10話 離縁のとき
「は?! 離縁?!」
ようやく契約の三年が経過しました。
前々から準備していた私は、時が来ると、早速離縁の話を切り出しました。
するとライナス様は、血相を変えて狼狽えました。
「セルマ、どうして……?!」
「そういう契約だからです」
私は淡々と必要事項を伝えました。
「ライナス様、こちらの離縁書にサインを」
私はすでに身の回りの品を実家に送り、離縁してこの屋敷を出て行く準備を終わらせています。
侯爵家で揃えてくれたドレスや宝飾品などの高級品は置いて行くことにしましたので、部屋に置いたままです。
その旨は使用人たちに伝達済です。
クレイトン侯爵家が莫大な資金援助をしてくださったおかげで、私の実家スタンリー伯爵家は持ち直しました。
これ以上は望みません。
三年経っても子が出来なかったということで、義両親クレイトン侯爵夫妻も私とライナス様の離縁をしぶしぶ承諾してくださっています。
契約書にその旨が記載されているからです。
それにやはり、三年しても子が出来なかったということで、クレイトン侯爵夫妻も思うところはおありでしょう。
侯爵家の跡継ぎには養子を取るという手もありますが。
クレイトン侯爵夫妻は、やはりライナス様のお子様に、血のつながったお孫様に家を継いでもらいたいとお思いでしょう。
「さあ、ライナス様、サインを」
離縁の準備は完了しています。
後はライナス様に離縁書へのサインをいただくのみ。
「待ってくれ、セルマ。別れたくない!」
この期に及んで、ライナス様は駄々をこねました。
ライナス様のその言葉を、ある程度は予想していました。
最後の半年間はやたらと私に絡んで来ましたからね。
でも本当に私と結婚生活を続けたいなら。
無駄に私に絡む前に、やることがあったはずです。
最初の暴言を私に謝罪するとか。
子が出来なかったら離縁するという結婚契約の条件を両家で再考するよう働きかけるとか。
しかしライナス様はそういった必要なことを一切せず、ただ私の周囲をうろちょ
ろするばかりでした。
情状酌量の余地などありません。
「契約を破るのですか?」
「愛しているんだ!」
ライナス様はかつて高飛車な態度で「愛することはない」と堂々と宣言していらっしゃったのに。
何なのでしょう。
「そういった話し合いは、契約を履行した後にいたしましょう」
私は微笑みながらライナス様にサインを求めました。
とにかく離縁書にサインをもらわなければなりませんからね。
「契約による結婚は終わりました。クレイトン侯爵も離縁を承諾しています」
「そんな! 契約だなんて!」
「契約書がありますので、れっきとした契約です。契約の条件に満たなければ、離縁するという契約です。契約内容はライナス様もご承知だったはずです」
「それはそうだが……。だが、私は君と別れたくない!」
「ライナス様のお気持ちで、一度ご了承なさった契約を覆すことはできません。貴族同士の正式な契約を、気が変わったからと、一方的に反故にすることがいかに不名誉なことかお解りですか。クレイトン侯爵夫妻も許さないかと存じます」
「……」
「契約はこれで終了しました。ライナス様が私との結婚の継続を望むのであれば、契約終了の後に、改めて、私に結婚を申し込むというのが筋です。その際にはクレイトン侯爵夫妻や私の両親の説得も必要です」
「……解った……」
ライナス様は観念したのか、しぶしぶと、離縁書にサインしてくださいました。
これでお別れです!




