05話 お察しします
ライナス様とお話して何となく解りました。
クレイトン侯爵が、我が家に莫大な資金援助をしてまで、ライナス様の花嫁を確保しようとした理由が。
ライナス様は美貌で、社交界では『氷の騎士』と呼ばれている見目麗しく華やかな令息です。
しかもクレイトン侯爵家の跡取り息子です。
そこだけを見れば、縁談の相手としては上級の良物件です。
結婚相手など選び放題になるはずです。
それが何故か……。
ライナス様との結婚を条件に、クレイトン侯爵が我が家に莫大な資金援助をしてくださるなんて。
気前が良すぎる話だとは思っていたのです。
クレイトン侯爵家の家格で、ライナス様ほどの美貌のご令息なら、引く手あまたのはずです。
むしろ逆に、資金援助や権利の譲渡などの良い条件を提示してでも、ライナス様との婚姻を望むお家やご令嬢が大勢いてもおかしくありません。
それなのにライナス様は、不思議なことに、私と婚約するまでは婚約者がいらっしゃらなかったのです。
ライナス様が初めて婚約した相手が、私なのです。
その理由が、ライナス様と二人でお話をしたことで解りました。
ライナス様には「女嫌い」「女性に冷たい」という噂がありました。
それがライナス様の結婚の障害になっている最大の問題点だったのでしょう。
(性格が悪くて、幼稚なのよね……)
初対面の女性にあのような態度をとったら、お断りされて当たり前です。
(良い家のご令嬢たちは、ライナス様をお断りしたのでしょうね……)
クレイトン侯爵家に見合う家格の家、つまり対等かそれ以上の家でしたら、ライナス様との縁談をさっさと断ることができます。
ライナス様はお相手の令嬢に冷たい態度をとって、釣り合いの取れる家からは全てお断りされたのでしょう。
かといって、クレイトン侯爵家から持ちかける縁談に逆らえないような、格下の家の娘を妻にしては、クレイトン侯爵家全体が侮られることにもなりかねません。
侯爵家の跡継ぎのライナス様の妻になるということは、次の跡継ぎの母になるということです。
格下の家の娘から生まれた子では、血筋の良い他の親族たちに家長として認められず排除されることも有り得ますもの。
資金援助とセットで、クレイトン侯爵が我が家に縁談を持ちかけたのは、ライナス様に血筋の良い花嫁を迎えるための苦肉の策だったのでしょうね。
我が家は裕福ではありませんが歴史のある伯爵家で、血筋は良いですから。
そう、ライナス様のご両親のクレイトン侯爵夫妻は、ライナス様の将来を心配して、我が家に資金援助までして私との縁談を整えたのです。
(ライナス様はご両親のお考えも、ご自身のお立場も、見えていないのですね)
クレイトン侯爵夫妻のご苦労をお察しいたします。
そんなクレイトン侯爵夫妻には本当に申し訳ないとは思いますが。
私はこの契約結婚を利用することにしました。
クレイトン侯爵夫妻がご存知ないとはいえ、私はライナス様にさんざん侮辱されましたので。
三年間だけお飾りの妻を務めて、実家への資金援助はきっちりいただこうと思っております。
契約書の通りですから、何ら問題はございません。




