最終話 本当の騎士
私は、初恋の幼馴染アーサーと結婚しました。
私にとっては二度目の結婚となりますが、本当に愛する人と結婚できて幸せです。
契約でもお飾りでもない、本当の本物の、幸せな結婚生活が始まりました。
「セルマに暴言を吐いたことは許せないけれど……」
私の夫となったアーサーは、ライナス様について言いました。
「こうして僕らが無事に結婚できたのはライナス様のおかげだね。あの水害から、僕は領地のことでいっぱいいっぱいで、どのみちしばらくは結婚どころじゃなかったよ」
「そうね。ライナス様に酷いことを言われたときは凄く腹が立ったけれど……。資金援助もしてくれて、白い結婚の約束もちゃんと守ってくれたわ」
「やっぱり育ちが良い人なんだろうなあ。一緒に暮らしてるのに白い結婚の約束を守ってくれる男なんて……。なかなかいないと思うよ。正式な妻に手を出しても罪じゃないんだから……。ライナス様は根はすごく良い人だと思う」
「そうなのかしら」
「そうだよ。資金援助してくれた上に、白い結婚を貫いてセルマを返してくれるなんて、大変な篤志家だよ。そんな誠実な男はなかなかいない。これはもう美談だ」
「じゃあ、そういう美談にしてしまいましょうか? ライナス様のために」
「何か考えがあるの?」
私はライナス様にお手紙を書きました。
私とアーサーの初恋のために、ライナス様が身を引いてくれたことへの感謝と。
この美談を社交界で語るという予告を。
そして実行しました。
やがて。
私とアーサーの初恋を実らせるために、氷の騎士ライナスは白い結婚を貫き、そして身を引いた、という美談が社交界で囁かれることとなりました。
「乙女の初恋を守るために潔く身を引くとは。まさに騎士道だ!」
「なんて高潔で清廉な行いでしょう。ライナス様は本物の騎士ですわ」
「心温まる良い話を聞いた」
「まるで一服の清涼剤のようなお話ですね」
美談によりライナス様の『氷の騎士』の二つ名は高まりました。
そしてライナス様の人気が社交界で急上昇。
クレイトン侯爵夫妻は、私とライナス様が白い結婚だったことを知り残念がりましたが、「そういうことだったのか」とライナス様の男気を褒め称えました。
「ライナス、一言相談してくれれば良かったのに」
「そうよライナス」
「……言うほどのことではないかと思い……」
夜会やサロンで、私をいつも放置していたライナス様の姿を知っていた者たちも「そういうことだったのか」と納得して、ライナス様を褒め称えたそうです。
「ライナス君、事情は聞いたよ。立派な行いをしたな」
「……いいえ……大したことはしていませんので……」
「なんと奥ゆかしい」
「さすがは氷の騎士」
ライナス様の再婚相手はまだ決まらないようですが。
美談により評判が高まったため、ライナス様は騎士爵に叙勲されることが決まりました。
なんと王妃様のご推薦です。
「彼は三年間、乙女の初恋を守っていたのね。なんて素敵なお話でしょう」
「王妃様、このお話にはまだ続きがあるのです。実はライナス様は、健気な乙女の姿に密かに恋心を抱いていたという」
「まあ!」
「彼は乙女の幸せのために自らの恋心を封じ、身を引いたのですわ……」
「なんて切ない恋物語でしょう……」
ライナス様の美談に大感動なさった王妃様は、王室騎士団にライナス様を推薦してくださったのです。
イメージからのあだ名ではなく、ライナス様は本当の騎士になられるのです。
アーサーと結婚して幸せになった私は、今では……。
ライナス様の幸せを心よりお祈りしております。
――完――




