04話 気付き
(もしかして、これは……お得な話かも?!)
だって私が三年間だけクレイトン侯爵家で過ごすだけで、我がスタンリー伯爵家は資金援助が得られるのですもの。
ライナス様に尽くそうとか、ライナス様と良好な関係を築こうとか。
夫婦仲良く暮らせるようにとか。
良い縁談を得て、気持ちが通じ合って結婚した夫婦のようになろうなどと、殊勝なことを考えさえしなければ。
これは、とてもお得な話ではないでしょうか。
もともとこちらは、資金援助を得ることが目的です。
資金援助さえ得られれば良いのです。
(この結婚は仕事として割り切るべきよね。仕事だと考えれば、とても良い待遇だわ。お飾りの妻を三年間演じるだけで、大金が貰えるんですもの)
私に離婚歴はついてしまいますが。
離婚歴があるからといって死ぬわけではありません。
それで大金が貰えて、家族や領地を助けることができるなら望むところです。
世の中には、不幸な結婚に一生繋がれて酷い目に遭う女性もいると聞きます。
三年だけ我慢すれば、ライナス様と離縁できるという状況は、むしろ幸運な部類の政略結婚でしょう。
資金援助を得た後に、頭も性格も悪く幼稚なライナス様とはさくっと離婚できる。
とっても都合が良いことではありませんか!
しかも白い結婚です。
良いことづくしです。
仕事と割り切って、見方を変えたら、怖いくらいお得なお話です。
「ライナス様は、私とは白い結婚をなさり、三年後には私と離縁なさるおつもり、ということでしょうか?」
私は、お得すぎる内容にドキドキしながら、念のために確認しました。
「そうだ」
ライナス様は私と視線を合わせずに、ぶっきらぼうに言いました。
「形だけの結婚だ。変な期待をして私につきまとうな」
「それでは、婚姻の条件にそれを盛り込んではいかがでしょう」
喜びを顔に出さないように、私は悲しい表情を作りながら提案しました。
だってライナス様は、侮辱の言葉に私がショックを受ける様子を見て、優越に浸っていらっしゃる感じがするのですもの。
(ここで私が喜びを顔に出したら、ライナス様は機嫌を損ねてこのお得なお話が吹っ飛んでしまうかもしれない。ライナス様が望むように、しょんぼりした顔をしなければ)
「は?」
ライナス様は訝し気に眉を歪めて、こちらを振り向きました。
「どういう魂胆だ?」
「三年しても子ができなければ離縁する、と、あらかじめ婚姻の契約書に書き加えたほうが、すんなり離縁できるかと思います」
この婚姻には契約書があります。
契約書には、私がライナス様と結婚すること、そしてクレイトン侯爵家が我がスタンリー伯爵家に資金援助する旨などが記されています。
「何のつもりだ?」
ライナス様は探るような目で私を見ながら言いました。
「強がりを言って、私の気を引こうとしているのか?」
意味が解りません。
離縁したいなら、この案に賛成してくださると思いましたのに。
「結婚後、三年しても子ができなければ離縁するということを契約書に書いておけば、離縁の理由を両親たちに説明して、両親たちを説得する必要はなくなると思ったのです」
私は、悲しみに暮れているかのように目を伏せて、ライナス様とは目を合わせずに言いました。
「どうして離婚するのかと理由を問い詰められたら、私は両親に、どう説明して良いのか解りません」
(ライナス様だって、ご両親を説得するのは大変でしょう? この結婚に不服なのに、ご両親の理解が得られず、私と結婚しなければならないライナス様ですものね)
「両親に離婚を反対されたら、どう言えば良いのかも解りません。両親を説得できる自信がありません。ですから離婚条件として、契約書にあらかじめ条件として書いていただけたら、私が両親たちを説得する必要がなくなって、説明せずに離婚できると思ったのです」
「……」
ライナス様は考え込むような顔をしました。
やがて、考えが決まったのか、ライナス様は顔を上げました。
「良いだろう。契約書に書き加えるよう父に言っておこう」
そしてライナス様は、何故か勝ち誇るような顔をして私に言いました。
「後になって、離婚したくないと泣きついてきても知らないからな?」
意味が解りません。
ともあれ、婚姻の契約書に、三年の間に子ができなければ離縁する、という条項が加えられることになりました。




