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22.真緒の行方

真緒の行方は掴めなかった。

ここまで足取りが掴めないということは意図的に仕組まれたということだろう。国王一行到着の時間帯であればイザはいない。マルシアを離し、真緒が一人になる時間を作ればいい。

なぜ真緒は狙われたのか?

彼女は渡り人であるが何も力を持たない。何か利益を生む存在ではない筈だ。考えられるのは未久の娘である、という点だ。そうなれば国王周囲が疑わしい。あの男《宰相》が同行していることが気になる。

しかし 陛下の子でもなければ 問題にならない。

…陛下の子…?

そこでイザの思考が止まる。自分でたどり着いた仮説に驚愕する。

18歳の真緒。未久が消えたのは18年前…

あのとき子を宿していたのなら?

未久ならば 陛下の結婚話に身を引こうと考えてもおかしくない。

ただ、黒目黒髪、年齢より幼く見える顔立ちはこの世界では見かけない。陛下は金髪にアイスプルーの瞳。どの特徴も継いでいないではないか。

乱暴に頭を掻き、己の仮説を否定した。

とにかく、真緒の行方を突き止めなければ。

国王が邸宅に滞在しているうちは、自警団で責任ある立場のイザは身動きが取れない。

思うように動けないことに苛立ちが募る。


「副団長、お客様です」

ノックと共にドア越しに声が掛かる。ひと呼吸のちに

入室の許可を出す。

現れたのは意外な人物だった。

白銀の髪の男ーライルとラリック師団長が連れ立って入ってきた。

ラリックは右手をひょいと挙げ、ライルの後ろから視線を寄越した。

「…お会いするのは2度目ですよね?」

イザが口火を切った。イザは立ち上がると机を回り込みライルの正面に立つ。張り詰めた空気が二人の間に漂う。睨み合う二人の間に割り入るようにライックは進みでた。

「イザ、お前を紹介してほしいと頼まれたんだ」

なんだ 会ってたのかよ…とボヤきが聞こえる。場の雰囲気を変えたいのだろう。おどけた口調にイザもライルも緊張を解く。が、警戒は解かない。

「ライルだ。以前、俺が剣術を教えてたんだ。…宰相閣下の息子だ」

「!!」

その言葉にイザの表情が強ばる。それをあえてスルーしてライックは続ける。

「本来なら口も聞けない立場なんだがな、師匠ってことで、気軽にさせてもらってる。お前のおとうと弟子だ」

「弟を持ったつもりは無い」

つれないなぁ、と軽口を叩き、勝手にソファへ腰掛けている。ライックは男爵家の三男で貴族ではあるが宰相家との身分差は大きい。腕一本で登り詰め師団長になった。正義感に溢れ 男気があり、実力で評価するところが騎士団で慕われる所以だろう。そんな男が弟子と認めた目の前の男に、少し興味が湧いた。

「ライルと呼んでほしい。堅苦しいのは嫌いなんだ。それに貴方は私より年上だ」

ライルは自分より年上のイザに礼儀正しく振舞った。

決して高圧的ではない。イザはライルにソファを勧めると、部下に飲み物を頼み 自らも対面に腰をおろした。

「用件を伺っても?」

紅茶を運んできた部下を下がらせると、イザは話を切り出した。ライックが何を知っているのか探りたかった。これはチャンスだ。最大限利用させてもらおう。

「マオはどこにいる?会わせてほしい」

ライルは強い眼差しをイザに向けた。

「マオを知っているのか?なぜ私がマオを隠す必要があるんだ?」

イザも受けて立つ。ライルの瞳に強い意志を感じる。真っ直ぐに挑んでくる。

「渡りの樹でマオと出会った。昨日から彼女がどこにも居ない」

「貴方は私を警戒していた。街に来たたときもライックに警戒してすぐに帰っていた。よほど接触されたくないからだと思っている」

ライルは視線を逸らすことなく続けた。

「だから 私がマオを隠したと?」

互いの腹のうちを探るように、睨み合う。数秒の後、折れたのはライルだった。

「すまない。疑っている訳じゃない。確認したかっただけだ」

目線を下げ謝罪の意を示す。イザも頷き謝罪を受け入れた。

「マオっていうのは宿屋の娘だろ?…なぁ、あの娘はミクの…?」

「ミクの娘です。この世界にきた 渡り人 です」

ライックの問いにイザは答えた。

「ミクも一緒に?」

「いえ、…亡くなったそうです」

イザの言葉にライックは言葉を失った。死んだ…?

ミクの気配を追ってきたのだ。ミクが死んでいるなど到底信じられない事だった。

「マオはミクから譲られたペンダントと絵を持っていた。それらがミクの気配に関係しているのかもしれない」

ライルの説明にライックは頷きはしたが納得のいかない表情を浮かべた。しかし、問題は真緒が行方不明だという事実を思い出し、思考を切り替えた。

「で、目星はついているのか?」

イザは頭を振り、手詰まりなことを明かす。

連れ去られたのは間違いない。誰が何の目的で行ったのか。

ライルは真緒の連れ去りに関係してないようだ。ライックはミクが死んだことを知らなかった。渡り人がいることは知っていたが、真緒と結びついていなかった。宰相とは繋がっていないのか…?

宰相が無関係とはどうしても思えない。

ライルは宰相の息子だ。ライックと宰相との関係も否定できない。18年前の光景が脳裏に映る。

自由に動けない今は味方が欲しい。

しかし、信用できるのか?

俺を探りにきたのか…?


まだ二人を信用することができなかった。









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