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第118話:雨の日の過ごし方

「雨だね」


「……そうだな」


 俺とルシュは窓の外を眺めながら話をする。

 外には大きな雨粒が数えきれないほど天から降り注いでいる。

 窓の外に見える草の葉が雨粒を受け止め、そのこうべを下に垂らし、水滴が落ちるとともに上に弾かれる。

 かたつむりのような生き物がその葉の上をゆっくりと動いている。


「今日は仕事、どうしよう?」

 ルシュは俺の方を向いて話しかけてくる。


「今日は、やめようか」

 俺の言葉にルシュは少し嬉しそうに頷いた。


 ……マーテンで生活を始めてひと月以上が過ぎた。


 アステノからマーテンに来て、駆け出し冒険者として新たな生活に踏み出した俺達は、何とかある程度安定した収入を得られるようになっていた。

 安定、と言ってもガワのような危険度の低い魔獣の討伐、素材やハーブ等の納品、店の雑用など、日雇い労働みたいな仕事も少なくない。

 何はともあれ、こうやってたまに休みを入れても問題ないくらいの生活は送れるようになった。マーテンに来た当初を思えば、随分と遠くに来た気がする。


 俺はぼーっと外を眺めていたが、ルシュは外を眺めるのをやめて、ベッドに腰掛ける。

 木の枠組みにシーツが乗っているだけで非常に粗末な作りのベッドで、

 俺が元居た世界のものとは比べ物にならないが、それでもあるだけ有り難いものだ。


 ベッドに腰掛けるルシュは元俺のトレーナーと麻のショートパンツといった休日スタイルだ。

 トレーナーを着たルシュの姿もすっかり見慣れたもので、ルシュはその着心地を楽しんでいるようだ。


「そろそろ朝食にしようか」


「うん」

 俺は朝食のスープを火にかける。ルシュは俺の隣に来てスープを覗く。

 たまにはこういう日も悪くはないだろう。


 ……


「んー……」

 ルシュが唸る。


 今俺とルシュは木の板の上に白と黒に塗った石を乗せている。

 少し悩んでからルシュが板に書かれた盤面の上に黒い石を置く。

 そして白い石をひっくり返し、黒い石にする。


 そう、今俺とルシュはリバーシをしている。

 お手製の盤面に、お手製の石を使って簡易的に作成したものだが、遊ぶ分にはこれでも十分だ。


「そうきたか……」

 現在の形勢は劣勢。何とか持ちなおそうとするが……


 ……


「負けたか…」

 石を集めながら俺は口を開く。


「これで4勝7敗……もうちょっとで追いつける」

 ルシュは飲み込みが早い。ルールを説明してすぐに理解した。

 俺自身リバーシが得意な訳ではないのだが、それでも数戦しただけでもう追い上げられている。

 雨の音を聞きながら石を並べているだけで、妙に穏やかな気持ちになる。


 ***


「10勝10敗か……」


 リバーシ戦は引き分けで終わる事になった。

 あの後のルシュの追い上げから、既にルシュは俺よりリバーシが上手くなっている気がする。


 俺はリバーシを木箱に入れ、片付ける。

 その間にルシュはハーブティーを温める。

 ルシュはハーブティーの入ったコップを二つテーブルの上に置いてくれた。


「ありがとう」

 俺の言葉にルシュは頷く。

 テーブルを挟んで俺とルシュは椅子に座り、ハーブティーを飲む。


 ハーブティー自体、こちらの世界に来てから飲み始めたもので、

 最初は馴染みが無かったものだが今となってはすっかり慣れた。

 しかし、時折緑茶の味が恋しくなってくる。似たような味のお茶は無いだろうか……探してみるのも良いかもしれない。


 向かいに座っているルシュの様子を見る。

 彼女は両手でコップを持ち、少しずつハーブティーを飲んでいる。


 ハーブティーに二口目をつけた所でルシュがこちらに話しかけてくる。


「この生活にも慣れてきたね」


「そうだな、最初は大変だったけど……」

 俺の言葉にルシュは目線をハーブティーに落とす。心なしか微笑んでいるように見える。


「ヨウヘイ」


「どうした?」

 俺の言葉に少し間をおいてルシュが口を開く。


「次依頼を受ける時、マーテンの外に行ってみたい」

 唐突な提案。でも、確かにそろそろ良い頃合いかもしれない。


「んー……」

 俺は少し考える。マーテンに来てから受けた依頼は全てマーテン近郊、もしくはマーテン内のものだ。

 衣食住は満たせている。生活する分にはお金にも多少の余裕はある。ちょっと遠征も良いかもしれない。


「そうだな、次の依頼はちょっと近くの村や街に行くものが無いか見てみようか」


「やった、ありがとう」

 こうして雨の降る穏やかな一日は過ぎていった。


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