第12話:魔族の街マーテン
テオックの案内で入ったのは、町の入り口のすぐ近く、前に小さな広場がある宿だった。
「あら、テオックじゃない、久しぶりだねえ」
入るなり声を掛けられる。恰幅の良いオークの女将だった。
テオックとは顔見知りのようで、すぐカウンターに料金を置いた。
「あら、お連れさんは人族?珍しいねえ」
マーテンでは人族が居ない訳ではないが珍しいらしく、女将に話しかけられた。
俺は挨拶を返す。
「ここは飯も安くて美味いし、部屋もゆったりしてるんだよ」とテオックが言い、
女将が「もちろんだよ」と相槌を打った。
店員のオークの女の子に連れられて、俺とテオックは二階の部屋に案内された。
部屋に入って左側にベッドが三つ等間隔に並び、右手にはクローゼット、椅子、小さなテーブルが置かれている。
装飾品はほとんどないが、清潔な部屋だと感じた。
「これで一部屋一泊10ラントなんだぜ、良いだろ。
俺はマーテンに来た時はいつもここに泊まってるんだよ」
確かに安い。
今回の宿代について、俺は自分の分を払うと言ったのだが、
「今は大して金持ってないんだから俺が払ってやる、またそのうち酒でも奢ってくれよ」ということになった。世話になってばかりで申し訳ないとは思うが、テオックがそういう人間なのだと少し分かってきた。
保存食を部屋に置いてから、俺たちは町へ繰り出した。
外に出て宿の看板を確認する。
【宿クルーノ】と書かれている。
もしテオックとはぐれてもここに戻れば何とかなるだろう。
携帯が使えないのは不便だな、と思いながらテオックの後に続いた。
***
宿前の広場から伸びる通りのひとつに入ると、露天が立ち並ぶ賑やかな道に出た。
コボルト、ゴブリン、オーク、オーガ……腕が羽になっている綺麗なお姉さん、あれがハーピーか。
ミノタウルスらしき人も見える。小柄な人々もいる、ハーフリングだろうか。
様々な姿の人々とすれ違いながら歩く。
時折、視線を感じた。往来の中でこちらを見ている者がいる。
「まあ何度かやりとりはしてるけど、人族は珍しいからな」
気づいたテオックが言う。
アステノの村人が初めて見た人族が俺だったくらいだ。
距離の近いマーテンでも、同じく人族はそうそう見かけないのだろう。
なんとなく気恥ずかしい。
そんな事を考えているとテオックが一軒の店の前で足を止めた。
「着いたぞ、ここだ」
看板には【ルステン】と書かれている。
***
店の中に入ると、小柄で紫色の肌をした小悪魔のような店員がいた。インプという種族だ。
「いらっしゃいませ~」
こちらに興味がなさそうな表情で言う。
「これを買い取ってくれないか」
テオックがカウンターに麻袋を置く。
「はいは~い、しばらくお待ちくださ~い」
店員が中身の確認を始める。
その間、俺は店の中を眺めた。
薄暗い店内の戸棚には、ペースト状の薬や、液体の中にトカゲのようなものが浸かっていたりと、怪しげな品々が並んでいる。名前を見ると、風邪薬、魔力薬、睡眠導入剤など日常的に使われそうなものが多い。アステノでは魔法を使える人が村長しかいないこともあり、魔力薬は村では扱っていなかったとふと思った。
そうこうしているうちに入った瞬間には感じなかった異臭が鼻を突いてきた。
「いい魔草も入ってますね、これ全部で64ラントでどうですか~?」
「分かった、それで頼むよ」
テオックは値段に満足したようだ。
「どうもありがとうございました~」
店を出た後、テオックが代金の半分を俺に渡してきた。前のピウリの時の件もあって、今回は有り難く受け取る事にした。
「次はどこに行くんだ?」
俺とテオックのマーテン探索はまだまだ続く…




