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6 自由落下の行き先

 現状を整理してみる。頭が忙しいので。


 まず、お父さんが保証人になっている借金がある。それもとんでもない額の。そして返済するあては私にはない。そこに現れたのが金貸しルイドー。いい仕事があるらしい。内容は『物』を受け取って運ぶというもの単純なものだ。裏がありそうと思いつつも私は受けることにした。でも来てみれば目的の『物』がとんでもないものだった。それは『飛竜の卵』で、これを一般人が触るのは罪に問われる。


 捕まったら、私ってどうなっちゃうんだろう……。一生を牢の中……だよね。でもさ、飛竜の卵を盗むと知ってたらやらなかったし? 犯罪に加担させられたことを「知らなかったんです!」で許してもらえ……るわけないよねぇ。


 などと考えながら走っている私。さっきまで物陰に潜んでいたのであったけども騎士に見つかってしまい、再び街中のあらゆる通路を走り回ることになっていた。


 それでも頭は意外と冷静だ。たぶん「逃げないと捕まる! 捕まったら終わり!」って状況と。逃げ切るためにはどこかに隠れてやり過ごさないとっていう考えがまずある。

 そこに「こんなことに巻き込んだルイドー許さん!」って気持ちもあるし、「なんでこんなことに首突っ込むかな、私のあほ!」って感情もごっちゃになってる。いろいろ混ざりすぎて逆に冷静になっている。みたいな感じだ。忙しいほど頭がまわることってあるしさ。


 背後からは竜導騎士の使役する警備竜の足音が迫ってきていた。通路の固い床材を爪が蹴る音だ。物陰に潜んでいたところを発見されたものこの小さな竜のせいだった。


 警備竜は小型の飛竜のことだ。翼は退化しているので空は飛べないけど、小さい体を活かして通路を駆けまわる俊敏な奴だ。小さとはいっても飛び掛かられたら簡単に人を押し倒すくらいの体重はある。

 父さんが言うには(正確には曾祖父のそのまた曾祖父の代より前からのまた聞き)イヌっていう生き物と大体同じ大きさらしいと聞いた。イヌってのは地上にいる生き物らしい。どんな姿なんだろう? 警備竜は主人に従順で追えと命じられればどこまでも追ってくる。というのもイヌと似ているらしい。


 通路の角を急いで曲がり、階段を駆けあがる。踊り場だ。「おりゃ!」と向かいの建物の梯子に飛びつく。振り返ると踊り場では牙をむき出しにし「ガルルル!」と唸る三匹の警備竜がいた。危なかった。


「ごめんなさい! どうか見逃して。家を守るためなの!」


 梯子を急いで登りながら口にだしていたが警備竜からすれば「そんなの知るか! 早く卵を返せ!」である。警備竜たちは踊り場の柵の間から脚を伸ばし、私に向かって激しく吠えている。見てよあの鋭い牙に爪。引っかかれた痛いではすまない。


 幸い不安定な足場に屋根やベランダを飛び移りながら移動しているので警備竜も易々とは追いつけないみたいだ。日々の仕事と運動で鍛えられた足腰に今ほど感謝したことはないくらいだ。


 しかし、どうやって振り切れば良いのだろうか……。ルイドーに卵を渡さないといけないのにこれじゃ渡すどころじゃない。警備竜は何匹いるかわからないし、騎士たちも姿は見えないけどそこらじゅうから声は聞こえるし、朝になれば飛竜が飛んでくるかもしれない。


 飛竜。ただの泥棒に飛竜を飛ばすだろうか。いや、する。私の背にあるのはなんたって飛竜の卵だ。ここ三百年の間に新しい卵は生まれていない。その貴重な卵が盗人の手に渡っているのだ。絶対になにがなんでも取り返そうとするはずだ。


 ああ、もう! なんでこんなことに首突っ込むかなあ、私!


 不意に視界が傾いた。瞬時に背筋を駆け巡るのはぞわりとした不快な感覚。これは、まずい。私は、足を踏み外している!

 咄嗟に手を伸ばす。何かを掴んだ。冷たい感触がする。これはベランダの柵だ。本能的に動いた片手でなんとか落下を免れていた。下は……暗くてよく見えない。


「落ち着いて、ゆっくり上がれば大丈夫」


 ふうっと息を吐いて心を落ち着かせる。その時、ガタンと体が揺れた。柵がさらに傾いたのだ。


「この柵、整備してないの!?」


 ダメだ、ゆっくりなんてしてられない。もたもたしてたら落ちる。急いで上がらないと。その時、何かがベランダの床に降り立つ音が聞こえた。柵の間から暗闇に目を凝らす。獣の臭いと唸り声。勇気ある警備竜が飛び移って来たんだ。


「ああもう、お願いだからこっちこないで。ね?」


 そんなことを聞くはずもなく、警備竜は鋭い牙をむき出しにしてゆっくりとこちらへ進む。

 きっとこの警備竜は腕に噛みついてくる。そう、私が柵を掴んでいる腕を狙って。そしたら私は落ちてしまう。下はどこかの通路だ……と思う。王竜ズメイの背中を毎日歩き回っている私でも、無我夢中で走ってきたことと、普段出歩かない夜という条件が重なってもう分からなくなっていた。


「く、うう……」


 飛び降りるか? もし下になにも無かったら? 想像するだけでぞわりとした不快感が体を駆け巡る。 急いで上がるのはたぶん無理。警備竜はそこまで待ってくれない。今だってじりじりとこっちに近づいて来ているんだ。それに待てと命じる騎士の姿も見えない。素早く上がって機敏に回避! なんてできればいいけどさ! それは無理!

 柵がまた揺れて、体が揺さぶられる。この柵も限界だ。


 落ち着け、走ってきた感じからして下にはちゃんとした通路がある。記憶が正しければそうだ。昼間と違って夜の街の姿はだいぶ違うけど、間違いない。頭の地図を信じるのだ!


「お願い!」


 警備竜が飛び掛かるすんぜんに私は手を離し暗闇への自由落下を試みた。

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