして雨の後に出来るんだ?」
俺はテオックに疑問を投げかける。テオックはう~んと考えた後、
「確か村長が水に溶け込んだ魔素が溜まって固まるとかそんな事言ってた気がする……俺には良く分からなかったが、まあそういう事だ」
こういった類の話をテオックに尋ねるのはある意味酷だったな、と思った。
今のテオックとの会話をルシュに説明する。うんうんと頷きながら俺の話を聞いたルシュが、
「今しか取れないって事は結晶を食べる動物がいるか、それとも溶けるの?」
と話しかけてきた。
取れなくなる理由まで考えていなかったので少し驚いたが、言葉をそのままテオックに伝える。
「あ~、そうなんだよ、少しすると魔素の結晶は地面の中に溶けちゃうんだよ。だから今日ここに来たんだ。袋の中なら溶けないから心配しなくていいぞ」
この言葉をルシュに伝えると、予想が当たっていた事にルシュは満足そうな顔をしていた。
ルシュはこういう事をさらっと考える。竜族だからなのか、それともこの子の性質なのか、まだ分からない。
「俺はそろそろお仕事を始めようと思うけど、ルシュはどうする?もう少し休んでおくかい?」
「もう平気。私も手伝う」
ルシュはすぐに立ち上がった。
まずは俺とルシュはテオックから採取する薬草やハーブの説明を受けた。俺はルシュに付き合っている形だが、久々に大樹の水場に来たので復習も兼ねている。テオックの説明をルシュに訳し、ルシュがそれを聞いてうんうんと頷いていた。
そこから三人に手分けして作業を開始した。
俺は結晶探しを中心に、途中で薬草を見つけた場合は採取していく事にした。自分では一石二鳥などと思っていたが、どちらかに集中した方が良い気もする。
「ん~無いなあ……」
水場の中を見ているが、結晶が見当たらない。次の水溜りに移動してみるが、こちらにもない。
「さっきはすぐに見つかったけど、結晶は結構見つけ辛いんだよなあ」
近くで薬草を採っていたテオックが言う。
「そう美味い話ではないって事か~……」
暫く粘った結果、なんとか二つ見つけた。テオックも二つ。ルシュは薬草採取に集中していたので結晶は見つけていない。
三人で集まって、成果物を一旦まとめる。ここからはルシュも結晶探しに加わる事になった。
ルシュはチュニックの裾を左手で掴み、水場で濡れないよう少し捲り上げて水溜りに入る。最初は水溜りの底をじっと見つめていたが、何かに気づいたように隣の水溜りへ移動する。そしてすぐに水底から結晶を取り出し、そこから大樹の方向を向いたと思えば、木の根の間からもう一つ結晶を取り出した。
たった数分の間の出来事だった。俺だけでなくテオックも驚いていた。
「すぐ見つけたな、俺なんかより全然早い」
ルシュに声を掛けると、
「なんとなく、ある場所が分かる気がする」
とルシュが答える。
そこからさっき俺が調べて何もなかった水溜りに移動し、水溜りの底に右手を入れて水底をさらうように腕を動かし、結晶を取り出した。
「結晶の魔力を感じ取れてるのかもな」
テオックが感心しながら言う。竜族という存在の片鱗が少しだけ見えた気がした。
ルシュはその後水溜りから出て、森側へ歩き始める。少し離れた場所にある木の根に向かっているようだ。
そのルシュの姿を目で追っていると、視界の端に何かが映った。
目を凝らすと、体長2メートルはある巨体の獣だった。
「テオック、あれは!」
テオックも同じ方向を見る。
「ラズボードか!くそっ気付かなかった!」
ラズボードの顔には傷跡のようなものがある。あの時のラズボードだろうか。
ルシュもラズボードの存在に気づき、そちらを見た。ラズボードはルシュの方向を向いており、唸り声を上げている。
「ルシュ!こっちにこい!」
俺は叫び、テオックと一緒にルシュに向かって走り出す。
それとほぼ同時に、ラズボードがルシュに向かって突進した。




