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中途半端な美形

胸糞展開のお話です。お気を付け下さいませ

獣からワンコになって怖さが無くなっているとはいえ、ルベル卿に一睨みされて、騒いでいたメイド達は黙り込んだ。そこへ、騒ぎを聞き付けたお母様とメイド長がやって来た。


お母様とメイド長はフリデミングとルベル卿に平謝りだった。ルベル卿はいつも見る穏やかな笑みを浮かべてお母様に微笑んでいる。


成る程ね、この笑顔を見れば穏やかな方だと思うだろうね。実際は漆黒の獣(本物)だという訳だ。


「ところで、フリデミングどうして帰ってきたの?」


メイド達を帰し、改めてフリデミングを私室に招き入れて、一緒にお茶を飲みながら聞いたら、フリデミングはう〜んと唸っている。


「兄上達に呼び出された…」


「あ〜あ、成る程」


フリデミングは何だか私を睨んでいる。


「兄上達の呼び出しの手紙に、ハラシュリアを国に戻そうかな〜とか匂わせる文面があったんだけど、何をしたの?」


ん?国に戻す……?何か失敗した…う〜ん?


「午前中は陛下達の前で商業施設の建設計画の計画案の見直しをして、改善策を提示したけど?シュリッピーアの施設はどうなってるんだ?って、はらぐ…ゲホン、サイフェリング陛下に聞かれたけどフリデミングに聞いて〜って言ったから、それで呼ばれたんじゃない?」


「それじゃないか!」


「どれよ?」


「ハラシュリアがさぁーまたムキになって仕事をし過ぎてぇー兄上達に喜ばれちゃったんじゃないの?どうするんだよっ…シュリツピーアに行かないで、フートロザエンドにいるように言われたら!」


何を心配しているんだろうか…そんなの決まっている。


「どこも行かないに決まっているじゃない。私の居る所はフリデミングの隣よ」


「…っもうっ!ハラシュリアッ!」


フリデミングは叫んだ後、ソファに寝転がると身悶えている。フリデミングの髪の隙間から覗く耳が真っ赤だ…私だって言っておいて顔を赤くしている自覚がある。


だって本当のことだもの…今更引き離されでもしたら私、フリデミングを誘拐して他国に逃げ出してやるわ。


お互いに顔を真っ赤にしていたが、照れてばかりもいられない…腹黒兄達に会いにフリデミングが登城している間、私は仮眠させてもらうことにした。


そうフリデミングに告げると


「資料作りに徹夜!?無茶をするな!」


と、言ってプンスカ怒っているが、何故だか寝所に入ろうとする私について来るフリデミング。


「ちょっと何?」


「眠るまでついててあげるよ…」


「……」


赤ん坊でもあるまいし…急に何?それにさ…


「私…ドレス脱いで寝間着に着替えたいのだけど?」


「うん、気にしないで~」


「……」


こいつはぁ居座る気だ…何故か爆乳乳母のタフネさんが止めに来てくれない。そう言えば扉を閉められている?一応未婚の女子なのにフリデミング(男)と二人きりにさせられている。


リーネもマエリアさんも妙な圧のあるタフネさん(年齢不詳)に逆らえないと見た。


「フリデミング…はぁ…まあいいか」


恥ずかしがっていたっていつかはこのエロ馬鹿の前で脱がなくてはいけない時が来るし…ここは諦めて…


「よしっ…とうっ!はい…!はいっ!やっー!…着替えは終わったわ、ご苦労様フリデミング」


私は高速着替えを披露して、ドレスから寝間着に着替えた。脱いでいる途中で下着を見られないように、脱ぎ捨てたドレスをフリデミングに投げつけて、エロ馬鹿の視界を遮るのも忘れなかった。しかし今日は簡素なドレスにしていて本当に良かった。


「今…チラッとしか見えなかった…」


私の投げつけたドレスを何とか顔の上から取り去ると、フリデミングは茫然としてそう呟いた。


はあ?何が?とは聞いてあげない。


多分このエロ馬鹿の予定では、恥じらってモジモジしている私のドレスをハァハァ言いながら自分が一枚一枚脱がせていく予定だったのだろう。確か、女性の衣服を脱がせるのも男の浪漫だと言っていた気がする(注:ライトミング殿下談)


期待を裏切って申し訳御座いません……


「では仮眠を取りますので、フリデミング殿下はどうぞお気遣いなく登城して下さいませ」


フリデミングは何か言いかけては…やめて…を数回繰り返した後、しょんぼりしながら出て行こうとした。私はそんなフリデミングに駆け寄った。


この半年ほどでまた背が伸びてしまったフリデミングの体を引き寄せながら、目一杯背伸びをしてフリデミングの唇に私の唇を合わせた。


最初、いきなり飛びついてきた私に目を丸くしていたフリデミングだったけど、すぐに笑顔になると目を閉じた。私もそんな優しいフリデミングの顔を見た後に目を閉じた。


これくらいなら、いいよね?フフ…


フリデミングはご機嫌で登城して行った。


夕方…公爵家に帰ってきたフリデミングは


「俺、今日は公爵家に泊まっていいか?あ~それとジュリアーナ妃殿下が明日、お茶しないか?だって~」


あ~あまりの忙しさにお姉様の所へ顔を出すのを忘れていた。


「うん、行くわ~そうだ、魔法鳥で連絡入れておくわ」


ジュリアーナお姉様に魔法鳥を送るとすぐに待っているわ!との返事が来た。


「なあ…登城している時にな、ルベルに聞かれたんだけど…」


フリデミングが夕食後、私にコソコソしながら話しかけてきた。これは久しぶりの囁き会議ですね。私もフリデミングの耳元の話しかけた。


「もしかしてマエリアさんのこと?」


フリデミングは頷いた。


「ルベルのやつ『女性にあんなに怯えられるなんて私は何かしてしまったのでしょうか?』と聞いてきたんだ、俺だって理由が分からないから『ハラシュリアに聞いてみる』と言ったんだけど、知ってる?」


「それが…お役に立てなくて残念だけど、知らないのよ…私もびっくりなの。ただ単に漆黒の獣に怯えてただけじゃないの……って、あぁぁそうだった。マエリアさんも真正サラジェだった」


フリデミングは眉根を寄せた。


「シンセーサラジェ?」


私は真正サラジェとにわかサラジェについて説明した。


「それで前に、にわかが~とか聞いてきたんだな?下らん線引きだな~確かに造詣の浅い者に、自分の好きなものを軽々しく知ったかぶりされるのは気に入らない気持ちは分かるが…成程、じゃあ初対面とはいえルベルの…その容姿は好きな小説の登場人物に酷似しているのなら、外見に嫌悪感は無いはずだよな?」


「だと思うのよね~だって会う前は別にルベル卿の話をしている時に嫌そうにはしていなかったもの」


フリデミングと同時に溜め息をついた。


今…廊下の向こうにルベル卿はいるはず…マエリアさんは給仕のお手伝いをしていて、食後の苺ケーキをお母様の前に出して、微笑んでいるのが見える。今は顔色も良いしおかしな所は無い。


「思い切ってマエリアさんに聞いてみようか?」


「そうしようか…もしシュリツピーアに来てくれるなら、ルベルとは顔を合わせる機会も多くなるし、何かあるなら早めに解決しておいた方がいい」


マエリアさんに聞きたいことがある…と伝えると夕食後、すぐに私室にやって来てくれた。マエリアさんはまたちょっと顔色が悪くなっている。


うん…フリデミングが部屋にいるからだね。多分、聞かれることの内容が予測出来たからなんだろう。


マエリアさんにソファに座るように指示をして、フリデミングが先ずは切り出した。


「先ず最初に言っておくが、マエリアがどうしても理由を言いたくないのなら聞かないよ。そしてそれでもシュリツピーアに来て、ハラシュリアの側付きとして仕えてくれるなら…ルベルにだけは何が原因でルベルに怯えているのかを教えてやってくれないか?ルベルの奴がマエリアに嫌われてることを気にしているんだ。まあ…何というか『普段からモテる男は女性に嫌われるという攻撃には極端に弱い』と思うからね」


「なにそれ?嫌われたってヘコむってどういう事なの?」


フリデミングの言葉に、何だそれは?と思いツッコむと何故だか腰に手を当てて偉そうにふんぞり返るフリデミング。


「まあ…なんて言うのかなぁ~男ってモテてることを生きる糧にしていることもあるのだよぉ」


私は、悔しいほどの綺麗な顔のフリデミングを睨みつけてやった。


「それは中途半端な美形のあなただからでしょう?ルベル卿の域にまで達すると、ご自分の美貌が疎ましくなるみたいだし?まあ、生きる糧にしている馬鹿はほっておいて…マエリア、どう?話してもらえるかしら?」


マエリアさんは、私とフリデミングのやり取りをキョトンとした顔で見ていたが、ちょっと笑い出しながら何度も頷いている。


「すみません…あまりに楽しそうで…お2人は本当に仲がよろしくて…メイド達も奥様もよくお話されているとおりですね」


「マエリアッ!納得しないでよ…俺、ハラシュリアに貶されてるからっ!」


「煩いなぁ…話が進まないじゃない。静かにしていてよ!」


マエリアさんは口元に手を当てて、ずっと笑っていたが…やがて静かに


「私…婚約していたことがあるのです」


と話し始めた。


「親の決めた婚姻でしたが、優しそうな侯爵子息の方でした。ゆっくりと落ち着いた婚姻生活が送れる…と最初は思っていたのです。きっかけは…もう憶えていませんがある日、私の浮気を疑ってきたのです。」


「浮気…」


マエリアさんは私を見ると首を横に振った。


「勿論そんなことしていません。ですが…ステファンは疑い……私を殴ってきたのです」


「ええぇ!」


私とフリデミングの声が重なった。マエリアさんは体を震わせている。私は急いでマエリアさんの傍に寄った。


「マエリア分かったわ…もういいわ」


マエリアさんは首を横に振った。


「いいえ、もしステファン=シガリーが現れた時の為に、アレの事を皆様にもお知らせしておいた方がいいと思いますので…」


フリデミングが「それで…」と先を促した。マエリアさんは体を震わせながらも話を続けてくれた。


「ステファンが私を殴る所は、衣服で隠れて見えない箇所ばかりでした。最初は浮気を問い詰める言葉と共に殴られました。でも後で謝ってくるのです。疑ったりしてごめん…君が誰にでも誘うような目をするからいけないんだよ?反省してね…こう言ってきました。それからは暴力が常態化しました。口答えをしたら殴る。殴ったことは誰にも知られるな…知られたらお前をまた殴るぞ。脅し、殴り、そして謝罪する…これの繰り返しでした」


「ひ…酷い」


マエリアさんの体の震えは止まらない。


「私が泣かないから殴る…私が笑わないから殴る…もう限界でした。父に婚約破棄を懇願して訴えました。そうしたらステファンは皆の前で泣きながら、捨てないでくれ…他の男の所へ行かないでくれ…と言い出しました。私はただステファンから逃げたいだけです…父や母までが私が他に男を作ったのか?と言い出しました。もう絶望しかありませんでした…ステファンにまた殴られました。ナイフでも斬られました…私は意を決して両親とステファンの親の前でドレスを脱ぎました。傷だらけの体を見せたのです。やっと皆は信用してくれました……それでもステファンが縋ってきましたが、私は逃げて隠れて…私と遠縁にあたる、コーヒルラント公爵閣下の奥様が匿って下さって…公爵家の中で隠れるようにしてメイドの仕事をして参りました。奥様は私が外目に触れないように気を使ってくれています」


「そんなことが…最低ね、そのステファンって…蹴り飛ばしてやりたいわ」


思わずそう呟くと、マエリアさんは少し微笑みを浮かべて


「奥様に叱られますよ?」


と言ってきた。あ、あら?でも正義の鉄槌よ?お母様も賛成してくれるわ……多分。


「そんな恐ろしいステファンの声は、ルベル卿に似ていらっしゃるのです」


「声かっ!」


フリデミングが膝を打った。


そうか声ね!だからルベル卿の声を初めて近くで聞いて、マエリアさん怯えてしまったのか…


マエリアさんはゆっくりと頭を下げた。


「ルベル卿に何も非は無いのです。私が一方的に恐れているだけなのです…シュリツピーア王国に参りましてもルベル卿にはご迷惑をおかけはしません」


フリデミングは何度も何度も頷いている。


「分かった…無理に聞き出して済まなかった。もしルベルに話すというならば私かハラシュリアのどちらかが同席しているようにしよう。だが私はルベルに詳細を言わなくてもいいと思う…声が苦手で通しておいても構わないと思うが」


声が苦手…確かにそうだけど、言わないのはどうして?フリデミングは言いづらそうにしている。


「あ……アイツも別方向の理由で元恋人と色々あったらしい…だから多分マエリアの詳細を聞いたら…怒る。アイツ怒ると怖いんだもんな」


それは分かる。ワンコから漆黒の獣に変身するんだよね?


さあ理由は分かったけど、どうなることやら…



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