第119話:初遠征
「マーテンの外の依頼ですか」
モアが意外そうな表情をする。
「うん、でも遠すぎないくらいの場所がいい」
ルシュが注文を付ける。
「ちょっと探してみますね……」
モアが書類に目を通していく。
手持無沙汰な俺は周囲を見渡す。ギルドの中はこれから依頼に出かけようとする冒険者達が多い。
最近は討伐依頼が多いので、ギルドも活気づいている。壁にもたれかかっている青髪で浅黒い肌の魔人の冒険者バルドーが目を引く。
相変わらず只者ではない空気を醸し出している。
目線をカウンターに戻す。モアは書類を次から次へと取り出していて、ルシュは身を乗り出してそれを興味深そうに眺めている。
そうこうしている内に、モアは一つの用紙を手に取り、こちらに提示してきた。
「南の街クィノーレンでの依頼になりますね。
リキリアの花を持ってきてほしいとの事です」
「クィノーレン……マーテンから南に1日くらいの場所の街ですよね。
リキリアの花とは……?」
俺の質問にモアは少し考えるそぶりを見せる。
「夜になると白く光る綺麗なお花ですね。
観賞用として人気がありますね」
「なるほど……」
「詳しくは依頼者に確認……となっていますね。
難度はそこまで高くない依頼ですが、受けられますか?」
「ルシュ、どうする?」
俺はルシュの方を見る。
「受けたい、クィノーレンに行ってみたい」
ルシュの言葉に俺は頷く。
雨の日の会話から始まったルシュの願いが、こうして形になった。
「分かった。モアさん、その依頼受けます」
俺の言葉にモアは頷き、1枚の用紙を差し出してくる。
「依頼主はクィノーレンの町長さんです、この用紙を渡して下さい。
初めての遠征ですね、頑張ってください!」
かくして笑顔のモアに見送られた俺達は、ギルドを後に出発した。
***
今、俺とルシュは馬車に揺られている。
この馬車はクィノーレン行きの便のようなもので、賃金を支払う事で乗せてもらえる。
基本的に冒険者が別の街に移動する際に使用する移動手段はこの馬車になる。
近場なら歩いて行く事も可能だが、一日以上荷物を背負って歩き続けるのは中々骨が折れる。
馬車に乗るには他にも隊商に同行するという手もある。
その場合は賃金を払う必要はなく、場合によっては警護代を貰える場合もある。
しかしこれはある程度実力を伴った冒険者が用心棒として付いていく場合に限る。
まだそこまでの実績がない事、また賃金を支払っての移動の方が速いので、こちらを選択した。
賃金は一人頭15ラント。決して安いとは言えない。
それでもここ暫く働きづめで資金にある程度余裕があった事、
今回の依頼の報酬が150ラントであった事からも、こうして奮発した。
馬車の中に腰掛け、周囲を見渡す。
中には俺達の他にコボルトが2人、インプが1人、オークが1人、魔人と思わしき人物が1人。
乗客に冒険者らしい身なりの者は存在しない。
何名かは連れ同士らしく、雑談をしているのが聞こえてくる。
俺とルシュは馬車の後方に位置し、外の風景を眺めている。
今日は気持ちの良い晴れで、景色がとても良い。既にマーテンは視界の端へと消えていこうとしている。
マーテンに来た日の事を思い出す。あの時の不安と今の感覚は、随分と違う。
クィノーレンへ着くのは夜になるらしい。今日一日は馬車に揺られる事になりそうだ。
***
太陽がそろそろ傾きかけている。
これまで馬車街道をまっすぐ走ってきたが、魔獣に出会うようなアクシデントは特になく、
まさに順調という道程だった。
最初は景色を眺め続けていたルシュは今俺にもたれかかって眠っている。
かくいう俺も眠たい。他の乗客達も眠っている者が多い。依頼に備えて、俺も出来るだけ体力を使わないように休むとしようか。
こうして日が落ちた頃、無事にクィノーレンへと到着した。




