20.神隠し
イザは部下にベルタの街と街道の警備指示をだし、指揮を任せると、マルシアの元へ向かった。
昼を回ったところだ。宿屋に真緒も居るはずだ。
厩に繋ぐのももどかしく、宿屋の扉へ向かった。
食堂は人気がなかった。台所を覗く。かまどの火は落としてから時間が経っていた。
マルシアは村へ行っているのだろうか。真緒も一緒だろうか。
大きく息を吐いて心を落ち着かせる。
不安で駆けつけてしまったが、この事態は予想しておらず、肩透かしをくらった形だ。イザはガシガシ頭をかくと庭で待つことに決め、庭に向かった。
裏口近くの花壇は真緒のお気に入りだ。
庭にある花壇の中では小さい方で、何株が植えればいっぱいだった。初心者にはこれくらいが丁度いいの、と言っていた。真緒とのやり取りを思い出して笑いが零れた。未久も同じことを言っていたな。
近づいてみると違和感に気付く。
中途半端に耕された花壇、苗は脇に置かれ、道具もそのままである。まるで人だけが消えたようだった。
真緒は何処へ…?
イザは踵を返した。厩へ向かう。建物の角を曲がったところでマルシアと鉢合わせた。
「おや、こんな所でどうしたんだい?」
空のカゴ抱えたマルシアは村へ行っていたようだった。
「マオは?」
「庭だろ」
マルシアは顎で、花壇を示した。イザの唯ならぬ雰囲気にマルシアの表情が変わる。
「居ないのかい?」
イザの返事を待たず、角を曲がり花壇を覗き込んだ。
マルシアが息を呑んだ。
「…村長から急に薬草が必要になったって使いが来たんだ」
真緒は花壇で作業していたため、そのまま声だけ掛けて出かけたのだという。
マルシアが留守にしたときを狙ったのか、意図して作られた隙だったのか…
イザはマルシアに宿屋で待つようにいうと、厩へ急いだ。
マルシアが急な呼び出しで村へ向かった。
急病人でも出たのか、マルシアに薬草を届けて欲しいという。真緒は花壇の手入れをしながらそれを見送った。
泊まり客に苗を扱う商人いた。その商人が気に入ったのなら、と真緒にプレゼントしてくれたものだった。チューリップに似た蕾が綻び始めている。数日後には咲くだろう。それを想像しながら土を耕す。
「マオさん?」
急に呼ばれ身体が跳ね上がる。
口元に笑みを浮かべ 男が近づいてくる。逆光で表情が分かりずらい。真緒は目を細めて確かめようとした。
「一緒にきてくれる?」
問いであるが、拒否権はなかった。男の後ろから更に2人現れ、真緒の両腕を後ろ手に掴みあげた。あまりの痛みと恐怖に声が出ない。腹部に強い衝撃を受け、膝から崩れる。男たちに抱き抱えられながら真緒の意識は闇に沈んだ。




