傷付いた者達
翌日、フリデミングと2人でジュリアーナ妃殿下との茶会に臨んだ。あ、王太后様(絶賛おひとり様)もいらっしゃるわ!
「母上!」
王太后様はパアッと笑顔になるとフリデミングに抱き付いて来た。
「フリィ…元気でした?怪我や病気はしていない?向こうで困ってない?大丈夫?」
やっぱりお母様だな〜とニヨニヨしながらフリデミングと王太后様を見ていると、ジュリアーナお姉様…妃殿下が静かに私の横に立っていた。
「王太后様、嬉しそうね…やっぱり末っ子て特別可愛いらしいわよ~」
ジュリアーナ妃殿下は優しい微笑みを浮かべて親子を見詰めている。
「うちのマーグリットもね!私…マーグリットに強請られたら何でも買ってあげてるわ…」
「ハラシュリア…あなた孫に何でも買ってあげちゃうおばあちゃまみたいになってるわね…」
当たらずと雖も遠からず…私は中身はおばあちゃんなのでね。そして妃殿下に勧められて庭のテラスの椅子に座った。あら~お茶が良い香り~!
「妃殿下、この茶葉良いですね~」
「南のシーカバス地方の穀茶ですって!美味しいわね…今ね、地方の名産品の食べ比べをしているのよ?」
「え?何で?」
ジュリアーナ妃殿下がニッコリと笑った。
「昨日の朝、ハラシュリアが朝議で商業施設の出店に地方の名産品を扱う店を出せば…って言ったんでしょう?昼過ぎには各地方領主から次々地方名物の食品から工芸品が沢山持ち込まれていて、内務省の皆様と陛下と私も入れて地方の美味しいお菓子やおかずも試食三昧よ?」
ふええっ!?そんなことになっているのぉ?私がチラッと言ったことに皆の食いつきがすごい…。ジュリアーナ妃殿下は穀茶は良い…と一覧のような品目の横にマルを付けている。
親子の抱擁を終えた、フリデミングが席に着いて茶菓子とその名産品の一覧表を見て「これ工芸品作りの体験できないかな~」とかキラリと光る妙案を出して妃殿下を喜ばせている所へ…
腹黒三兄弟がやって来た。
「やあ~昨日はお疲れだね、ハラシュリア」
出たーー長兄のサイフェリング陛下を筆頭に何故ケールミング殿下もライトミング殿下もいるんでしょうか?
フリデミングは胡乱な目を兄達に向けている。
「何ですか兄上達…」
すると、一瞬でフリデミングの背後に来たライトミング殿下がフリデミングの頭を小突き回した。
「お前っ帰って来てんなら、軍に顔出せよ!」
「いててっ!もう何だよっ!」
フリデミングにじゃれつくライトミング殿下をサイフェリング陛下もケールミング殿下も珍しく優しい目で見ている。
な~るほどね。末っ子は愛されてるわねぇ。
散々ライトミング殿下に小突かれて抱き付かれて、ケールミング殿下にどこかに連れて行かれて…小一時間後に戻って来たフリデミングはまたプンスカ怒っていた。
「もうっ何だよ…ゆっくりお茶も飲めないじゃないか!」
そんなフリデミングを王太后様も妃殿下も私も生温かい目で見てあげた。
「な…なに?」
フリデミングが王太后様を見た。
「ウフフ~フリデミングはおにいちゃま達に愛されてるわね~」
「なぁ!?」
私は追い打ちをかけてあげた。
「フリデミングはね~喜怒哀楽がはっきり顔に出過ぎるのよ~だからはらぐ…ゲホン、上のお兄様方からしたら、からかい甲斐があるから余計に構われるのよね」
フリデミングは真っ赤になって、口を尖らせている。ほら~そんな顔するから小突きまわされるのよね。
次の日
フリデミングと共に私、マエリアさんとリーネはシュリツピーア王国に帰った。
そう言えば例のマエリアさんとルベル卿のわだかまりがまだ解決していないままだった。2人はお互いに見ないよう、見ないようにして動きがぎこちない。
私はフリデミングの耳元へ
「帰ったら早急にマエリアさんとルベル卿の話し合いの場を設けた方が良くない?」
フリデミングもちょっと元気の無い(色気も激減)ルベル卿を見て、頷いている。
さて転移陣でサックリ素早くシュリツピーア王国に戻って来ましたよ。戻った早々にマエリアさんとルベル卿を呼び話をすることになった。
緊張する…マエリアさんには詳しい説明をする、しないはマエリアに任せると言っている。
「マエリア…先日も言ったがルベルが気にしていることなのだ、理由を教えてくれ」
ルベル卿がハッとしたように、マエリアさんに目を向けた。マエリアさんはしっかりとルベル卿を見詰めると淑女の礼をした。
「ルベル=ビジュリア卿、先日から不敬な態度をしてしまい申し訳ありませんでした。それであの…」
一瞬マエリアさんはフリデミングを見たが、視線を戻すと
「実は私、ビジュリア卿のお声が苦手でして…」
と、マエリアさんが告げるとルベル卿は一瞬息を飲んだように見えた。そして少し考え込んでいた後にズバリと核心を付いてきた。
「声が苦手ということは、先日私が女性に声を荒げた時に苦手だと認識した…ということですよね?少し前に初めてご挨拶をさせて頂いた時は、このような感じではなかったと記憶していますので、つまり…マエリア嬢は私と声の似ている男性に声を荒げられるようなことがあった…ということですか?」
鋭い!てかよく覚えている…だからこそ近衛の職についているしフリデミングの護衛も任されているのだろうしね、優秀で当たり前だ。
ズバリ指摘されてしまってマエリアさんも私もフリデミングもオロオロするばかりだった。その様子を見てルベル卿は何となく事情を察してしまったのだろう。深く息を吐かれた後
「声…とは私の方でもどうすることも出来ないことですが、ご不快にならないようになるべく声を荒げないように…」
「い、いえっビジュリア卿が恐ろしい訳ではないので…その大丈夫でございます…」
俯き目を伏せるエロ可愛いマエリアさんの前に跪いて、静かに手を差し出した漆黒の獣…。
「マエリア嬢…どうかお顔を上げて下さい。どうかこの私と打ち解けて接して頂ければ幸いです」
「は…はい…こちらこそ宜しくお願い致します」
そしてエロ可愛いマエリアと漆黒の獣は手を取り合い…熱く見詰め合うのだった……
ふあああっ!?これは何だぁ!?まるで恋愛ものの観劇を観ているかのような…今赤い花が散ってジャジャーーンと音楽が流れたかと思ったわ。
どうやらフリデミングも気が付いたようだ、目が合うと頷いている。
「ルベルが女性に興味を持つなんてな~」
夕方…庭に面したテラスでフリデミングと囁き会議中だ。
「それはルベル卿が女性で何かあったってことなの?」
「あったって言うよりも、今もある…て言い方の方がいいかも?結構有名なんだけど、まだシュリツピーア王国に来て日の浅いハラシュリアは知らなくて当然かな?ルベルに聞こうか?機嫌が悪くなるかもだけど、ハラシュリアが良い解決法を編み出してくれるかもしれないし」
何だそれは?私で解決出来ることなの?
夜、私室に招いてルベル卿に尋ねると、渋い顔をされたが教えてくれた。何と理由が…マエリアさんと同じ意味合いなのが不思議だった。
「いえお話します、もしジーニレア=フリスベイ侯爵令嬢が現れて狼藉や暴言など危害を加えてきた時の為に、あのことを皆様にも知っておいて頂いた方が良いと思いますので」
因みにルベル卿の他にフリデミングとマエリアさんも室内に居る。マエリアさんは驚いているのか目を見開いてルベル卿を見詰めている。
ルベル卿は静かに話し出した。
ジーニレア=フリスベイ侯爵令嬢が、突然に自分との間に子供が出来たと周りに言い出したこと。以前からしつこく纏わりついて来る女性達の中の1人ではあったが、自分は絶対にそんなことはしていないと伯爵である両親や親族にも身の潔白を宣言した。そして正式に侯爵家から責任を取って婚姻をしろ…と詰め寄られたがルベル卿は断固として覚えはないと拒絶したということだった。
そうして侯爵家から婚姻の圧力をかけられていた時にフリデミングがシュリツピーア王国にやって来たので護衛に着くと同時に賢王再来と誉れ高いフリデミングに相談したと言う訳なのだそうだ。
そう言って話し終えたルベル卿に、フリデミングは頷きかけてから、私を見た。
「相談されはしたが、流石に俺も子供が出来たから婚姻してくれと迫られたことは無いしな…」
私もマエリアさんも、まさかのルベル卿までもが胡乱な目でフリデミングを見詰めた。
「あなたの年で子が出来て~の案件が出てきたら疑うより、すぐ嘘だとバレるでしょうよ」
「流石にまだ…ですよね?」
「いえ…もう大丈夫でしょう?」
何が大丈夫なのですか?はルベル卿には聞けなかった。
しかし、とんでもない嘘をつく女性もいたもんだ。後で子供どこいった?になるだろうし、未婚の母はかなり醜聞にさらされるはずだ。それでもルベル卿の子供だと言い続けるのか…
「私に執着し続ける意味が分かりません。もっと身分の高い爵位のしっかりした貴族位の方が他にもおられると思うのに」
というルベル卿の言葉で気が付いた。
そうか、相手は侯爵家のご令嬢…理想と現実が分かってないのかもね…
「未婚とはいえ、ご実家暮らしでお世話されているんでしょう?甘いわねぇ~もしルベル卿が万が一にも折れて婚姻してくれたとしても今後の暮らしをどうしていくのか…なんて全然考えてないのね。こう言っちゃなんだけど侯爵令嬢を優雅に養うなんて護衛騎士ではとてもとても金銭的に難しいことですよ~」
フリデミングもマエリアさんもルベル卿も皆キョトンとした顔をして突然そう言った私を見ている。まあこの三人は高位貴族のご出身だもんね。
元子爵令嬢、下位貴族の地味~~な生活をお披露目する時がきたようね!
私は意気揚々と立ち上がって腰に手を当てた。
「まずは、ルベル卿がやむを得ずジーニレア=フリスベイ侯爵令嬢と婚姻したとして、ルベル卿は彼女に好意なんて無いですよね?」
「ありませんね」
言い切ってしまうルベル卿。マエリアさんもびっくりしてルベル卿を見ている。すみませんね~ルベル卿は夢見る乙女の理想の騎士様じゃないんですよぉ~中身はざっくりした大雑把なおにーさんなんですよぉ。
私は話を続けた。
「そして婚姻してもルベル卿はフリデミングの護衛職です。基本は王宮に住み…そして休日は懸想をする女性の夜這いを避けて、山で野宿よ?侯爵令嬢が野宿…出来るかしら?」
「ええっ!」
またまた驚かせてすみませんね~ルベル卿は漆黒の獣が如く山で魔獣を狩りまくって、骨付き炙り肉をそのまま食べちゃう獣なんですよぉ。
ルベル卿は小さく息を付いた。
「無理でしょう…例えどこかの邸宅を購入したとしても、私はそこで安眠は出来ない。ジーニレア=フリスベイ侯爵令嬢が近くにいると思うと眠れないですね。正直、婚姻はしても別居…何か用事が無い限りは極力会わないでしょうし、恐らく一生そのままです。彼女はそのまま邸宅で暮らせるとは思えないので…結局は侯爵家に住む。これでは婚姻していると言えませんよね」
「そんな…」
マエリアさんはさっきから驚きの声ばかりをあげている。
ルベル卿はマエリアさんを見て微笑んだ。あ…怖い顔が緩んでいるね。
「驚かせて済みません。ジーニレア=フリスベイ侯爵令嬢は今でもお腹の子供は私の子供だと言い張っています…かれこれ言い出してから半年くらい経ちましたか…そろそろ何か動き出すかもしれないのですが、職場でご迷惑をおかけしないように気を付けます」
成程…妊娠6ヶ月か、そろそろお腹が出て来ているはずだし、お腹に詰め物でもして妊婦のフリでもしているのか…
その後、ルベル卿とマエリアさんはお互いの境遇を知り、打ち解けたみたいだった。
その日から庭の端で談笑している、ルベル卿とマエリアさんを見かけることが度々あった。
それから数ヶ月後に2人が恋愛婚姻するなんて…この時、誰が想像しただろうか。
それはまたの機会に…
次回最終話になります。




