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第35話:竜少女、村に馴染む

 日が昇り始めた時間、俺はテオックの倉庫から外に出た。


 テオックの家からは物音が聞こえる。既に起きているようだ。

 見渡すとこの時間でも既に仕事に入ろうとする村人の姿がちらほら見える。

 朝日に照らされた森に囲まれた村の光景は、空気の清涼さも相まって爽やかな気分にさせてくれる。


 すれ違う村人達に挨拶をしながら、村長であるメラニーの家に向かった。


 メラニーの家は村の北東部分、村道から少しだけ高い位置にある。

 入り口の前には10段ほどの石の階段があり、木造の平屋の玄関の周囲には花壇が整えられていて、手入れが行き届いているので古めかしさは感じられない。


 扉をノックすると、はーいと二人の声がして、すぐに開かれた。


「おはよう、ヨウヘイ!」


「おはよう、ルシュ」


 ***


 ルシュがアステノに来てから、既に2週間ほどになる。


 ルシュはメラニーの家で寝泊りし、日中は俺と一緒に行動している。

 メラニーは日中雑務がある点、ルシュにとっても通訳が可能な俺と行動した方がしやすい点から、自然とこういう形になった。


「それじゃあ今日もルシュを宜しくね」


「ええ、それじゃあ行ってきます」


 メラニーの言葉に返事を返す。最初は何となく緊張していたこのやりとりにも、もう慣れたものだ。


「行ってきます」


 ルシュがメラニーに告げると、メラニーはニコニコとした表情で見送る。

 こう見るとメラニーとルシュは親子……いや姉妹のように見える。


 最初は村の中を散策したり村人達の仕事を見学する形でルシュを引率していたのだが、

 1週間ほど経ってからはテオックと3人で近場の薬草や食料の採集を行っている。


 ルシュは出会った時は厚手の布の衣を着ていたが、今はメラニーお手製の服を着ていた。森に入るので動きやすく汚れても良い服装として、薄オレンジ色の麻のチュニックに茶色の布製のベルトという組み合わせだ。村長が見た目にも気を遣ってくれているのが伝わってくる。


 テオックの家まで移動すると、既にテオックは準備を整えて家の前に立っていた。


「テオック、おはよう」


 ルシュが真っ先にテオックに挨拶する。


「おお、おはよう、こっちの言葉で挨拶するとは思わなかったぜ」


 俺には少々片言気味に聞こえたが、ルシュは魔族の言葉で挨拶したらしい。

 メラニーから魔族の言葉を教わっているのだろう。この2週間でルシュも少しずつ変わってきている。


 テオックは俺とルシュを一瞥し、今日の方針を伝える。


「少し前に雨が降ってたから、多分丁度良い頃合だ、今日は大樹の水場へ行くぞ」

「大樹の水場か……」


 以前にも行った事がある。クステリの森の中にある巨大な木々がそびえる水場。

 神秘的な光景に感動した場所ではあるが……同時に、ラズボードに追い回された場所でもある。


「あそこは雨が降ってから少しすると、ハーブや薬草だけじゃなくて、結晶も出来る事があるんだよ」


「結晶?」


「ああ、魔素が固まって結晶になるんだよ、俺達には使い道が無いけど、

 魔道具の材料になるからピウリが買い取ってくれるんだよ」


「なるほどな……」


 隣を見るとルシュが俺とテオックを交互に見ていた。

 この辺りの言葉はまだ正確に理解出来ていないようだ。

 俺がルシュに今の会話を伝えると、ルシュは嬉しそうに喋る。


「大樹の水場、行ってみたいと思ってたの」


 その言葉を聞いて頬が緩みながらも、頭の中に引っかかっている点がある。


 以前あそこで採集をしていた時、ラズボードに襲われた。

 狂暴な魔獣で、一応追い返す事は出来たが、正面からまともにやりあえば仕留められるどころかやられかねない相手だ。

 今回はルシュも一緒だ。


「あ~、こないだの事考えてるのか」


 俺の表情から察したのか、テオックが声を掛けてくる。


「まあクステリの森自体魔獣がいる場所だからなあ、前は運が悪かったんだよ。

 今回は大丈夫、もしも出会っても逃げたらいいんだよ。

 俺はいつもそうやって逃げてるから」


 完全に気休めの言葉だが、ここで生活する上でこのリスクは避けられない。

 それは分かっている。


 ただ……あの時は俺とテオックだけだった。


 隣で目を輝かせているルシュを見ながら、俺は不安を感じていた。


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