13話 さようなら
「愛人などいません」
私は無表情で答えました。
「私が不用意に外出していたかどうか、使用人たちに聞けば解るでしょう。ご心配なら、使用人たちにご確認あそばせ」
「そ、そうか……」
ライナス様はほっとしたようなお顔をなさいました。
それが少し癇に障り、私は少し嫌味をいいました。
「ライナス様のご希望通りに、愛人を作らず申し訳ありませんでした。ライナス様は私が愛人を作ることをお望みで、愛人との付き合い方まで指示してくださいましたのに。ライナス様のご期待に沿えないつまらない妻で申し訳ありませんでした」
「い、いや、良かった……」
「いいえ、これはライナス様の妻として、私の至らなかった部分ですわ。ライナス様のご要望に沿えなかったのですから」
「い、いや、至らないなんて、そんなことは思っていない……」
「愛人を作れと私に言ったのはライナス様です。お忘れですか? ライナス様は、私の相手をしたくないから、私に愛人を作ってそういうことをせよとご命令なさったのですよ? 夫の希望に沿えず申し訳ありませんでした」
「あ、あのときは、本当に……私が悪かった。許してくれ……」
ライナス様はもごもごと言いました。
「あのときは本当にすまないことをした。あ、謝るよ……」
「いいえ。私に謝罪など不要です。ライナス様が私に無関心でいてくださったおかげで、私は愛する人と結婚できることになったのですもの。その点についてはとても感謝しております」
「は?!」
弾かれたように、ライナス様は顔を上げました。
「ど、どういう意味だ?! やっぱり愛人がいたのか?!」
「愛人などいません。それは先程申し上げました通りです。ですが、愛する人はおりました」
「は?!」
美貌で間抜け顔を晒しているライナス様に、私は説明しました。
私の事情を。
「私にはもともと愛する人がいたのです。ライナス様と結婚することになってお別れしたのですが……。ライナス様が三年で離婚してくださると言うので、愛する人に三年待っていて欲しいと頼んだのです。そしたら、彼は待っていてくれました」
そう、私の初恋の幼馴染アーサーは、三年間、待っていてくれたのです。
もちろんただ待っていただけではなく、彼は領地の復興のために頑張っていました。
アーサーはエヴァレット子爵の嫡子です。
領地が隣同士だった縁で、私とは幼馴染でした。
大雨でエヴァレット子爵の領地も、我がスタンリー伯爵家の領地ほどではありませんが被害を受け、彼はこの三年間、領地の復興のために尽力していたのです。
「私はようやく愛する人と結婚できます。これもライナス様が女嫌いでいらしてくださったおかげです。あのときは傷つきましたが、こうして愛する人と結婚できることになって、今はライナス様に大変感謝しております」
「そ、そんな……」
ライナス様は衝撃を受けたようなお顔をなさいました。
そのライナス様のお顔……。
不謹慎ですが、溜飲が下がる思いでした。
三年前のあのとき、愛することはない、愛人を作れ、と侮辱されて衝撃を受けた私ですが。
今、ライナス様が衝撃を受けているお顔を見て浄化された気がします。
これで、おあいこです。
「ライナス様、今までありがとうございました。そして、さようなら」




