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13 新しい部屋。

「とりあえずは今日は帰るといい。そこのお前」


 アーリアが通りがかりの騎士を呼び止めた。もう私と話すことはないってことらしい。


「このお嬢さんを部屋に案内してやれ」

「部屋? 私の部屋があるのですか?」

「当然だ。お前は刑執行が保留されている身だぞ。傍に置いておくのが当然だろう。こちらから移送する手間が省けたというだけだ。リューイにはその任を与えていたわけだが、勝手なことをするとはな」

「そうだったの?」


 リューイを見たけど無言で前を向いたままだ。


「おまえ以外でその飛竜が大人しくしているのはリューイだけだ。身内を警護に当てたくはなかったが仕方ない」


 おチビは他の騎士のことを嫌っているみたいな話は牢にいたときに聞かされていたけどもどうやら本当のことみたいだ。そういえばおチビはリューイに対してはどうしてなんの反応もしないんだろう。


 詰所から宿舎の方へと連れていかれることになった。リューイとは別れ、さっき浮かんだ疑問を確認する暇は無かった。もしかしておチビはリューイのことも親って思っているとか?

 案内をしてくれている騎士の後ろをついていく。歩くのが速くてついていくのが大変だ。どうやらリューイは怪我をしている私の速度に合わせてくれていたみたい。リューイにはまた迷惑をかけてしまった。こんどの叱られでさすがにもう嫌われたかもしれないな……。


「ここがおまえの部屋だ」

「ここ、ですか」


 通されたのは小さな一部屋。私たちのような一般船員の標準的な一人部屋と同じくらい。私の部屋とも変わらない広さだ。窓は一つ。ベッドと四段のチェスト。椅子と机。どれも古い。その中で一つだけ新しいものが置かれていた。縦横一メートル程の白い枠で囲まれた箱で、中には干した苔が敷き詰められている。幼竜の寝床だ。


「必要なものがあればその紙に書け。トイレは部屋を出て左の角。食事は一日二回持ってくる。付き添いなしでの外出は禁止だ」


 騎士は机を指さした。小さな重しがありその下には紙束があった。ほしいものはそれに書けばいいらしい。


「わかりました。書いたら誰に渡せばいいですか?」

「あの幼馴染に渡せばいいだろ。こっちは忙しんだ」


 そう言うと騎士はドアをバタンと閉めて出ていった。ちょっと感じ悪い。けど自分の立場を思えば何も言えない。泥棒だからね。しかし、私とリューイが幼馴染であるという事実は周知のものらしい。


 おチビをそっと降ろしてやる。ぐっすりと寝ているようだ。一瞬目を開けたようだけど私の姿を見ると安心した様子でまた目をつぶった。

 窓の外からは柔らかな光りが入ってきている。外を見ると厩舎が見えた。飛竜たちの家だ。夜はあそこで寝る。こっちの建物よりもずっと大きい。


 この詰所は質素な作りだ。年季の入った壁。塗料の剥げた床はよく歩く場所に沿って白くなっていて、まるで干上がった川みたいだった。

 さっき通りがかりに他の部屋をちらりを覗いたのだけど、一部屋に二段ベッドが二つ置かれていた。きっと四人一部屋ってことなんだろう。さすがに副騎士団長くらいになれば個室はあるだろうけど。他の団員は相部屋が普通みたい。


 この隣の詰所の隣は竜の寝床である厩舎がある。かなり大きい。飛竜はそもそも体が大きいからおのずと建物も大きくなる。そうなると必然的にちっこい人間のほうは隅っこに追いやられることになる。居住区も少ない敷地をなんとか利用していたけど、騎士区ともなればさらにそうならざるを得ないってことみたいだ。


 ふむ。そう考えると私が一人一部屋ってのはかなり好待遇に思えるね。もちろん全てはおチビ飛竜のためではあるけど。さっきの騎士が感じの悪い態度も納得だ。


「疲れた……」


どさりとベッドに後ろ向きに倒れ込む。


「あッ! ぐぅおお……」


 アホ! 私のバカ! 怪我をしてる脚が! 擦るとさらに痛くなりそうな気がするので我慢する。とりあえず落ち着いたところで深呼吸を一つ。


「はぁ……固い」


 無意識にベッドに対しての感想がこぼれる。


「必要なものってあるかな」


 騎士が去り際に教えてくれた紙を思い出す。ここにほしいものを書けばいいってことみたいだけど。うーん。いるものっていうと、仕事道具とか? いやいや、こんな状況でできるものなんてないし。


「あ、そうだ。着替えがほしい」


 何日か分の着替えを取ってきてもらおう。リューイならある程度場所も分かるだろうし。幼馴染だし今更恥ずかしがるほどのこともない。


 ふと家の中がどうなっているだろうか考えた。父さんの葬式の後で片づけてからはそのままだ。すぐに帰れるって思ってたから机の上に出したままの物がある気がする。そういえば父さんの部屋の片付けはまだ終わっていない。私の部屋も散らかったままだ。


「帰れるのかな……」


 なんだかとたんにまた寂しい気持ちが湧いてきた。

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